ていガンマグロブリンしょう

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Hypogammaglobulinemia
概要がいよう
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
Patient UK Hypogammaglobulinemia

ていガンマグロブリンしょう(ていガンマグロブリンけっしょう、えい: hypogammaglobulinemia)は、十分じゅうぶんりょうγがんまグロブリンちゅうさんされない、免疫めんえきけい問題もんだいである。その結果けっか抗体こうたいりょう減少げんしょうし、免疫めんえきけいよわまり感染かんせんしょうのリスクがたかまる。ていガンマグロブリンしょうは、分類ぶんるい不能ふのうがた免疫めんえき不全ふぜんしょうなど免疫めんえきけいのさまざまな遺伝いでんてき欠陥けっかんによってこされる場合ばあい[1]投薬とうやく血液けつえきがん栄養えいよう不良ふりょう選択せんたくせいいと球体きゅうたいせいタンパク尿にょうによる尿にょうちゅうへのγがんまグロブリンの喪失そうしつなどを原因げんいんとして副次的ふくじてきこされる場合ばあいがある[2]ていガンマグロブリンしょう患者かんじゃ免疫めんえき機能きのう低下ていかしているため、なまワクチン使用しようけること、そして風土病ふうどびょう流行りゅうこう地域ちいき衛生えいせい状態じょうたいわる地域ちいき旅行りょこうするさいには、予防よぼう接種せっしゅける、抗生こうせい物質ぶっしつ服用ふくようする、安全あんぜんみずまたはかしたみずしかまない、旅行りょこうまえ適切てきせつ医療いりょう手配てはいしておく、必要ひつよう免疫めんえきグロブリン注入ちゅうにゅう継続けいぞくするといった予防よぼう措置そちをとることが重要じゅうようである[3]

タイプ[編集へんしゅう]

つぎげるのはOMIM登録とうろくされているガンマグロブリンしょう(agammaglobulinemia)のタイプの一覧いちらんである。ていガンマグロブリンしょうにはのタイプも存在そんざいする。

タイプ OMIM 遺伝子いでんし
AGM1 601495 IGHM英語えいごばん
AGM2 613500 IGLL1英語えいごばん
AGM3 613501 CD79A英語えいごばん
AGM4 613502 BLNK英語えいごばん
AGM5 613506 LRRC8A英語えいごばん
AGM6 612692 CD79B英語えいごばん

症状しょうじょう徴候ちょうこう[編集へんしゅう]

ていガンマグロブリンしょう症状しょうじょう特徴とくちょうは、反復はんぷくせい慢性まんせいまたは定型ていけい感染かんせんしょう病歴びょうれきであることがおおい。感染かんせんしょう気管支炎きかんしえんみみえんずいまくえん肺炎はいえんふく鼻腔びこうえん皮膚ひふ感染かんせんしょうなどであるが、これらに限定げんていされるわけではない。こうした感染かんせん器官きかん損傷そんしょうする場合ばあいがあり、じゅうあつし合併症がっぺいしょうこされる場合ばあいがある。症状しょうじょうには、慢性まんせい下痢げりなまワクチンの接種せっしゅともな合併症がっぺいしょうなどがある。慢性まんせいてき器官きかん損傷そんしょうによる特定とくてい症状しょうじょうは、反復はんぷくせい感染かんせん関係かんけいしている場合ばあいがある。たとえば、息切いきぎ慢性まんせいてきせきたん気管支きかんし拡張かくちょうしょう可能かのうせいがある。ふく鼻腔びこういたみ、鼻汁はなしるこうはな慢性まんせいふく鼻腔びこうえん可能かのうせいがある。下痢げり脂肪しぼう便びん吸収きゅうしゅう不良ふりょう英語えいごばん可能かのうせいがある[3]

乳児にゅうじ一過いっかせいていガンマグロブリンしょう(transient hypogammaglobulinemia、THI)は生後せいご6ヶ月かげつから12ヶ月かげつあいだ問題もんだいとなることがおおく、みみふく鼻腔びこうはいへのこう頻度ひんど感染かんせん症状しょうじょうとする。症状しょうじょうには、気道きどう感染かんせんしょう食物しょくもつアレルギー湿疹しっしん尿にょう感染かんせんしょう腸管ちょうかん感染かんせんしょうなどがある[2]

原因げんいん[編集へんしゅう]

ていガンマグロブリンしょうは、原発げんぱつせいまたは続発ぞくはつせい免疫めんえき不全ふぜんによってこされる場合ばあいがある。原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜんゲノム変異へんい原因げんいんとする[2]たとえば、CD21英語えいごばん遺伝子いでんしふくあいヘテロ接合せつごうがた英語えいごばん変異へんいていガンマグロブリンしょう関係かんけいしていることが2012ねん研究けんきゅう発見はっけんされている。遺伝子いでんし解析かいせきによって、この患者かんじゃのCD21の父方ちちかたアレルエクソン6のスプライシング供与きょうよ部位ぶい破壊はかいされており、母方ははかたアレルはエクソン13に成熟せいじゅく終止しゅうしコドン形成けいせいされる変異へんいしょうじていることがあきらかにされている。100にん健常けんじょう対照たいしょうぐんではいずれの変異へんいつからず、これらの変異へんいまれなものであることがしめされている[4]。さまざまなタイプの原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜん原因げんいん遺伝子いでんしとして、やく300種類しゅるい遺伝子いでんし同定どうていされている。これらは免疫めんえきけいのさまざまな部分ぶぶん影響えいきょうあたえ、そのなかには免疫めんえきグロブリンのさんせいふくまれる。原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜん最初さいしょ臨床りんしょう症状しょうじょうから診断しんだんまですうねんかかることがおおい。原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜん症候群しょうこうぐんには、毛細血管もうさいけっかん拡張かくちょうせい運動うんどう失調しっちょうしょう(A-T)、つね染色せんしょくたい劣性れっせいガンマグロブリンしょう(ARA)、分類ぶんるい不能ふのうがた免疫めんえき不全ふぜんしょう(CVID)、こうIgM症候群しょうこうぐん英語えいごばん、IgGサブクラス欠損けっそんしょう、 isolated non-IgG immunoglobulin deficiencies、重症じゅうしょうふくあい免疫めんえき不全ふぜんしょう英語えいごばん(SCID)、特異とくい抗体こうたいさんせい不全ふぜんしょうウィスコット・アルドリッチ症候群しょうこうぐん英語えいごばんX連鎖れんさガンマグロブリンしょう英語えいごばんなどがある。CVIDはもっと一般いっぱんてき原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜんである。SCIDは医療いりょう措置そち必要ひつようとする緊急きんきゅう事態じたいであるとかんがえられており、うたがわれる場合ばあいには診断しんだん治療ちりょうのためにただちにせんもんのセンターへ紹介しょうかいする必要ひつようがある。ていガンマグロブリンしょう疾患しっかんなどの結果けっかとして発症はっしょうする場合ばあいがよりおおい。これらは続発ぞくはつせいまたは後天こうてんせい免疫めんえき不全ふぜんばれ、慢性まんせいリンパせい白血病はっけつびょう(CLL)、悪性あくせいリンパ腫りんぱしゅ多発たはつせい骨髄腫こつづいしゅなどの血液けつえきのがん、HIVネフローゼ症候群しょうこうぐん栄養えいよう不良ふりょう蛋白たんぱく漏出ろうしゅつせい胃腸いちょうしょう英語えいごばん臓器ぞうき移植いしょく放射線ほうしゃせん療法りょうほうなどが原因げんいんとなる。また、副腎ふくじん皮質ひしつホルモン化学かがく療法りょうほうやくこうてんかんやくなどの投薬とうやくていガンマグロブリンしょう原因げんいんとなる場合ばあいがある[2]

スクリーニング[編集へんしゅう]

CVIDや選択せんたくてきIgA欠損けっそんしょう英語えいごばん患者かんじゃきん縁者えんじゃ免疫めんえきグロブリンレベルのスクリーニングによって、家族かぞくせい遺伝いでんは10%から20%であることがられている。こうした変異へんいいんしゃ子供こどもつことをのぞ場合ばあいゆかぜん診断しんだんおこなわれる場合ばあいがある[3]ちゃくゆかぜん診断しんだんは、ゆかまえはいたまご遺伝いでんてき欠陥けっかん検査けんさとして定義ていぎされる。これには、体外たいがい受精じゅせいはいせいけんいち細胞さいぼう蛍光けいこうin situハイブリダイゼーションまたはポリメラーゼ連鎖れんさ反応はんのうのいずれかが必要ひつようであり、複雑ふくざつ手順てじゅん必要ひつようとする。こうした人為じんいてき選択せんたく倫理りんりせい疑問ぎもんするこえもあるが、一般いっぱんてきには出生しゅっしょうぜん診断しんだん重要じゅうよう代替だいたい手段しゅだんとしてみなされている[5]続発ぞくはつせい免疫めんえき不全ふぜん予防よぼうには、ていガンマグロブリンしょう発症はっしょうするリスクのたか患者かんじゃ注意深ちゅういぶか観察かんさつすることが必要ひつようである。そのためには、血液けつえきのがんの患者かんじゃ化学かがく療法りょうほうリツキシマブなどの免疫めんえき抑制よくせい療法りょうほうけている患者かんじゃ免疫めんえきグロブリンレベルの測定そくてい必要ひつようである[3]

治療ちりょう[編集へんしゅう]

原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜんしょうたいする治療ちりょうプロトコルはタイプによっておおきくことなる。せんもんのセンターでおこなわれる治療ちりょう目的もくてきは、おおくの場合ばあい合併症がっぺいしょうのリスクの低減ていげんである。治療ちりょうの1つはガンマグロブリンの経口けいこう投与とうよであり、1かげつごとに静脈じょうみゃく注射ちゅうしゃまたは皮下ひか注射ちゅうしゃ、また最近さいきんではしゅうごとの自己じこ投与とうよによる持続じぞく皮下ひか注入ちゅうにゅうおこなわれる。いずれの場合ばあいも、軽度けいどアレルギー反応はんのうしょうじることが一般いっぱんてきであり、通常つうじょうジフェンヒドラミン経口けいこう投与とうよによって管理かんり可能かのうである。免疫めんえきグロブリン補充ほじゅう療法りょうほう治療ちりょう患者かんじゃ比較ひかくかんするエビデンスはかぎられており、そのため治療ちりょうガイドラインはおも観察かんさつ研究けんきゅう英語えいごばんもとづいたものである。標準ひょうじゅんてき治療ちりょうとしては、PEG-ADAとばれる酵素こうそ補充ほじゅう療法りょうほうニューモシスチス肺炎はいえん予防よぼうのための抗生こうせい物質ぶっしつ投与とうよなどがおこなわれる[3]

あらたな治療ちりょうほうの1つとして造血ぞうけつみき細胞さいぼう移植いしょくがあり、SCID、CD40英語えいごばん欠損けっそんしょうCD40リガンド英語えいごばん欠損けっそんしょう、ウィスコット・アルドリッチ症候群しょうこうぐんなど、おおくのふくごうがた原発げんぱつせい免疫めんえき不全ふぜんしょう標準ひょうじゅん治療ちりょうとしてみなされているが、ここ20ねんでは続発ぞくはつせい免疫めんえき不全ふぜんにおいても利用りようされている[6]あらたな治療ちりょうほうとしては遺伝子いでんし治療ちりょうがあり、X連鎖れんさがたSCID、アデノシンデアミナーゼ欠損けっそんしょう英語えいごばんによるSCID、慢性まんせい肉芽にくがしゅしょう英語えいごばん治療ちりょう利用りようされている[3]

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ていガンマグロブリンしょう早期そうき発見はっけん治療ちりょうは、罹患りかんりつ長期ちょうきてきはい合併症がっぺいしょう可能かのうせい低減ていげんすることがられている。たかいIgG感染かんせん頻度ひんど低下ていか関連かんれんせいがあることをしめすエビデンスが存在そんざいする[7]ていガンマグロブリンしょう発見はっけん治療ちりょう場合ばあい一般いっぱんてきわるく、慢性まんせいてきはい障害しょうがい気管支きかんし拡張かくちょうしょう発生はっせいしている場合ばあいにはとくわるいものとなる。しかしながら、ていガンマグロブリンしょう診断しんだんおおきくおくれることがおお[3]

ウイルス進化しんかたいする影響えいきょう[編集へんしゅう]

Cがた肝炎かんえんウイルスのゲノムの多様たようせいかんする研究けんきゅうでは、ていガンマグロブリンしょうかかえる患者かんじゃでは対照たいしょうぐん患者かんじゃよりも1ねんあたりのヌクレオチド置換ちかんかずすくないことが発見はっけんされており、免疫めんえきけいによってこされる選択せんたくあつ存在そんざいしない場合ばあい、ウイルスしゅ遺伝いでんてき多様たようせい発生はっせい頻度ひんど低下ていかすることが示唆しさされている。この研究けんきゅうは5にん対照たいしょうぐん患者かんじゃと、とく重度じゅうどていガンマグロブリンしょうであるCVIDの4にん患者かんじゃたいしておこなわれた。対照たいしょうぐん患者かんじゃ平均へいきんヌクレオチド置換ちかんりつは1ねんあたり6.954ヌクレオチドであるのにたいし、CVIDの患者かんじゃでは1ねんあたり0.415ヌクレオチドであった。CVIDの患者かんじゃでも変異へんいしょうじるものの、免疫めんえきけいによる選択せんたく存在そんざいしない場合ばあいにはまれなものにとどまる傾向けいこうがある[8]

用語ようご[編集へんしゅう]

ていガンマグロブリンしょう」(hypogammaglobulinemia)と「ガンマグロブリンしょう」(agammaglobulinemia)はおおむね同義どうぎである。後者こうしゃ用語ようごもちいられる場合ばあいX連鎖れんさガンマグロブリンしょう英語えいごばんなど)、ガンマグロブリンはたん減少げんしょうしているだけでなく、完全かんぜん存在そんざいしないことをしめしている。現在げんざい検査けんさほうでは、ほとんどのガンマグロブリンしょうていガンマグロブリンしょうとしてより正確せいかく定義ていぎされるようになったが[9]、この区別くべつ通常つうじょう臨床りんしょうてき意味いみたない。「ていガンマグロブリンしょう」は、一部いちぶ種類しゅるいのガンマグロブリンのみが減少げんしょうほか種類しゅるいのガンマグロブリンは減少げんしょうしない「ガンマグロブリンしょう英語えいごばん」(ガンマグロブリン異常いじょうしょう、dysgammaglobulinemia)とは区別くべつされる[10]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ "common variable immunodeficiency" - ドーランド医学いがく辞典じてん
  2. ^ a b c d Watson, Stephanie "Hypogammaglobulinemia." Healthline, 20 Feb. 2018, https://www.healthline.com/health/hypogammaglobulinemia.
  3. ^ a b c d e f g "Hypogammaglobulinemia." (2018). Retrieved from https://online.epocrates.com/diseases/105851/Hypogammaglobulinemia/Prognosis
  4. ^ Thiel, Jens; Kimmig, Lucas; Salzer, Ulrich; Grudzien, Magdalena; Lebrecht, Dirk; Hagena, Tina; Draeger, Ruth; Völxen, Nadine et al. (2012). “Genetic CD21 deficiency is associated with hypogammaglobulinemia”. Journal of Allergy and Clinical Immunology 129 (3): 801–810.e6. doi:10.1016/j.jaci.2011.09.027. PMID 22035880. 
  5. ^ Geraedts, JPM; De Wert, Gmwr (2009). “Preimplantation genetic diagnosis”. Clinical Genetics 76 (4): 315–325. doi:10.1111/j.1399-0004.2009.01273.x. PMID 19793305. 
  6. ^ Compagno, Nicolã²; Malipiero, Giacomo; Cinetto, Francesco; Agostini, Carlo (2014). “Immunoglobulin Replacement Therapy in Secondary Hypogammaglobulinemia”. Frontiers in Immunology 5: 626. doi:10.3389/fimmu.2014.00626. PMC 4259107. PMID 25538710. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4259107/. 
  7. ^ Roifman, Chaim M.; Schroeder, Harry; Berger, Melvin; Sorensen, Ricardo; Ballow, Mark; Buckley, Rebecca H.; Gewurz, Anita; Korenblat, Phillip et al. (2003). “Comparison of the efficacy of IGIV-C, 10% (caprylate/chromatography) and IGIV-SD, 10% as replacement therapy in primary immune deficiency”. International Immunopharmacology 3 (9): 1325–1333. doi:10.1016/S1567-5769(03)00134-6. PMID 12890430. 
  8. ^ Booth, Jonathan C.; Kumar, Umesh; Webster, David; Monjardino, John; Thomas, Howard C. (1998). “Comparison of the rate of sequence variation in the hypervariable region of E2/NS1 region of hepatitis C virus in normal and hypogammaglobulinemic patients”. Hepatology 27 (1): 223–227. doi:10.1002/hep.510270134. PMID 9425941. 
  9. ^ "agammaglobulinemia" - ドーランド医学いがく辞典じてん
  10. ^ "Dysgammaglobulinemia" - ドーランド医学いがく辞典じてん

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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