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抗体こうたい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
免疫めんえきグロブリン(抗体こうたい)。いろうす部分ぶぶんけいくさり先端せんたんくろ部分ぶぶん可変かへん適合てきごうする抗原こうげん可変かへん特異とくいてき結合けつごうする。

抗体こうたいこうたいえい: antibody)は、白血球はっけっきゅうのサブタイプのひとつであるリンパだま一種いっしゅであるB細胞さいぼうさんせいするとうタンパク分子ぶんし免疫めんえきグロブリンめんえきグロブリンimmunoglobulin)、血漿けっしょうちゅうγがんま‐グロブリン英語えいごばん(ガンマグロブリン)、Ig(アイジー)とも。獲得かくとく免疫めんえきけいえきせい免疫めんえき特定とくていタンパク質たんぱくしつなどの分子ぶんし抗原こうげん)を認識にんしきして、排除はいじょするはたらき)をになう。抗体こうたいおも血液けつえきなか体液たいえきなか存在そんざいする。

B細胞さいぼう抗原こうげんおうじて分化ぶんか抗体こうたいさんせいをする。一度いちど分化ぶんかしたB細胞さいぼうは、大量たいりょう抗体こうたい迅速じんそくさんせい抗原こうげん除去じょきょし、生態せいたい防御ぼうぎょする[1]

抗体こうたい抗原こうげん結合けつごうすると、その抗原こうげん抗体こうたいふく合体がったいこうちゅうだまマクロファージといったしょく細胞さいぼう認識にんしき貪食どんしょくして体内たいないから除去じょきょするようにはたらいたり、リンパだまなどの免疫めんえき細胞さいぼう結合けつごうして免疫めんえき反応はんのうこしたりする。これらのはたらきをつうじ、脊椎動物せきついどうぶつ感染かんせん防御ぼうぎょ機構きこうにおいて重要じゅうよう役割やくわりになっている(脊椎動物せきついどうぶつ抗体こうたいさんせいしない)。

構造こうぞう[編集へんしゅう]

抗体こうたいパパインにより、2つのFab領域りょういきと1つのFc領域りょういき分断ぶんだんされる。
抗体こうたいペプシンにより、F(ab')2領域りょういき多数たすうのFc断片だんぺん分断ぶんだんされる。

けいくさりじゅうくさり[編集へんしゅう]

すべての抗体こうたい基本きほんてきにはおな構造こうぞうっており、"Y"がたの4ほんくさり構造こうぞうけいくさりじゅうくさりの2つのポリペプチドくさりが2ほんずつ)を基本きほん構造こうぞうとしている[注釈ちゅうしゃく 1]けいくさり(またはLくさり)にはλらむだくさりκかっぱくさりの2種類しゅるいがあり、すべての免疫めんえきグロブリンはこのどちらかをつが、分子ぶんしりょうやく25,000で共通きょうつうである。じゅうくさり(またはHくさり)には、γがんまくさりμみゅーくさりαあるふぁくさりδでるたくさりεいぷしろんくさりの、構造こうぞうことなる5種類しゅるいがあり、このじゅうくさりちがいによって免疫めんえきグロブリンの種類しゅるいアイソタイプぶ)がわる。分子ぶんしりょうは50,000〜77,000である。このけいくさりじゅうくさりジスルフィド結合けつごう(SS結合けつごう)でむすびついてヘテロダイマー形成けいせいし、さらにこのヘテロダイマーが左右さゆう2つジスルフィド結合けつごう結合けつごうして "Y"がたのヘテロテトラマーを形成けいせいする。

2ほんけいくさり同士どうし、あるいは2ほんじゅうくさり同士どうしまった同一どういつのポリペプチドくさりである。

Fc領域りょういきとFab領域りょういき[編集へんしゅう]

"Y"した半分はんぶんたてぼう部分ぶぶんにあたる場所ばしょFc領域りょういき (Fragment, crystallizable) とぶ。左右さゆう2つのじゅうくさりからなる。白血球はっけっきゅうやマクロファージなどのしょく細胞さいぼうはこのFc領域りょういき結合けつごうできる受容じゅようたい(Fc受容じゅようたい)をっており、このFc受容じゅようたいかいして抗原こうげん結合けつごうした抗体こうたい認識にんしきして抗原こうげん貪食どんしょくする(オプソニン作用さよう)。そのFc領域りょういきは、たい活性かっせい抗体こうたい依存いぞんせい細胞さいぼう傷害しょうがい作用さようえい: Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity、ADCC)など、免疫めんえき反応はんのう媒介ばいかいとなる。このようにFc領域りょういき抗体こうたい抗原こうげん結合けつごうしたのち反応はんのう惹起じゃっきする「エフェクター機能きのう」をもつ。免疫めんえきグロブリンのエフェクター機能きのうは、免疫めんえきグロブリンの種類しゅるい(アイソタイプ)によってことなる。

"Y"うえ半分はんぶんの"V"部分ぶぶんFab領域りょういき (Fragment,antigen binding) とぶ。この2つのFab領域りょういき先端せんたん部分ぶぶん抗原こうげん結合けつごうする。2ほんけいくさりと2ほんじゅうくさりからなる。じゅうくさりのFab領域りょういきとFc領域りょういきはヒンジでつながっている。左右さゆうじゅうくさりはこのヒンジがジスルフィド結合けつごうしている。パパイヤふくまれるタンパク分解ぶんかい酵素こうそパパインはこのヒンジ分解ぶんかいして、2つのFabと1つのFc領域りょういき切断せつだんする[3]。またタンパク分解ぶんかい酵素こうそペプシンはヒンジのジスルフィド結合けつごうのFcがわ切断せつだんし、おおきなFabが2くっついたF(ab')2を1つと、多数たすうちいさなFc断片だんぺん生成せいせいする[4]。Fc断片だんぺんのうち、CH3領域りょういき相当そうとうするもっとおおきな断片だんぺんはpFc'とばれる。F(ab')2は、ジスルフィド結合けつごうふくむため、Fabよりも構造こうぞうおおきいため、Fabと区別くべつするため ab' としている。このF(ab')2抗原こうげん結合けつごうするが、Fc領域りょういきたないためその免疫めんえき反応はんのうこさない。このことを利用りようして抗原こうげん標識ひょうしきもちいられる。

免疫めんえきグロブリンの基本きほん構造こうぞう
(1) Fab領域りょういき, (2) Fc領域りょういき, (3) じゅうくさり(Nはしがわから VH、CH1、ヒンジ、CH2、CH3), (4) けいくさり(Nはしがわから VL、CL), (5) 抗原こうげん結合けつごう部位ぶい, (6) ヒンジ

定常ていじょう領域りょういき可変かへん領域りょういき[編集へんしゅう]

Fab領域りょういきのうち先端せんたんちか半分はんぶんは、多様たよう抗原こうげん結合けつごうできるように、アミノ酸あみのさん配列はいれつ多彩たさい変化へんかがみられる。このFab領域りょういき先端せんたんちか半分はんぶん可変かへん領域りょういきV領域りょういき)といい、けいくさり可変かへん領域りょういきVL領域りょういきじゅうくさり可変かへん領域りょういきVH領域りょういきぶ。V領域りょういき以外いがいのFab領域りょういきとFc領域りょういきは、比較的ひかくてき変化へんかすくない領域りょういきであり、定常ていじょう領域りょういきC領域りょういき)とばれる。けいくさり定常ていじょう領域りょういきCL領域りょういきび、じゅうくさり定常ていじょう領域りょういきCH領域りょういきぶが、CH領域りょういきはさらにCH1〜CH3の3つにけられる。じゅうくさりのFab領域りょういきはVH領域りょういきとCH1からなり、じゅうくさりのFc領域りょういきはCH2とCH3からなる。ヒンジはCH1とCH2のあいだ位置いちする。

相補そうほせい決定けってい領域りょういきとフレームワーク領域りょういき[編集へんしゅう]

可変かへん領域りょういきのうち、直接ちょくせつ抗原こうげん接触せっしょくする領域りょういきとく変化へんかおおきく、このちょう可変かへん領域りょういき相補そうほせい決定けってい領域りょういき (complementarity-determining region: CDR) とび、それ以外いがい比較的ひかくてき変異へんいすくない部分ぶぶんフレームワーク領域りょういき (framework region: FR) とぶ。けいくさりじゅうくさり可変かへん領域りょういきに、それぞれ3つのCDR (CDR1 - CDR3) と、3つのCDRをかこむ4つのFR (FR1 - FR4) が存在そんざいする。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

抗体こうたい定常ていじょう領域りょういき構造こうぞうちがいにより、いくつかのクラスアイソタイプ)にけられる。おおくの哺乳類ほにゅうるいでは、定常ていじょう領域りょういき構造こうぞうちがいによりIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類しゅるいのクラスの免疫めんえきグロブリンに分類ぶんるいされる。これを抗体こうたいのアイソタイプという。それぞれのクラスの免疫めんえきグロブリンはおおきさや生理せいり活性かっせいことなり、たとえばIgAは粘膜ねんまく分泌ぶんぴつがた分子ぶんしであり、IgEは肥満ひまん細胞さいぼう結合けつごうしてアレルギー反応はんのうこす。さらにヒトの場合ばあい、IgGにはIgG1〜IgG4の4つのサブクラスが、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがあり、それぞれすこしずつ構造こうぞうことなっている。IgM、IgD、IgEにはサブクラスはない。

また、免疫めんえきグロブリンはちゅう粘膜ねんまくへの分泌ぶんぴつがたほかB細胞さいぼう細胞さいぼう表面ひょうめん結合けつごうしたかたまくがた)のものがある。

ヒト免疫めんえきグロブリンの分類ぶんるい[編集へんしゅう]

ヒト免疫めんえきグロブリンのアイソタイプの構造こうぞう

じゅうくさり定常ていじょう領域りょういきちがいにより、γがんまくさりμみゅーくさりαあるふぁくさりδでるたくさりεいぷしろんくさりけられ、このちがいによりそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類しゅるいのクラス(アイソタイプ)の免疫めんえきグロブリンが形成けいせいされる。これらの分泌ぶんぴつがた免疫めんえきグロブリンのほか、B細胞さいぼう表面ひょうめん結合けつごうしたものがある。これは、分泌ぶんぴつがた免疫めんえきグロブリンが細胞さいぼう表面ひょうめん接着せっちゃくしているのではなく、細胞さいぼうまく貫通かんつう部分ぶぶんをもったものであり、B細胞さいぼう受容じゅようたい (B cell receptor; BCR) とばれる。BCRは2ほんじゅうくさりと2ほんけいくさりち、細胞さいぼうまく貫通かんつう部分ぶぶんにIgαあるふぁ/Igβべーたヘテロりょうからだつ。アイソタイプのちがいにより、免疫めんえきグロブリンのつ「エフェクター機能きのう」がことなる。

IgG
免疫めんえきグロブリンG(IgG)はヒト免疫めんえきグロブリンの70-75%をめ、血漿けっしょうちゅうもっとおおたんりょうたい抗体こうたいである。けいくさり2ほんじゅうくさり2ほんの4ほんくさり構造こうぞうをもつ。IgG1、IgG2、IgG4は分子ぶんしりょうやく146,000であるが、IgG3はFab領域りょういきとFc領域りょういきをつなぐヒンジながく、分子ぶんしりょうも170,000とおおきい。IgG1はIgGの65%程度ていど、IgG2は25%程度ていど、IgG3は7%程度ていど、IgG4は3%程度ていどめる。血管けっかん内外ないがい平均へいきんして分布ぶんぷする。
IgM
免疫めんえきグロブリンM(IgM)はヒト免疫めんえきグロブリンのやく10%をめる、基本きほんの4ほんくさり構造こうぞうが5つ結合けつごうしたりょうたい抗体こうたいである。分子ぶんしりょうは970,000。通常つうじょうちゅうのみに存在そんざいし、感染かんせん微生物びせいぶつたいして最初さいしょさんされ、初期しょき免疫めんえきつかさど免疫めんえきグロブリンである。分子ぶんしりょうおおきいので、マクログロブリンともばれる。マクロは、「おおきい」という意味いみである。
IgA
免疫めんえきグロブリンA(IgA)はヒト免疫めんえきグロブリンの10-15%をめる。分子ぶんしりょうは160,000。分泌ぶんぴつがたIgAは2つのIgAが結合けつごうしたりょうたい抗体こうたいになっている。おもに、IgA1とIgA2に分類ぶんるいされ、これらは血清けっせい鼻汁はなしる唾液だえき母乳ぼにゅう精液せいえきちょうえきおお存在そんざいしている[5]
IgD
免疫めんえきグロブリンD(IgD)はヒト免疫めんえきグロブリンの1%以下いかたんりょうたい抗体こうたいである。B細胞さいぼう表面ひょうめん存在そんざいし、抗体こうたいさんせい誘導ゆうどう関与かんよする。
IgE
免疫めんえきグロブリンE(IgE)はヒト免疫めんえきグロブリンの0.001%以下いかごく微量びりょうしか存在そんざいしないたんりょうたい抗体こうたいである。IgEが抗原こうげん反応はんのうするとヒスタミン分泌ぶんぴつきる[6]寄生虫きせいちゅうたいする免疫めんえき反応はんのう関与かんよしているとかんがえられるが、寄生虫きせいちゅうまれ先進せんしんこくにおいては、とく気管支きかんし喘息ぜんそくアレルギーおおきく関与かんよしている。「肥満ひまん細胞さいぼう」ともわれるマスト細胞さいぼう表面ひょうめんにあるFCεいぷしろんR受容じゅようたいにIgEが常駐じょうちゅうしているが、ここのIgEにさらに抗原こうげん結合けつごうする反応はんのうによってマスト細胞さいぼう活性かっせいされ、ヒスタミンなどの分泌ぶんぴつぶつをマスト細胞さいぼうから放出ほうしゅつする[6]こう塩基えんきだまにもIgEが存在そんざいしている。

その生物せいぶつでの分類ぶんるい[編集へんしゅう]

免疫めんえきグロブリンは脊椎動物せきついどうぶつにはられず、軟骨なんこつ魚類ぎょるい以降いこう脊椎動物せきついどうぶつつかっている。それぞれの生物せいぶつごとに複数ふくすうのクラスの免疫めんえきグロブリンをつが、その種類しゅるいつなごとにちがいがられる[7]。IgMのみが脊椎動物せきついどうぶつのすべてで共通きょうつうられる。

軟骨なんこつ魚類ぎょるい
IgMのほかにIgW、IgW (long)、IgNARとばれるクラスを
硬骨魚こうこつぎょるい
IgMとIgD、IgT(IgZ)を
ハイギョ
IgM, IgW, IgW (long) を
爬虫類はちゅうるい
IgMのほか、IgYとばれるクラスを[8]
両生類りょうせいるいアフリカツメガエル
IgMのほか、IgXとIgYとばれるクラスを
鳥類ちょうるいニワトリ
IgM、IgA、IgYを
哺乳類ほにゅうるい
IgM、IgD、IgG、IgA、IgEの5種類しゅるい

また、おな哺乳類ほにゅうるいでもサブクラスの種類しゅるいにはたねごとにちがいがられる。たとえばヒトIgGのサブクラスがIgG1〜IgG4の4種類しゅるいであるのにたいし、マウスIgGではIgG1, IgG2a, IgG2b, IgG3の4種類しゅるいである。

関連かんれんする話題わだいとして、軟骨なんこつ魚類ぎょるい硬骨魚こうこつぎょるいはともにクラススイッチこさない[8]生物せいぶつのうち免疫めんえきグロブリン抗体こうたいにてクラススイッチをこすのは、両生類りょうせいるい爬虫類はちゅうるい鳥類ちょうるい哺乳類ほにゅうるいである。

両生類りょうせいるい爬虫類はちゅうるい共通きょうつうしてIgYがられる[8]哺乳類ほにゅうるい鳥類ちょうるい共通きょうつうしてIgAがられる[8]。IgEは哺乳類ほにゅうるいだけにられる[8]

はたら[編集へんしゅう]

抗体こうたい血液けつえきちゅう体液たいえきちゅう遊離ゆうりがたとして存在そんざいするか、またはB細胞さいぼう表面ひょうめんじょうB細胞さいぼう受容じゅようたいとして存在そんざいする。特定とくてい抗原こうげん結合けつごうする機能きのう抗体こうたいもっと重要じゅうよう機能きのうである。

抗体こうたいはウイルスや細菌さいきんなどの微生物びせいぶつ、あるいは毒素どくそなどを抗原こうげんとして結合けつごうするが、抗原こうげん抗体こうたい結合けつごうすると、凝集ぎょうしゅう反応はんのう免疫めんえき沈降ちんこう)をおこし、その凝集ぎょうしゅうした抗原こうげん抗体こうたいふく合体がったいは、マクロファージやそのしょく細胞さいぼう認識にんしき貪食どんしょくする。そのさい抗体こうたいはそのFc領域りょういきをもってマクロファージとう認識にんしきされ貪食どんしょくされやすくする役割やくわりをする(オプソニン作用さよう)。そしてマクロファージに貪食どんしょくされた抗原こうげんは、マクロファージない分解ぶんかいされ、T細胞さいぼうにペプチド-MHCふく合体がったいとして提示ていじされ、さらなる免疫めんえき反応はんのうがおこる。また抗体こうたいたい活性かっせい作用さようとおした免疫めんえき反応はんのうもおこす。抗体こうたいなかには、結合けつごうするだけで微生物びせいぶつ感染かんせんりょく低下ていかさせたり、毒性どくせい減少げんしょうさせたりするはたらきをもつものもある(中和ちゅうわ作用さよう)。これらの機構きこうにより、抗体こうたい体内たいない侵入しんにゅうしてきた細菌さいきん・ウイルスなどの微生物びせいぶつ毒素どくそや、微生物びせいぶつ感染かんせんした細胞さいぼう認識にんしきして体内たいないから排除はいじょしようとする。

B細胞さいぼう表面ひょうめん存在そんざいするBCRは、B細胞さいぼう抗原こうげん認識にんしき受容じゅようたいとしてはたらき、特異とくいてき抗原こうげん結合けつごうすることで、抗体こうたいさんせい細胞さいぼう形質けいしつ細胞さいぼう)やからだ細胞さいぼうちょう変異へんい、クラススイッチとうのちの、より抗原こうげんたいする親和しんわせいたかいBCRをもった抗体こうたいさんせい細胞さいぼう記憶きおくB細胞さいぼうへの分化ぶんかこす。抗体こうたいさんせい細胞さいぼうはBCRとおな抗原こうげん特異とくいせい、アイソタイプを抗体こうたいさんせいする。

抗原こうげん抗体こうたい結合けつごう[編集へんしゅう]

抗体こうたい抗原こうげん結合けつごうするさい抗原こうげん一部分いちぶぶんエピトープ)のみを認識にんしきして結合けつごうする。抗体こうたいはエピトープの立体りったい構造こうぞう厳密げんみつ認識にんしきして結合けつごうし、エピトープのアミノ酸あみのさん配列はいれつちがいはもちろんのこと、荷電かでん光学こうがく異性いせいたい立体りったい異性いせいたいちがいでも結合けつごうしなくなる。エピトープと結合けつごうするこう体側たいそく部分ぶぶんパラトープという。エピトープとパラトープのあいだには、水素すいそ結合けつごう静電気せいでんきりょくファンデルワールスりょく疎水そすい結合けつごうなどの引力いんりょくがかかり、これらのちからにより安定あんていして結合けつごうする。このエピトープとパラトープのあいだ結合けつごうりょくのことをアフィニティ affinity という。

ただし、抗体こうたい基本きほんの4ほんくさり構造こうぞうにおいては、抗原こうげん結合けつごうする部位ぶいは2カ所かしょであるが、IgMはりょうたい、IgAはりょうからだ形成けいせいするのでさらにおおくの抗原こうげん認識にんしき部位ぶいっている。また、抗原こうげんによってはエピトープを複数ふくすうもつ。このため抗体こうたいによっては、抗原こうげん抗体こうたいは1かしょ結合けつごうしたり(1)、同時どうじ複数ふくすうしょ認識にんしきしたりする(あたい)。このように抗原こうげん抗体こうたい結合けつごうするときの結合けつごうりょく総和そうわアビディティ avidityぶ。あたい結合けつごうさい結合けつごうりょく相乗そうじょうてきはたらくため、アビディティはアフィニティよりもたかくなる。

オプソニン作用さよう[編集へんしゅう]

マクロファージやこうちゅうだまといったしょく細胞さいぼうは、もともと細菌さいきんんだ細胞さいぼう結合けつごうする能力のうりょくっているが、こういった細菌さいきん細胞さいぼう抗体こうたいたい結合けつごうすると、しょく細胞さいぼうがもつたい受容じゅようたいやFc受容じゅようたいかいして結合けつごうし、しょく作用さよう促進そくしんする。これをオプソニン作用さようという。

たい活性かっせい機能きのう[編集へんしゅう]

抗体こうたいたい古典こてん経路けいろによってたい活性かっせいし、抗体こうたい結合けつごうした細菌さいきんたい結合けつごうさせて細菌さいきん細胞さいぼうまく破壊はかいし、溶菌ようきんする。またオプソニン作用さようしょく細胞さいぼうによる抗原こうげんしょく作用さよう促進そくしんさせる。IgG1、IgG3、IgMがもつ機能きのうである。IgG2はたい活性かっせいのうひくく、IgG4、IgA、IgD、IgEはこの機能きのうをもたない。

中和ちゅうわ作用さよう[編集へんしゅう]

細菌さいきんやウイルスなどの微生物びせいぶつや、ヘビやむしなどの毒素どくそは、みずからの構造こうぞう一部いちぶ細胞さいぼう表面ひょうめん結合けつごうさせて細胞さいぼうない侵入しんにゅうし、毒性どくせいしめす。細胞さいぼう侵入しんにゅうするさい結合けつごうさせる部分ぶぶん抗体こうたい結合けつごうしてしまえば、微生物びせいぶつ毒素どくそ細胞さいぼう結合けつごうできず、毒性どくせいしめせない。このように抗体こうたいは、結合けつごうすることによって微生物びせいぶつ感染かんせんりょく低下ていかさせたり、毒素どくそ毒性どくせい減少げんしょうさせたりすることがある。たとえばインフルエンザウイルスは、ウイルス表面ひょうめんのヘマグルチニンを気道きどう上皮じょうひ細胞さいぼうのシアルさんざんもと結合けつごうさせて細胞さいぼうない侵入しんにゅうするため、ヘマグルチニンにたいする抗体こうたいはインフルエンザの感染かんせんりょく低下ていかさせる。このことを中和ちゅうわ作用さようという。

免疫めんえきグロブリンの多様たようせい[編集へんしゅう]

あらゆる抗原こうげん対応たいおうするために、体内たいないでは可変かへん領域りょういきことなるじゅうくさりけいくさりなんひゃくなんせんまん種類しゅるい用意よういする。このような抗体こうたい多様たようせいをどのようにしてつくしているのかは、ながあいだ不明ふめいであった。1897ねんエールリヒは、もともとさまざまな抗原こうげんたいする鋳型いがた細胞さいぼう表面ひょうめんにもっている細胞さいぼうがあり、その鋳型いがた抗原こうげん出会であうと、それが刺激しげきとなってその抗原こうげんたいする抗体こうたいさんせいするとかんがえた(がわくさりせつ[9]が、ラントシュタイナーは、あたらしく人工じんこう合成ごうせいされた化合かごうぶつたいしても抗体こうたい作用さようすることをしめし、このになかった物質ぶっしつたいする鋳型いがたをもともと細胞さいぼうっていたとはかんがえにくく、抗体こうたい多様たようせいがわくさりせつだけでは説明せつめいがつかないとかんがえた。その抗体こうたい抗原こうげん出会であうとそれに結合けつごうできるようにみずからの姿すがたえることができるというせつ鋳型いがたせつ)や、抗原こうげん刺激しげきにより抗体こうたい後天的こうてんてきつくられるというせつ指令しれいせつ)がとなえられたが、1959ねんエーデルマン免疫めんえきグロブリンの基本きほん構造こうぞう解明かいめい[10][11]、また1958ねんクリックにより、タンパクは遺伝子いでんし情報じょうほうもとづいてつくられることがあきらかになる(セントラルドグマ)と、鋳型いがたせつ指令しれいせつ否定ひていてきかんがえられた。それにわってバーネット提唱ていしょうしたクローン選択せんたくせつ[12]1957ねん)がれられるようになった。つまり、リンパだまはそれぞれ1種類しゅるい抗体こうたいしかつくることができず、そのため体内たいないには非常ひじょうおおくの種類しゅるいのリンパだま先天的せんてんてき用意よういされている。そして抗原こうげん体内たいない侵入しんにゅうすると、その抗原こうげん結合けつごうできるリンパだまえらばれて増殖ぞうしょくし(クローン)、この抗原こうげんたいする抗体こうたいさんせいする、というせつである。このせつ種々しゅじゅ実験じっけんによって正当せいとうせい証明しょうめいされていったが、クローン選択せんたくせつもエールリヒのがわくさりせつおなじように、まった未知みち抗原こうげん対応たいおうできるような抗体こうたいを、遺伝子いでんしはどうやって用意よういできるのか、というてん不明ふめいであった。非常ひじょうおおくの種類しゅるい抗体こうたい構造こうぞうがひとつひとつすべ遺伝子いでんしまれているとはかんがえにくかった。

1976ねん利根川とねがわらは免疫めんえきグロブリンの遺伝子いでんしさい構成こうせいという現象げんしょう発見はっけん[13][14]、この抗体こうたい多様たようせいかんする遺伝子いでんしレベルのなぞこたえをした。そのからだ細胞さいぼうちょう変異へんい遺伝子いでんし変換へんかん、クラススイッチえといった現象げんしょう抗体こうたい多様たようせい関与かんよしていることがられている[15]

V(D)J遺伝子いでんしさい構成こうせい (gene rearrangement)[編集へんしゅう]

B細胞さいぼう分化ぶんかするまえ生殖せいしょく細胞さいぼう遺伝子いでんしでは、じゅうくさり可変かへん領域りょういき (VH) をコードする遺伝子いでんしは、VH遺伝子いでんし部分ぶぶん、DH遺伝子いでんし部分ぶぶん、JH遺伝子いでんし部分ぶぶんの3つにかれており、この3つの遺伝子いでんし部分ぶぶんにそれぞれ、可変かへん領域りょういき遺伝子いでんし断片だんぺん複数個ふくすうこコードされている。抗体こうたいさんせいするB細胞さいぼうじゅうくさり可変かへん領域りょういき遺伝子いでんしは、VH遺伝子いでんし部分ぶぶんにコードされているいくつかの遺伝子いでんし断片だんぺんなかから1種類しゅるい、DH遺伝子いでんし部分ぶぶんから1種類しゅるい、JH遺伝子いでんし部分ぶぶんから1種類しゅるいえらばれて、それがてられてつくられる。VH遺伝子いでんし部分ぶぶんに50の遺伝子いでんし断片だんぺん、DH遺伝子いでんし部分ぶぶんに30の遺伝子いでんし断片だんぺん、JH遺伝子いでんし部分ぶぶんに6種類しゅるい遺伝子いでんし断片だんぺんがあるとすると、そのわせは50×30×6 = 9000種類しゅるいとなる。

けいくさり可変かへん領域りょういき (VL) をコードする遺伝子いでんしは、じゅうくさりよりもすくなく、VL遺伝子いでんし部分ぶぶん、JL遺伝子いでんし部分ぶぶんの2つの部分ぶぶんからなる。おなじようにVL遺伝子いでんし部分ぶぶんに35の遺伝子いでんし断片だんぺん、JL遺伝子いでんし部分ぶぶんに5つの遺伝子いでんし断片だんぺんがあるとすると、そのわせは35×5 = 175種類しゅるいとなる。そして、9000種類しゅるいじゅうくさりと175種類しゅるいけいくさりわせは9000×175 = 150まん種類しゅるい以上いじょうとなる。このように、じゅうくさりのV、D、J、けいくさりのVとJの遺伝子いでんし断片だんぺんわせで多様たよう遺伝子いでんしをもつB細胞さいぼうができ、それぞれことなった種類しゅるいのB細胞さいぼうがそれぞれことなった抗体こうたいつくることで多様たよう抗体こうたいがつくられる[13][16]。これをV(D)J遺伝子いでんしさい構成こうせいといい、おもにヒトやマウスでみられる。

かく細胞さいぼうにつき、遺伝子いでんしさい構成こうせいこるのはあいどう染色せんしょくたい片方かたがただけであり、さい構成こうせいがないほうの遺伝子いでんしかつされる。

からだ細胞さいぼうちょう変異へんい (somatic hypermutation; SHM)[編集へんしゅう]

みき細胞さいぼう分化ぶんかしてからだのさまざまな細胞さいぼう分化ぶんかしていくが、この分化ぶんかした細胞さいぼうからだ細胞さいぼうという。みき細胞さいぼうからだ細胞さいぼう分化ぶんかしていくときにごくまれ遺伝子いでんし変異へんいこることがある(からだ細胞さいぼう変異へんい)。B細胞さいぼう変異へんい頻度ひんどきわめてたかく、1まんばいにもおよ[17]。これは末梢まっしょう成熟せいじゅくしたB細胞さいぼうなかで、T細胞さいぼう依存いぞんせい抗原こうげん活性かっせいされたB細胞さいぼうはい中心ちゅうしん形成けいせいし、この微小びしょう環境かんきょうない免疫めんえきグロブリン遺伝子いでんしのV領域りょういきが、AID(activation-induced cytidine deaminase)により様々さまざま塩基えんき置換ちかんこされるためである。このメカニズムをからだ細胞さいぼうちょう変異へんいといい、ヒトやマウスにおいて抗体こうたい多様たようせい親和しんわせい成熟せいじゅく関与かんよしている[15]

遺伝子いでんし変換へんかん (gene conversion)[編集へんしゅう]

V(D)J遺伝子いでんしさい構成こうせいえた可変かへん領域りょういき遺伝子いでんしが、V遺伝子いでんし上流じょうりゅう存在そんざいするにせ遺伝子いでんしにランダムに置換ちかんされて、多様たようせいをつくる。これを遺伝子いでんし変換へんかん (gene conversion; GC) といい、おもにニワトリでみられる[18][19]1986ねんレイノーらにより報告ほうこくされた[20][21]

クラススイッチえ (class switch recombination; CSR)[編集へんしゅう]

V(D)J遺伝子いでんしさい構成こうせいとう過程かていまれたB細胞さいぼうは、抗原こうげん刺激しげきけると成熟せいじゅくし、増殖ぞうしょくする。このさいじゅうくさり定常ていじょう領域りょういき (CH) をコードする遺伝子いでんしにDNA改変かいへんこり、最初さいしょIgMを分泌ぶんぴつしていたB細胞さいぼうはIgGとうのクラスの免疫めんえきグロブリンをさんせいする。おな可変かへん領域りょういきことなる定常ていじょう領域りょういきわせることにより、さらに多様たよう抗体こうたいつくす。このことをクラススイッチえという[15]

抗体こうたい医薬いやく[編集へんしゅう]

近年きんねんモノクローナル抗体こうたい特異とくいせい利用りようした医薬品いやくひん開発かいはつすすんでいる。抗体こうたい医薬いやく標的ひょうてきとなる抗原こうげんたいして特異とくいてきはたらくためにこれまでの医薬品いやくひんよりも副作用ふくさよう軽減けいげんさせ、かつたか治療ちりょう効果こうかられることが期待きたいされている。2008ねん現在げんざい関節かんせつリウマチ治療ちりょうやくとしてこうTNF-αあるふぁ抗体こうたいであるインフリキシマブこうIL-6抗体こうたいであるトシリズマブがん遺伝子いでんしHER2にたいする抗体こうたいであるトラスツズマブなどがすでに臨床りんしょうにおいて使用しようされている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ ラクダ動物どうぶつは、じゅうくさりだけで構成こうせいされるサイズのちいさな抗体こうたいナノ抗体こうたい)をつことがられている[2]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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  3. ^ Porter RR. "The hydrolysis of rabbit γがんま-globulin and antibodies with crystalline papain." Biochemical Journal, 73, 1959, p.p. 119-127. PMID 14434282
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  13. ^ a b Hozumi N, Tonegawa S. "Evidence for somatic rearrangement of immunoglobulin genes coding for variable and constant regions." Proceedings of National Academy of Science of United States of America, 73, 1976, p.p. 3628-3632. PMID 824647
  14. ^ Tonegawa S. "Somatic generation of antibody diversity." Nature, 302, 1983, p.p. 575-581. PMID 6300689
  15. ^ a b c Li Z, Woo CJ, Iglesias-Ussel MD, et al. "The generation of antibody diversity throuth somatic hypermutation and class switch recombination." Gene & Development, 18, 2004, p.p. 1-11. PMID 14724175
  16. ^ Market E, Papavasiliou FN. "V(D)J recombination and the evolution of the adaptive immune system." PloS Biology, 1, 2003, p.p. 24-27. PMID 14551913
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  19. ^ Weill JC, Reynaud CA. "Rearrangement/hypermutation/gene conversion: When, where and why?" Immunology Today, 17, 1996, p.p. 92 -97. PMID 8808057
  20. ^ Reynaud CA, Anquez V, Dahan A, Weill JC. "A single rearrengement event generates most of the chicken immunoglobulin light chain diversity." Cell, 40, 1985, p.p. 283-291. PMID 3917859
  21. ^ "系統けいとう看護かんごがく講座こうざ 専門せんもん基礎きそ① 解剖かいぼう生理学せいりがく 人体じんたい構造こうぞう機能きのう[1]" 医学書院いがくしょいん, p.p. 435.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]