唾液だえき

唾液だえき（だえき、saliva）は、唾液腺だえきせんから口腔こうくう内うちに分泌ぶんぴつされる分泌ぶんぴつ液えきである。水みず、電解でんかい質しつ、粘液ねんえき、多おおくの種類しゅるいの酵素こうそからなる。ヒトでは、正常せいじょうなら1日にちに1-1.5リットル程度ていど（安静あんせい時じ唾液だえきで700-800ミリリットル程度ていど）分泌ぶんぴつされる^[1]。成分せいぶんの99.5%が水分すいぶんであり、無機質むきしつと有機ゆうき質しつが残のこりの約やく半分はんぶんずつを占しめる^[2]。とくに病的びょうてきに分泌ぶんぴつ量りょうの多おおい場合ばあい、流涎りゅうぜん症しょう（りゅうぜんしょう）ということがある。

概要がいよう[編集へんしゅう]

デンプンをマルトース（麦芽糖ばくがとう）へと分解ぶんかいするアミラーゼ^[3]を含ふくむ消化しょうか液えき^[4]として知しられる他ほか、口腔こうくう粘膜ねんまくの保護ほご^[4]や洗浄せんじょう、殺菌さっきん、抗菌こうきん^[5]、排泄はいせつ^[6]などの作用さようを行おこなう。

また緩衝かんしょう液えき^[4]としてpHが急激きゅうげきに低下ていかしないように働はたらくことで、う蝕（虫歯むしば）の予防よぼうも行おこなっている。

スポーツなど運動うんどうすると唾液だえきムチンMUC5B（英語えいご版ばん）の濃度のうどが高たかまり、口くちの渇かわきを防ふせぐ役割やくわりがあるが唾つばを飲のみ込こみにくくなる^[7]。

空腹くうふく時ときに食物しょくもつを見みて、これを咀嚼そしゃくした時とき、粘ねばり気けの少すくない漿液しょうえき性せいの唾液だえきが大量たいりょう分泌ぶんぴつされ、これにより食物しょくもつは湿しめらされる。このことにより粉砕ふんさいしやすくなり、食しょく塊かたまりの形成けいせいや嚥下えんかを容易よういにする。また、嘔吐おうとの前兆ぜんちょうとして苦味にがみのある唾液だえきが大量たいりょう分泌ぶんぴつされる。これは嘔吐おうと物ぶつに水分すいぶんを補給ほきゅうして排出はいしゅつしやすくするための働はたらきと考かんがえられる。

人体じんたいを傷きずつけたり、苦痛くつうを与あたえたりせず組織そしきの一部いちぶを採取さいしゅできるため、遺伝子いでんし診断しんだん・検査けんさに利用りようされることもある^[8]。

唾液だえきの細菌さいきんについては「口腔こうくう細菌さいきん学がく（口腔こうくう微生物びせいぶつ学がく）」を参照さんしょう

構成こうせい成分せいぶん[編集へんしゅう]

無機質むきしつ[編集へんしゅう]

主要しゅよう成分せいぶんはNa⁺、K⁺、Ca²⁺、Cl^-、HCO3^-、無機むきリン酸さんであり、この他ほか、Mg²⁺、亜あ硝酸しょうさんイオン^[9]やF^-が含ふくまれる^[10]。

緩衝かんしょう作用さようを持もつもの[編集へんしゅう]

唾液だえきに含ふくまれる重じゅう炭酸たんさん塩しおやリン酸さん塩しおにより、緩衝かんしょう作用さようを持もつ^[11]。

有機物ゆうきぶつ[編集へんしゅう]

殺菌さっきん・抗菌こうきん作用さようを持もつもの[編集へんしゅう]

唾液だえきに含ふくまれる多おおくの物質ぶっしつにより、殺菌さっきん・抗菌こうきん作用さようを持もつ。

リゾチーム^[12]:大だい唾液腺だえきせん・小しょう唾液腺だえきせん・歯肉はにく溝みぞ浸出液しんしゅつえき・唾液だえき中ちゅう白血球はっけっきゅうより分泌ぶんぴつされる^[13]。
ラクトフェリン^[14]:大だい唾液腺だえきせん・小しょう唾液腺だえきせんより分泌ぶんぴつされる^[13]。
ヒスタチン^[15]
ペルオキシダーゼ^[14]
- シアロペルオキシダーゼ:耳下腺じかせん・顎あご下か腺せんより分泌ぶんぴつされる^[16]。
- ミエロペルオキシダーゼ^[14]:白血球はっけっきゅう由来ゆらい^[14]・歯肉はにく溝みぞより分泌ぶんぴつされる^[16]。
アグルチニン^[17]
ディフェンシン
免疫めんえきグロブリン IgA^[14]
免疫めんえきグロブリン IgG
免疫めんえきグロブリン IgM

消化しょうか作用さようを持もつもの[編集へんしゅう]

唾液だえきに含ふくまれる下記かきの消化しょうか酵素こうそにより、消化しょうかが行おこなわれる。ただし、唾液だえきには蛋白質たんぱくしつを分解ぶんかいする酵素こうそは含ふくまれていない。

プチアリン（アミラーゼ）:耳下腺じかせん(80%)・顎あご下か腺せん(20%)より分泌ぶんぴつされる。^[18]
マルターゼ
リパーゼ

反射はんしゃ（刺激しげき）唾液だえき[編集へんしゅう]

臭においや味覚みかく刺激しげき、口腔こうくう内ないの機械きかい的てき刺激しげき、温度おんど刺激しげきなどによって反射はんしゃ性せいに分泌ぶんぴつされる唾液だえきのことである。この反射はんしゃ唾液だえきは脳幹のうかん部ぶの支配しはいを受うけていると推測すいそくされているがなお不明ふめいな点てんが多おおい。また、反射はんしゃ唾液だえきは加か齢よわいによる影響えいきょうを受うけにくく、高齢こうれい者しゃにおいても分泌ぶんぴつ能のうは良よいとされている。

その他た[編集へんしゅう]

プロリンリッチタンパク、スタセリン、シスタチン等ひとしが含ふくまれる。

役割やくわり[編集へんしゅう]

消化しょうか: プチアリン（ptyalin、唾液だえきアミラーゼ）という消化しょうか酵素こうそαあるふぁアミラーゼ（英語えいご版ばん）を含ふくみ、デンプンをマルトースやデキストリンに加水かすい分解ぶんかいを行おこなう^[19]。
口腔こうくう衛生えいせい・消毒しょうどく: 唾液だえきによって食たべかすが分解ぶんかいされるとともに^[20]、分泌ぶんぴつ型がた免疫めんえきグロブリンやリゾチーム (殺菌さっきん性せい酵素こうそ) 等とうが含ふくまれ細菌さいきんの増加ぞうかを抑おさえる。; 多おおくの動物どうぶつに傷きずを舐なめる（英語えいご版ばん）行動こうどうが見みられ、ある程度ていどは殺菌さっきん成分せいぶんがあるものの消毒しょうどく薬やくや抗菌こうきん薬やくなどには劣おとり、口腔こうくう内ない細菌さいきんも含ふくみ微生物びせいぶつ感染かんせんを起おこす可能かのう性せいがあるため傷口きずぐちを舐なめるのは医療いりょう関係かんけい者しゃは推奨すいしょうしていない^[21]。
創傷そうしょう治癒ちゆ: ヒスタチンは、抗菌こうきん作用さようを持もつとともに、口くちの中なかの止血しけつと傷きずの治なおりを早はやくする効果こうかがある^[22]^[23]。

保湿ほしつ・嚥下えんかの補助ほじょ: 口腔こうくう粘膜ねんまくを潤うるおし、食物しょくもつを流体りゅうたいにして食物しょくもつの嚥下えんかを助たすける^[24]。
その他た: 中華ちゅうか料理りょうりにおいて燕つばめの巣すは食材しょくざいとして使つかわれるが、アナツバメの通常つうじょうとは異ことなる唾液だえきから作つくられる。また赤あかいものもあるが、これは酸化さんか発酵はっこうした結果けっかで血ちが混まざったものではない^[25]。; ヘビ毒どくは、唾液だえきを作つくる遺伝子いでんしが書かき換かわった結果けっか生うまれたものである^[26]。へび以外いがいにも唾液だえきから変化へんかした毒どくをもつ種たねは多おおく、爬虫類はちゅうるいではコモドオオトカゲ、哺乳類ほにゅうるいではトガリネズミ、スローロリス、コウモリなどが確認かくにんされている^[27]。; 血ちを吸すう蚊かは、刺さす前まえに感覚かんかくを麻痺まひさせる唾液だえきを注入ちゅうにゅうする^[28]。; 人間にんげんは、唾液だえきを利用りようして口くち噛かみ酒しゅを製造せいぞうする。

動物どうぶつの唾液だえき[編集へんしゅう]

イヌなどの汗腺かんせんの少すくない、もしくは他たの汗腺かんせんを持もたない動物どうぶつ（鳥とりや爬虫類はちゅうるいなど）では、汗腺かんせんを持もつ動物どうぶつが汗あせで体温たいおん調節ちょうせつを行おこなうのと同様どうように唾液だえきで体温たいおん調節ちょうせつを行おこなっている^[29]。（汗腺かんせんを持もつ動物どうぶつでもこの作用さようは持もつ。）
牛うしは1日にちに約やく100リットルもの唾液だえきを分泌ぶんぴつする。