口くち

口くち
ヒトの口腔こうくう部ぶの断面だんめん図ず
ヒトの口くち
英語えいご	Mouth
器官きかん	消化しょうか器き

口くち（くち）は、消化しょうか管かんの最前さいぜん端はしである。食物しょくもつを取とり入いれる部分ぶぶんであり、食物しょくもつを分断ぶんだんし、把持はじし、取とり込こむための構造こうぞうが備そなわっていると同時どうじに、鼻腔びこうと並ならんで呼吸こきゅう器きの末端まったんともなっており、発声はっせい器官きかんの一部いちぶでもある。文脈ぶんみゃくにより口腔こうくう（こうこう）とも言いう。なお、日本にっぽんの医学いがく界かいにおいては口腔こうくうの慣用音かんようおんである（こうくう）を用もちいている。

生物せいぶつ学がくに限かぎらず、一般いっぱんに穴あな等とうの開口かいこう部ぶを指さして口くちと呼よぶ。このため、「口くち」は様々さまざまな慣用かんよう句くや比喩ひゆ表現ひょうげんに使つかわれる（後述こうじゅつの「通念つうねん」を参照さんしょう）。

生物せいぶつ学がく的てき性質せいしつ

口くちはそれを所有しょゆうする生物せいぶつによって構成こうせい要素ようそや構造こうぞうが様々さまざまであり、その機能きのうに見合みあった生活せいかつをしている。ヒト（人ひと）という地上ちじょう脊椎動物せきついどうぶつに限かぎらず、消化しょうか器官きかん系けいの初はつ端はしとなっており、専もっぱら栄養素えいようその摂取せっしゅ等とうに用もちいられる。多おおく動物どうぶつの口くちには付属ふぞく器官きかんがあり、それには舌したや歯は、外そと分泌ぶんぴつ器き等ひとしを備そなえ、歯はによる咀嚼そしゃくの様ような食餌しょくじの補助ほじょに限かぎらず、外敵がいてきに対抗たいこうし、身みを守まもる手段しゅだんとして利用りようしている。

人ひとを含ふくめ多おおくの脊椎動物せきついどうぶつの口くちには歯はに相当そうとうするものが内部ないぶに付属ふぞくしており、摂食せっしょくに伴ともなう咀嚼そしゃくや消化しょうか液えき（唾液だえき）との攪拌という機能きのう以外いがいに、発声はっせいの補助ほじょや味覚みかく、呼吸こきゅう等ひとし様々さまざまな行動こうどうを補助ほじょする器官きかんとなっている。また、外部がいぶ唇くちびると開閉かいへい部ぶのみを指さして口くちと呼よぶ事ことがある。

形態けいたい学的がくてきには、口くちとは顔面がんめん前ぜん面部めんぶに顎あご関節かんせつの補助ほじょによって開閉かいへいする開口かいこう部ぶを指さし、粘膜ねんまくに覆おおわれ様々さまざまな付属ふぞく器官きかんを持もつ消化しょうか器官きかんの開口かいこう端はしとされる。

• 歯はは食物しょくもつの消化しょうかの一環いっかんとして咀嚼そしゃくの他ほか、外部がいぶに対たいする攻撃こうげき、モノの把持はじを行おこなう。
• 舌したは味覚みかくを司つかさどるだけでなく、口腔こうくう内ないに入はいってきた食物しょくもつの攪拌を行おこなう。
• 唾液腺だえきせんには顎あご下か腺せん、耳下腺じかせん、舌した下か腺せん等とう多数たすうの唾液腺だえきせんがあり、消化しょうかの補助ほじょとして唾液だえきを分泌ぶんぴつする。
• 口腔こうくう内ない粘膜ねんまくは消化しょうか器き粘膜ねんまくの一部いちぶであり、味覚みかくの補助ほじょ機関きかんでもある。粘膜ねんまくは外皮がいひに比くらべ分子ぶんし量りょうの小ちいさな化学かがく物質ぶっしつを吸収きゅうしゅうしやすいため、口腔こうくう内ないに食たべ物ものが滞留たいりゅうしやすい事ことからも吸収きゅうしゅう器官きかんの役割やくわりも担になっていると言いえる。

口くちは、消化しょうか系けいの入いり口くちであり、体からだ表ひょうに開ひらいた孔あなとして認みとめられる。その周辺しゅうへんには、餌えさを取とり込こむための筋肉きんにくが発達はったつしているのが通例つうれいである。また、周辺しゅうへんに食物しょくもつを取とり込こみ、裁断さいだんするための構造こうぞうが付属ふぞくする場合ばあいが多おおい。それらの形かたちは、取とり込こむ食物しょくもつの種類しゅるいによっても大おおきく変化へんかする。

口くちと健康けんこう

口くちは人ひとが生命せいめい活動かつどうをしてゆく為ために食物しょくもつを取とり入いれる最初さいしょの体内たいないであり、またそれゆえ外界がいかいからの異物いぶつに侵食しんしょくされ易やすい場所ばしょともいえる。

また、栄養えいようを取とり入いれるだけでなく、それらを味あじわい楽たのしむ場所ばしょでもあり、人生じんせいを活気かっき付つけることが出来できる。それゆえ口腔こうくう内ないの異変いへんは、歯はを失うしなった老人ろうじんが一般いっぱんよりも痴呆ちほうが速はやく進すすむなど、生活せいかつに様々さまざまな影響えいきょうを与あたえてしまうとされる。また、口臭こうしゅうの原因げんいんにもなる。そのため、口腔こうくうの付属ふぞく機関きかんとして、歯はは健康けんこうに取とり分わけ大おおきく関かかわるといえる。

歯はは生後せいご半年はんとしほどで生はえ始はじめ、3歳さい頃ごろには20本ほんの乳歯にゅうしが生はえ揃そろう。6歳さい頃ごろに乳歯にゅうしから永久歯えいきゅうしに生はえ変かわり始はじめ、親知おやしらずを含ふくめて上顎じょうがくに16本ほん、下しも顎あごに16本ほんの総計そうけい32本ほんが生はえ揃そろう。歯はの生はえ方かたや歯並はならびは噛かみ合あわせに大おおきく関与かんよし、その良よし悪あしが心理しんり的てきストレスに限かぎらず肩かたこりや頭痛ずつう、顎あご関節炎かんせつえん等とうの原因げんいんになる。現代げんだい人じんの顎あごは戦後せんごの食生活しょくせいかつの変化へんかにより細ほそ化かし、歯並はならびが悪わるくなる者ものが多おおくなり矯正きょうせいを必要ひつようとする人ひとが増ふえてきたとされ、歯並はならびの歪ゆがみは現代病げんだいびょうの一ひとつとして挙あげられている。

永久歯えいきゅうしは、加か齢よわいとともに後述こうじゅつする口くちの病気びょうきなどで抜ぬけたり、抜ぬかれたりして失うしなわれる。義歯ぎしや入いれ歯ばで補おぎなう人ひとも多おおい。日本にっぽん歯科しか医師いし会かいは、「80歳さいで自分じぶんの歯はを20本ほん以上いじょう残のこそう」という8020運動うんどうを1989年ねん(平成へいせい元年がんねん)から推進すいしんしている。

自前じまえの歯はを守まもるなど口腔こうくう内ないの衛生えいせいを維持いじし、口臭こうしゅうを抑おさえるため、多おおくの人ひとが洗あらい口こう（うがい）や歯磨はみがきを行おこなう。歯石しせき・舌苔ぜったいを除去じょきょする人ひともいる（詳細しょうさいは「口くち具ぐを参照さんしょう）。

口くちの病気びょうき

口腔こうくう内ないの病気びょうきとして、 以下いかがある。後述こうじゅつの「医学いがく」も参照さんしょう。

• 虫歯むしば又または齲歯むしば・齲蝕（うし）

虫歯むしばは古来こらい家庭かてい的てき環境かんきょうに大おおきく左右さゆうされるという考かんがえがあったが、近年きんねん家庭かていには特有とくゆうの口内こうない細菌さいきん叢くさむらが存在そんざいするということが発見はっけんされ、遺伝いでんよりもそれら細菌さいきん叢くさむらが大おおきく虫歯むしばに関与かんよしているという考かんがえが一般いっぱん的てきになってきており、それら細菌さいきん叢くさむらの交換こうかんが虫歯むしばの予防よぼうに大おおきく役立やくだつと言いわれている。

→「口腔こうくう微生物びせいぶつ学がく」も参照さんしょう

• 歯は周しゅう病びょうは歯は周辺しゅうへん組織そしきの疾患しっかんの総称そうしょうであり、歯肉はにく炎えん・歯槽膿漏しそうのうろう・歯は周しゅう炎えんを含ふくむ。
• 口内こうない炎えん/アフタ性せい口内こうない炎えん/カタル性せい口内こうない炎えん
• ベーチェット病びょうは原因げんいん不明ふめいの疾患しっかんであり、口腔こうくう内ないに限かぎらず全身ぜんしんの皮膚ひふに起おこる病気びょうきであるが、多おおくの症例しょうれいに口内こうない炎えんが併あわせて報告ほうこくされている病気びょうきである。
• 口腔こうくうに生しょうじる癌がん（口腔こうくうがん）として、舌した癌がん、頬ほお粘膜ねんまく癌がん、歯肉はにく癌がん、口腔こうくう底そこ癌がんがある。口内こうない炎えんや歯肉はにく炎えんと誤認ごにんされることも多おおく、歯科しか医師いしにも見逃みのがされる場合ばあいもある。異常いじょうが起おこり治なおりにくい場合ばあいには専門医せんもんいによる診察しんさつを受うける方ほうがよい。口腔こうくう外科げか、または頭首とうしゅ部ぶ癌がんの一部いちぶとして頭あたま頸科で扱あつかわれる。日本にっぽんでは、口内こうないの異常いじょうが口腔こうくうがんの可能かのう性せいがあるかどうかの判断はんだんを補佐ほさする「オーラルナビシステム」が一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん口腔こうくうがん撲滅ぼくめつ委員いいん会かいにより提供ていきょうされている。

口腔こうくうの異常いじょう

先天的せんてんてき異常いじょう

• 口唇こうしん口蓋こうがい裂きれ
• 巨大きょだい歯ぱ
• 矮小わいしょう歯ぱ
• 先天せんてん歯ぱ
  • 染色せんしょく体たい異常いじょうも参照さんしょうのこと。

口くち具ぐ

口くちは様々さまざまな外部がいぶのモノを取とり入いれる体からだに開ひらいた穴あなであり、様々さまざまな病気びょうきに侵おかされやすい。そのため、古来こらいから口くちに用もちいる道具どうぐは装飾そうしょくの目的もくてきより病気びょうき予防よぼうのモノが多おおかった。その中なかで歯磨はみがきは最もっとも一般いっぱん的てきな行為こういの例れいであり、それに伴ともなって歯はブラシは多おおくの変遷へんせんを経へてきた。 現在げんざいではまだ普及ふきゅう途上とじょうではあるが、家庭かてい用ようとして1000ml程ほどのタンクに水みずを注そそぎ小型こがたポンプで加圧かあつし、細ほそいノズルから噴射ふんしゃして歯はや歯はぐきの洗浄せんじょうを行おこなう器具きぐも発売はつばいされてきている。 日本にっぽんでは口腔こうくう掃除そうじや除菌じょきん、口腔こうくう悪臭あくしゅう改善かいぜんのために歯はブラシ、爪楊枝つまようじ、糸いと楊枝ようじ、口腔こうくう用よう洗浄液せんじょうえき、含嗽がんそう薬やく、トローチ等ひとしを用もちいる。

日本にっぽんでは、古代こだいは抜歯ばっしという風習ふうしゅうがあったことが出土しゅつどした骨ほねから推測すいそくされている。平安へいあん時代じだい後期こうきから江戸えど時代じだいにかけて、歯はを黒くろく染そめるおはぐろ（鉄漿かねまたは御歯黒おはぐろ）という習慣しゅうかんがあり、装飾そうしょくと共ともに身分みぶんを表あらわす手段しゅだんとして用もちいられていた。

現代げんだいでは歯はにプラスチックを用もちいたコーティングマニキュアにより見みた目めを美うつくしくする技術ぎじゅつがある。また、虫歯むしばを防ふせぐ目的もくてきでフッ素ふっそに拠よるコーティングを施ほどこす事ことがある。

通念つうねん

• 口くちは物事ものごとの始はじめという意味いみやモノを飲のみ込こむ穴あなという意味いみを一般いっぱん的てきに持もつ。
• 味覚みかくを表あらわす事ことがある。「甘口あまくちの酒さけ」。
• 嗜好しこうを表あらわす事ことがある。「何なにでも行いける口くち」と表あらわして好すき嫌きらいなく食たべられることを意味いみする。
• 食費しょくひの消費しょうひ元もとを指さす事ことがある。「口くちを減へらす」と表あらわして消費しょうひ者しゃを減へらす事ことを意味いみする。
• 喋しゃべること、あるいは言葉ことばを指さす事ことがある。「口くちが減へらない」と表あらわしてよく喋しゃべる状態じょうたいを指さす。「口くちが重おもい」と表あらわして寡黙かもくであり口数くちかずが少すくない状態じょうたいを指さし、 また反対はんたいに「口くちが軽かるい」としてお喋しゃべりを指さす。「口くちが上手うまい」と表あらわして話はなす事ことが上手じょうずであることを指さす。
• モノに開ひらいている穴あなを指さす事ことがある。例れいとして「徳利とっくりの口くち」「間口まぐち」。
• 物事ものごとの始はじめを指さす事ことがある。例れいとして「序じょの口くち」。また浄瑠璃じょうるりで一段いちだんの最初さいしょ部ぶを口くちと言いう。
• 物事ものごとの割わり当あてを指さす事ことがある。「一口ひとくち千せん円えんの寄付きふ」
• 何なにかの処遇しょぐうの行いき先さき、受うけ入いれ先さきを指さす事ことがある。「就職しゅうしょく口こうを探さがす」「嫁入よめいりの口くちを探さがす」「口入くちいれをする」。
• 感触かんしょくの良よし悪あしを表あらわす事ことがある。「口当くちあたりの良よい人柄ひとがら」。
• 二枚貝にまいがいが貝殻かいがらを開ひらく事ことを「貝かいが口くちを開ひらく」と表現ひょうげんすることがある。

医学いがく

人間にんげんの口くち（臨床りんしょう的てき・解剖かいぼう学的がくてきには口腔こうくう「こうくう」、Cavum oris）は、食物しょくもつを摂取せっしゅするための器官きかんである。

註：腔の本来ほんらいの読よみはこうであるが、稀まれ字じでもあり、古ふるくからこう、くうの発音はつおんが混在こんざいしていた。1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）日本にっぽん解剖かいぼう学会がっかいの用語ようご委員いいん会かいが統一とういつ解剖かいぼう学がく用語ようご (Nomina Anatomica) の翻訳ほんやくを行おこなった際さいに、くうと発音はつおんすることを決定けっていした（同音どうおんの別べつ字じ（孔あななど）との区別くべつのためと推測すいそくされる）。以後いご、医学いがく分野ぶんやにおいては腔はくうと発音はつおんされる [1]。膣ちつ#関連かんれん項目こうもくも参照さんしょうのこと。

構成こうせいする組織そしきとして、歯は、口腔こうくう粘膜ねんまく、舌した、などがある。一般いっぱんに口腔こうくうには常時じょうじ一いち億おく以上いじょうの細菌さいきんが存在そんざいしている。なお、歯垢しこうの8割わりはそれらの細菌さいきん類るいの塊かたまりである。

口くちは、口腔こうくうの入口いりくちで口くち裂きれを上下じょうげより境さかいする口唇こうしん、すなわち上唇うわくちびると下した唇くちびるよりなり、上下じょうげ両りょう端はしで合ごうするところ、即すなわち唇くちびる交連の内側うちがわに口角こうかくをなしている。上唇うわくちびるの皮膚ひふ正中せいちゅうにある幅はばの広ひろい縦たての溝みぞを人中ひとなか（Philtrum）といい、また口角こうかくの外方そっぽから鼻翼びよくの外側そとがわ縁えんにいたる鼻はな唇くちびる溝みぞと、下しも唇くちびるの下した側がわに横よこに走はしっているオトガイ唇くちびる溝みぞがある。 口腔こうくうは、これを口腔こうくう前庭ぜんていと狭義きょうぎの口腔こうくうに分わけることができる。

口腔こうくうの細菌さいきんについては「口腔こうくう細菌さいきん学がく（口腔こうくう微生物びせいぶつ学がく）」を参照さんしょう。

口くち裂きれ

口くち裂きれ（こうれつ、英えい: oral fissure）は外界がいかいと口腔こうくう前庭ぜんていとの間隙かんげきである。

ヒトの場合ばあい、上唇うわくちびると下しも唇くちびるの間あいだの裂きれ隙すきが口くち裂きれである。口くち裂きれは開閉かいへい・変形へんけいが可能かのうである。これは口唇こうしん周辺しゅうへん部ぶの顔面がんめん表情ひょうじょう筋すじや下しも顎あごによって制御せいぎょされている。例たとえば口くち輪わ筋すじは口くち裂きれの主しゅたる括約筋かつやくきんである。口くち裂きれは口腔こうくうの顔面がんめん側がわ開口かいこう部ぶ（=口くちの入いり口くち）であり、その開閉かいへい・変形へんけいにより外界がいかいと口腔こうくうの通行つうこうが制御せいぎょされる。

参考さんこう文献ぶんけん

• Drake, Richard (2011). グレイ解剖かいぼう学がく (原著げんちょ第だい2版はん ed.). エルゼビア・ジャパン. ISBN 978-4860347734 

関連かんれん項目こうもく

• 口蓋こうがい／口腔こうくう前庭ぜんてい／頬ほお／歯は／歯は周しゅう組織そしき／舌した／唇くちびる／唾液だえき（唾液腺だえきせん）／歯垢しこう
• 虫歯むしば／歯は周しゅう病びょう／口内こうない炎えん
• 歯学しがく／歯科しか／解剖かいぼう学がく（口腔こうくう解剖かいぼう学がく）／生理学せいりがく（口腔こうくう生理学せいりがく）／病理びょうり学がく（口腔こうくう病理びょうり学がく）／細菌さいきん学がく（口腔こうくう細菌さいきん学がく）
• 歯科しか医師いし／歯科しか衛生えいせい士し／歯科しか技工ぎこう士し
• 口くち部ぶ - 漢字かんじの部首ぶしゅ
• 吻 - 動物どうぶつの口くちおよびその周囲しゅうい