膣ちつ

膣ちつ
女性じょせい器きの模も式しき図ず
膣ちつ管かん（左ひだりが正常せいじょう、右みぎが閉経へいけい）
ラテン語らてんご	vagina（ワギナ）
英語えいご	Vagina（ヴァジャイナ）
器官きかん	女性じょせい器き
動脈どうみゃく	腸ちょう腰こし動脈どうみゃく 膣ちつ動脈どうみゃく 中ちゅう直腸ちょくちょう動脈どうみゃく

膣ちつ または腟ちつ（ちつ、英えい: vagina、独どく: Vagina）とは、動物どうぶつにおける雌めす性せいの生殖せいしょく器きのうち、体内たいないにあって体外たいがいの開口かいこう部ぶに連つらなる末端まったん部ぶの名称めいしょうである。この項目こうもくでは便宜上べんぎじょう、雌めす・女性じょせいという語かたりを使用しようし、性別せいべつに言及げんきゅうする。

動物どうぶつ一般いっぱん

一般いっぱん的てきに雌めす性せい生殖せいしょく器きのうち、体からだ表面ひょうめんと内部ないぶの子宮しきゅう等ひとしの生殖せいしょく器きをつなぐ管状かんじょう構造こうぞうのこと。交尾こうび・出産しゅっさんに使つかわれる。無む脊椎動物せきついどうぶつを含ふくめ、体内たいない受精じゅせいを行おこなう動物どうぶつではこの構造こうぞうを持もつ例れいは少すくなくなく、下等かとうな方ほうでは無む腸ちょう動物どうぶつにもその例れいがある。鳥類ちょうるいや幾いくつかの爬虫類はちゅうるい、および単たん孔あな類るいなど一部いちぶの哺乳類ほにゅうるいにおける膣ちつは総そう排出はいしゅつ腔（=総そう排泄はいせつ腔）であり、昆虫こんちゅうや無む脊椎動物せきついどうぶつにおいては卵管らんかん（=輸卵管ゆらんかん）の末端まったん部ぶである。

哺乳類ほにゅうるいの場合ばあい

哺乳類ほにゅうるいにおいては雌めすの子宮しきゅうから体外たいがいに通つうじる管状かんじょうの器官きかんであり、交接こうせつ器きと産道さんどうを兼かねている。また、膣ちつの開口かいこう部ぶ（膣ちつ口こう）は外そと陰部いんぶに位置いちする。

役割やくわり

膣ちつの役割やくわりは以下いかのものがある。

• 膣ちつ壁かべや子宮しきゅう、卵管らんかんなどの内うち性器せいきからの分泌ぶんぴつ物ぶつや、月経げっけいによる血液けつえきと剥はがれた内うち膜まくなどを、体外たいがいに排出はいしゅつする道みちを提供ていきょうする。
• 出産しゅっさん時じに胎児たいじを子宮しきゅうから母体ぼたい外がいへと運はこんでいくための経路けいろ、すなわち産道さんどうを提供ていきょうする。
• 交尾こうび（性交せいこう）によって雄ゆうの陰茎いんけいを受うけ入いれ、生殖せいしょく細胞さいぼう（精子せいし）を卵たまご細胞さいぼう（卵子らんし）へ届とどけるための通とおり道みちとなり受精じゅせいを実現じつげんさせる。

処女しょじょ膜まく

詳細しょうさいは「処女しょじょ膜まく」を参照さんしょう

処女しょじょ膜まく（Hymen）は、哺乳ほにゅう動物どうぶつではモルモット・ゾウ・鼠ねずみ・ハクジラ・アザラシ・ジュゴン・キツネザルなどに存在そんざいする。多おおくの場合ばあいは膣ちつ口こうを完全かんぜんに覆おおうものではなく、処女しょじょ膜まくは膣ちつ口こう周囲しゅういを縁えん取とる、もしくは部分ぶぶん的てきに覆おおう構造こうぞうをしている。帯おび下か（おりもの）や月経げっけい期間きかん中ちゅうの経けい血ちは、処女しょじょ膜まくに空あいた穴あなを通とおり排出はいしゅつされる。処女しょじょ膜まくの役目やくめは「未み成熟せいじゅくな内うち性器せいきを細菌さいきんなどから守まもるものだ」など諸説しょせつあるがはっきりしていない。ヒトにおいての処女しょじょ膜まくはやや薄うすく、性交せいこうの経験けいけんがなくとも破われることはある。また、破われる際さいにも必かならずしも出血しゅっけつや痛いたみを伴ともなうものではない。

子宮しきゅう頸部

子宮しきゅう頸部およびその周まわりを取とり囲かこむ膣ちつ円蓋えんがいが膣ちつの行いき止どまりを形成けいせいする。子宮しきゅう頸部のほぼ中央ちゅうおう部ぶに子宮しきゅう口こう（外子そとこ宮口みやぐち）が開口かいこうしており、子宮しきゅう頸管・子宮しきゅうへとつながる。ヒトにおいて子宮しきゅう頸部は約やく2〜3cm程度ていど膣ちつ内ないに突出とっしゅつしており、周しゅう産さん期き以外いがいは子宮しきゅう口こうのサイズは数すうミリ以下いかである。膣ちつの真上まうえではなく斜ななめ前方ぜんぽうについていることが多おおい。これは子宮しきゅうが通常つうじょうは前まえ傾かたぶけしている事ことによる。ただし、子宮しきゅうが後あと屈くっしている場合ばあいなどはこの限かぎりではない。

ヒトにおける膣ちつ

ヒトにおいては、子宮しきゅう頸部の周まわりを囲かこむ膣ちつ円蓋えんがい部ぶから体からだ表面ひょうめんをつなぐ筋肉きんにくでできた伸縮しんしゅく性せいのある管状かんじょう構造こうぞうをしている。膣ちつ内ないは分泌ぶんぴつ液えきによって酸性さんせいに保たもたれ、細菌さいきんなどの有害ゆうがいな異物いぶつの侵入しんにゅうを防ふせいでいるが、いわゆる無菌むきん状態じょうたいではない（代表だいひょう的てきな菌きんとして、デーデルライン桿菌かんきんがある）。この膣ちつの自浄じじょう作用さようにより、精子せいしも大半たいはんが死滅しめつするほどである（もちろん、妊娠にんしんを望のぞまない性交せいこうを行おこなう際さいには避妊ひにん対策たいさくが必須ひっすである）。膣ちつの長ながさは約やく7〜9cm程度ていどとされてはいるが、個人こじん差さも大おおきく膣ちつ自体じたいに伸展しんてん性せいもあるため必かならずしも平均へいきんに当あてはまるものではない。月経げっけい周期しゅうきや年齢ねんれいによって子宮しきゅう・膣ちつを支ささえる骨盤こつばん底そこ筋すじの強つよさに変化へんかが現あらわれ、膣ちつの長ながさが変化へんかすることもある。

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膣ちつのひだ（Rugae）

女性じょせいの外そと性器せいきの解剖かいぼう学がく

女性じょせいの外そと性器せいきは、よく「膣ちつ」であると言いわれるが、厳密げんみつには外そと陰部いんぶ（=Vulva（ウルウァ：ラテン語らてんごの「子宮しきゅう」に由来ゆらいする）または、Pudendum（プデンドゥム：ラテン語らてんごで「恥はじるべき」を意味いみするpudendlus（プデンドゥス）から派生はせい））のことである。外そと陰部いんぶを構成こうせいする小陰こかげ唇くちびるに挟はさまれた膣ちつ前庭ぜんてい部ぶに膣ちつ口こうが開口かいこうしている。膣ちつは、厳密げんみつには体内たいないの部分ぶぶんを指さす医学いがく用語ようごである。

膣ちつは性教育せいきょういくで示しめされる模も式しき図ず（断面だんめん図ず）のように空洞くうどうになっているわけではなく、通常つうじょうは膣ちつ圧あつによって閉とじられた状態じょうたいである。性交せいこうはこの閉とじられた膣ちつを陰茎いんけい亀かめ頭あたまで押おし広ひろげながら、陰茎いんけいを奥おくへと挿入そうにゅうする行為こういであり、勃起ぼっきが不充分ふじゅうぶんな場合ばあいは膣ちつ圧あつによって押おし戻もどされてしまい挿入そうにゅうが困難こんなんである。また、膣ちつ分泌ぶんぴつ液えきの分泌ぶんぴつが不充分ふじゅうぶんな場合ばあいは摩擦まさつが強つよすぎて挿入そうにゅうが困難こんなんであり、女性じょせいが痛いたみを感かんじたり、膣ちつ壁かべを裂傷れっしょうする場合ばあいもある。

このため挿入そうにゅうする際さいには、前ぜん戯おどけなどによってお互たがいの性的せいてき興奮こうふんを高たかめ、男性だんせいは陰茎いんけいが充分じゅうぶんに勃起ぼっきし、女性じょせいは膣ちつ分泌ぶんぴつ液えきが充分じゅうぶんに分泌ぶんぴつされているのが望のぞましい。

膣ちつ内壁ないへきは皺しわ襞ひだ（ひだ）状じょうになっており、挿入そうにゅうされた陰茎いんけいや亀かめ頭あたまを刺激しげきし射精しゃせいを促うながす。

一部いちぶ医師いしによって膣ちつ内壁ないへきの皺しわ襞ひだ、疣いぼ贅ぜい（いぼ）の形状けいじょうが尖とんが圭けいコンジローマによるものと誤診ごしんされることがある。

語源ごげん

一般いっぱん的てきには「膣ちつ（ちつ）」と表記ひょうきされるが、「腟ちつ（しつ）」が使つかわれる場合ばあいもある。いずれも常用漢字じょうようかんじ外そとである。小川おがわ鼎かなえ三さんの「医学いがく用語ようごの起おこり」によると、「腟ちつ」は『重訂じゅうてい解体かいたい新書しんしょ』（『解体かいたい新書しんしょ』の改訂かいてい版ばん）を訳出やくしゅつする際さいに作成さくせいした新字しんじであり「しつ」と読よませようとしたが、既存きそんの似にた文字もじである「膣ちつ」に取とって代かわられ、読よみも「ちつ」になったとされている。しかし、いずれの字じも『康かん熙字典じてん』に存在そんざいするため、この説せつには疑問ぎもんが残のこる。ちなみに、中国ちゅうごく語ごにおける「膣ちつ」は「肉にくが出来できる」といった意味いみを表あらわし、この字じが女性じょせい器きを表あらわすのは日本語にほんごの用法ようほうである。Vagina のことを中国ちゅうごく語ごでは「陰かげ道どう」と言いう。

益田赤十字病院ますだせきじゅうじびょういん 第だい一いち産婦人科さんふじんか部長ぶちょう 水田すいでん 正能しょうのうの「産婦人科さんふじんか医いが“膣ちつ”を使つかってはならない」からすると“腟ちつ”という漢字かんじは，文政ぶんせい9年ねん（1826年ねん）『重訂じゅうてい解体かいたい新書しんしょ』の中なかで，大槻おおつき玄沢げんたくが初はじめて使用しようしている。

『重訂じゅうてい解体かいたい新書しんしょ』は、『解体かいたい新書しんしょ』の原典げんてんであるクルムスの『解剖かいぼう圖譜ずふ』を翻訳ほんやく、重訂じゅうていしたものである。その中なかで大槻おおつき玄沢げんたくは、“腟ちつ”を女性じょせい生殖せいしょく器きに用もちいた理由りゆうとして、「腟ちつ、法ほう技わざ納おさめ〔羅ら〕、悉乙牒、〔蘭らん〕」とあり，さらに「按ズルニシケイデハ室しつナリ。則のりチ男おとこ茎くき容よう受ノ室しつナリ、且ツ胎産及ビ月経げっけい通どおり利りノ道みちナリ、イマ新しんニ字じヲ製せいシテ訳やくシテシカ云うんウ。室しつノ辺あたり傍はた肉にくニ从ウ、音おとヲ叱しかトナス、則のりチ会意かいいナリ。中略ちゅうりゃく、肉にく生せいズルナリノ腟ちつニハ非ひズ」と書かいている。これは、“腟ちつ”は以前いぜんより中国ちゅうごく に存在そんざいしていた漢字かんじで、『玉たま篇へん』に「腟ちつチツ、音おと扶、肉にく生せい也」とある．

大槻おおつき玄沢げんたくは、中国ちゅうごく製せい漢字かんじの「肉にくが生しょうずる」という意味いみの“腟ちつ”の存在そんざいは知しりつつも、臓器ぞうきの特徴とくちょうを著あらわすために、「月つき（にくづき） 部ぶ」に「室しつ」を会意かいいした漢字かんじ“腟ちつ”を使用しようしたのである。大槻おおつき玄沢げんたくの記載きさいは、小生しょうせいの出身しゅっしん地ちであ る岡山おかやま県けん津山つやま市しにある洋学ようがく資料しりょう館かんで『重訂じゅうてい解体かいたい新書しんしょ』を拝見はいけんさせていただき、確認かくにんした。どうして“膣ちつ”が誤用ごようされているのか。一般いっぱんに、“腟ちつ”は“膣ちつ”の略字りゃくじであり、“膣ちつ”の方ほうが古ふるい 字体じたいで正式せいしきだと誤解ごかいされているようである。

小川おがわ政まさし修おさむの『西洋せいよう醫學いがく史し』によれば、「妊娠にんしん診斷しんだん、受胎じゅたい、陣痛じんつう促進そくしん（坐藥ざやく）、乳ちち分泌ぶんぴつ増加ぞうか（膏藥こうやく貼用ちょうよう）、通つう經けい（煎劑せんざいの腟ちつ内ない注入ちゅうにゅう）」と、“醫學いがく”“斷だん”“經けい”などの旧きゅう字体じたいの中なかでも、“腟ちつ”が正確せいかくに使用しようされている。さらに断定だんてい的てきな証拠しょうことして、大槻おおつき文彦ふみひこ氏しは『大言たいげん海うみ』に、“腟ちつ”と“膣ちつ”は異義いぎの字じであると書かいているが、「膣ちつハ篇へん海うみ「音おと窒、肉にく生せい也」ト。今こんハ腟ちつト同どうジク用ようヰル」と続つづく。この『篇へん海うみ』は、前出ぜんしゅつの『玉たま篇へん』より後代こうだいの著ちょであるので、強しいて言いえば「腟ちつ」の方ほうが旧きゅう字体じたいなのである．

Vaginaはラテン語らてんごで剣けんの鞘さやや植物しょくぶつの葉は鞘さや、子房しぼうといった鞘さや状じょうの構造こうぞう一般いっぱんを意味いみするvāgīna（ワーギーナ）に由来ゆらいし、解剖かいぼう学がくでは膣ちつを含ふくめた鞘さや（さや）（包つつみ膜まく、包つつみ被ひとしての役目やくめを担になっている構造こうぞう）を意味いみする。膣ちつ粘膜ねんまくは、vagina mucosaと呼よぶ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 笠井かさい寛ひろし司し 『日本にっぽん女性じょせいの外そと性器せいき ― 統計とうけい学がく的てき形態けいたい論ろん』 （フリープレス、増補ぞうほ改訂かいてい版ばん 2004年ねん） ISBN 4-434-04575-X
• イェルト・ドレント、塩崎しおざき香織かおり（訳わけ） 『ヴァギナの文化ぶんか史し』 （作品社さくひんしゃ、2005年ねん） ISBN 4-87893-689-4
• キャサリン・ブラックリッジ、藤田ふじた真利子まりこ（訳わけ） 『ヴァギナ 女性じょせい器きの文化ぶんか史し』 （河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2005年ねん） ISBN 4-309-20453-8
• 腟ちつペディア（株式会社かぶしきがいしゃHONMONO、2019年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• ヴァギナ・モノローグス
• ヴァギナ・デンタタ
• 膣ちつ鏡きょう