フッ化物ばけもの

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
フッ化物ばけものイオンから転送てんそう
フッ化物ばけもの
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 16984-48-8 チェック
PubChem 28179
ChemSpider 26214 チェック
KEGG C00742 チェック
MeSH Fluoride
ChEBI
ChEMBL CHEMBL1362 チェック
Gmelin参照さんしょう 14905
特性とくせい
化学かがくしき F
モル質量しつりょう 19 g mol−1
ねつ化学かがく
標準ひょうじゅん生成せいせいねつ ΔでるたfHo −333 kJ mol−1
標準ひょうじゅんモルエントロピー So 145.58 J/mol K (gaseous)[2]
関連かんれんする物質ぶっしつ
そのかげイオン 塩化えんかぶつ
臭化物しゅうかぶつ
ヨウ化物ばけもの
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

フッ化物ばけもの(フッかぶつ、どる化物ばけもの、fluoride)とはフッ素ふっそとほかの元素げんそあるいは原子げんしだんとから構成こうせいされる化合かごうぶつである。フッ素ふっそ最大さいだい電気でんき陰性いんせい元素げんそであるため、HF3 などごく一部いちぶ例外れいがいのぞき、化合かごうぶつなかでは酸化さんかすうが -1 とされる。イオンせいあるいは分子ぶんしせいのフッ化物ばけものられているが分子ぶんしせいフッ化物ばけもの液体えきたいのものがおおく、常温じょうおん気体きたい固体こたいのものも少数しょうすうられる。イオンせいのフッ化物ばけものでも一般いっぱん融点ゆうてんひくいものがおお[3]

イオンせいのフッ化物ばけもの構成こうせい要素ようそとなる、フッ素ふっそ原子げんし電子でんし1個いっこ単独たんどくイオン化いおんかしたかげイオン (F-) はフッ化物ばけものイオンばれる。フッ素ふっそイオンと名称めいしょうは、現在げんざい推奨すいしょうされていない。

フッ化物ばけものイオン[編集へんしゅう]

フッ化物ばけものイオンはあるしゅ結晶けっしょうちゅうではイオン半径はんけい 119 pm の単独たんどく粒子りゅうしとして存在そんざいする場合ばあいもあるが、溶液ようえき化合かごうぶつによっては結晶けっしょうちゅうでもみずした F(OH2)4- として存在そんざいする場合ばあいおお[4]

Me4N+F-[5]やCp2CoF[6] などいくつかの水物みずもの[7]られている。これらの水物みずものフッ素ふっそイオン水溶液すいようえきちゅうでの振舞ふるまいは「はだかフッ素ふっそイオン」(Naked fluoride ions) としてられており、CsF場合ばあいくらべてもたかもとめかくせいしめす。その性質せいしつ利用りようして XeF5-、BrF6-、PF4- などの有機ゆうきまたは無機むきフッ素ふっそ化物ばけもの合成ごうせいされている[8]

フッ化物ばけものイオンはケイ素けいそとの親和しんわせいたかいため、シリルもとだつ保護ほご使つかわれる。

フルオロ錯体さくたい[編集へんしゅう]

フッ素ふっそはい架橋かきょう原子げんしとなることもある。フッ化物ばけものイオンをはいかたちのフルオロ錯体さくたい代表だいひょうは SiF6- や BF4- などである。

またフッ素ふっそが M-F-M がた架橋かきょう原子げんしとなる場合ばあいられている。架橋かきょうハロゲン原子げんし結合けつごう屈曲くっきょくするのが普通ふつうなのにたいして、M-F-M は直線ちょくせんじょうとなるのが特徴とくちょうてきである[4]

性質せいしつ[編集へんしゅう]

非金属ひきんぞく元素げんそとの化合かごうぶつおおくが孤立こりつ分子ぶんしであり、一般いっぱんイオンせいのハロゲン化物ばけもの分子ぶんしあいだりょくよわたか揮発きはつせいつが、原子げんしりょうちいさいフッ化物ばけもの揮発きはつせい顕著けんちょあらわれる。

典型てんけい金属きんぞく元素げんそのフッ化物ばけものは、一般いっぱんてい融点ゆうてん典型てんけいてきなイオン結晶けっしょうである。アルカリ金属きんぞくぎんスズのフッ化物ばけもの水溶すいようせいしめす。一方いっぽうリチウムアルカリるい金属きんぞく希土類きどるい元素げんそなどとの化合かごうぶつおおくはみずなん溶である。すなわちイオン半径はんけいちいさいフッ化物ばけものイオンははいくらいする水分すいぶんのハロゲンイオンよりもすくない。それゆえイオン結合けつごうせいいちじるしく強固きょうこ場合ばあいにはイオンのみずエネルギーより結晶けっしょう格子こうしエネルギーのほうがおおきくなり、結晶けっしょうはかえってみずなん溶または不溶ふようとなる[9]

フッ化物ばけものイオンHSAB理論りろんではきわめてかたいルイス塩基えんきかんがえられている。一方いっぽう酸化さんかすうたか非金属ひきんぞく元素げんそおよび金属きんぞく元素げんそとはBF4-、SiF6-、TaF72- などのようなフルオロ錯体さくたいしょうずる[3]。すなわち酸化さんかすうたか元素げんそのフッ化物ばけもの中心ちゅうしん元素げんそそら軌道きどうおおくなり、フッ素ふっそ原子げんしからの電子でんし受容じゅようたいになりやすい。そのため共有きょうゆう結合けつごう形成けいせいしやすくなる場合ばあいもある。たとえば、UF4 はイオン結合けつごうせいだが UF6共有きょうゆう結合けつごうせいである[9]

ほとんどのフッ素ふっそ化物ばけものきわめて安定あんていであるが、イオンせいフッ素ふっそ化物ばけもの硫酸りゅうさんねっすると分解ぶんかいしてフッ水素すいそしょうずる[3]

利用りよう[編集へんしゅう]

歯磨はみがきざい[編集へんしゅう]

歯磨はみがきざい含有がんゆうされており、先進せんしんこくではおおむね90%以上いじょう普及ふきゅうりつとなっている。

歯科しか治療ちりょう[編集へんしゅう]

フッナトリウムなどがフッ化物ばけもの療法りょうほうもちいられる。

フッ素ふっそ樹脂じゅし[編集へんしゅう]

一般いっぱんてきポリマーおも炭素たんそ水素すいそから構成こうせいされているが、水素すいそフッ素ふっそえるとまった性質せいしつことなるポリマーがられる。代表だいひょうてきフッ素ふっそポリマーであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン)は、ばち水性すいせいたい薬品やくひんせいたい熱性ねっせいなどにすぐれた材料ざいりょうとして広範囲こうはんい使用しようされている。家庭かていではフライパン表面ひょうめんのコーティングにもちいられている。また、フッ素ふっそポリマーはきんあかがい領域りょういき透過とうかせいたかいため、ひかりファイバー材料ざいりょうとしても利用りようされつつある。

冷媒れいばい[編集へんしゅう]

フッ素ふっそ化合かごうぶつ一種いっしゅであるフロン商品しょうひんめいフレオン)は冷媒れいばいとしてひろ使つかわれていた。しかし、塩素えんそ原子げんしふく一部いちぶのフロンはオゾンそう破壊はかいすることが判明はんめいしたため、塩素えんそ原子げんしふくまない代替だいたいフロンやフロン以外いがい冷媒れいばい使用しようされるようになった。

絶縁ぜつえんせい気体きたい[編集へんしゅう]

絶縁ぜつえんせい気体きたいとしてフッ化物ばけものろくフッ硫黄いおう使つかわれる。絶縁ぜつえん性能せいのうすぐれ、おも容量ようりょうおおきな電力でんりょく機器きき使つかわれている。

ウラン235と238の分離ぶんり濃縮のうしゅく[編集へんしゅう]

フッ素ふっそには安定あんてい同位どういたい19Fしか存在そんざいしない(さらに、ヨウもとよう長寿ちょうじゅいのち放射ほうしゃせい同位どういたい存在そんざいしない)ことから、フッ化物ばけものはウラン235と238混合こんごうぶつからかく物質ぶっしつとして有用ゆうようなウラン235を分離ぶんり濃縮のうしゅくするさいもちいられる(フッ化物ばけものしきりょう結合けつごうしている金属きんぞくイオンの質量しつりょうにのみ影響えいきょうされるため。Cl, Brとうでは安定あんてい同位どういたい相当そうとうりょうあるので不可能ふかのうである)[10]マンハッタン計画けいかくにおいては原子げんしばくだん製造せいぞうのため、より効率こうりつてきフッ素ふっそ製造せいぞうほう発見はっけん確立かくりつちからそそがれた[11]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Fluorides – PubChem Public Chemical Database”. The PubChem Project. USA: National Center for Biotechnology Information. 2020ねん5がつ18にち閲覧えつらん
  2. ^ Chase, M. W. (1998). Fluorine anion. NIST. pp. 1–1951. http://webbook.nist.gov/cgi/cbook.cgi?ID=C16984488&Mask=1#Thermo-Gas 2012ねん7がつ4にち閲覧えつらん. 
  3. ^ a b c 長倉ながくら三郎さぶろうら(へん)、「フッ化物ばけもの」、『岩波いわなみ理化学りかがく辞典じてん』、だい5はん CD-ROMばん岩波書店いわなみしょてん、1998ねん
  4. ^ a b Cotton, F. A.; Wilkinson,G.; Murillo, C. A.; Bochmann, M. (1999). Advanced Inorganic Chemistry (6th ed), pp. 553–558. Wiley: New York. ISBN 0-471-19957-5
  5. ^ K.O.Christe et al,J.Am.Chem.Soc.,1990, 112,7619.
  6. ^ T.G.Richmond et al, J.Am.Chem.Soc.,1994,116,11165.
  7. ^ K.Seppelt et al,Chem.Eur.J.,1995,1,261.
  8. ^ N.Doherty and N.W.Hoffman, Chem.Rev.,1991,91,553.
  9. ^ a b 大滝おおたき 仁志ひとし、「ハロゲン化物ばけもの」、『世界せかいだい百科ひゃっか事典じてん』、CD-ROMばん平凡社へいぼんしゃ、1998ねん
  10. ^ 高校こうこう数学すうがくでわかるシュレディンガー方程式ほうていしき』(2005ねん竹内たけうち あつし ISBN 4062574705
  11. ^ せん太陽たいようよりもあかるく—原爆げんばくつくった科学かがくしゃたち』(2000ねん)ロベルト・ユンク ISBN 4582763626

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]