多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ（たかんほうこうぞくたんかすいそ、英えい: polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH）は、ヘテロ原子げんしや置換ちかん基もとを含ふくまない芳香ほうこう環たまきが縮ちぢみ合あわした炭化たんか水素すいその総称そうしょうである^[1]。縮ちぢみ合あい環たまき式しき炭化たんか水素すいそとも呼よばれる。多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそには100以上いじょうの化学かがく物質ぶっしつがある^[2]。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ローランド・スクール、アロイス・ツィンケとエリック・クラー達いたるが多おおくの業績ぎょうせきを遺のこした。油あぶらや石炭せきたん、乾留かんりゅう液えき（タール）の沈殿ちんでん物ぶつ、化石かせき燃料ねんりょうやバイオマス燃料ねんりょうの燃焼ねんしょうの副ふく生成せいせい物ぶつ、焼やき肉にくのように加熱かねつ処理しょりした食物しょくもつ^[3]^[4]で見みられる。多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそのいくつかは発癌はつがん性せい、変異へんい原ばら、催奇形がた物質ぶっしつであることが確認かくにんされている。

また、星ほし間あいだ物質ぶっしつ、彗星すいせい、隕石いんせきにも見みられるため自然しぜん発生はっせい説せつの基礎きそとなった分子ぶんしの候補こうほに挙あがっている。

性質せいしつ[編集へんしゅう]

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそは親しん油性ゆせいであるため水みずより油あぶらに混まざりやすい。分子ぶんし量りょうが大おおきくなると水みずに溶とけにくくなり不ふ揮発きはつ性せいになってくる傾向けいこうにある。この性質せいしつのため、環境かんきょう中ちゅうの多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそは主おもに土壌どじょう中なかの堆積たいせき物ぶつと油性ゆせい物質ぶっしつで見みられる。しかし、浮遊ふゆう粒子りゅうし状じょう物質ぶっしつであることも懸念けねんされている。

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそは最もっとも広範囲こうはんいに渡わたる有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつの一ひとつである。化石かせき燃料ねんりょうの他ほか、炭素たんそを含ふくむ物質ぶっしつ（木材もくざい、タバコ、脂肪しぼう、香こうなど）の不完全ふかんぜん燃焼ねんしょうによっても生成せいせいする^[5]。燃焼ねんしょうのタイプによって生成せいせいする多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいその相対そうたい的てきな量りょうや異性いせい体たいが異ことなってくる。そのため、多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそを調しらべることでエンジンの燃焼ねんしょうなのか、森林しんりん火災かさいなのかの判断はんだん材料ざいりょうに役立やくだつ。

ヒトへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいその毒性どくせいは、異性いせい体たいや環たまきの数かずに依存いぞんする。多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいその一ひとつ、ベンゾ[a]ピレンは初はじめて発癌はつがん性せいが見みつかったことで有名ゆうめいである。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく環境かんきょう保護ほご庁ちょうは7種しゅ（ベンズ[a]アントラセン、ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、クリセン、ジベンズ[a,h]アントラセン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン）の多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそを発癌はつがん性せい物質ぶっしつに分類ぶんるいしている。

発癌はつがん性せい、変異へんい原ばら、催奇形がた物質ぶっしつであることが知しられているものには、ベンズ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[ghi]ペリレン、コロネン、ジベンズ[a,h]アントラセン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、オバレンがある^[6].。

化学かがく[編集へんしゅう]

定義ていぎ上じょう、多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそには複数ふくすうの芳香ほうこう環たまきがあり、ベンゼンを含ふくまない。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく環境かんきょう保護ほご庁ちょうやCDCなどの一部いちぶの情報じょうほう源げんは、ナフタレンが最もっとも単純たんじゅんな多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそであるとする^[7]。他たの著者ちょしゃは、三さん環たまき系けいの化合かごう物ぶつのフェナントレンとアントラセンから、とする^[8]。ほとんどの著者ちょしゃは、環たまきにヘテロ原子げんしを含ふくむか、置換ちかん基もとを持もっている化合かごう物ぶつを除外じょがいしている^[9]。

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそには四よん員いん環たまき、五ご員いん環たまき、六ろく員いん環たまき、そして七なな員いん環たまきのものなどがあるが、最もっとも有名ゆうめいなのは六ろく員いん環たまきのものである。六ろく員いん環たまきでのみ構成こうせいされるものは結合けつごう交代こうたい多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ(alternant PAHs)と呼よばれる。そのうちのいくつかはベンゼノイド多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそと呼よばれる。

6個こ以下いかの縮ちぢみ合あい芳香ほうこう環たまきからなる多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそは小ちいさな多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ、6個こより多おおいものは大おおきい多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそとしばしば呼よばれる^{[要よう出典しゅってん]}。様々さまざまな小ちいさな多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそが販売はんばいされているため、多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいその研究けんきゅうの大半たいはんは6環たまき以下いかで行おこなわれた。

多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそはその環たまき構造こうぞうの違ちがいによって特徴とくちょう的てきかつユニークな紫外線しがいせん吸収きゅうしゅう帯たいを持もつ。これは多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいその同定どうていに特とくに有用ゆうようである。また、多おおくの多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそは蛍光けいこう性せいであり、特徴とくちょう的てきな波長はちょうの光ひかりを放出ほうしゅつする。

おもな多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

^ Fetzer, J. C. (2000). The Chemistry and Analysis of the Large Polycyclic Aromatic Hydrocarbons. New York: Wiley
^ Agency for Toxic Substances and Disease Registry Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs) 閲覧えつらん2012-11-30
^ Larsson, B. K. (1983). “Polycyclic aromatic hydrocarbons in grilled food”. J Agric Food Chem. 31 (4): 867–873. PMID 6352775.
^ http://www.atsdr.cdc.gov/tfacts69.html#bookmark02
^ “Incense link to cancer”. BBC News. (2001年ねん8月がつ2日にち)
^ Luch, A. (2005). The Carcinogenic Effects of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons. London: Imperial College Press, ISBN 1-86094-417-5
^ “Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs)”. 2014年ねん11月30日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2021年ねん6月がつ17日にち閲覧えつらん。 “Naphthalene is a PAH that is produced commercially in the US”
^ G.P. Moss IUPAC nomenclature for fused-ring systems^{[要よう文献ぶんけん特定とくてい詳細しょうさい情報じょうほう]}
^ Takuya Echigo, Mitsuyoshi Kimata, and Teruyuki Maruoka (2007): "Crystal-chemical and carbon-isotopic characteristics of karpatite (C₂₄H₁₂) from the Picacho Peak Area, San Benito County, California: Evidences for the hydrothermal formation". American Mineralogist, volume 92, issues 8-9, pages 1262–1269.doi:10.2138/am.2007.2509

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

Scholl, Roland, and Christian Seer. "Abspaltung aromatisch gebundenen Wasserstoffs und Verknüpfung aromatischer Kerne durch Aluminiumchlorid." European Journal of Organic Chemistry 394.2 (1912): 111-177.
Zinke, Alois, and Erna Unterkreuter. "Über einige neue Derivate des Perylens." Monatshefte für Chemie und verwandte Teile anderer Wissenschaften 40.8-10 (1919): 405-410.
Zinke, Alois, and Rupert Dengg. "Eine Synthese des Perylens über das 1, 12-Dioxyperylen." Monatshefte für Chemie/Chemical Monthly 43.3 (1922): 125-128.
Zinke, Alois, Walter Hirsch, and E. Brozek. "Untersuchungen über Perylen und seine Derivate." Monatshefte für Chemie/Chemical Monthly 51.1 (1929): 205-220.
Brass, Kurt, and Erich Clar. "Trihalogenide des Perylens (Vorläuf. Mitteil.)." Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft (A and B Series) 65.10 (1932): 1660-1662.
Brass, Kurt, and Erich Clar. "Über das Perylen‐tribromid. Erwiderung auf Bemerkungen von A. Zinke und A. Pongratz." European Journal of Inorganic Chemistry 69.8 (1936): 1977-1979.
Zinke, A., and A. Pongratz. "Über das Perylen‐tribromid von K. Brass und E. Clar (Untersuchungen über Perylen und seine Derivate, XLIII. Mitteil.)." European Journal of Inorganic Chemistry 69.7 (1936): 1591-1593.
Zinke, A., and A. Pongratz. "Über die Perylen‐trihalogenide von K. Brass und E. Clar (Untersuchungen über Perylen und seine Derivate, XLIX. Mitteil)." European Journal of Inorganic Chemistry 70.2 (1937): 214-218.

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

Fused Ring and Bridged Fused Ring Nomenclature
Database of PAH structures
National Pollutant Inventory: Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Fact Sheet
Understanding Polycyclic Aromatic Hydrocarbons NASA Spitzer Space Telescope
Astrobiology magazine Aromatic World An interview with Professor Pascale Ehrenfreund on PAH origin of life. Accessed June 2006
亀かめの甲こうをつなげると - 有機ゆうき化学かがく美術館びじゅつかん

[1] Fetzer, J. C. (2000). The Chemistry and Analysis of the Large Polycyclic Aromatic Hydrocarbons. New York: Wiley

[2] Agency for Toxic Substances and Disease Registry Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs) 閲覧えつらん2012-11-30

[3] Larsson, B. K. (1983). “Polycyclic aromatic hydrocarbons in grilled food”. J Agric Food Chem. 31 (4): 867–873. PMID 6352775.

[4] ttp://www.atsdr.cdc.gov/tfacts69.html#bookmark02

[5] “Incense link to cancer”. BBC News. (2001年ねん8月がつ2日にち)

[6] Luch, A. (2005). The Carcinogenic Effects of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons. London: Imperial College Press, ISBN 1-86094-417-5

[EPA2013-7] “Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs)”. 2014年ねん11月30日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2021年ねん6月がつ17日にち閲覧えつらん。 “Naphthalene is a PAH that is produced commercially in the US”

[moss0000-8] G.P. Moss IUPAC nomenclature for fused-ring systems^{[要よう文献ぶんけん特定とくてい詳細しょうさい情報じょうほう]}

[echi2007-9] Takuya Echigo, Mitsuyoshi Kimata, and Teruyuki Maruoka (2007): "Crystal-chemical and carbon-isotopic characteristics of karpatite (C₂₄H₁₂) from the Picacho Peak Area, San Benito County, California: Evidences for the hydrothermal formation". American Mineralogist, volume 92, issues 8-9, pages 1262–1269.doi:10.2138/am.2007.2509

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表ひょう話はなし編へん歴れき多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ
2環たまき	アズレン - ナフタレン - 1-メチルナフタレン - サポタリン
3環たまき	アセナフテン - アセナフチレン - アントラセン - フルオレン - フェナレン - フェナントレン
4環たまき	ベンズ[a]アントラセン - ベンゾ[a]フルオレン - ベンゾ[c]フェナントレン - クリセン - フルオランテン - ピレン - テトラセン - トリフェニレン
5環たまき	ベンゾピレン - ベンゾ[a]ピレン - ベンゾ[e]ピレン - ベンゾ[a]フルオランテン - ベンゾ[b]フルオランテン - ベンゾ[j]フルオランテン - ベンゾ[k]フルオランテン - ジベンゾ[a,h]アントラセン - ジベンゾ[a,j]アントラセン - ペンタセン - ペリレン - ピセン - テトラフェニレン
6環たまき以上いじょう	アンタントレン - 1,12-ベンゾペリレン - サーキュレン - コランニュレン - コロネン - ジコロニレン - ジインデノペリレン - ヘリセン - ヘプタセン - ヘキサセン - ケクレン - シクラセン - オバレン - ゼトレン