変異へんい原ばら

変異へんい原ばら（へんいげん、mutagen）とは、生物せいぶつの遺伝いでん情報じょうほう（DNAあるいは染色せんしょく体たい）に変化へんかをひき起おこす作用さようを有ゆうする物質ぶっしつまたは物理ぶつり的てき作用さよう（放射線ほうしゃせんなど）をいう。GHSの定義ていぎでは、「変異へんい原ばら性せい物質ぶっしつ（Mutagen）とは、細胞さいぼうの集団しゅうだんまたは生物せいぶつ体たいに突然変異とつぜんへんいを発生はっせいする頻度ひんどを増大ぞうだいさせる物質ぶっしつ」であり、「突然変異とつぜんへんい（Mutation）とは、細胞さいぼう内ないの遺伝いでん物質ぶっしつの量りょうまたは構造こうぞうにおける恒久こうきゅう的てきな変化へんか」である^[1]。

変異へんい原ばらとしての性質せいしつあるいは作用さようの強つよさを変異へんい原ばら性せい（へんいげんせい、mutagenicity）もしくは遺伝子いでんし毒性どくせい（いでんしどくせい）と呼よぶ^[2]。^[3]^[4]

特とくに、発はつがんにおけるイニシエーター（initiator。発はつがん性せい物質ぶっしつで、遺伝いでん情報じょうほうに異常いじょうを起おこしてがんの原因げんいんを作つくるもの）のほとんどは変異へんい原ばら性せい物質ぶっしつでもあることが実験じっけん的てきに知しられている。

日本にっぽんにおいては、医薬品いやくひん（医薬品いやくひん医療いりょう機器きき等とう法ほう）、食品しょくひん添加てんか物ぶつ（食品しょくひん衛生えいせい法ほう）、農薬のうやく（農薬のうやく取締とりしまり法ほう）、新規しんき化学かがく物質ぶっしつ（化学かがく物質ぶっしつの審査しんさ及および製造せいぞう等とうの規制きせいに関かんする法律ほうりつ）および労働ろうどう環境かんきょう検査けんさ（労働ろうどう安全あんぜん衛生えいせい法ほう）についてサンプルの変異へんい原ばら性せい試験しけんが求もとめられている。

つまり、変異へんい原ばら性せいを調しらべることは遺伝いでん毒性どくせい、発はつがん性せいの可能かのう性せいがある物質ぶっしつを見みつけ出だすのにも役立やくだつと考かんがえられ、変異へんい原ばら性せい試験しけんは発はつがん性せい物質ぶっしつのスクリーニング試験しけん（候補こうほの絞しぼり込こみ）としての意味いみも持もつ。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

変異へんい原ばらには次つぎのようなもの（物質ぶっしつまたは物理ぶつり的てき作用さよう）がある。

DNA分子ぶんしに異常いじょうを起おこすもの：
- ニトロソ化合かごう物ぶつ：ニトロソ基もと (−NO) を有ゆうする化合かごう物ぶつ。ニトロソアミン（食物しょくもつ中ちゅうなどでアミンと亜あ硝酸しょうさん塩しおが反応はんのうして生しょうじる）、ニトロソグアニジンなど。
- 塩基えんき類似るいじ化合かごう物ぶつ：DNAの複製ふくせい、修復しゅうふくの際さいに異常いじょうを起おこす。BrdUなど。
- アルキル化か剤ざい：DNAにアルキル基もとを付加ふかする。エチル化か剤ざい N-エチル-N-ニトロソウレア (ENU)、エチル化か剤ざいメタンスルホン酸さんエチル (EMS) など。
- 多た環たまき芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ：排気はいきガスやタバコの煙けむり中ちゅうに含ふくまれるベンゾピレン、クリセンなど。
- DNAインターカレーター：DNAの2重じゅうらせん構造こうぞうにはさまり、DNAの複製ふくせいの際さいに異常いじょうを起おこす。（ベンゾピレン、臭におい化かエチジウムなど）
- DNA架橋かきょう剤ざい：DNA分子ぶんし中ちゅうの2個この塩基えんきに結合けつごうし架橋かきょう構造こうぞうを作つくる。抗こうがん剤ざいのシスプラチン、マイトマイシンCなど。
- 活性かっせい酸素さんそ
- 放射線ほうしゃせん
- 紫外線しがいせん
遺伝いでん情報じょうほうを挿入そうにゅうするもの
- DNAウイルスやレトロウイルスへの感染かんせん。
コルヒチンなどの細胞さいぼう分裂ぶんれつ阻害そがい剤ざいはDNA自体じたいには異常いじょうを起おこさないが、細胞さいぼう分裂ぶんれつにおいて染色せんしょく体たい異常いじょう（倍数ばいすう性せい、異数いすう性せい）をもたらすことが知しられており、細胞さいぼうの遺伝いでん情報じょうほうに異常いじょうを引ひき起おこすという意味いみで、上記じょうきとは別種べっしゅの変異へんい原ばらということができる。また、染色せんしょく体たい構造こうぞう異常いじょうを引ひき起おこす物質ぶっしつも知しられており、これらも変異へんい原ばら性せい物質ぶっしつに含ふくまれる。

試験しけん法ほう[編集へんしゅう]

変異へんい原ばら性せいを検出けんしゅつする方法ほうほうとして最もっともよく用もちいられるものに、サルモネラ菌さるもねらきん Salmonella typhimuriumなどの細菌さいきんを用もちいる突然変異とつぜんへんい試験しけんであるエームス試験しけん（Ames test、開発かいはつ者しゃB. N. Amesにちなむ）がある。変異へんい原ばら性せいの存在そんざいは常つねに発はつがん性せいを始はじめとした遺伝いでん毒性どくせいを有ゆうすることを意味いみせず、遺伝いでん毒性どくせいを判定はんていするには発はつがん性せいを始はじめとした遺伝いでん毒性どくせい試験しけん（遺伝子いでんし突然変異とつぜんへんい試験しけんと染色せんしょく体たい突然変異とつぜんへんい試験しけん）が必要ひつようである^[4]。すなわち、変異へんい原ばら性せい試験しけんはプロセスが簡便かんべんなため、遺伝いでん毒性どくせい試験しけんの前ぜんスクリーニング（絞しぼり込こみスクリーニング）として実施じっしされるため一連いちれんの遺伝いでん毒性どくせい試験しけんに含ふくまれる場合ばあいがある。しかし変異へんい原ばら性せい試験しけんの結果けっかのみでは遺伝いでん毒性どくせい試験しけんの代用だいようにはならない。

変異へんいが起おこる過程かていやそれらに伴ともなう現象げんしょうを検出けんしゅつするための種々しゅじゅの試験しけん法ほうがある。検出けんしゅつ対象たいしょうによって大おおきく分わければ次つぎのようになる。

変異へんい原ばら性せい試験しけん
- DNAの損傷そんしょうと修復しゅうふくを検出けんしゅつ：
  pol-assay
  
  rec-assay
  
  Umu-assay
  
  コメットアッセイ
  
  不定期ふていきDNA合成ごうせい
- 形質けいしつ変化へんかで突然変異とつぜんへんいを検出けんしゅつ：
  エームス試験しけん
  
  マウスリンフォーマ試験しけん
  
  スポットテスト
遺伝いでん毒性どくせい試験しけん
- 染色せんしょく体たい異常いじょう試験しけん
  小しょう核かく試験しけん
  
  姉妹しまい染色せんしょく分ぶん体からだ交換こうかん試験しけん（SCE）
- 遺伝子いでんし突然変異とつぜんへんい試験しけん
  形質けいしつ転換てんかん試験しけん（発はつがん試験しけんを含ふくむ）
  
  優性ゆうせい致死ちし試験しけん

OECD テストガイドライン[編集へんしゅう]

以下いか、GHS第だい3版はんにおいて生殖せいしょく細胞さいぼう変異へんい原ばら性せい物質ぶっしつの試験しけんの例れいとして引用いんようされているOECDテストガイドラインを記載きさいする。リンクは該当がいとう文書ぶんしょの国立こくりつ医薬品いやくひん食品しょくひん衛生えいせい研究所けんきゅうじょの翻訳ほんやくそれぞれへのリンクである。原文げんぶんはOECDのOECD Guidelines for the Testing of Chemicalsから無償むしょうでダウンロードできる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ 化学かがく品ひんの分類ぶんるいおよび表示ひょうじに関かんする世界せかい調和ちょうわシステム（GHS）改訂かいてい3版はん　環境省かんきょうしょう訳やく
^ 変異へんい原ばら性せい試験しけん、薬学やくがく用語ようご解説かいせつ
^ 変異へんい原ばら、日本にっぽん環境かんきょう変異へんい学会がっかい
^ ^a ^b 変異へんい原ばら性せい

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

日本にっぽん環境かんきょう変異へんい原げん学会がっかい

[1] 化学かがく品ひんの分類ぶんるいおよび表示ひょうじに関かんする世界せかい調和ちょうわシステム（GHS）改訂かいてい3版はん　環境省かんきょうしょう訳やく

[2] 変異へんい原ばら性せい試験しけん、薬学やくがく用語ようご解説かいせつ

[3] 変異へんい原ばら、日本にっぽん環境かんきょう変異へんい学会がっかい

[EIC_NET-4] 変異へんい原ばら性せい

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