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なまり

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
タリウム なまり ビスマス
Sn

Pb

Fl
外見がいけん
ぎん白色はくしょく
一般いっぱん特性とくせい
名称めいしょう, 記号きごう, 番号ばんごう なまり, Pb, 82
分類ぶんるい ひん金属きんぞく
ぞく, 周期しゅうき, ブロック 14, 6, p
原子げんしりょう 207.2
電子でんし配置はいち [Xe] 4f14 5d10 6s2 6p2
電子でんしから 2, 8, 18, 32, 18, 4(画像がぞう
物理ぶつり特性とくせい
そう 固体こたい
密度みつど室温しつおん付近ふきん 11.34 g/cm3
融点ゆうてんでの液体えきたい密度みつど 10.66 g/cm3
融点ゆうてん 600.61 K, 327.46 °C, 621.43 °F
沸点ふってん 2022 K, 1749 °C, 3180 °F
融解ゆうかいねつ 4.77 kJ/mol
蒸発じょうはつねつ 179.5 kJ/mol
熱容量ねつようりょう (25 °C) 26.650 J/(mol·K)
蒸気じょうきあつ
圧力あつりょく (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度おんど (K) 978 1088 1229 1412 1660 2027
原子げんし特性とくせい
酸化さんかすう 4, 2両性りょうせい酸化さんかぶつ
電気でんき陰性いんせい 2.33(ポーリングの
イオン化いおんかエネルギー だい1: 715.6 kJ/mol
だい2: 1450.5 kJ/mol
だい3: 3081.5 kJ/mol
原子げんし半径はんけい 175 pm
共有きょうゆう結合けつごう半径はんけい 146 ± 5 pm
ファンデルワールス半径はんけい 202 pm
その
結晶けっしょう構造こうぞう めんこころ立方りっぽう
磁性じせい はん磁性じせい
電気でんき抵抗ていこうりつ (20 °C) 208 nΩおめが⋅m
ねつ伝導でんどうりつ (300 K) 35.3 W/(m⋅K)
ねつ膨張ぼうちょうりつ (25 °C) 28.9 μみゅーm/(m⋅K)
ヤングりつ 16 GPa
剛性ごうせいりつ 5.6 GPa
体積たいせき弾性だんせいりつ 46 GPa
ポアソン 0.44
モース硬度こうど 1.5
ブリネル硬度こうど 38.3 MPa
CAS登録とうろく番号ばんごう 7439-92-1
おも同位どういたい
詳細しょうさいなまり同位どういたい参照さんしょう
同位どういたい NA 半減はんげん DM DE (MeV) DP
204Pb 1.4 % > 1.4 × 1017 y αあるふぁ 2.186 200Hg
205Pb syn 1.53 × 107 y εいぷしろん 0.051 205Tl
206Pb 24.1 % 中性子ちゅうせいし124安定あんてい
207Pb 22.1 % 中性子ちゅうせいし125安定あんてい
208Pb 52.4 % 中性子ちゅうせいし126安定あんてい
210Pb trace 22.3 y αあるふぁ 3.792 206Hg
βべーた 0.064 210Bi

なまり(なまり、えい: Leadどく: Blei: Plumbumふつ: Plomb)とは、典型てんけい元素げんそなか金属きんぞく元素げんそ分類ぶんるいされる、原子げんし番号ばんごうが82ばん元素げんそである。元素げんそ記号きごうPb である。

名称めいしょう

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日本語にほんご名称めいしょうの「なまり(なまり)」は「せい(なま)り」=「やわらかい金属きんぞく」からとのせつがある。元素げんそ記号きごうラテン語らてんごでの名称めいしょう plumbum由来ゆらいする。大和言葉やまとことばでは「あおきん(あおがね)」という。

特徴とくちょう

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マ帝国まていこくぞくしゅうブリタンニア時代じだいなまり地金じがね

炭素たんそぞく元素げんその1つ。原子げんしりょうやく207.19、比重ひじゅうは11.34である。さびおおわれた表面ひょうめんなまりしょくばれるあお灰色はいいろとなる。人類じんるい文明ぶんめいとともにひろ使つかわれてきた代表だいひょうてき重金属じゅうきんぞくである。おもに、なまり硫化りゅうか鉱物こうぶつであるほうなまりこうかたち産出さんしゅつする。

同位どういたい

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ぜん元素げんそちゅうもっと質量しつりょうすうおおきい安定あんてい同位どういたい元素げんそとしてビスマスげられることもおおいものの、ながらくビスマスの唯一ゆいいつ安定あんてい同位どういたいだとしんじられてきた209Biは、実際じっさいには安定あんてい同位どういたいではなかったことが確認かくにんされた。このため、通常つうじょうなまりぜん元素げんそちゅうもっと質量しつりょうすうおおきい安定あんてい同位どういたい元素げんそとしてげられ、なまり同位どういたいの1つである208Pbが、もっと質量しつりょうすうおおきい安定あんてい同位どういたいわれている。また、ウラントリウムなどのなまりよりも原子げんし番号ばんごうおおきな放射ほうしゃせい元素げんそが壊変すると、一般いっぱんてきに、最終さいしゅうてきにはなまり同位どういたいのうち、206Pbか207Pbか208Pbをしょうじるとされている。しかし、じつなまりにも安定あんてい同位どういたいは1つも存在そんざいしないのではないかともわれはじめている。事実じじつながらく安定あんてい同位どういたいしんじられてきた204Pbも、じつ安定あんてい同位どういたいではなかった。

なお、もとになったおや核種かくしゅにより最終さいしゅうてき生成せいせいするなまり同位どういたいことなるため(崩壊ほうかい系列けいれつ参照さんしょう)、なまり同位どういたい組成そせい産地さんちごとにちがった特徴とくちょうつ。つまり、ウランやトリウムがあつまりやすい場所ばしょ産出さんしゅつしたなまりは、これらが崩壊ほうかいした結果けっか生成せいせいする同位どういたいおおふくむ。これを利用りようして、出土しゅつどひん汚染おせん物質ぶっしつ起源きげん推定すいていすることができる。

性質せいしつ

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金属きんぞくくらべるとびやすく、かけじょうすぐにくろずむが、酸化さんかとともに表面ひょうめん酸化さんか皮膜ひまく形成けいせいされるため、腐食ふしょく内部ないぶすすみにくい。また、おおくの無機むきしおみず不溶ふようであるため水中すいちゅうでも腐蝕ふしょくしにくい。

ハロゲンおよびカルコゲンなどと加熱かねつにより直接ちょくせつ反応はんのうして化合かごうぶつ生成せいせいする。まれ塩酸えんさんおよびまれ硫酸りゅうさんとは表面ひょうめんなん溶性ようせいしおしょうじて反応はんのうしにくいが、硝酸しょうさんとは容易ようい反応はんのうする。酢酸さくさんイオンとの親和力しんわりょく比較的ひかくてきつよく、空気くうき酸素さんそ)の存在そんざいにおいて酢酸さくさん水溶液すいようえきにも溶解ようかいして酢酸さくさんなまり生成せいせいする[1]

またなまりやわらかい金属きんぞくであり、かみなどにけると文字もじけるため、古代こだいローマひと羊皮紙ようひしなまりせんおよび文字もじき、これが鉛筆えんぴつ (lead pencil) の名称めいしょう起源きげんとなった[2]

てい融点ゆうてんやわらかく加工かこうしやすいこと、こう比重ひじゅうであること、比較的ひかくてきせい容易よういであることなどから、古代こだいからひろ利用りようされてきた。しかし、生物せいぶつたいして毒性どくせい蓄積ちくせきせいがあるために、近年きんねん利用りようけられる傾向けいこうつよい。この問題もんだい解決かいけつすべくRoHS指令しれい成立せいりつし、製造せいぞうしゃ利用りようしゃ保護ほご確保かくほしている。電気でんき回路かいろもちいられるはんだなどでもRoHS指令しれい対応たいおうした「なまりフリー」と銘打めいうった製品せいひんおお市販しはんされている。

7.2Kにおいてちょう伝導でんどう転移てんいしめし、この転移てんい温度おんどが20GPa程度ていどまでの印加いんか圧力あつりょくにほぼ比例ひれいして低下ていかしていくため、こうあつ物理ぶつりがくにおいてはなまりちょう伝導でんどう転移てんい温度おんどから圧力あつりょく決定けっていするのに使用しようされることがある。

天然てんねんにおける存在そんざい

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世界せかいなまり、および亜鉛あえん分布ぶんぷアメリカ地質調査所ちしつちょうさしょ調査ちょうさによる)

地球ちきゅう地殻ちかくにおけるなまり含有がんゆうりつやく8 ppm推定すいていされており[3]、これはけっしておおいとはえない。しかし、硫化りゅうか鉱物こうぶつとしてひろ存在そんざいし、採掘さいくつおよびせい比較的ひかくてき容易よういなことから亜鉛あえん同様どうよう安価あんか金属きんぞくである。

単体たんたい自然しぜんなまりとして存在そんざいすることはまれであり、硫化りゅうかぶつほうなまりこうとしてひろ分布ぶんぷし、くろこう鉱床こうしょうなどどう亜鉛あえんなどと共存きょうぞんすることがおおい。またかたなまりこう酸化さんかした硫酸りゅうさんなまりこう炭酸たんさんしおであるしろなまりこうクロムさんしおであるべになまりこうなども産出さんしゅつする。また火成岩かせいがんなかとく花崗岩かこうがん微量びりょうふくまれ、イオン半径はんけいちか長石ちょうせきなかカリウム置換ちかんしている[4]

なまり鉱石こうせき

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なまり鉱石こうせき構成こうせいする鉱石こうせき鉱物こうぶつには、ほうなまりこう(PbS)などがあげられる。

せい

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原料げんりょうかたなまりこうもっと重要じゅうようであり、あぶやき工程こうていおよび還元かんげんなまりされ、ついで湿式しっしきほうまたは乾式かんしきほうにより精錬せいれんされる[2]。 まず選鉱せんこうにより純度じゅんどたかめたほうなまりこうあぶやきにより酸化さんかなまりとし、ついでコークスにより還元かんげんしてなまりる。

また直接ちょくせつせいほうでは、あぶやきにより一部いちぶ酸化さんかなまりとし、これをのこりの硫化りゅうかなまり反応はんのうさせるもので、エネルギーてき有利ゆうり反応はんのうであるが選鉱せんこう度合どあいをたかめる必要ひつようがある。

湿式しっしきほう

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湿式しっしきほう電解でんかい精錬せいれんによるもので、電解でんかいえきヘキサフルオロケイさん水溶液すいようえき陽極ようきょくなまり陰極いんきょくじゅんなまり使用しようして電気でんき分解ぶんかいおこなう。なまりよりイオン化いおんか傾向けいこうちいさいヒ素ひそアンチモンビスマスどうぎんきむなどの不純物ふじゅんぶつはスライムじょう陽極ようきょくどろとして沈殿ちんでんする。

陽極ようきょく

陰極いんきょく

酸化さんか還元かんげん電位でんい接近せっきんしている不純物ふじゅんぶつであるスズ電解でんかい精錬せいれんでは分離ぶんりしにくいため、鎔融状態じょうたい水酸化すいさんかナトリウム処理しょりしスズの除去じょきょおこなう。これにより99.99 %程度ていど純度じゅんど地金じがねられる。

乾式かんしきほう

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なまりを鎔融状態じょうたいとしてだつどうやわらなまりだつぎんだつ亜鉛あえんだつビスマス→仕上しあ精製せいせい順序じゅんじょによる工程こうてい不純物ふじゅんぶつ除去じょきょされる。

だつどう
鎔融なまりを350 °Cたもつと鎔融なまりたいする溶解ようかいひくどう浮上ふじょう分離ぶんりする。さらに硫黄いおうくわえて撹拌かくはんし、硫化りゅうかどうとして分離ぶんりする。この工程こうていによりどうは0.05 - 0.005 %まで除去じょきょされる。
やわらなまり
700 - 800 °Cで鎔融なまり圧縮あっしゅく空気くうきむと、より酸化さんかされやすいスズ、アンチモン、ヒ素ひそ酸化さんかぶつとして浮上ふじょう分離ぶんりする。
やわらなまり(ハリスほう
500℃程度ていどの鎔融なまり水酸化すいさんかナトリウムをくわえて撹拌かくはんすると不純物ふじゅんぶつがスズさんナトリウム Na2SnO3、ヒさんナトリウム Na3AsO4、アンチモンさんナトリウム NaSbO3 になり分離ぶんりされる。
だつぎん(パークスほう
450 - 520 °Cたもった鎔融なまり少量しょうりょう亜鉛あえんくわ撹拌かくはんしたのち、340 °C冷却れいきゃくすると、かねおよびぎん亜鉛あえん金属きんぞくあいだ化合かごうぶつ生成せいせいし、これは鎔融なまりたいする溶解ようかいきわめてひくいため浮上ふじょう分離ぶんりする。この工程こうていによりぎんは0.0001 %まで除去じょきょされる。鎔融なまりちゅうに0.5 %程度ていど残存ざんそんする亜鉛あえん空気くうきまたは塩素えんそ酸化さんかされ除去じょきょされる。
だつビスマス
鎔融なまり少量しょうりょうのマグネシウムおよびカルシウムをくわえるとビスマスはこれらの元素げんそ金属きんぞくあいだ化合かごうぶつ CaMg2Bi2生成せいせい浮上ふじょう分離ぶんりする。この工程こうていによりビスマスは0.002 %まで除去じょきょされる。

用途ようと

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なまりレンガは、放射線ほうしゃせん遮蔽しゃへいざいとしてもちいられる
マ帝国まていこく水道すいどうかんにはなまり使用しようされていた
なまり蓄電池ちくでんち (バイクなどの用途ようと)の電極でんきょく使用しよう

なまり現在げんざい用途ようとは、なまり蓄電池ちくでんち電極でんきょく金属きんぞくかいそぎせい向上こうじょうのための合金ごうきん成分せいぶんかいそぎこうかいそぎ黄銅こうどう、アルミ合金ごうきんA2011など)、なまりガラス光学こうがくレンズクリスタルガラス)、美術びじゅつ工芸こうげいひんたとえばステンドグラスえん)、防音ぼうおんせいシートやめんふるえようダンパー銃弾じゅうだん電子でんし材料ざいりょうチタンさんなまり)などである。

また、金属きんぞくなかでは比較的ひかくてき比重ひじゅうおおきいので放射線ほうしゃせん遮蔽しゃへいざいとしてなまりガラスやなまりシートなどのかたちもちいられる。たとえばかく戦争せんそう想定そうていした戦車せんしゃ内壁ないへきや、Xせん撮影さつえい施設しせつまどガラス、ブラウン管ぶらうんかんようガラスにはなまりふくまれている。

また、などでもちいられるおもり(シンカー)の材料ざいりょうとしてもなまりもちいられている。しかし、近年きんねんなまり毒性どくせい問題もんだいとなったために、なまりわるおもりの素材そざいとしてタングステンなどの導入どうにゅうすすめられている。それでも、加工かこうのしやすさやコストのめんから、いまだにこの用途ようとでのなまり需要じゅよう根強ねづよい。

その質量しつりょうやわらかい特性とくせいかし、ピアノの鍵盤けんばんのウエイトにもちいられている。鍵盤けんばん側面そくめんあななまりみ、たたくことでなまりひろがり固定こていされる。

意外いがいなところでは、三味線しゃみせん演奏えんそうするときに使つかう「バチ」のおもりとしても使つかわれている。このため「バチ」を処分しょぶんするさいは、なまり必要ひつようがある。 ※さずにゴミとして処分しょぶんすると、焼却しょうきゃくなかけて重大じゅうだい汚染おせんしょうじる危険きけんせいがある。

なまりやその合金ごうきん融点ゆうてんひく加工かこう容易よういでコストもやすいことからなまり兵隊へいたいメタルフィギュアのような玩具おもちゃ、ホビー、工芸こうげいひんなどにもおお利用りようされてきた。

このほか灯油とうゆホワイトガソリンなどの液体えきたい燃料ねんりょう加圧かあつ気化きかして燃焼ねんしょうさせるポータブルストーブブロートーチランタンでは、気密きみつせいたい熱性ねっせいたかさからのガスケットに現在げんざいでもなまりもちいられる。さらに、路面ろめん表示ひょうじよう白色はくしょく塗料とりょうとしても利用りようされている。

金属きんぞくせん結節けっせつして圧着あっちゃくし、こわさずに金属きんぞくせんをほどくことができない封印ふういんとしてもふるくからもちいられている。

なお、かつては水道すいどうかんはんだおしろいなどにもちいられた顔料がんりょうについてもなまり大量たいりょう利用りようされていたものの、なまりもちいないものへのえがすすめられている。

なまりスズ合金ごうきんとしてはんだられ、てい融点ゆうてんなどの利点りてんつため、ふるくから金属きんぞく同士どうし接合せつごう多用たようされてきた。

アンチモニー

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合金ごうきんとしてのアンチモニーは、なまり80%〜90%にアンチモン10%〜20%、このほか用途ようとによりすず(スズ)を少々しょうしょうぜた金属きんぞくのことをいう[5]小皿こざら優勝ゆうしょうカップ、トロフィー、メダルなどに利用りようされる[5]。なお、日本語にほんごアンチモニーという場合ばあいには元素げんそのアンチモン(英語えいごめい)のことを場合ばあいもある[5]

毒性どくせい

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無機むきなまり化合かごうぶつみずけにくいものがおおいため急性きゅうせい中毒ちゅうどくこすことまれだが、テトラエチルなまりのようなあぶら溶性ようせい有機ゆうき物質ぶっしつ細胞さいぼうまく通過つうかして直接ちょくせつまれるため、非常ひじょう危険きけんである。長期ちょうきてき場合ばあいなまり自然しぜん状態じょうたい食物しょくもつにもわずかにふくまれるため常時じょうじ摂取せっしゅされており、一定いっていりょうならば尿にょうちゅうなどに排泄はいせつされるのでなまりたいして必要ひつよう以上いじょう神経質しんけいしつになる必要ひつよういとされる。しかし、有機ゆうき化合かごうぶつ摂取せっしゅしてしまったり、排泄はいせつ上回うわまわなまり長期間ちょうきかん摂取せっしゅすると体内たいない蓄積ちくせきされて毒性どくせいつ。

生物せいぶつたいする毒性どくせいとしては、からだひょう消化しょうか器官きかんたいする曝露ばくろ接触せっしょく定着ていちゃく)により腹痛はらいた嘔吐おうとしんすじ麻痺まひ感覚かんかく異常いじょうしょうなど様々さまざま中毒ちゅうどく症状しょうじょうこすほか、血液けつえき作用さようすると溶血ようけつせい貧血ひんけつヘム合成ごうせいけい障害しょうがい免疫めんえきけい抑制よくせい腎臓じんぞうへの影響えいきょうなどもこす。遺伝いでん毒性どくせい報告ほうこくされている。おも呼吸こきゅうけいからの吸引きゅういんと、水溶すいようせいなまり化合かごうぶつ消化しょうかけいからの吸収きゅうしゅうによって体内たいないはいり、ほねもっとおお定着ていちゃくする。生体せいたいまれたなまり生物せいぶつがくてき半減はんげん資料しりょうによってことなるが、いちれいとして生体せいたい全体ぜんたいで5ねんほね注目ちゅうもくすると10ねんというしめされている。呼吸こきゅうからの吸引きゅういんたいしては、なまりあつか工場こうじょうや、なまりふく塗料とりょう顔料がんりょうあつか作業さぎょうなどにおおく、職業病しょくぎょうびょうとしての側面そくめんがある[6][7][8]

なまり中毒ちゅうどく歴史れきし

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なまり原因げんいんでもたらされるなまり疝痛せんつうかんする最初さいしょ記述きじゅつは、古代こだいギリシャヒポクラテスによってなされている[9]古代こだいローマ時代じだい膨大ぼうだいりょうなまり生産せいさんされ、陶磁器とうじき釉薬料理りょうり器具きぐ配管はいかんなどにも使つかわれていたために、ローマじんには死産しざん奇形きけいのう障害しょうがいといったなまり中毒ちゅうどく普通ふつうられたとわれていた。しかしこのけん[9]現在げんざいでは俗説ぞくせつあつかいされている。かつて西洋せいようではなまりは「灰吹はいふほう」など、きむぎんどうなどをせいするための媒介ばいかいとしてもさかんに利用りようされた。

古代こだいローマでも、貴族きぞくたちがなまりせいのコップでワインをむのをこのんだため、なまり中毒ちゅうどくしゃ続出ぞくしゅつしたといわれる[9]。17世紀せいきごろから、ワインによるなまり中毒ちゅうどくろんじられるようになってきたが、当時とうじはワインをあまくする目的もくてきで、酢酸さくさんなまり添加てんかされていた[10]たとえば、ワインを愛飲あいいんしていたベートーヴェン毛髪もうはつからは、調査ちょうさによって通常つうじょうの100ばいちかりょうなまり検出けんしゅつされたことから、その晩年ばんねんにほぼみみこえなくなってしまった原因げんいんとして、現在げんざいではなまり中毒ちゅうどく有力ゆうりょくされている[11]

なまりがい問題もんだい対策たいさく

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なまりがい問題もんだい対策たいさくとして、つぎのようなれいがある。

  • はんだは電気でんき回路かいろてなどに多用たようされてきたが、近年きんねんではなまりふくまない「なまりフリーはんだ」にえられつつある。
  • 欧州おうしゅう連合れんごう (EU) では、RoHS指令しれいにより、2006ねん7がつ1にち以降いこう高温こうおん溶融ようゆうはんだなどの例外れいがいのぞき、電気でんき電子でんし製品せいひんへのなまり使用しよう原則げんそくとして禁止きんしされた。このため、日本にっぽんのメーカーでもなまり含有がんゆうしない部材ぶざい使用しよう原則げんそくとしつつあるが、代替だいたいハンダの強度きょうど不足ふそく融点ゆうてん上昇じょうしょう問題もんだい起因きいんする電気でんき製品せいひん製造せいぞう不良ふりょう部品ぶひんなかにはねつよわものもあり、融点ゆうてんがったぶんハンダけのさいにより高温こうおんさらされ部品ぶひんこわれる)が問題もんだいとなっている。
  • ガソリンオクタン価おくたんか向上こうじょうおよび吸排気はいきバルブと周辺しゅうへん部品ぶひん保護ほごテトラエチルなまり (C2H5)4Pb添加てんかされていたが、排気はいきちゅうなまりふくまれてしまうことから汚染おせんげんとなって問題もんだいされた。現在げんざいではなまりふくまない添加てんかざいによるオクタン価おくたんか向上こうじょうさく選択せんたくされるようになり、日本にっぽんなど先進せんしん諸国しょこくでは法的ほうてき規制きせいによりゆうなまりガソリン使つかわれなくなった。しかし日本にっぽん自動車じどうしゃ工業こうぎょうかい[12]によると、およそ50かこくゆうなまりガソリンの使用しようみとめられており、いまなおゆうなまりガソリンの問題もんだい終結しゅうけつしていない。また、航空機こうくうきレシプロエンジンにもゆうなまりガソリン (Avgas) が多用たようされている。
  • 陶磁器とうじき釉薬にはきん現代げんだいでもなまり釉は幅広はばひろ使用しようされてきた。適切てきせつ焼成しょうせいされているものは固化こかして動体どうたいとなっているが、近年きんねん中国ちゅうごくさんなどの安物やすものではなまりなど重金属じゅうきんぞく食物しょくもつ溶出ようしゅつするリスクのあるものが流通りゅうつうしていることがある。
  • なまりは、狩猟しゅりょうクレー射撃しゃげき使つかわれる散弾さんだんにも使つかわれてきた。環境かんきょうちゅうなまりつぶをばらまくものであり、土壌どじょう汚染おせんきこしたり、散弾さんだんけたがげたり発見はっけんされないなどして回収かいしゅうされなかったものをべた鳥獣ちょうじゅうなまり中毒ちゅうどくこすなどしたため、デメリットはあるものの汚染おせんすくないてつどう散弾さんだんへのえがすすめられている。
  • 拳銃けんじゅうライフル弾丸だんがんも、おもかたなまりなどとばれるなまり合金ごうきんつくられている。射撃しゃげきじょうとう弾頭だんとう地中ちちゅうのこりやすい箇所かしょ隣接りんせつする河川かせんとうこう濃度のうどなまり成分せいぶん検出けんしゅつされることおおく、近年きんねんでははいだん回収かいしゅう射場しゃじょう改修かいしゅう工事こうじなどで周辺しゅうへんなまりによる被害ひがいないように対策たいさくされていることもあるが、軍隊ぐんたいほう執行しっこう機関きかんにも膨大ぼうだい配備はいびされているこれらの銃弾じゅうだんそのものについては、なまりほど安価あんか高密度こうみつど素材そざいがなく、より軽量けいりょう金属きんぞくえると空気くうき抵抗ていこう影響えいきょうつよ有効ゆうこう射程しゃてい低下ていかしてしまうため、ながらく規制きせい代替だいたい材料ざいりょう目処めどっていなかった。2012ねんから自衛隊じえいたい主力しゅりょく小銃しょうじゅうだん89しき5.56mm普通ふつうだん無鉛むえんのちにアメリカ陸軍りくぐんもスチールコアのM855A1採用さいようするひとしなまりフリーうごきがはじめている[13]
  • なまりせい水道すいどうかんについては、2005ねん7がつ時点じてん厚生こうせい労働省ろうどうしょう調査ちょうさやく547まん世帯せたいのこっているが、本管ほんかんからかれたかんについては、水道すいどうメーターをのぞ個人こじん所有しょゆうとされていることから交換こうかん費用ひよう自己じこ負担ふたんとなり、交換こうかんすすんでいない。
  • 印刷いんさつもちいる活字かつじ素材そざい活字かつじ合金ごうきん)の主成分しゅせいぶんなまりである。日本にっぽんでのゆうなまりガソリン規制きせい契機けいきとなった牛込うしごめやなぎまちなまり中毒ちゅうどく事件じけんも、なまり汚染おせん原因げんいん検査けんさ場所ばしょとされた印刷いんさつ工場こうじょうだった可能かのうせい指摘してきされている。近年きんねんでは印刷いんさつ技術ぎじゅつ革新かくしんにより活字かつじそのものの使用しようりょう減少げんしょうしている。
  • 安価あんか鋳造ちゅうぞうペンダントメダルバッジネックレスなどのアクセサリーには、てい融点ゆうてんてい価格かかくであることからなまりふくすず合金ごうきん(ホワイトメタルと通称つうしょうされる)がもちいられる場合ばあいがある[14]。また、金属きんぞく小物こもののベースに使つかわれる黄銅こうどうには切削せっさくせいくする目的もくてきなまり添加てんかされているものがある[15]近年きんねん先進せんしんこくではなまりへの規制きせいつよくなり上記じょうきのような素材そざい利用りようされることすくなくなったが、安価あんか輸入ゆにゅう玩具おもちゃにはいまだ利用りようされている場合ばあいがあり、これらを子供こどもくちふくんだりすることで健康けんこう被害ひがいこる可能かのうせい指摘してきされている。
  • 産業さんぎょう副産物ふくさんぶつであるスラグ鉱滓こうさい)にはなまりふくんでいるものが存在そんざいしており、スラグからの溶出ようしゅつする場合ばあいがある。そのため、建材けんざい試験しけんセンターの土工どこうよう製鋼せいこうスラグ砕石さいせき規格きかくには溶出ようしゅつりょう含有がんゆうりょう規定きていした環境かんきょう基準きじゅんもうけられている[16]
  • なまりふく農薬のうやく砒酸鉛ひさんなまり殺虫さっちゅうざいとしてひろ世界せかい使用しようされた古典こてんてき農薬のうやくひとつであり、日本にっぽんでも1948ねん農薬のうやくとして登録とうろく登録とうろく番号ばんごう1ばん)されて使用しようされてきた。しかしながらなまりふくむことから安全あんぜんせい疑念ぎねんがもたれるようになり、1956ねんには農薬のうやく残留ざんりゅう許容きょようりょう日本にっぽん国内こくないもっとはや設定せっていされたほか[17]1968ねんにはなまりそのものも残留ざんりゅう基準きじゅん食品しょくひんよん品目ひんもくリンゴブドウキュウリトマト)において設定せっていされた[18]砒酸鉛ひさんなまり農薬のうやく登録とうろく1978ねん失効しっこうしたが、21世紀せいきにおいてもなお10しゅ野菜やさい果実かじつたいして農薬のうやくとしてのなまり残留ざんりゅう基準きじゅんが1.0または5.0 ppmで設定せっていされている。

化合かごうぶつ

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酸化さんかぶつ

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その

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神秘しんぴがく

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西洋せいよう占星術せんせいじゅつ錬金術れんきんじゅつなどの神秘しんぴ主義しゅぎ哲学てつがくでは土星どせい象徴しょうちょうするが、これは(さびしょうじて)くろおもなまりが、肉眼にくがん確認かくにんできる惑星わくせいのなかでもっとくらうごきのおそ土星どせい相似そうじしているとかんがえられたためである。また、たましい牢獄ろうごくとしての肉体にくたい老化ろうかのろさなども象徴しょうちょうする。

インド錬金術れんきんじゅつもっと階層かいそうひく金属きんぞくとされるなまりは、ヴァースキ精子せいしでできているとされ、ナーガへび)とばれる。また、きむ死後しご転生てんせいしたものがなまりであるとされている。

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ 化学かがくだい辞典じてん共立きょうりつ出版しゅっぱん、1993ねん
  2. ^ a b 西川にしかわ精一せいいち新版しんぱん金属きんぞく工学こうがく入門にゅうもん』 アグネ技術ぎじゅつセンター、2001ねん
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  4. ^ 松井まつい義人よしひといちこく雅巳まさみ やく 『メイスン 一般いっぱん地球ちきゅう化学かがく岩波書店いわなみしょてん、1970ねん
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関連かんれん文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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