はん磁性じせい

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はん磁性じせい(はんじせい、えい: diamagnetism)とは、外部がいぶ磁場じばをかけたとき(磁石じしゃくちかづけるなど)、物質ぶっしつ磁場じばぎゃくきに磁化じかされ(=まけ磁化じかりつ)、磁場じばとその勾配こうばいせき比例ひれいするちからが、磁石じしゃく反発はんぱつする方向ほうこうしょうずる磁性じせいのことである。磁場じばをかけた場合ばあいにのみこの性質せいしつあらわれ、はん磁性じせいたい自発じはつ磁化じかしめさない。はん磁性じせいは、1778ねんセバールド・ユスティヌス・ブルグマンス によって発見はっけんされ、その1845ねんファラデーがその性質せいしつを「はん磁性じせい」とづけた。

その微視的びしてき機構きこうは、原子げんしちゅう電子でんし外部がいぶ磁場じばあたえると、電子でんし外部がいぶ磁場じば回転かいてん運動うんどう励起れいきされ、ぎゃくきの磁化じかしょうじることによる。したがってはん磁性じせいすべての物質ぶっしつ性質せいしつである。

しかしながら、はん磁性じせいおおくの場合ばあいつよ磁性じせいつね磁性じせいなどのスピン軌道きどうかく運動うんどうりょう由来ゆらいするよりつよ磁性じせいうずもれている。

したがってとくに、電子でんしたいのみで構成こうせいされた原子げんしや、閉殻原子げんし場合ばあいには、パウリの排他はいたりつによって電子でんしたがいのスピンをい、閉殻の場合ばあいはさらに軌道きどうかく運動うんどうりょう相殺そうさいされるため、結果けっかはん磁性じせいのこり、全体ぜんたいはん磁性じせいたい達成たっせいされる。

なお、もっとつよはん磁性じせいをもつ元素げんそビスマスである。

ただし、ちょう伝導でんどうたい状態じょうたい例外れいがいてきつよはん磁性じせいつ(後述こうじゅつ)。

なお、はんつよし磁性じせいえい: antiferromagnetism)は、はん磁性じせいとはまったちが現象げんしょうである。

ねつ分解ぶんかいカーボンのシート
ねつ分解ぶんかいカーボン浮上ふじょう

歴史れきし[編集へんしゅう]

1778ねんブルグマンスビスマスアンチモン磁場じば反発はんぱつすることを発見はっけんした。

1845ねんファラデーはすべての物質ぶっしつ本来ほんらい印加いんか磁場じばたいしてなんらかのはん磁性じせいてき反応はんのうをするとかんがえ、「はん磁性じせい」という用語ようごつくった。

1895ねんジョゼフ・ラーモアはん磁性じせい古典こてんてき説明せつめいした(ラーモアはん磁性じせい)。

1911ねんニールス・ボーア古典こてんてき手法しゅほうによるはん磁性じせい説明せつめい不完全ふかんぜんであることを証明しょうめいした(ボーア=ファン・リューエンの定理ていり)。

1933ねんマイスナーちょう伝導でんどう状態じょうたい物質ぶっしつは、非常ひじょうつよはん磁性じせいゆうすることを発見はっけんした。この現象げんしょうマイスナー効果こうかとしてられている。

はん磁性じせい効果こうか[編集へんしゅう]

反発はんぱつ[編集へんしゅう]

物質ぶっしつはん磁性じせいによる効果こうかとして、はん磁性じせいたい磁石じしゃくなどをちかづけたとき反発はんぱつする現象げんしょうがある。これは、よわふたつの磁石じしゃくどうきょく同士どうしちかづけたときと一見いっけんている。しかしはん磁性じせい物質ぶっしつあらわれる反発はんぱつりょくちかづける磁石じしゃく極性きょくせいによらないというてんことなる。

このようなちがいはなぜあらわれるのかとうと、はん磁性じせいという性質せいしつが、外部がいぶ磁場じば影響えいきょうにより、物質ぶっしつ自体じたいまわりの磁場じば方向ほうこう極性きょくせい磁石じしゃくになるという性質せいしつであるからである。このようにしてあらわれた物質ぶっしつ磁力じりょくは、外部がいぶ磁場じば存在そんざいするとうこと自体じたい由来ゆらいしているため外部がいぶ磁場じば消滅しょうめつとも消滅しょうめつする。また、はん磁性じせいたいつよ磁場じば印加いんかしても、そのはん磁性じせいたいが(つよ磁性じせいたいのように)自発じはつ磁化じかつことはない。

浮上ふじょう[編集へんしゅう]

つよ磁場じばちゅう浮上ふじょうするねつ分解ぶんかいカーボン

はん磁性じせいたい下方かほうから非常ひじょうつよ磁場じばをかけると、その反発はんぱつりょく重力じゅうりょくち、磁気じき浮上ふじょうする。たとえば実験じっけんしつなどで15~20T程度ていど磁場じば発生はっせいさせ物質ぶっしつにかけると、みずおおふくんだりんごたまご生物せいぶつなどをかせることができる。また、はん磁性じせいつよねつ分解ぶんかいカーボンえい: Pyrolytic carbon)やビスマスなどは、磁力じりょくつよネオジム磁石じしゃくもちいた室温しつおん実験じっけんでも十分じゅうぶん浮上ふじょうさせることができる。

モーゼ効果こうか[編集へんしゅう]

みずよわはん磁性じせいたいであるため、みずれた容器ようき中心ちゅうしん強力きょうりょく磁石じしゃくれるとみず左右さゆうへとかれる現象げんしょうしょうじる。この現象げんしょうは1993ねん発見はっけんされ[1]旧約きゅうやく聖書せいしょエジプト』のモーセにちなみモーゼ効果こうか (えい: Moses Effects) とよばれている。一方いっぽうつね磁性じせい液体えきたい同様どうよう実験じっけんおこなうと、ぎゃく容器ようき中心ちゅうしん液体えきたいあつまるという現象げんしょう確認かくにんできる。この現象げんしょうぎゃくモーゼ効果こうか (えい: reverse Moses effect) とよぶ[2]

はん磁性じせいつよ[編集へんしゅう]

身近みぢか物質ぶっしつはん磁性じせい磁化じかりつ[3]
物質ぶっしつめい χかいm
=(Km-1)×10-5
ビスマス -16.60
炭素たんそ
(ダイヤモンド)
-2.10
炭素たんそ
(グラファイト)
-1.60
どう -1.00
なまり -1.80
水銀すいぎん -2.90
ぎん -2.60
みず -0.91

はん磁性じせいによるちから一般いっぱんてきちいさいため、本来ほんらいはん磁性じせいたいであるはずの物質ぶっしつが、物理ぶつり専門せんもんとしないひと磁性じせいであると誤解ごかいされている場合ばあいがある。たとえばはん磁性じせい性質せいしつしめ代表だいひょうてき物質ぶっしつとしてみずどうなどがある。また、石油せきゆやプラスチックのような大半たいはん有機物ゆうきぶつはん磁性じせいしめす。さらに水銀すいぎんきむビスマスのようにうちから電子でんしおおおも金属きんぞくにもはん磁性じせいしめすものがすくなくないが、これらは磁性じせいであるとみなされていることがおおい。しかし普段ふだんはん磁性じせいたい意識いしきしないような物質ぶっしつについても、非常ひじょうつよ外部がいぶ磁場じばのもとではそのはん磁性じせいつよくあらわれる(#はん磁性じせい効果こうか参照さんしょう)。なお、物質ぶっしつはん磁性じせい測定そくていするとき、わずかなつよ磁性じせい不純物ふじゅんぶつふくんでいただけでまったちが結果けっかになることがある。これは、つよ磁性じせい効果こうかほうはん磁性じせいよりも桁違けたちがいにおおきいからである。

はん磁性じせいたいは1よりもちいさいとおる磁率と、0よりもちいさい磁化じかりつゆうする。よって磁場じば反発はんぱつするが、はん磁性じせい非常ひじょうよわ性質せいしつのため、日々ひび生活せいかつ確認かくにんすることはできない。たとえば、みず磁化じかりつχかいv = −9.05×10−6である。もっとつよはん磁性じせいゆうする物質ぶっしつはビスマスであり、その磁化じかりつχかいv = −1.66×10−4である。また、ねつ分解ぶんかいグラファイトねつ分解ぶんかい黒鉛こくえんえい: Pyrolytic graphite)はいち次元じげんてきχかいv = −4.00×10−4という磁化じかりつゆうするという報告ほうこくがある。しかしこれらのつよはん磁性じせいたいにおいても、その磁化じかりつつね磁性じせいたいつよし磁性じせいたい磁化じかりつ比較ひかくすると非常ひじょうちいさいオーダーである。

ちょう伝導でんどうたい完全かんぜんはん磁性じせい[編集へんしゅう]

例外れいがいてきつよはん磁性じせいつのがちょう伝導でんどうたいで(磁化じかりつχかいv = −1)、その性質せいしつ完全かんぜんはん磁性じせいマイスナー効果こうか)とばれ、磁束じそく物質ぶっしつ内部ないぶ侵入しんにゅうできない。したがって、外部がいぶ磁場じばあたえると、内部ないぶされ、つよ反発はんぱつりょくしょうずる(磁石じしゃくうえくと磁気じき浮上ふじょうする)。

ちょう伝導でんどうたいだい一種いっしゅちょう伝導でんどうたいだいしゅちょう伝導でんどうたい分類ぶんるいされる。

  • だい一種いっしゅちょう伝導でんどうたい内部ないぶには完全かんぜん磁束じそく侵入しんにゅうできない。
  • だいしゅちょう伝導でんどうたいは、単一たんいつ磁束じそく侵入しんにゅう貫通かんつうする。だい一種いっしゅちょう伝導でんどうたい同様どうよう強力きょうりょく磁石じしゃくうえくと浮上ふじょうし、さらだいしゅちょう伝導でんどうたいピン効果こうかによって静止せいしりょくしょうじる。

はん磁性じせい原因げんいん[編集へんしゅう]

はん磁性じせい起源きげん古典こてんてき説明せつめいすると、物質ぶっしつ磁場じばくわえたとき、その電磁でんじ誘導ゆうどうによって物質ぶっしつちゅう荷電かでん粒子りゅうし実質じっしつてきには電子でんし)に円運動えんうんどう誘発ゆうはつされ、一種いっしゅ永久えいきゅう電流でんりゅうながつづける。この電流でんりゅうは、磁場じばよわくなる方向ほうこう磁場じば磁場じば勾配こうばい比例ひれいしたちからローレンツつとむ)をしょうじるとともに、レンツの法則ほうそくしたが外部がいぶ磁場じば方向ほうこう磁場じばす。この円運動えんうんどう挙動きょどうジョゼフ・ラーモアによって1895ねん研究けんきゅうされ、さらにポール・ランジュバンによって定式ていしきされたので、これをラーモアはん磁性じせい、もしくはランジュバンのはん磁性じせいという。これはだれもまだ原子げんしがどのように構成こうせいされているかをらない時代じだいであったにもかかわらず、はん磁性じせい性質せいしつ発生はっせいするちからおおきさを説明せつめいし、実験じっけんとの一致いっちはすばらしいものがあった。

この古典こてんてき説明せつめいは、すべての導体どうたい実質じっしつてきはん磁性じせいしめすことからも推測すいそくできる。変化へんかする磁場じばかれた導体どうたいには、電磁でんじ誘導ゆうどうによって自由じゆう電子でんし円運動えんうんどうこり(誘導ゆうどう電流でんりゅう)、この電流でんりゅうによって磁場じば変化へんかとは反対はんたいきの誘導ゆうどう磁場じばしょうじるとともに、磁場じば磁場じば勾配こうばい比例ひれいしたちから(ローレンツつとむ)をしょうじ、導体どうたい運動うんどう磁場じば変化へんか抵抗ていこうするちからになる。この現象げんしょう物質ぶっしつはん磁性じせいている。

ラーモアらの理論りろんから計算けいさんすれば、すべての物質ぶっしつ電子でんしつのでその磁性じせいにはおおかれすくなかれはん磁性じせい寄与きよがあり、ほとんどのものは磁化じかりつにして10-5程度ていどオーダーしかないきわめてちいさいものであることがわかる。

このように、はん磁性じせい古典こてんてき範囲はんい説明せつめいされたかのようにおもわれていたが、ニールス・ボーア古典こてん力学りきがく計算けいさんするとねつ平衡へいこう状態じょうたい磁性じせいがゼロになることを1911ねんいだした(ボーア=ファン・リューエンの定理ていり)。このため、はん磁性じせい説明せつめい量子力学りょうしりきがくってわられたが、量子力学りょうしりきがくから厳密げんみつみちびかれた結果けっかはラーモアらの理論りろん正確せいかく一致いっちしていた。量子力学りょうしりきがくによれば、たい電子でんし存在そんざいしない物質ぶっしつよわはん磁性じせいとなり、たい電子でんしによるスピン存在そんざいする物質ぶっしつつね磁性じせいつよ磁性じせいなどの性質せいしつ顕著けんちょになる。

なお、金属きんぞくなか自由じゆう電子でんしについては量子りょうしろんてきあつかいによる定式ていしきレフ・ランダウによってなされている。そのため、金属きんぞく電子でんしによるはん磁性じせいは、ランダウはん磁性じせいとよばれている。

はん磁性じせい磁場じば配向はいこう[編集へんしゅう]

ベンゼンたまきめんたいして垂直すいちょく磁場じばをかけると、レンツの法則ほうそくによって磁場じばそうとベンゼンたまき沿って電流でんりゅうながれる。これにより、ベンゼンたまきなどをふく有機物ゆうきぶつでは、物質ぶっしつよりもおおきなはん磁性じせい発生はっせいすることがある。

さらにグラファイトのようなベンゼンたまきあつまりの物体ぶったいには、磁場じばたいしてねじれりょくはたらく。これがはん磁性じせい磁場じば配向はいこうである。実際じっさいには、はん磁性じせい磁場じば配向はいこう観測かんそくするには、強力きょうりょく磁場じば必要ひつようである。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ Properties of diamagnetic fluid in high gradient magnetic fields, S. Ueno and M. Iwasaka, J. Appl. Phys. 74 (1994) 7177 doi:10.1063/1.356686
  2. ^ モーゼ効果こうかおよぎゃくモーゼ効果こうか観測かんそくとその機構きこう, 廣田ひろた 憲之のりゆき, 日本にっぽん物理ぶつり学会がっかい講演こうえん概要がいようしゅう 50 (3) 192
  3. ^ Nave, Carl L.. “Magnetic Properties of Solids”. HyperPhysics. 2008ねん11月9にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]