コークス

コークス

コークス（独どく: Koks、英えい: coke）とは、石炭せきたんを乾留かんりゅう（蒸むし焼やき）して炭素たんそ部分ぶぶんだけを残のこした燃料ねんりょうのことである。骸むくろ炭ずみ（がいたん）ともいう。

概要がいよう

石炭せきたんを高温こうおんで蒸むし焼やきにする乾留かんりゅう工程こうていにより、硫黄いおう、コールタール、ピッチ、硫酸りゅうさん、アンモニアなどの成分せいぶんが抜ぬける。この工程こうていを経へる事ことで燃焼ねんしょう時じの発熱はつねつ量りょうが元もとの原料げんりょうの石炭せきたんより高たかくなり、高温こうおんを得えることができることから、蒸気じょうき機関きかん車しゃや鉄鋼てっこう業ぎょうなどを中心ちゅうしんに、近きん現代げんだいにおいても交通こうつう機関きかんや重厚じゅうこう長大ちょうだい産業さんぎょうに重要じゅうような燃料ねんりょうとなっている。外見がいけんは石炭せきたんに似にるが、多孔たこう質しつであるため金属きんぞく光沢こうたくは石炭せきたんに比ひして弱よわい。多孔たこう質しつは、乾留かんりゅう（1,300℃以上いじょう）の際さいに石炭せきたん中ちゅうの揮発きはつ分ぶんが抜ぬけてできるものであり、結果けっか的てきに炭素たんその純度じゅんどが高たかまり高だか温度おんどの燃焼ねんしょうを可能かのうとする。

一般いっぱん的てきな収量しゅうりょうは、瀝青炭れきせいたん程度ていどの品位ひんいの石炭せきたん100に対たいし20程度ていど（重量じゅうりょう比ひ）で、残部ざんぶは副産物ふくさんぶつ、灰はい（燃焼ねんしょう灰はい・灰分かいぶん）となる。

乾留かんりゅう時じにコークス炉ろガス、軽油けいゆ、タール（コールタール）が副ふく産品さんぴんとして得えられる。これらはそれぞれに燃料ねんりょうや化学かがく合成ごうせい用よう原料げんりょうとして用途ようとがあり、コークス炉ろは古ふるくから石炭せきたん化学かがく工業こうぎょうの原料げんりょう転換てんかん工程こうていとしても重要じゅうようである。有効ゆうこう成分せいぶんを含ふくんだガスいわゆるコークス炉ろガス（COG: Coke Oven Gas）はコークス焼成しょうせいに再さい利用りようされるなどしている。

コークスには石油せきゆ精製せいせいから作つくられるものもあり、石油せきゆコークスと呼よばれる。常つね圧あつ蒸留じょうりゅう残ざん油あぶらや減圧げんあつ蒸留じょうりゅう残ざん油ゆなどの重じゅう質しつ油ゆを、コーキングという熱ねつ分解ぶんかい処理しょりを行おこなった時ときの残ざん渣である。石油せきゆコークスには、一般いっぱんに石油せきゆコークスと称しょうされるディレード・コークス（delayed coke）と、コーキング装置そうちから採取さいしゅされたそのままの生なまコークス（raw coke）、さらに生なまコークスをもう一度いちど焼やいて揮発きはつ分ぶんを除去じょきょした煆焼（かしょう）コークス（calcined coke）とがある。またコーキングの方法ほうほうによってはフルード・コークス（fluid coke）と称しょうする粉こな状じょうで燃料ねんりょうに使用しようされるものも製造せいぞうされている。

なお、石油せきゆコークスは用途ようと上じょう、硫黄いおう分ぶん・金属きんぞく分ぶんなどは好このましくない。そのため原料げんりょう油ゆは低てい硫黄いおう分ぶんのもので、バナジウム、ニッケルなどの重金属じゅうきんぞく分ぶんの少すくないことが望のぞまれる。また、高こう硫黄いおう残ざん油ゆではコーキングの前ぜん処理しょりとして直接ちょくせつ水素すいそ化か脱硫だつりゅう装置そうちにかけられ、脱硫だつりゅうおよび脱だつメタルが行おこなわれることもある。

主おもな用途ようと

製鉄せいてつにおいての燃料ねんりょうが主おもな用途ようとである。掘ほり出だしたばかりの石炭せきたんを投入とうにゅうすると含有がんゆうする硫黄いおう分ぶんが鉄てつの品質ひんしつ低下ていかを招まねき、コールタールやピッチは高炉こうろの高温こうおん燃焼ねんしょうを妨さまたげるため、高炉こうろの燃料ねんりょうには必かならずコークスが用もちいられる。石炭せきたんからコークスを乾留かんりゅう生成せいせいするコークス炉ろを併設へいせつしている製鉄せいてつ所しょが多おおい。

低てい品位ひんい石炭せきたんに鉄鉱てっこう石せきを配合はいごうした「フェロコークス」を、JFEスチール西日本にしにほん製鉄せいてつ所しょ（広島ひろしま県けん福山ふくやま市し）が2020年ねんに量産りょうさん開始かいしを予定よていしている。高炉こうろ内ないでの還元かんげん反応はんのうを促進そくしんして、エネルギー消費しょうひや温暖おんだん化かガスである二酸化炭素にさんかたんその排出はいしゅつ量りょうを抑制よくせいする効果こうかを見込みこんでいる。

その他た、冶金やきん材料ざいりょう、鋳物いもの・合金ごうきん鉄てつ用よう燃料ねんりょう、カーバイド工業こうぎょうの炭すみ素材そざい、アルミニウム精錬せいれん用よう等とうの電極でんきょく、研削けんさく材ざい原料げんりょうに使用しようされる。活性炭かっせいたん（活性かっせいコークス）としてコークス炉ろガスの精製せいせいに利用りようされることもある。

燃料ねんりょう用ようとしては、寒かん地ちでの暖房だんぼう、高こう圧あつボイラー、また特とくに強つよい火力かりょくが好このまれる中華ちゅうか料理りょうりやまる鍋なべ（すっぽん鍋なべ）の店舗てんぽで使つかわれることでも知しられる。中華ちゅうか料理りょうり店てんでは屋内おくないの厨房ちゅうぼうではガスに取とって代かわられてしまったが、屋台やたい・店頭てんとうなどでは今いまでもコークス燃料ねんりょうのコンロが見受みうけられる。

家庭かていでの燃焼ねんしょう環境かんきょうでは、大量たいりょうの一酸化いっさんか炭素たんそが発生はっせいするために、一酸化いっさんか炭素たんそ中毒ちゅうどくを避さけるため、換気かんきが絶対ぜったい必要ひつようである。1970年代ねんだい頃ころまでは、関東かんとう以北いほくの小中学校しょうちゅうがっこうの教室きょうしつの多おおくでは、主おもにコークスを燃料ねんりょうとしたダルマストーブが暖房だんぼう器具きぐとして利用りようされていた。

また、日本にっぽんの自治体じちたいのごみ焼却しょうきゃく炉ろの補助ほじょ燃料ねんりょうとして、1980年ねん - 1990年ねん頃ごろにはコークスを使用しよう（50-100kg/tごみ）していたことがあった。これはコークスの価格かかくがネックとなり、1990年代ねんだい半なかば過すぎにはほとんどが都市としガスを燃料ねんりょうとするものに取とって代かわられた。2000年代ねんだい以降いこう、セルロースや可燃かねんごみの還元かんげん雰囲気ふんいき燃焼ねんしょうで「バイオコークス」を生成せいせいし、燃料ねんりょうとして外販がいはんするような試こころみもある。

副産物ふくさんぶつ

コークス炉ろガスはCOGとも呼よばれる。原料げんりょう炭ずみ100に対たいし、約やく40（重量じゅうりょう比ひ）が発生はっせいする。主成分しゅせいぶんは一酸化いっさんか炭素たんそで、可燃かねん性せいであるが有害ゆうがいである。

かつては都市としガスの成分せいぶんとなっていたが、その毒性どくせいから、2010年ねん以降いこう、日本にっぽん国内こくないの都市としガスとしては利用りようされていない。

代かわって火力かりょく発電はつでんの燃料ねんりょうとして利用りようされ、製鉄せいてつ所内しょないの自家用じかよう発電はつでん用ようや、売うれ電でん用ようとして利用りようされている。なお、製鉄せいてつ・製鋼せいこう所しょでは高炉こうろガスも同様どうようの用途ようとに利用りようされ、混合こんごうガスとして利用りようされる例れいもある。

タール（コールタール）と軽油けいゆは、原料げんりょう炭ずみ100に対たいし、約やく40（重量じゅうりょう比ひ）が発生はっせいする。

石油せきゆに比くらべると芳香ほうこう族ぞく化合かごう物ぶつ（石炭酸せきたんさんに象徴しょうちょうされる）を多おおく含ふくむため、トルエン、ベンゼンなどの原料げんりょうとして使つかわれてきた。製品せいひん呼称こしょうに「タール系けい」と付つくものは、これらコールタールに由来ゆらいする（した）ものである。タールを再度さいど嫌気いやけ雰囲気ふんいきで加熱かねつして炭化たんかしたものをピッチコークスと呼よぶ。石炭せきたんコークスより炭素たんそ純度じゅんどが高たかく結晶けっしょう構造こうぞうの制御せいぎょが可能かのうなことから、電炉でんろの電極でんきょく用よう炭素たんそ棒ぼうなどに利用りようされている。

その他た、ガス精製せいせい時じの副産物ふくさんぶつ（硫化りゅうか水素すいそ、硫酸りゅうさんアンモニウム）としての硫酸りゅうさんなど、化学かがく原料げんりょうの供給きょうきゅう源げんとして重宝ちょうほうされている。

健康けんこう被害ひがい

コークスを精製せいせいする際さいに発生はっせいするタールなどの有毒ゆうどくガスに長期間ちょうきかん暴露ばくろされる事ことによって、肺はいがんや皮膚ひふがんの発症はっしょう率りつが著いちじるしく高たかまる。コークス工場こうじょうで働はたらくと、のちに肺はいがんになる人ひとが多おおいため労災ろうさい職業病しょくぎょうびょうの一種いっしゅとされている。福岡ふくおか県けん北九州きたきゅうしゅう市しのコークス工場こうじょうでは、元もと作業さぎょう員いんの男性だんせいが肺はいがんを発症はっしょうして死亡しぼうしたため、工場こうじょうに対たいし8500万まん円えんの損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる訴訟そしょうも起おきた。

メーカー

• JFEスチール：岡山おかやま県けん倉敷くらしき市しなどで完全かんぜん自給じきゅうに向むけ設備せつび改修かいしゅう中ちゅう（2016年ねん1月がつ時点じてん）
• テツゲン:日本にっぽん製鉄せいてつの関連かんれん企業きぎょう

関連かんれん項目こうもく

• 冶金やきん
• 精錬せいれん
• 燃料ねんりょう
• 石炭せきたん化学かがく
• 石油せきゆ化学かがく
• 製鉄せいてつ所しょ
• 火力かりょく発電はつでん

外部がいぶリンク

• 『コークス』 - コトバンク