六ろく価かクロム

六ろく価かクロム

六ろく価かクロム（ろっかクロム、英えい: hexavalent chromium）は、クロムの化合かごう物ぶつのうち、酸化さんか数すうが +6 の Cr(VI) を含ふくむものの総称そうしょうである。

概要がいよう

クロムの化合かごう物ぶつを価あたい数すうで分類ぶんるいしたとき、Cr(III) 化合かごう物ぶつと Cr(VI) 化合かごう物ぶつがそれぞれ一般いっぱんに「三さん価かクロム」「六ろく価かクロム」と呼よばれる。三さん価かクロムは自然しぜん界かいに広ひろく安定あんていして存在そんざいするが、六ろく価かクロムは自然しぜん界かいではクロム鉱石こうせきとして限定げんてい的てきに存在そんざいする。六ろく価かクロムは、三さん価かクロムを高熱こうねつで焼やくことによって人工じんこう的てきに生成せいせいされる。

三さん価かクロム（ピコリン酸さんクロム）は、サプリメントに含有がんゆうされることがあるなど比較的ひかくてき安全あんぜんであるのに対たいして、六ろく価かクロムは毒性どくせいを持もつ。代表だいひょう的てきな六ろく価かクロムの二にクロム酸さんカリウムの致死ちし量りょうは約やく0.5 - 1グラムである。六ろく価かクロムは強つよい酸化さんか能力のうりょくを持もつ不安定ふあんていな物質ぶっしつで、有機物ゆうきぶつと接触せっしょくするとその有機物ゆうきぶつを酸化さんかして、自身じしんは三さん価かクロムに変かわる性質せいしつがある。六ろく価かクロムの毒性どくせいはこの性質せいしつに由来ゆらいするものである。六ろく価かクロムを廃棄はいきする際さいには、主おもに還元かんげん剤ざいによって三さん価かクロムに変換へんかんし無害むがい化かされる。

家庭かてい用品ようひんの多おおくにクロムメッキが施ほどこされているが、クロムメッキの原料げんりょうとして六ろく価かクロムが利用りようされる場合ばあいがある。

クロムは高こう沸点ふってん重金属じゅうきんぞくの化合かごう物ぶつなので、融点ゆうてん・沸点ふってんともに高たかく、六ろく価かクロムそのものが常温じょうおんで気化きかすることはない。一部いちぶの六ろく価かクロム化合かごう物ぶつには潮解ちょうかい性せいがある。

代表だいひょう的てきな六ろく価かクロム化合かごう物ぶつに三さん酸化さんかクロム (CrO₃) や二にクロム酸さんカリウム (K₂Cr₂O₇) があり、酸化さんか剤ざいやメッキ等とうに用もちいられる。また、六ろく価かクロム化合かごう物ぶつのうちクロム酸さん塩しお（CrO₄^2-イオンを含ふくむ化合かごう物ぶつ）は黄色おうしょくのものが多おおく、水みずに可か溶なものとしてはクロム酸さんカリウム (K₂CrO₄) 等とうがある。水みずに不溶ふようなクロム酸さん塩しおは黄色おうしょくの顔料がんりょうとして使つかわれる。クロム酸さん塩しおの黄色おうしょく顔料がんりょうでよく使つかわれるものとしては黄き鉛なまり（クロム酸さん鉛なまり、PbCrO₄）、ジンククロメート（クロム酸さん亜鉛あえん、ZnCrO₄）、カルシウム黄き（クロム酸さんカルシウム、CaCrO₄）、ストロンチウムクロメート（クロム酸さんストロンチウム、SrCrO₄）、バリウムクロメート（クロム酸さんバリウム、BaCrO₄）がある。

毒性どくせい

強つよい酸化さんか作用さようから、六ろく価かクロムが皮膚ひふや粘膜ねんまくに付着ふちゃくした状態じょうたいを放置ほうちすると、皮膚ひふ炎えんや腫瘍しゅようの原因げんいんになる。汚染おせんされた井戸水いどみずを飲のむと、嘔吐おうとを引ひき起おこす。特徴とくちょう的てきな上気じょうき道どう炎えんの症状しょうじょうとして、クロム酸さん工場こうじょうの労働ろうどう者しゃに鼻はな中ちゅう隔へだた穿孔せんこうが多発たはつしたことが知しられている。これは飛散ひさんした酸化さんか剤ざいや顔料がんりょうなどの六ろく価かクロムの粉末ふんまつを、長期間ちょうきかんに亘わたって鼻腔びこうから吸収きゅうしゅうし続つづけて、鼻はな中ちゅう隔へだたに慢性まんせい的てきな潰瘍かいようが継続けいぞくした結果けっかと考かんがえられる。

DNAの損傷そんしょう作用さようを持もつため、発癌はつがん性せいを有ゆうする。多量たりょうに肺はいに吸入きゅうにゅうすれば呼吸こきゅう機能きのうを阻害そがいし、長期ちょうき的てきには肺癌はいがんに繋つながる。消化しょうか器き系けいにも影響えいきょうするとされ、長期間ちょうきかんの摂取せっしゅは肝臓かんぞう障害しょうがい・貧血ひんけつ・大腸だいちょう癌がん・胃癌いがんなどの原因げんいんになりうる。

六ろく価かクロムを粉末ふんまつ状じょうで取とり扱あつかう職場しょくばは周囲しゅういへの飛散ひさんを防ふせいだ上うえに、目め・鼻はな・口くちに入はいらないよう厳重げんじゅうに管理かんりし、皮膚ひふや衣服いふくにも付着ふちゃくしたままで置おかないように厳重げんじゅう管理かんりすることが必要ひつようである。

環境かんきょう問題もんだい

日本にっぽん

日本にっぽんではかつて「地盤じばん強化きょうか剤ざい」という名目めいもくで、クロム鉱滓こうさい（スラグ）を埋うめ立たてることが奨励しょうれいされ、沖積ちゅうせき低地ていちで軟弱なんじゃく地盤じばんである東京とうきょうの下町したまち地域ちいき（江東こうとう区くなど）に、広域こういきに渡わたって埋うめ立たてられていた。クロム鉱滓こうさいによる土壌どじょう汚染おせん・地下水ちかすい汚染おせんは現在げんざいでも発生はっせいしている。有名ゆうめいな例れいに、1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）に地下鉄ちかてつ工事こうじにおける調査ちょうさで、都営地下鉄とえいちかてつ新宿しんじゅく線せん大島おおしま車両しゃりょう検けん修おさむ場じょう用地ようちから大量たいりょうの六ろく価かクロムの鉱滓こうさいが発見はっけんされ、土壌どじょう汚染おせん問題もんだいとして全国ぜんこくに知しられることとなった一いち件けんがある。東京とうきょう都と交通こうつう局きょくが買収ばいしゅうしたその用地ようちは、元もとは日本化学工業にほんかがくこうぎょうの工場こうじょう跡地あとちであった。しかし、処理しょり後ごの現在げんざいでは同地どうちから六ろく価かクロムは検出けんしゅつされなくなった。

現在げんざいでは、土木どぼく工事こうじにおいて「地盤じばん改良かいりょう材ざい」という名目めいもくで、「セメント及およびセメント系けい固化こか材ざい」は、土どあるいはこれに類るいするものを固化こかすることを目的もくてきに、広ひろく用もちいられているが、条件じょうけんによっては六ろく価かクロムが土壌どじょう環境かんきょう基準きじゅんを超こえる濃度のうどで溶出ようしゅつするおそれがあるため、”セメント及およびセメント系けい固化こか材ざいを地盤じばん改良かいりょうに使用しようする場合ばあい、現地げんち土壌どじょうと使用しよう予定よていの固化こか材ざいによる六ろく価かクロム溶出ようしゅつ試験しけんを実施じっしし、土壌どじょう環境かんきょう基準きじゅんを勘案かんあんして必要ひつように応おうじ適切てきせつな措置そちを講こうじること。”と規定きていされている。※ セメント及およびセメント系けい固化こか材ざいの地盤じばん改良かいりょうへの使用しよう及および改良かいりょう土どの再さい利用りように関かんする当面とうめんの措置そちについて(建設省けんせつしょう技わざ調ちょう発はつ第だい48号ごう 平成へいせい12年ねん3月がつ24日にち)

江戸川えどがわ区くでは六ろく価かクロムによる土壌どじょう汚染おせんが判明はんめいしており、公園こうえんの道路どうろから基準きじゅんの200倍ばい超ちょうの六ろく価かクロムが漏出ろうしゅつした。

国内こくない事故じこでは、JT（日本にほんたばこ産業さんぎょう）が2005年ねん7月がつ、JT徳島とくしま工場こうじょう跡地あとちでタンク処理しょりの際さいに事故じこを起おこし、400リットルもの六ろく価かクロムを漏洩ろうえいさせた事例じれいがある。

2023年ねんには、中国ちゅうごくから輸入ゆにゅうしているBYD社しゃとアルファバス社しゃのEVバスの部品ぶひんの一部いちぶに日本にっぽん自動車じどうしゃ工業こうぎょう会かいが自主じしゅ的てきに規制きせいしている六ろく価かクロムが使用しようされていたことが発覚はっかくし、一部いちぶバス事業じぎょう者しゃでは運行うんこう休止きゅうしや運行うんこう開始かいし延期えんきの措置そちを講こうじる動うごきが相次あいついだほか、BYD社しゃからOEM供給きょうきゅうされる形かたちで発売はつばいを計画けいかくしていた日野自動車ひのじどうしゃの小型こがた電気でんきバス「日野ひの・ポンチョZ EV」は発売はつばいが凍結とうけつされた事態じたいとなった。

その他た、特殊とくしゅな事例じれいとして、広島ひろしま県けん福山ふくやま市しのメッキ工場こうじょうに夜間やかんに入はいり込こんだ猫ねこが六ろく価かクロムの槽ふねに落おち、そのまま逃にげたため、その猫ねこに触さわらないように周辺しゅうへん地域ちいきに注意ちゅうい喚起かんきがなされるという事象じしょうが2024年ねんに発生はっせいした。

国外こくがい

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、工場こうじょうの敷地しきち内ないに高こう濃度のうどの六ろく価かクロム溶液ようえきを10年ねん以上いじょうの長期ちょうきに渡わたって大量たいりょうに垂だれ流ながしていた企業きぎょうがあり、地域ちいきの地下水ちかすいを汚染おせんし続つづけた。周辺しゅうへん住民じゅうみんに癌がんなどの健康けんこう被害ひがいが多発たはつしたことから事件じけんとして発覚はっかくし、会社かいしゃは多額たがくの賠償金ばいしょうきんを支払しはらって和解わかいしている。これは巨額きょがくの公害こうがい賠償金ばいしょうきん支払しはらいの最初さいしょのケースになった。大おおきな関心かんしんを集あつめた同どう事件じけんは、後のちにジュリア・ロバーツ主演しゅえんの『エリン・ブロコビッチ』として映画えいが化かされている。

インドのスキンダでは、クロム鉱石こうせきの露天掘ろてんぼりが行おこなわれており、精錬せいれんから排出はいしゅつされる六ろく価かクロムにより飲料いんりょう水すいの6割わりが汚染おせんされている。汚染おせんにより被害ひがいを受うける人口じんこうは潜在せんざい的てきに260万まん人にんにのぼると見みられている。

関連かんれん項目こうもく

• ステンレス鋼こう
• RoHS
• 土壌どじょう汚染おせん
• 地下水ちかすい汚染おせん
• クロム銅どうヒ素ひそ系けい木材もくざい保存ほぞん剤ざい

外部がいぶリンク

• 六ろく価かクロム化合かごう物ぶつの排水はいすい基準きじゅん等とうの見直みなおしに係かかる検討けんとう会かいの開催かいさいについて - 環境省かんきょうしょう