感染かんせん経路けいろ

感染かんせん経路けいろ（かんせんけいろ、英えい: route of infection）は、感染かんせんを生しょうじた個体こたいや環境かんきょう中ちゅうに存在そんざいする病原びょうげん体たいが、未み感染かんせんの個体こたいに到達とうたつして新あらたに感染かんせんを起おこす経路けいろをいう。病原びょうげん体たいによっては複数ふくすうの感染かんせん経路けいろを介かいして感染かんせんを生しょうじる場合ばあいもある。伝染でんせん病びょうをはじめとした集団しゅうだん感染かんせんや院内いんない感染かんせんの予防よぼうなど感染かんせん管理かんり上うえは病原びょうげん体たいを突つき止とめ感染かんせん源げんを割わり出だすことも重要じゅうようだが、何なによりも感染かんせん経路けいろを絶たたなければ終息しゅうそくは図はかれない。

空気くうき感染かんせん: 微小びしょうの粒子りゅうし（0.5 μみゅーm以下いか）が長時間ちょうじかん空中くうちゅうに留とまり、患者かんじゃが去さってからも汚染おせんが続つづく^[1]。
小しょう滴しずく感染かんせん: 湿しめった小ちいさな粒子りゅうし（0.5 μみゅーm以上いじょう）が短時間たんじかん空中くうちゅうに留とまる。通常つうじょうは患者かんじゃと共ともにすることで感染かんせん。
直接ちょくせつ感染かんせん: 感染かんせん患者かんじゃに直接ちょくせつ触ふれることによる。性的せいてき接触せっしょくを含ふくむ。
間接かんせつ感染かんせん: 汚染おせん土壌どじょうなどに触ふれることによる。
糞くそ口こう経路けいろ: 洗あらっていない手て、汚染おせんされた植物しょくぶつ・水源すいげんによる。

主要しゅような感染かんせん経路けいろ

以下いかに感染かんせん経路けいろにおける感染かんせん症しょうの例れいが挙あげられているが、感染かんせん経路けいろが複数ふくすうある場合ばあいがあり1対たい1の関係かんけいではないことに注意ちゅういが必要ひつようである。

空気くうき感染かんせん

飛沫しぶき核かく感染かんせん、塵埃じんあい感染かんせん、エアロゾル感染かんせんなどがある。英語えいごは airborne transmission（空気くうき媒介ばいかい伝播でんぱ）であり、省略しょうりゃくして空気くうき感染かんせんとも言いう。空気くうき感染かんせんは、単たんに、感染かんせん性せいを持もつエアロゾルを介かいして伝播でんぱする感染かんせんとみる立場たちばと^[2]、エアロゾルの中なかでも飛沫しぶき核かくによる伝播でんぱに限定げんてい（飛沫しぶき核かく感染かんせん）する立場たちばがある^[3]。

国際こくさい疫学えきがく会かいによる疫学えきがく辞典じてんでは前者ぜんしゃの定義ていぎが採用さいようされていて、微生物びせいぶつエアロゾルが呼吸こきゅう器きに入はいることで感染かんせんすることと定義ていぎしている。その例れいとして、飛沫しぶき核かく感染かんせん、塵埃じんあい感染かんせんを挙あげている。日本にっぽん化か学会がっかいによる日本標準にっぽんひょうじゅん化学かがく辞典じてん（第だい2版はん）には、エアロゾル（エーアロゾルとも訳やくされている）とは、「煙けむりや霧きりのように，気体きたい中ちゅうに固体こたいまたは液体えきたいの微粒子びりゅうしが分散ぶんさん浮遊ふゆうしている状態じょうたいの総称そうしょう．このような状態じょうたいを気体きたいという分散ぶんさん媒なかだちに固体こたいや液体えきたいのコロイド粒子りゅうしが分散ぶんさんしたゾルの一種いっしゅとみなして，エーロゾルと名なづけられた．」^[4]とある。

飛沫しぶき核かく感染かんせんとは、感染かんせん性せい病原びょうげん体たいを含ふくむ飛沫しぶき核かく（droplet nuclei: 蒸発じょうはつした飛沫しぶきの残留ざんりゅう物ぶつ）を介かいして拡散かくさんするものを指さす^[1]。これらの病原びょうげん体たいは体外たいがいで感染かんせん能のうを長時間ちょうじかん維持いじする。空気くうき中ちゅうで水分すいぶんが蒸発じょうはつし5マイクロメートル以下いかの軽かるい微粒子びりゅうし（飛沫しぶき核かく）となってもなお感染かんせん能のうを保たもつものは、長期間ちょうきかん空気くうき中ちゅうに浮遊ふゆうしたままであり、3フィート（91センチメートル）以上いじょうの長距離ちょうきょりを移動いどうし、上下じょうげ気道きどうを介かいして他人たにんに感染かんせんする^[5]。空中くうちゅうの粒子りゅうしは 5マイクロメートル以下いかである^[6]。そのため一般いっぱん的てきに高たかいレベルの隔離かくりが必要ひつようとなる。そのため汚染おせんを避さけるためには陰かげ圧あつ環境かんきょうが必要ひつようとなる。

結核けっかく、水痘すいとう、麻疹ましん、天然痘てんねんとう、帯状疱疹たいじょうほうしん^{[注釈ちゅうしゃく 1]}などは空気くうき感染かんせん（飛沫しぶき核かく感染かんせん）する。これらはしばしば病棟びょうとうで院内いんない感染かんせんを起おこすため感染かんせん制御せいぎょが重要じゅうような疾患しっかんである。インフルエンザやコロナウイルスなどが空気くうき感染かんせん（厳密げんみつにはエアロゾル感染かんせんに該当がいとう）を起おこすか、主要しゅような感染かんせん経路けいろであるかは、常つねに議論ぎろんがある^[7]。

飛沫しぶき感染かんせん

英語えいごは droplet transmission（小しょう滴しずく感染かんせん）。これは、咳せき、くしゃみ、会話かいわなどで発生はっせいする呼吸こきゅう飛沫しぶき（respiratory droplets）によるものであり、感染かんせん経路けいろとして一般いっぱん的てきである。飛沫しぶきは大おおきいため、空気くうき中ちゅうに長時間ちょうじかん浮遊ふゆうすることはできず、通常つうじょうは近距離きんきょりに散乱さんらんする^[8]。飛沫しぶき粒子りゅうしは5マイクロメートル以上いじょうである^[6]。飛沫しぶきによる感染かんせんは、目め、鼻はな、口くちなどの影響えいきょうを受うけやすい粘膜ねんまくの表面ひょうめんに付着ふちゃくしたとき、または汚染おせんされた表面ひょうめんに触ふれた手てで顔かおに触さわったときに発生はっせいしうる。

飛沫しぶきにより感染かんせんする呼吸こきゅう器き系けい感染かんせん症しょう病原びょうげん体たいは、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、百日咳ひゃくにちぜき菌きん、肺炎はいえん球菌きゅうきん、化膿かのうレンサ球菌きゅうきん、ジフテリア、風疹ふうしん^[9]、コロナウイルスが挙あげられる^[10]。飛沫しぶきの拡散かくさんはサージカルマスクの着用ちゃくようによって軽減けいげんできる^[11]。

感染かんせん者しゃの飛沫しぶきに含ふくまれるウィルス量りょうが多おおい場合ばあい、あたかも空気くうき感染かんせん（厳密げんみつにはエアロゾル感染かんせんに該当がいとう）しているように観察かんさつされる^[12]。

直接ちょくせつ感染かんせん

接触せっしょく感染かんせんとも呼よぶ。英語えいごは direct contact（直接ちょくせつ接触せっしょく）。病原びょうげん体たいを有ゆうする生体せいたい同士どうしが直接ちょくせつ接触せっしょくすることにより感染かんせんする事ことを言いう。

典型てんけい的てきには皮膚ひふと皮膚ひふの接触せっしょく、キス、性交せいこうをさす。さらに病原びょうげん体たいをふくんだ土壌どじょう、植物しょくぶつとの接触せっしょくもさす^[13]。糞くそ口こう経路けいろについては、主おもに間接かんせつ的てきな接触せっしょく経路けいろとみなされるが、糞くそへの直接ちょくせつ接触せっしょくによって感染かんせんするケースもある。^[14]^[15]

伝染でんせん性せい膿うみ痂かさぶた疹など皮膚ひふ疾患しっかん。医療いりょう現場げんばではMRSAなどの薬剤やくざい耐たい性せい菌きんの伝染でんせんの主要しゅような経路けいろである。

粘膜ねんまく感染かんせん

感染かんせん者しゃの血液けつえきや体液たいえきなどが目めや鼻はなの粘膜ねんまくに付着ふちゃくすることにより感染かんせんする。感染かんせん経路けいろは直接ちょくせつのものと、または媒介ばいかい物ぶつを通とおした間接かんせつ的てきなものがある。次つぎの経けい皮がわ感染かんせんに含ふくめる場合ばあいもある。

流行りゅうこう性せい角かく結膜炎けつまくえんなど眼科がんか疾患しっかん。

経けい皮がわ感染かんせん

通常つうじょう、皮膚ひふは病原びょうげん体たいの侵入しんにゅうを防ふせぐ力ちからを備そなえるが、蚊かや昆虫こんちゅう、または犬いぬなどに刺さされ、または噛かまれることにより病原びょうげん体たいが体内たいないに侵入しんにゅうする。寄生虫きせいちゅうが直接ちょくせつ体内たいないに経けい皮がわ侵入しんにゅうする場合ばあいもある。また、創傷そうしょうや熱傷ねっしょうにより皮膚ひふの防御ぼうぎょ機能きのうが失うしなわれた部分ぶぶんから病原びょうげん体たいが侵入しんにゅうする。これらを特とくに経けい皮がわ感染かんせんと呼よぶ場合ばあいがある。針刺はりさし事故じこも経けい皮がわ感染かんせんに含ふくめる立場たちばがある。

疥癬かいせん、狂犬病きょうけんびょう、鼡咬症しょう、エボラ出血熱えぼらしゅっけつねつ、破傷風はしょうふう、ガス壊疽えそなど。

医い原ばら性せい

→「医い原ばら病びょう」および「院内いんない感染かんせん」も参照さんしょう

血液けつえき感染かんせん（交差こうさ感染かんせん）とも。注射ちゅうしゃや輸血ゆけつ、歯科しか治療ちりょうといった医療いりょう行為こういのほか、外傷がいしょうによる出血しゅっけつが他者たしゃの目めなど粘膜ねんまくに触ふれるなどして、血液けつえき中ちゅうの病原びょうげん体たいが感染かんせんを生しょうじる。これも感染かんせん経路けいろは直接ちょくせつのものと、または媒介ばいかい物ぶつを通とおした間接かんせつ的てきなものがある。

MRSA、HIV、B型がた肝炎かんえん、C型がた肝炎かんえん、クロイツフェルト・ヤコブ病びょうが代表だいひょう的てき。
大量たいりょうの曝露ばくろがあれば梅毒ばいどくも考慮こうりょされる。

性的せいてき感染かんせん

→詳細しょうさいは「性せい感染かんせん症しょう」を参照さんしょう

性的せいてきな接触せっしょく感染かんせんである。粘膜ねんまく感染かんせんと経口けいこう感染かんせんの側面そくめんがある。

梅毒ばいどく、トキソプラズマ症しょう、サイトメガロウイルス感染かんせん症しょう、B型がた肝炎かんえん、AIDS、ヘルペスウイルス感染かんせん症しょう、性器せいきクラミジアなど。

唾液だえき感染かんせん

唾液だえきを媒介ばいかいとして唾液だえき中ちゅうの病原びょうげん体たいが口移くちうつしやディープキスなどにより感染かんせんする場合ばあい、特とくに唾液だえき感染かんせんと言いう場合ばあいもある。なお臨床りんしょう感染かんせん経路けいろ分類ぶんるい論ろんでは歯垢しこう感染かんせんと呼気こき感染かんせんは経口けいこう感染かんせんに入はいるが、唾液だえき感染かんせんは入はいらない。虫歯むしば菌きん、EBウイルスなどで唾液だえき感染かんせんが起おきる。

垂直すいちょく感染かんせん

→詳細しょうさいは「垂直すいちょく感染かんせん」を参照さんしょう

母子ぼし感染かんせん、垂直すいちょく伝播でんぱとも。さらに次つぎのように分類ぶんるいされる。

胎内たいない感染かんせん(経けい胎盤たいばん感染かんせん・経けい羊水ようすい感染かんせん)：胎盤たいばんを通とおる血液けつえきを通つうじて感染かんせん。風疹ふうしんウイルス、ヒト免疫めんえき不全ふぜんウイルス(HIV)、サイトメガロウイルスなど。
産道さんどう感染かんせん(経けい膣ちつ感染かんせん)：出産しゅっさん時じの出血しゅっけつや皮膚ひふの擦すり傷きずを介かいして感染かんせん。B型がた肝炎かんえんやHIVなど。
母乳ぼにゅう感染かんせん： HIVや成人せいじんT細胞さいぼう白血病はっけつびょうウイルスなど。

間接かんせつ感染かんせん

間接かんせつ接触せっしょく感染かんせん（Indirect contact transmission, vehicle-borne transmission）とは、非ひ生物せいぶつとの接触せっしょくによって伝染でんせんする経路けいろ。食品しょくひん、水みず、生物せいぶつ学がく的てき製品せいひん（血液けつえきなど）、媒介ばいかい物ぶつ（ハンカチ、寝具しんぐ、外科げかメス）などが挙あげられる。たとえば不適切ふてきせつに製造せいぞうされた缶詰かんづめ食品しょくひんは、ボツリヌス菌きんによるボツリヌス毒素どくそ生産せいさんに適てきした環境かんきょうを提供ていきょうしている。間接かんせつ感染かんせんは常識じょうしきとなっているが、専門せんもん家かによれば、帰宅きたく後ごに着替きがえ、食たべ物もの、携帯けいたい電話でんわ、荷物にもつをきれいにする必要ひつようはないという^[16]。

経口けいこう感染かんせん

病原びょうげん体たいに汚染おせんされた飲食いんしょく物ぶつを介かいした感染かんせんを特とくに経口けいこう感染かんせんと呼よぶ場合ばあいがある。汚染おせん原因げんいんが糞便ふんべんであれば介かい達たち感染かんせん（糞くそ口こう経路けいろ、後述こうじゅつ）である。ほか、飲食いんしょく物ぶつ自体じたいが感染かんせん源げんとなり経口けいこう感染かんせんするものにBSEがある。

ベクター感染かんせん（水平すいへい伝播でんぱ）

他たの動物どうぶつ（特とくに節足動物せっそくどうぶつ）が媒介ばいかい者しゃ（ベクター）となって、伝播でんぱすることで感染かんせんが成立せいりつするもの。(1) その病原びょうげん体たいの生活せいかつ環たまきの一環いっかんとして、ベクターの体内たいないで発育はついく、増殖ぞうしょくし、そこから感染かんせんする場合ばあい（生物せいぶつ学がく的てき伝播でんぱ）と、(2) 単たんにベクターの体からだ表面ひょうめんに付着ふちゃくした病原びょうげん体たいが機械きかい的てきに伝播でんぱされる場合ばあい（機械きかい的てき伝播でんぱ、機械きかい的てきベクター感染かんせん）とがある。

(1) の例れいは、カによるデング熱でんぐねつや日本脳炎にほんのうえん、ウエストナイル熱ねつ、黄き熱ねつ、マラリアなどの昆虫こんちゅう媒介ばいかい感染かんせん症しょう、ダニによるクリミア・コンゴ出血しゅっけつ熱ねつや重症じゅうしょう熱性ねっせい血小板けっしょうばん減少げんしょう症候群しょうこうぐん（SFTS）の媒介ばいかい、シラミによる発疹ほっしんチフスの媒介ばいかい、ネズミによるラッサ熱ねつ、南米なんべい出血しゅっけつ熱ねつ、ハンタウイルス、ペスト、腸ちょうチフス、パラチフス、サルモネラなどの媒介ばいかい。
(2) の例れいは、ハエによる腸管ちょうかん出血しゅっけつ性せい大腸菌だいちょうきんや赤痢せきり菌きんの媒介ばいかい、鳥とりインフルエンザの鶏舎けいしゃ間あいだ媒介ばいかい。

糞くそ口こう経路けいろ

→詳細しょうさいは「糞くそ口こう経路けいろ」を参照さんしょう

介かい達たち感染かんせんとも呼よぶ。また、経口けいこう感染かんせんの一種いっしゅ（水系すいけい感染かんせん、水系すいけい流行りゅうこう）とみる場合ばあいもある。

糞便ふんべんで汚染おせんされた飲食いんしょく物ぶつの経口けいこう摂取せっしゅにより感染かんせんが成立せいりつする。

腸管ちょうかん出血しゅっけつ性せい大腸菌だいちょうきん（O157など）、ブドウ球菌きゅうきん、腸ちょう炎えんビブリオ、ボツリヌス菌きん、サルモネラ、腸ちょうチフス、パラチフス、細菌さいきん性せい赤痢せきり、コレラ、カンピロバクター、リステリア、ピロリ菌きん、アメーバ赤痢せきり、ノロウイルス、ロタウイルス、ポリオ、A型がた肝炎かんえん、E型がた肝炎かんえん、ワイル病わいるびょう、角すみ結膜炎けつまくえんなど。