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薬剤耐性 - Wikipedia コンテンツにスキップ

薬剤やくざいたいせい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

薬剤やくざいたいせい(やくざいたいせい、drug resistance)、あるいはたんたいせいとは、生物せいぶつ自分じぶんたいしてなんらかの作用さようった薬剤やくざいたいして抵抗ていこうせいち、これらの薬剤やくざいかない、あるいはきにくくなる現象げんしょうのこと。薬剤やくざい抵抗ていこうせいAMR薬物やくぶつたいせいともばれる。

近年きんねん抗菌こうきんやくかない薬剤やくざいたいせい(AMR)をもつ細菌さいきん世界中せかいじゅうえている。2013ねんAMRに起因きいんする死亡しぼうしゃすうひく見積みつもって70まんにんとされていたが、2019ねんには127まんにん増加ぞうか[1][2]。さらになに対策たいさくこうじない場合ばあい国立こくりつ感染かんせんしょう研究所けんきゅうじょ2050ねん世界せかいで1,000まんにん死亡しぼう想定そうていされ、がんによる死亡しぼうしゃすうえると報告ほうこくしている[3]。またすべての抗菌こうきんやくかなくなった場合ばあい、2050ねん人口じんこうは7おくにん減少げんしょうするともわれている[4]

原因げんいん抗菌こうきんやく不適切ふてきせつ使用しようにあり、抗菌こうきんやく使用しようりょうらすことがもとめられている。世界せかい抗菌こうきんやくやく70%は畜産ちくさんごう使用しようされており[5]たいせいきん発生はっせいげんのリスクとなることから[6][7][8]おおくのくには、畜産ちくさん動物どうぶつたいする抗菌こうきんやく使用しよう削減さくげんするための措置そちこうじている[9]

分野ぶんやによるちが[編集へんしゅう]

農学のうがく
農学のうがく分野ぶんやでは、殺虫さっちゅうざいたいする病害虫びょうがいちゅうたいせい[10][11]除草じょそうざいたいする植物しょくぶつたいせいあつかわれることがおお[12][13]、「薬剤やくざい抵抗ていこうせい」「薬剤やくざいたいせい」の用語ようごもちいられる[14]。この内容ないようについては、薬剤やくざい抵抗ていこうせい参照さんしょうのこと。微生物びせいぶつ昆虫こんちゅう薬剤やくざいたいせい獲得かくとくは、変異へんい選択せんたくによる、進化しんかもっと身近みぢかれいの1つである。
おも薬理やくりがく微生物びせいぶつがく
医学いがく薬理やくりがく微生物びせいぶつがく分野ぶんやでは、とく細菌さいきんウイルス[15]などの病原びょうげんせい微生物びせいぶつがん細胞さいぼうが、それらの病原びょうげんたいによる疾患しっかん治療ちりょうする抗生こうせい物質ぶっしつ抗癌剤こうがんざい化学かがく療法りょうほうざい)の薬剤やくざいたいして抵抗ていこうりょくち、これらの薬剤やくざいかない、あるいはきにくくなることをし、この場合ばあい薬剤やくざいたいせい」というかたりもちいられることがもっともおおい。
疾患しっかんたいする治療ちりょうやく麻薬まやくなどのこう精神せいしんやく反復はんぷく投与とうよすることで、ヒトや動物どうぶつたいする効力こうりょく低下ていかしていく現象げんしょうす「たいせい (英語えいご: drug tolerance)」については、たいせい (薬理やくりがく)参照さんしょうのこと。
厚生こうせい労働省ろうどうしょうおよび国立こくりつ国際こくさい医療いりょう研究けんきゅうセンター病院びょういんAMR臨床りんしょうリファレンスセンターは「薬剤やくざいたいせい (AMR)」と表記ひょうきしているが、英語えいご: Antimicrobial Resistance; AMR には「こう微生物びせいぶつやくたいせい[16]」や「抗菌こうきんやくたいせい[17]」といった日本語にほんごへの翻訳ほんやくあたえられている。

薬剤やくざい感受性かんじゅせい薬剤やくざいたいせい[編集へんしゅう]

細菌さいきんウイルス病原びょうげんせい微生物びせいぶつによってこされる感染かんせんしょうや、がん細胞さいぼう増殖ぞうしょくによっておきる悪性あくせい腫瘍しゅよう治療ちりょうほうひとつとして、これらの病原びょうげんたいころしたり、あるいはその増殖ぞうしょく抑制よくせいする化学かがく物質ぶっしつ治療ちりょうやくとして投与とうよする化学かがく療法りょうほうがある。化学かがく療法りょうほうもちいられる薬剤やくざい化学かがく療法りょうほうざい)には抗菌こうきんやく抗生こうせい物質ぶっしつ)、こうウイルスやくこうきんやくこう原虫げんちゅうやく抗癌剤こうがんざいふくまれ、それぞれにおおくの種類しゅるい開発かいはつ実用じつようされている。

患者かんじゃ投与とうよして治療ちりょうおこなうためのものであるため、ヒトにたいする毒性どくせいひくいが病原びょうげんたいには特異とくいてき作用さようするという、選択せんたく毒性どくせいがあることが化学かがく療法りょうほうざいには要求ようきゅうされる。このため、細菌さいきんウイルスだけがちヒトには存在そんざいしない特定とくてい酵素こうそ阻害そがいしたり、細菌さいきんやがん細胞さいぼうだけにまれ、正常せいじょうなヒトの細胞さいぼう影響えいきょうおよぼしにくい特徴とくちょうったものが、化学かがく療法りょうほうざいとしてもちいられている。

これらの薬剤やくざいは、たとえばこう細菌さいきんやくであればすべての細菌さいきん有効ゆうこうというわけではなく、薬剤やくざい種類しゅるい対象たいしょうとなる微生物びせいぶつ(またはがん細胞さいぼう)のわせによって、有効ゆうこう場合ばあいとそうでない場合ばあいがある。ある微生物びせいぶつたいしてある薬剤やくざい有効ゆうこう場合ばあい、その微生物びせいぶつはその薬剤やくざいたいして感受性かんじゅせい (susceptibility) があるとぶ。これにたいし、ある微生物びせいぶつたいしてある薬剤やくざい無効むこう場合ばあいには、

  1. もともとその薬剤やくざい無効むこうである、
  2. もともとは有効ゆうこうであったがある時点じてんから無効むこうになった、

というふたつのケースが存在そんざいする。この両者りょうしゃ場合ばあいを、広義こうぎにはたいせいまたは抵抗ていこうせいであるとぶが、通常つうじょうは(2)のケースにたる狭義きょうぎのものを薬剤やくざいたいせい (drug resistance) または獲得かくとくたいせい (acquired resistance)とび、前者ぜんしゃ感受性かんじゅせい (insusceptibility) または自然しぜんたいせい (natural resistance) とんで区別くべつすることがおおい。たとえば、もとからペニシリンかない結核けっかくきんは「ペニシリン感受性かんじゅせい」、もともとはペニシリン有効ゆうこうであったブドウ球菌きゅうきんのうち、ペニシリンが有効ゆうこうなものを「ペニシリン感受性かんじゅせい」、ペニシリンがかなくなったものを「ペニシリンたいせい」とび、このうち、最後さいごメチシリンたいせい黄色おうしょくブドウ球菌きゅうきんが、一般いっぱんには「薬剤やくざいたいせい」と表現ひょうげんされることがおおい。

薬剤やくざいたいせい獲得かくとくした微生物びせいぶつは、細菌さいきん場合ばあい薬剤やくざいたいせいきん、ウイルスは薬剤やくざいたいせいウイルス、がん細胞さいぼう薬剤やくざいたいせいがん細胞さいぼうなどのように総称そうしょうされる。また個々ここのものについては、うえしるしたれいのように、対象たいしょうとなる薬剤やくざい微生物びせいぶつとのわせによって、「ペニシリンたいせいブドウ球菌きゅうきん」などと表記ひょうきされる。また、複数ふくすう薬剤やくざいたいするたいせいあわつことをざいたいせい (multidrug resistance後述こうじゅつ) とび、医学いがく分野ぶんやでは治療ちりょうむずかしさからとく重要じゅうようすることがおおい。また、ある薬剤やくざいたいするたいせいが、それと類似るいじ薬剤やくざいたいするたいせいとしてはたら場合ばあいを、交差こうさたいせいぶ。

薬剤やくざい感受性かんじゅせい試験しけん[編集へんしゅう]

ある微生物びせいぶつがある薬剤やくざいたいして感受性かんじゅせいたいせいかを判断はんだんするには、薬剤やくざい感受性かんじゅせい試験しけんばれる微生物びせいぶつがくてき検査けんさもちいられる。

細菌さいきんきんなど培養ばいよう可能かのう微生物びせいぶつについては、検査けんさする薬剤やくざい一定いってい濃度のうどになるようくわえた培地ばいちでその微生物びせいぶつ生育せいいく可能かのうかどうかの検査けんさ生育せいいく阻止そし試験しけん)がおこなわれる。それぞれ完全かんぜん生育せいいく阻止そしまたは殺菌さっきん可能かのうであった最低さいてい濃度のうどを、最小さいしょう発育はついく阻止そし濃度のうど英語えいご: minimal inhibitory concentration, MIC)として、その微生物びせいぶつたいする薬剤やくざい効果こうか指標しひょうとする。MICがちいさいほど、薬剤やくざい効果こうかたかい、あるいはその微生物びせいぶつ感受性かんじゅせいたかいことをあらわし、指標しひょうよりもMICがおおきければ、微生物びせいぶつのその薬剤やくざいたいする感受性かんじゅせいひくい、すなわち薬剤やくざいたいせいであることになる。

このほか病原びょうげんたいについては、ウイルスでは薬剤やくざい処理しょりしたときの培養ばいよう細胞さいぼう実験じっけん動物どうぶつたいする感染かんせん変化へんかからたいせいかどうかを実験じっけんしつてき検査けんさすることが可能かのうである。またヒトがん細胞さいぼうについては分離ぶんりしたがん細胞さいぼうもちいて実験じっけんしつてき検査けんさすることも可能かのうであるが、実際じっさい薬剤やくざい投与とうよした場合ばあい治療ちりょう経過けいかから薬剤やくざいたいせいかどうかを臨床りんしょうてき判断はんだんする場合ばあいおおい。これらの薬剤やくざい効力こうりょくについては、通常つうじょう、IC50(50%抑制よくせい濃度のうど)やEC50(50%有効ゆうこう濃度のうど)、ED50(50%有効ゆうこう投与とうよりょう)などであらわされる。

ざいたいせい[編集へんしゅう]

ざいたいせい(たざいたいせい、えい: multiple drug resistance, multi drug resistance)は、ある微生物びせいぶつ作用さようじょことなる2種類しゅるい以上いじょう薬剤やくざいたいするたいせいしめすことをいう。ざいたいせい発生はっせいじょとしてはかつては突然変異とつぜんへんいによってのみこるとかんがえられていたが、現在げんざいでは薬剤やくざいたいするたいせい遺伝子いでんしをもったプラスミド伝達でんたつもその要因よういんひとつであるとかんがえられている。なお、作用さようじょ同一どういつ薬剤やくざいによるたいせいは1種類しゅるいたいせいとみなす。ざいたいせいこしたきんたいしては、従来じゅうらい使用しようされていた薬剤やくざい治療ちりょう効果こうかうしなうため、医学いがくじょう問題もんだいとなる。ざいたいせいきん蔓延まんえん要因よういんひとつとして抗生こうせい物質ぶっしつ乱用らんようげられる。

薬剤やくざいたいせいのメカニズム[編集へんしゅう]

薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたいが、どのような生化学せいかがくてきメカニズムで、化学かがく療法りょうほうざいによる排除はいじょからのがれるかについて、以下いかのように大別たいべつできる。

薬剤やくざい分解ぶんかい修飾しゅうしょく機構きこう獲得かくとく
化学かがく療法りょうほうざいとしてもちいられる薬剤やくざい分解ぶんかいしたり化学かがくてき修飾しゅうしょくする酵素こうそつくし、それによって薬剤やくざい活性かっせいすることでその作用さようからのがれる。細菌さいきんやがん細胞さいぼう薬剤やくざいたいせい機構きこうとしてられ、とく細菌さいきんによるたいせい獲得かくとくではもっとも普遍ふへんてきられる方法ほうほうである。たとえば、一般いっぱんてきなペニシリンたいせい黄色おうしょくブドウ球菌きゅうきんMRSAのぞくもの)など、ペニシリナーゼやβべーた-ラクタマーゼさんしてペニシリンを分解ぶんかいすることで薬剤やくざいたいせいしめす。
薬剤やくざい作用さようてん変異へんい
化学かがく療法りょうほうざい標的ひょうてきになる病原びょうげん体側たいそく分子ぶんし変異へんいさせ、その薬剤やくざいかないものにすることで薬剤やくざい作用さようからのがれる。微生物びせいぶつやがん細胞さいぼうなどに全般ぜんぱんられる方法ほうほうであり、ウイルスの薬剤やくざいたいせいはほとんどこの機構きこうによるものである。代表だいひょうてきなものとしてMRSA(メチシリンたいせい黄色おうしょくブドウ球菌きゅうきん)がある。
薬剤やくざい細胞さいぼうがいへの排出はいしゅつ
薬剤やくざいをエネルギー依存いぞんてき細胞さいぼうがい排出はいしゅつすることで、細胞さいぼうない薬物やくぶつ濃度のうどげる。細菌さいきんやがん細胞さいぼうなど、細胞さいぼうからなる病原びょうげんたいたいせい機構きこうられる。代表だいひょうてきなものとして、グラム陰性いんせい細菌さいきんのRNDがたざい排出はいしゅつポンプ(たとえば、大腸菌だいちょうきんのAcrAB-TolC)やがん細胞さいぼうざい排出はいしゅつABCトランスポーター(ATP依存いぞん輸送ゆそうタンパク質たんぱくしつPとうタンパク質たんぱくしつ)があげられる。またみどりうみきん自然しぜんたいせいたかさもMexAB-OprMやMexXY-OprMのようなRNDがたざい排出はいしゅつポンプによって説明せつめいできる。
その機構きこう
上記じょうきてはまらないれいとしては、葉酸ようさん合成ごうせい酵素こうそ阻害そがいして抗菌こうきんせいしめサルファ剤さるふぁざいたいして、葉酸ようさん前駆ぜんくたい過剰かじょうさんせいすることでたいせいになるれいなどがられている。結核けっかくきん代表だいひょうされるこうさんきんはミコールさんばれる特有とくゆう脂質ししつんだ細胞さいぼうかべつため、消毒しょうどくやく乾燥かんそうたいしてたか抵抗ていこうせいゆうす。

薬剤やくざいたいせい獲得かくとく[編集へんしゅう]

薬剤やくざいたいせいは、もともとある薬剤やくざいたいして感受性かんじゅせいであった微生物びせいぶつが、なんらかの方法ほうほうによって、その薬剤やくざいたいして上述じょうじゅつのメカニズムを獲得かくとくすることでられる性状せいじょうであり、いちど獲得かくとくされたたいせいは、遺伝いでんによってその子孫しそんにもつたえられる遺伝いでんてき形質けいしつである。この形質けいしつ薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしによってになわれている。薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしは、その薬剤やくざいによる作用さようからのがれるための機能きのうそなえたタンパク質たんぱくしつ情報じょうほうをコードしており、感受性かんじゅせい病原びょうげんたいがこの遺伝子いでんしなんらかの方法ほうほう獲得かくとくすることで、薬剤やくざいたいせい獲得かくとくされる。

あたらしい化学かがく療法りょうほうざい開発かいはつされ、医薬品いやくひんとして使用しようされるようになると、もなくその薬剤やくざいたいするたいせい獲得かくとくした病原びょうげんたいあらわれる。通常つうじょう、1ねん以内いないにはすでにたいせい微生物びせいぶつ検出けんしゅつされるようになることがおおい。

とくおな種類しゅるい薬剤やくざい大量たいりょう、あるいは長期間ちょうきかんにわたって使用しようすると、環境かんきょう患者かんじゃから分離ぶんり検出けんしゅつされる頻度ひんどたかくなる。とくに、抗生こうせい物質ぶっしつ開発かいはつ以降いこうは、抗生こうせい物質ぶっしつ無効むこう風邪かぜやウイルスやたいせいきんによる疾患しっかんたいしても、安易あんい投薬とうやくおこなわれた結果けっか薬剤やくざいたいせいきん蔓延まんえんまねいた。

ただし、たいせい遺伝子いでんし獲得かくとく自体じたいは、つねにほぼ一定いっていかくりつこっている現象げんしょうであり、その薬剤やくざい存在そんざいするかしないかには依存いぞんしない。薬剤やくざい存在そんざいたいせい微生物びせいぶつこう頻度ひんど出現しゅつげんするのは、薬剤やくざい感受性かんじゅせい微生物びせいぶつくらべて薬剤やくざいたいせいのものは有利ゆうり増殖ぞうしょくできるため、薬剤やくざい一種いっしゅ選択せんたくあつとして作用さようした結果けっかたいせい微生物びせいぶつだけが繁栄はんえいするためであるとかんがえられている。この現象げんしょうきん交代こうたい現象げんしょうばれる。

たいせい獲得かくとく遺伝いでんてきメカニズム[編集へんしゅう]

たいせい獲得かくとくには、その病原びょうげんたいあらたに独自どくじたいせい機構きこうつく場合ばあいと、薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたい機構きこうなんらかのかたちで伝達でんたつされ、それをあらたに場合ばあいがある。

新規しんきたいせい獲得かくとく
ある薬剤やくざい感受性かんじゅせい微生物びせいぶつ増殖ぞうしょくしていく過程かていで、薬剤やくざいたいせい微生物びせいぶつあらたにまれることがある。細菌さいきんやウイルス、がん細胞さいぼうなどすべての病原びょうげんたいこりうる現象げんしょうであり、これらの染色せんしょくたいうえ遺伝子いでんし突然変異とつぜんへんいすることできる。
たいせい伝達でんたつ
微生物びせいぶつによっては、外来がいらい遺伝子いでんしんだり、同種どうしゅ微生物びせいぶつ同士どうし遺伝子いでんしをやりりする仕組しくみをっており、この仕組しくみをかいして、ある微生物びせいぶつ獲得かくとくしたたいせいが、べつ微生物びせいぶつ伝達でんたつされてあらたなたいせい微生物びせいぶつしょうじる場合ばあいがある。このような仕組しくみはとく細菌さいきんでよく研究けんきゅうされている(後述こうじゅつ)。また細菌さいきん以外いがいにも、インフルエンザウイルスのように、分節ぶんせつした遺伝子いでんしつウイルスなども、比較的ひかくてきこう頻度ひんどにウイルス同士どうし遺伝いでん情報じょうほうのやりとりがおこなわれることがられている。

細菌さいきんたいせい遺伝子いでんし獲得かくとく[編集へんしゅう]

細菌さいきんにおいては、ある細菌さいきん獲得かくとくした薬剤やくざいたいせい同種どうしゅまたは異種いしゅ細菌さいきん伝達でんたつされることが頻繁ひんぱんられる。たいせい獲得かくとくした病原びょうげんせい細菌さいきんから、病原びょうげんせい細菌さいきんへの伝達でんたつきると、化学かがく療法りょうほうによる治療ちりょう困難こんなんになるため医学いがくじょうおおきな問題もんだいになる。

細菌さいきんには外来がいらいせい遺伝子いでんし仕組しくみが存在そんざいし、これによって同種どうしゅまたは異種いしゅ細菌さいきん同士どうし遺伝子いでんし一部いちぶのやりとりがおこなわれている。細菌さいきん毒素どくそなどの病原びょうげん因子いんしをコードした遺伝子いでんしがやりとりされるほか、薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしもこの機構きこうによって伝達でんたつされることがられており、その細菌さいきん突然変異とつぜんへんいによってたいせい獲得かくとくする以外いがいに、このような外来がいらいせいたいせい遺伝子いでんしむことでたいせい獲得かくとくする場合ばあいおおい。

まれたたいせい遺伝子いでんしは、細菌さいきん遺伝子いでんし染色せんしょくたい)そのものにまれる場合ばあいと、プラスミドとして染色せんしょくたいとはべつ細菌さいきん細胞さいぼうしつ存在そんざいする場合ばあいがあるが、だい部分ぶぶんはプラスミドに存在そんざいすることがおおい。このようなプラスミドをたいせいプラスミドまたはRプラスミド(Rはresistantの頭文字かしらもじから)とぶ。たいせいプラスミドを細菌さいきんには、せいせんとよばれる細胞さいぼう表面ひょうめん繊維状せんいじょう器官きかんによって細菌さいきんにプラスミドを伝達でんたつする、接合せつごう伝達でんたつおこなうものがあり、グラム陰性いんせいきんやVRE(バンコマイシンたいせいちょう球菌きゅうきん)などがこれに分類ぶんるいされる。一方いっぽう接合せつごう伝達でんたつおこなわない細菌さいきんでも、形質けいしつ転換てんかんや、ファージによる形質けいしつ導入どうにゅうによってたいせい遺伝子いでんし伝達でんたつこりうる。

医学いがくじょう課題かだい[編集へんしゅう]

日本にっぽんでも、2017ねん不適切ふてきせつ抗菌こうきんざい処方しょほう抑制よくせいしてたいせいきん増加ぞうかさせないよう、厚生こうせい労働省ろうどうしょうがガイドラインを作成さくせいした[18]21世紀せいき初頭しょとうには、あらたな抗生こうせい物質ぶっしつ開発かいはつ停滞ていたいしてきており、たいせいきん問題もんだい抗生こうせい物質ぶっしつ過剰かじょう使用しようあやまった使用しようによって、抗生こうせい物質ぶっしつかない症例しょうれい急増きゅうぞうしている[19]創傷そうしょうではたいせいきんしょうじにくいハチミツ精油せいゆきむぎんどうといった、金属きんぞくのナノ粒子りゅうし使つかったものが研究けんきゅうされ、創傷そうしょう被覆ひふくざいまれるようになった[19]

感染かんせんしょうあるいはがん治療ちりょうにおいて、化学かがく療法りょうほうはその原因げんいんとなる病原びょうげんたいそのものを排除はいじょする根治こんじてき治療ちりょうほうとして、重要じゅうよう方法ほうほうである。ところが、ある薬剤やくざいたいして病原びょうげんたいたいせい獲得かくとくすると、その薬剤やくざいによる治療ちりょう不可能ふかのうになり、代替だいたいやくもちいなければならない。

さらに病原びょうげんたい自然しぜんたいせい有無うむや、ざいたいせい獲得かくとくなどによって代替だいたいできる薬剤やくざい存在そんざいしない場合ばあい化学かがく療法りょうほうによる治療ちりょう不可能ふかのうになるため、治療ちりょう効果こうかおおきくおとべつ治療ちりょうほう検討けんとうするか、患者かんじゃ免疫めんえき機構きこうによって自然しぜん回復かいふくするのをつしかできない。したがって、重症じゅうしょう場合ばあいによっては死亡しぼうにつながる危険きけんせいたかくなる。このことから薬剤やくざいたいせいは、医学いがくじょうおおきな課題かだいになっている。

また、薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたいによる疾患しっかん特徴とくちょうとして、しばしば日和見ひよりみ感染かんせん院内いんない感染かんせんとの関連かんれんげられる。これらの薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたいおおくは、それ自体じたいのビルレンス(毒性どくせい)がつよくないものがおおく、健常けんじょうしゃ感染かんせんしても疾患しっかん原因げんいんになることはい。しかしながら、よわいや、疾患しっかんAIDSなど)、ストレス疲労ひろうによって、免疫めんえき機能きのう低下ていかした状態じょうたいにあるヒトえき感染かんせん宿主しゅくしゅ)では、弱毒じゃくどくせい病原びょうげんたいによっても感染かんせんしょう日和見ひよりみ感染かんせんしょう)を発症はっしょうしてしまう。

この場合ばあい宿主しゅくしゅ免疫めんえき機構きこう低下ていかしていることにくわえて、病原びょうげんたい薬剤やくざいたいせい獲得かくとくしていると治療ちりょうきわめて困難こんなんになり、通常つうじょう健常けんじょうしゃではかんがえられないような弱毒じゃくどくせい病原びょうげんたいによる感染かんせんが、生命せいめいおどかしかねない。病院びょういんなどの医療いりょう機関きかんでは、えき感染かんせん宿主しゅくしゅとなる病人びょうにんおおいのにくわえて、さまざまな種類しゅるい化学かがく療法りょうほうやく普段ふだんから使用しようされる機会きかいおおいため、病原びょうげんたい薬剤やくざいたいせい獲得かくとくする機会きかいおおく、これらの病原びょうげんたいによる院内いんない感染かんせん発生はっせいしやすい状況じょうきょうにある。

たいせいきん分布ぶんぷ[編集へんしゅう]

医薬品いやくひんあつか医療いりょう施設しせつ療養りょうよう施設しせつだけで自然しぜん環境かんきょうちゅうからも発見はっけんされ、都市とし河川かせん[20]のみならず、畜産ちくさん地帯ちたい河川かせんにおいても薬剤やくざいたいせい獲得かくとくした細菌さいきん存在そんざい発見はっけんされている[21]。2022ねんに、ブラジル、タイ、米国べいこく、スペイン、カナダの養豚ようとん周辺しゅうへん環境かんきょう抗生こうせい物質ぶっしつたいせい増加ぞうか助長じょちょうする遺伝子いでんしがあると結論けつろんけた論文ろんぶん発表はっぴょうされた[22]。イギリスでは、12の養豚ようとんじょう養鶏ようけいじょうちかくのかわから48のサンプルを採取さいしゅした結果けっか、すべての地点ちてんたいせいきん検出けんしゅつされた[23]

これらの自然しぜん環境かんきょうちゅうから発見はっけんされるたいせいきんひと[21]家畜かちく[21]糞便ふんべん由来ゆらいのほか、環境かんきょうちゅうおも下水げすい)に排出はいしゅつされた医薬品いやくひん自然しぜんかいでの分解ぶんかい過程かていでの構造こうぞう変換へんかんによる影響えいきょう指摘してきされている[24]

医薬品いやくひん影響えいきょうまったけていない400まんねんまえにできた洞窟どうくつ北極ほっきょく永久えいきゅう凍土とうどからもつかっている[25]

畜産ちくさんぎょう[編集へんしゅう]

工場こうじょう畜産ちくさん拡大かくだいともない、畜産ちくさんぎょうにおける抗菌こうきんやく使用しよう拡大かくだいしており[9]世界せかい抗菌こうきんやくやく70%は畜産ちくさんごう使用しようされている[5]家畜かちくへの抗菌こうきんやく使用しようりょうは、日本にっぽん場合ばあい、ヒトようやく2.5ばいにのぼる[26]

使用しよう分野ぶんやについては、ぶたつづいて養殖ようしょくぎょにわとりうしじゅん抗菌こうきんやく使用しようおおい。ぶたの畜種にくらべて圧倒的あっとうてき抗菌こうきんやく使用しようおおくなっている[27]。また、にわとりうしやく3ばい抗菌こうきんやく使用しようされる[28]。2000ねんから2018ねんにかけて、50%以上いじょうたいせい抗菌こうきん化合かごうぶつ割合わりあいは、にわとりではやく2.7ばいぶたではやく2.6ばいうしではやく1.9ばいとなった[29]

畜産ちくさん分野ぶんやにおける抗菌こうきんやく多用たようおさえるため、おおくのくにが、畜産ちくさんぎょうにおける使用しよう削減さくげんへの措置そちもうけている。ドイツでは90%以上いじょう養鶏ようけい養豚ようとんじょうで、抗菌こうきんざい使用しよう監視かんしおこなっている[30]。またEU家畜かちく成長せいちょう促進そくしん目的もくてきとした抗菌こうきんやく使用しよう禁止きんしした(日本にっぽんでは禁止きんしされていない)[26]一方いっぽうで、製薬せいやく会社かいしゃ食肉しょくにく会社かいしゃはこうした抗菌こうきんやく削減さくげんうごきに反発はんぱつしている[31][32][7][33]

たいせい獲得かくとくたいする対策たいさく[編集へんしゅう]

あたらしい薬剤やくざいたいせい獲得かくとくした病原びょうげんたい蔓延まんえんふせぐためには、

  1. たいせい病原びょうげんたい有効ゆうこう新薬しんやく開発かいはつしつづけること
  2. たいせい獲得かくとくこさない計画けいかくてき化学かがく療法りょうほう実施じっし
  3. たいせい病原びょうげんたい発生はっせいじょうきょうかん把握はあく感染かんせんしょう場合ばあい

おも対策たいさくとなる。このうち1. の新薬しんやく開発かいはつは、実際じっさい治療ちりょうおこなじょうでも重要じゅうようである。しかし開発かいはつには膨大ぼうだい時間じかん莫大ばくだい費用ひようがかかり、新薬しんやくたいするたいせい病原びょうげんたいもすぐにあらわれることがおおく、薬剤やくざいたいせいたいする根本こんぽんてき解決かいけつにはむすびつかない。このため、対策たいさくじょうでは、2. 計画けいかくてき化学かがく療法りょうほう実施じっしと、3. 発生はっせいじょうきょう監視かんしが、とく重要じゅうようである。

計画けいかくてき化学かがく療法りょうほう実施じっし[編集へんしゅう]

化学かがく療法りょうほうおこなうえで、たいせい獲得かくとくふせぐためにもっとも理想りそうてきなことは、その病原びょうげんたいたいしてのみちょこうしめ薬剤やくざい単独たんどく投与とうよし、短期間たんきかんのうちに治療ちりょうすることである。問題もんだいとなった病原びょうげんたいたいせい獲得かくとくするまえすみやかに排除はいじょするとともに、病原びょうげんたい以外いがいつねざい微生物びせいぶつなどがたいせい獲得かくとくする機会きかい最低限さいていげんにとどめることが可能かのうだからである。このため (1) MICができるだけちいさく(=その病原びょうげんたいへの効果こうかつよく)、(2) 抗菌こうきんスペクトルがせまい(=その病原びょうげんたい特異とくいてきで、微生物びせいぶつたいする影響えいきょうすくない)、薬剤やくざい選択せんたくすることがのぞましい。

しかし、これを実施じっしするじょうではふたつのおおきな障害しょうがいがある。ひとつは疾患しっかん初期しょき段階だんかい場合ばあい、もうひとつは慢性まんせい疾患しっかん場合ばあいである。

まず、疾患しっかん発生はっせいした初期しょき段階だんかいでは有効ゆうこう治療ちりょうやく特定とくていできないケースが多々たたある。とくに「ちょこうしめ薬剤やくざい」を特定とくていするためには、原因げんいんとなった病原びょうげんたい分離ぶんり純粋じゅんすい培養ばいようしたのちで、薬剤やくざい感受性かんじゅせい試験しけんおこな必要ひつようがあるが、この作業さぎょうにはすくなくとも2 - 3にちようする。このあいだ患者かんじゃなん治療ちりょうほどこさずに放置ほうちすることは、患者かんじゃ生命せいめい健康けんこうがいすることになる。

したがって、初期しょき治療ちりょう段階だんかいでは症候しょうこう短時間たんじかんられる検査けんさ知見ちけんから病原びょうげんたい候補こうほ推定すいていし、それが複数ふくすうかんがえられる場合ばあいなどにはどのケースであっても治療ちりょうじょう有効ゆうこうせいたか治療ちりょうほう(いわゆるエンピリック治療ちりょう)が採用さいようされる。このような場合ばあい複数ふくすう病原びょうげんたい候補こうほたいして有効ゆうこうな、抗菌こうきんスペクトルのひろ薬剤やくざい選択せんたくされることがある。ただしこのようなケースでも、病原びょうげんたい分離ぶんり薬剤やくざい感受性かんじゅせい試験しけん治療ちりょう並行へいこうしてすすめておき、有効ゆうこう薬剤やくざい判明はんめいしたのち投薬とうやく必要ひつようがある場合ばあいには、途中とちゅうでその薬剤やくざいえる。

また、HIV感染かんせんしょう結核けっかく、あるいはがんなどの慢性まんせい疾患しっかん場合ばあい病原びょうげんたい宿主しゅくしゅ潜伏せんぷく感染かんせんしているなどの要因よういんによって、有効ゆうこう薬剤やくざいであっても短期間たんきかん投与とうよでは十分じゅうぶん排除はいじょおこなえず、長期ちょうきにわたる投与とうよ必要ひつようになる。

このような場合ばあいには、病原びょうげんたいつねざい微生物びせいぶつなどがたいせい獲得かくとくする機会きかいおおいため、

  1. 作用さようメカニズムがことなる複数ふくすう薬剤やくざい併用へいようざい併用へいよう)し、
  2. 計画けいかくにそった服薬ふくやく徹底てっていする

ことが重要じゅうようである。

ざい併用へいようおこなった場合ばあいには、病原びょうげんたいのこるためには、使用しようちゅうのすべての薬剤やくざいたいして同時どうじたいせい獲得かくとくする必要ひつようがあるため、その出現しゅつげん効果こうかてき抑制よくせいできる。ただし投薬とうやく複雑ふくざつになるぶん薬剤やくざい副作用ふくさよう出現しゅつげん薬剤やくざいとのわせなどに注意ちゅうい必要ひつようとなる。慢性まんせい疾患しっかん治療ちりょうではとく服薬ふくやく管理かんり重要じゅうようであり、治療ちりょう途中とちゅう服薬ふくやく中断ちゅうだんしたり、また症状しょうじょう悪化あっかともなって再開さいかいしたりということがおこなわれると、たいせい病原びょうげんたい出現しゅつげんする危険きけんせいきわめてたかくなる。このため服薬ふくやくコンプライアンス重要じゅうようせい指摘してきされている。

またエイズや結核けっかく患者かんじゃおお開発途上国かいはつとじょうこくでは、服薬ふくやくによる治療ちりょうという概念がいねん十分じゅうぶん理解りかいされていなかったり、場合ばあいによっては支給しきゅうされた薬剤やくざい換金かんきんする事例じれい存在そんざいすることが、たいせい病原びょうげんたい蔓延まんえんする危険きけんせいたかめているともかんがえられている。このため、世界せかい保健ほけん機関きかんDOTS戦略せんりゃく直接ちょくせつ監視かんし短期間たんきかん薬剤やくざい治療ちりょう)を推進すいしんするなど、服薬ふくやくコンプライアンス改善かいぜんのための対策たいさくおこなわれている。

発生はっせいじょうきょう監視かんし[編集へんしゅう]

感染かんせんしょう対策たいさくにおいて、その発生はっせいじょうきょう監視かんし把握はあくすることは、すべての対策たいさく先立さきだって必要ひつようとなる重要じゅうよう事項じこうである。また伝染でんせんせいたかじゅうあつし感染かんせんしょうについては、発生はっせいじょうきょう把握はあく同時どうじに、患者かんじゃ入院にゅういん外出がいしゅつ就業しゅうぎょう制限せいげんなどによって、流行りゅうこう蔓延まんえんめることが重要じゅうようになることもおおい。このため、世界せかいてき重要じゅうよう感染かんせんしょう発生はっせいじょうきょう各国かっこく担当たんとう機関きかんから世界せかい保健ほけん機構きこう (WHO) に報告ほうこくされて、世界せかい規模きぼ発生はっせいじょうきょうかんされるとともに、その情報じょうほうもと各国かっこく具体ぐたいてき対応たいおうおこなっている。

薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたいについても、ヒト免疫めんえき不全ふぜんウイルス (HIV) や結核けっかくマラリアなど元々もともと重大じゅうだい感染かんせんしょう薬剤やくざいたいせい状況じょうきょうくわえ、バンコマイシンたいせいちょう球菌きゅうきんやペニシリナーゼさんせい淋菌りんきんなどの薬剤やくざいたいせいきんなどについての情報じょうほう集積しゅうせきされている。日本にっぽんでは、感染かんせんしょう新法しんぽうもとづいて、いくつかの薬剤やくざいたいせいきんによる感染かんせんしょうが5るい感染かんせんしょう指定していされ、発生はっせいいち週間しゅうかん以内いないとどることが義務ぎむづけられている。

アメリカ疾病しっぺい予防よぼう管理かんりセンター (CDC) は、病院びょういん高齢こうれいしゃ福祉ふくし施設しせつなどから検体けんたいあつめて、たいせいきん分析ぶんせき発見はっけんおこなっている[34]。また日本にっぽんでは、薬剤やくざいたいせいきん実験じっけん施設しせつ群馬大学ぐんまだいがく事務じむきょくである「薬剤やくざいたいせいきん研究けんきゅうかい」が国内外こくないがいでの発生はっせい情報じょうほう収集しゅうしゅう提供ていきょうしている。

また、インド、パキスタンが発生はっせいげんとみられ、ほとんどの抗生こうせい物質ぶっしつかない新種しんしゅ細菌さいきん感染かんせんした患者かんじゃヨーロッパえており、ベルギーで2010ねん8がつ16にちまでに最初さいしょとみられる死者ししゃ確認かくにんされた[35]欧米おうべいメディアによると、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく、カナダ、オーストラリアで感染かんせん確認かくにんされ、今後こんごさらに拡大かくだいするおそれがある。

えい医学いがくランセット』によると、なに種類しゅるいかの細菌さいきんが「NDM1」遺伝子いでんしち、ほとんどすべての抗生こうせい物質ぶっしつたいしてたいせいつようになった。こうした細菌さいきん感染かんせんすると死亡しぼうりつ非常ひじょうたかくなるため、感染かんせんへの監視かんし強化きょうか新薬しんやく開発かいはつ必要ひつようだとしている。同誌どうしによると、イギリスではやく50けん感染かんせん確認かくにんされている。感染かんせんしゃおおくは、医療いりょうやすいインドやパキスタンで美容びよう整形せいけい手術しゅじゅつけており、感染かんせんげん両国りょうこくとの見方みかた論文ろんぶんしめしている。

応用おうよう[編集へんしゅう]

薬剤やくざいたいせい薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしによって水平すいへい伝播でんぱ可能かのうである。このため、ある薬剤やくざい感受性かんじゅせい生物せいぶつ薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんし人為じんいてき導入どうにゅうすれば薬剤やくざいたいせいにすることが可能かのうである。この原理げんり利用りようして、遺伝子いでんし工学こうがくなどの分野ぶんやでさまざまに応用おうようされている。

たとえば、大腸菌だいちょうきんにある特定とくてい遺伝子いでんしプラスミドなどをもちいて実験じっけんてき導入どうにゅうしたいときでも、もちいた大腸菌だいちょうきんのすべてに均一きんいつ遺伝子いでんし導入どうにゅうされるわけではない。このため、遺伝子いでんし導入どうにゅうされた大腸菌だいちょうきん導入どうにゅうされていないものとをなんらかの方法ほうほう選別せんべつする必要ひつようしょうじる。このときもちいるプラスミドに、目的もくてき遺伝子いでんしとともに薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしれておき、遺伝子いでんし導入どうにゅうのちにその薬剤やくざい処理しょりすることによって、薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんしはいっている、すなわち、それと同時どうじ目的もくてき遺伝子いでんしはいっている大腸菌だいちょうきんだけを選別せんべつできる。このように、薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんし遺伝子いでんし導入どうにゅう選択せんたくマーカーとして利用りようできる。

また、農学のうがく分野ぶんやへの応用おうようでは、除草じょそうざいたいせい遺伝子いでんし導入どうにゅうしたGM作物さくもつ作製さくせいすることで、その除草じょそうざいによって作物さくもつだけを選択せんたくてきのこらせて雑草ざっそうのみをころし、作業さぎょう効率こうりつはかることなどもおこなわれている。

代表だいひょうてき薬剤やくざいたいせい病原びょうげんたい[編集へんしゅう]

感染かんせんしょうほうによる全数ぜんすう把握はあく対象たいしょう[36]
感染かんせんしょうほうによる基幹きかん定点ていてん把握はあく対象たいしょう[36]
厚生こうせい労働省ろうどうしょう 院内いんない感染かんせん対策たいさくサーベイランスの対象たいしょう[37]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

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関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]