みどりうみきん

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みどりうみきん
P. aeruginosa電子でんし顕微鏡けんびきょう写真しゃしん
分類ぶんるい
ドメイン : 細菌さいきん Bacteria
もん : プロテオバクテリアもん
Proteobacteria
つな : ガンマプロテオバクテリアつな
Gammaproteobacteria
: シュードモナス
Pseudomonadales
: シュードモナス
Pseudomonadaceae
ぞく : シュードモナスぞく
Pseudomonas
たね : みどりうみきん P. aeruginosa
学名がくめい
Pseudomonas aeruginosa
(Schroeter 1872) Migula 1900

みどりうみきん(りょくのうきん、学名がくめいPseudomonas aeruginosa)は、細菌さいきん分類ぶんるいされる、グラム陰性いんせいこう気性きしょう桿菌かんきんの1しゅであり、地球ちきゅうじょう環境かんきょうちゅうひろ分布ぶんぷしている代表だいひょうてきつねざいきんの1つでもある。ヒトにたいしても病原びょうげんせいつが、健常けんじょうしゃ感染かんせんしても発病はつびょうさせることはい。ただし免疫めんえきりょく低下ていかしたもの感染かんせんすると、日和見ひよりみ感染かんせんしょうのうちの1つであるみどりうみきん感染かんせんしょうこす。

元々もともとみどりうみきん消毒しょうどくやく抗菌こうきんやくたいする抵抗ていこうせいたかうえに、ヒトが抗菌こうきんやく使用しようしたことにより薬剤やくざいたいするたいせい獲得かくとくしたものもおおいため、みどりうみきん感染かんせんしょう発症はっしょうすると治療ちりょう困難こんなんである。このためみどりうみきんは、日和見ひよりみ感染かんせんしょう院内いんない感染かんせん原因げんいんきんとして医学いがくじょう重要じゅうようされている。

名称めいしょう由来ゆらい[編集へんしゅう]

みどりうみきん」という和名わみょうは、ほんきん傷口きずぐち感染かんせん創傷そうしょう感染かんせん)したときに、しばしば緑色みどりいろうみられることから名付なづけられた。学名がくめいであるPseudomonas aeruginosaたね形容けいようaeruginosaも「緑青ろくしょうちた」を意味いみするギリシア由来ゆらいし、ほんきんつく緑色みどりいろ色素しきそピオシアニン後述こうじゅつ)にちなんだ名称めいしょうである。なお、ぞくめいPseudomonasは、それぞれギリシアpseudo-にせの)とmonasむちった単細胞たんさいぼう原生げんせい生物せいぶつ総称そうしょう)に由来ゆらいする。

細菌さいきんがくてき特徴とくちょう[編集へんしゅう]

シュードモナスぞくぞくする、0.7 x 2 µm程度ていどおおきさのグラム陰性いんせい桿菌かんきんである。芽胞がほう形成けいせいせず、きんたい一端いったんに1ほんむち(まれに2-3ほん)を活発かっぱつ運動うんどうする。またきんたい一端いったんにはせんゆうする。

みどりうみきんは、土壌どじょう淡水たんすい海水かいすいちゅうなど、自然しぜん環境かんきょうのいたるところに生息せいそくする環境かんきょうちゅうつねざい微生物びせいぶつ一種いっしゅであり、湿潤しつじゅん環境かんきょうとくこのむ。またヒトや動物どうぶつ消化しょうかかん内部ないぶにも少数しょうすうながら存在そんざいするちょうない細菌さいきん一種いっしゅであり、健康けんこう成人せいじんやく15%、病院びょういんないでは30-60%がほんきん保有ほゆうしているとわれる。

へんせいこう気性きしょうであり、通常つうじょう酸素さんそのない環境かんきょうでは生存せいぞんできない。これはもっぱら呼吸こきゅうによってのみエネルギーさんし、発酵はっこうおこなわないためである。病原びょうげん細菌さいきんくらべて、発育はついくには特殊とくしゅ栄養えいよう必要ひつようとしない(栄養えいよう要求ようきゅうせいひくい)ため、増殖ぞうしょくしやすい細菌さいきんである。微量びりょう有機物ゆうきぶつでも増殖ぞうしょく可能かのうであり、長期ちょうき保存ほぞんしている蒸留じょうりゅうすい容器ようきにすら、混入こんにゅうしたわずかな有機物ゆうきぶつ栄養えいようげんとしてみどりうみきん増殖ぞうしょくすることがある。人工じんこうてき培養ばいようする場合ばあいにも、アンモニウムしおふく無機むきしお培地ばいちに、炭素たんそみなもととなるいち種類しゅるい有機物ゆうきぶつがあれば培養ばいよう可能かのうである。いたりてき発育はついく温度おんどは37℃前後ぜんこうで、42℃程度ていど高温こうおんでも増殖ぞうしょく可能かのうであるが、低温ていおん(4℃以下いか)では増殖ぞうしょくしない。有機物ゆうきぶつ分解ぶんかいして、アミン一種いっしゅであるトリメチルアミンさんせいするため、独特どくとく臭気しゅうきくさったさかなのようなくさい)をしょうじる。

みどりうみきんは、ねつたいする抵抗ていこうせい細菌さいきんどう程度ていど比較的ひかくてきよわ部類ぶるいぞくする(55℃1あいだ処理しょり死滅しめつ)が、消毒しょうどくやく抗生こうせい物質ぶっしつなどにたいしては、広範こうはんかつつよ抵抗ていこうせいゆうしている(薬剤やくざい抵抗ていこうせいふし詳述しょうじゅつ)。このため、長期間ちょうきかん放置ほうちされている手洗てあらよう消毒しょうどくえきなどのなかからも分離ぶんりされることがあり、院内いんない感染かんせんなどとの関連かんれんからとく医療いりょう分野ぶんや注目ちゅうもくされている。

みどりうみきん物質ぶっしつさんせい[編集へんしゅう]

クオラムセンシング
ひだり細菌さいきん密度みつどひく状態じょうたいでは、オートインデューサー(あお)の濃度のうどひくく、物質ぶっしつさんせいがあまりこらない。
みぎ細菌さいきん密度みつどたかくなると、オートインデューサーの濃度のうどがって、クオラムセンシング特有とくゆう物質ぶっしつあか)がさんされる。

みどりうみきんは、色素しきそムコイドそと毒素どくそなど、ほんきん特有とくゆう種類しゅるい物質ぶっしつさんせいする。これらの物質ぶっしつみどりうみきんきん体外たいがい分泌ぶんぴつされ、その生育せいいく環境かんきょう影響えいきょうあたえることでみどりうみきん生育せいいくたすける役割やくわりたすだけでなく、宿主しゅくしゅ細胞さいぼう作用さようすることでその病原びょうげんせいとも密接みっせつ関連かんれんしている。

これらみどりうみきん物質ぶっしつさんせいおおくは、その生育せいいく環境かんきょうでのきんすう感知かんちする、クオラムセンシングばれる機構きこう制御せいぎょされている。みどりうみきんは、N-アシル-L-ホモセリンラクトン (AHL) とばれる、きんたい内外ないがい自由じゆうすることが可能かのうてい分子ぶんし物質ぶっしつオートインデューサー)をさんしており、環境かんきょうちゅうでの生育せいいく密度みつどがると、この物質ぶっしつ濃度のうど上昇じょうしょうする。この物質ぶっしつは、みどりうみきんのさまざまな遺伝子いでんしたいして転写てんしゃ因子いんしとしてはたらき、さまざまな物質ぶっしつさんせい誘導ゆうどうする。AHL自身じしんもまたAHLによってそのさんせい誘導ゆうどうされるため、この機構きこうせいフィードバックによる制御せいぎょけている。これらの機構きこう巨視的きょしてきると、みどりうみきんみずからの生育せいいく密度みつど感知かんちして、その上昇じょうしょうともなって、さまざまな物質ぶっしつさんせいおこなうことになる。クオラムセンシングは、みどりうみきん同士どうし細胞さいぼうあいだおこなう1しゅ情報じょうほう伝達でんたつ機構きこうかんがえることができる。

色素しきそさんせい[編集へんしゅう]

  • みどりうみきん複数ふくすう色素しきそさんせいする性質せいしつつ。蛍光けいこう緑色みどりいろ色素しきそであるピオシアニン蛍光けいこうせい緑色みどりいろピオベルジン(フルオレシン)とフルオレセイン[1]赤色あかいろのピオルビン、黒褐色こっかっしょくのピオメラニンなど、すくなくとも5種類しゅるい色素しきそさんせいする(なかには一部いちぶ色素しきそさんせいしない変異へんいかぶ存在そんざいする)。このうち、ピオシアニンとピオベルジンのふたつはとく研究けんきゅうすすんでいる。
みどりうみきんによるピオシアニン(蛍光けいこう緑色みどりいろ色素しきそ)のさんせい
ひだりみどりうみきん培養ばいようした培地ばいちへんせいこう気性きしょうきんであるため培地ばいち表面ひょうめんちかくだけに増殖ぞうしょくして(バイオフィルム形成けいせいしろ部分ぶぶん)、そこから培地ばいち下方かほうけてさんしたピオシアニンが拡散かくさんしている。みぎみどりうみきん培養ばいようまえ培地ばいち
みどりうみきんによるピオベルジン(緑色みどりいろ蛍光けいこう色素しきそ)のさんせい
紫外線しがいせん観察かんさつすると培地ばいち表面ひょうめん増殖ぞうしょくしたみどりうみきんから培地ばいち下方かほうけて、さんされたピオベルジン(紫外線しがいせんのため青白あおじろえる)が拡散かくさんしているのがわかる。
  • ピオシアニンはクロロホルム可溶性かようせい緑色みどりいろ色素しきそである。ピオシアニンをさんせいするのはみどりうみきんしかいないため、この性質せいしつ利用りようした「ピオシアニン検出けんしゅつようシュードモナス寒天かんてん培地ばいち」という寒天かんてん培地ばいち販売はんばいされており[2]みどりうみきん鑑別かんべつ同定どうてい研究けんきゅうとうもちいられている[3]。 きん体外たいがい分泌ぶんぴつされ、みどりうみきん培養ばいようした培地ばいちや、感染かんせんした傷口きずぐちなどを緑色みどりいろ着色ちゃくしょくする。みどりうみきん発見はっけんのきっかけになった包帯ほうたいみどりへんや、学名がくめいおよび和名わみょうは、このピオシアニンによる緑色みどりいろ由来ゆらいする。またピオシアニンという名称めいしょう自体じたいうみ意味いみする接頭せっとう pyo-と、シアンあい緑色みどりいろ)をあらわすcyanに由来ゆらいしており、1900ねん前後ぜんごみどりうみきん学名がくめいとしてけられたシノニム同種どうしゅ異名いみょう)であるBacillus pyocyaneousなどのたね小名しょうみょうにちなんでいる。ピオシアニンは、哺乳ほにゅう動物どうぶつ細胞さいぼうミトコンドリアによる呼吸こきゅう機能きのう気道きどう粘膜ねんまく繊毛せんもう運動うんどう阻害そがいする毒性どくせいっており、みどりうみきん病原びょうげんせい一端いったんになっている。
  • ピオベルジンは、フルオレシン(fluorescin)ともばれる。またピオベルジンは加熱かねつによって可視かしこういろあか橙色だいだいいろ変化へんかする性質せいしつち、ふるくなった米飯べいはん加熱かねつすると黄色きいろくなる場合ばあい(「あかめし」とばれる現象げんしょう)、米飯べいはん混入こんにゅうしたみどりうみきんさんしたピオベルジンの加熱かねつ変色へんしょくが、その原因げんいんひとつだとわれる。ピオベルジンは分子ぶんしないにジヒドロキシキノリン構造こうぞうち、てつイオンつよ結合けつごうする。てつイオン濃度のうどひく環境かんきょうでよくさんされる。きんたいから周囲しゅうい分泌ぶんぴつされたピオベルジンは、増殖ぞうしょく必要ひつようてつイオンを保持ほじし、それをきんたい効率こうりつよく供給きょうきゅうするという、シデロフォアとしての役割やくわりになっているとかんがえられている。

ムコイドとバイオフィルム[編集へんしゅう]

みどりうみきん一部いちぶには、ムコイドばれるねば質物しちもつさんして、きん体外たいがい分泌ぶんぴつするものがある。これらをムコイドがたみどりうみきんび、これにたいしてムコイドをつくらないものをムコイドがたみどりうみきんぶ。ムコイドの主成分しゅせいぶんは、アルギン酸あるぎんさんとよばれる粘性ねんせいたかムコとうである。ムコイドがたみどりうみきん増殖ぞうしょくした場所ばしょでは、分泌ぶんぴつされたムコイドがきんたいおおつつんで、すすきそう(フィルム)を形成けいせいする。このような微生物びせいぶつ形成けいせいするうす層状そうじょうのものをバイオフィルムび、みどりうみきんはこのバイオフィルムを生活せいかつとして、その内部ないぶ効率こうりつよく増殖ぞうしょく生存せいぞんしている。

バイオフィルムは物質ぶっしつ表面ひょうめんたいしてつよ付着ふちゃくしているため、そのなか生存せいぞんしているきんは、むきだしの状態じょうたいくらべると、あらながしたりがしたりするなどの機械きかいてき除去じょきょたいしてつよくなる。またバイオフィルムの内部ないぶには消毒しょうどくやくなどの薬剤やくざい浸透しんとうしにくいため、化学かがくてき刺激しげきたいしても抵抗ていこうせいす。また微生物びせいぶつによる捕食ほしょく白血球はっけっきゅうなどによる貪食どんしょくなどの、生物せいぶつてき排除はいじょからものがれやすくなる。さらにみどりうみきんから分泌ぶんぴつされるAHLなどの物質ぶっしつ拡散かくさんしにくく、その局所きょくしょてき濃度のうどがりやすくなるため、クオラムセンシングなどの分泌ぶんぴつ制御せいぎょ機構きこうはたらきやすくなる。これらによって、バイオフィルムはみどりうみきん生育せいいくたすける重要じゅうよう役割やくわりになっている。

一方いっぽう医学いがくてき観点かんてんからは、ムコイドやバイオフィルムのさんせい病原びょうげんせい感染かんせんリスクの増加ぞうかにつながるため、問題もんだいされることがおおい。感染かんせん患者かんじゃから分離ぶんりされる病原びょうげんせいみどりうみきんのほとんどはムコイドがたであり、感染かんせんした粘膜ねんまく表面ひょうめんなどでバイオフィルムを形成けいせいする。このことによって、白血球はっけっきゅうによる貪食どんしょく抗体こうたいたいなど、宿主しゅくしゅ免疫めんえき機構きこうによる排除はいじょからのがれやすくなり、さらに抗生こうせい物質ぶっしつ浸透しんとうせい低下ていかによって治療ちりょう困難こんなんになる。また、医療いりょうようカテーテル内側うちがわなどでみどりうみきんがバイオフィルムを形成けいせいして増殖ぞうしょくすることで院内いんない感染かんせんこすケースなども報告ほうこくされており、感染かんせんリスクの増加ぞうか問題もんだいされている。

みどりうみきん(ムコイドがた)の走査そうさがた電子でんし顕微鏡けんびきょう写真しゃしん
きんたい表面ひょうめん分泌ぶんぴつされたムコイドが付着ふちゃくし、さらに一部いちぶきんみぎ)はそれにうずもれてきん全体ぜんたいかたち判別はんべつしにくくなっている。

嚢胞のうほうせい線維せんいしょう患者かんじゃ体内たいないでのバイオフィルム形成けいせい[編集へんしゅう]

みどりうみきんによるバイオフィルムの形成けいせいは、遺伝いでんせい疾患しっかんである嚢胞のうほうせい線維せんいしょう(CF)患者かんじゃたいするみどりうみきん感染かんせん原因げんいんとなる。このバイオフィルムは気道きどううち粘液ねんえき形成けいせいされ、みどりうみきん生息せいそく場所ばしょとなる。それにくわえ、CFびょう患者かんじゃのバイオフィルムに生息せいそくするみどりうみきんは(歴史れきしてきに、すべてのシュードモナスぞくきんへんせいこう気性きしょう生物せいぶつ分類ぶんるいされていたにもかかわらず)嫌気いやけ呼吸こきゅうおこなうようになる[4]

呼吸こきゅう形態けいたい嫌気いやけてき変更へんこうすることは、みどりうみきん増殖ぞうしょく促進そくしんする。嫌気いやけ呼吸こきゅうは、バイオフィルムの主要しゅよう成分せいぶんであるアルギン酸あるぎんさん多量たりょう生産せいさんする表現ひょうげんがた維持いじ有利ゆうりである。このため、CFびょう患者かんじゃ年齢ねんれい増加ぞうかするにつれ、バイオフィルムの増大ぞうだいにより気道きどうない粘膜ねんまく肥大ひだいする。粘膜ねんまく肥大ひだいは、粘膜ねんまくないきんくさむらにおいて嫌気いやけせいきん優勢ゆうせいにし、みどりうみきん持続じぞくてき繁殖はんしょくうながす。

この嫌気いやけ呼吸こきゅうにおいて、こう呼吸こきゅうもちいられないそとまくタンパク質たんぱくしつのOprFおよび細胞さいぼうないrhlりょう感知かんち回路かいろ要求ようきゅうされる。OprFがないとき、rhlRまたはrhllの欠乏けつぼうちゅう硝酸しょうさん還元かんげん活性かっせいうしなわれ、このことが一酸化いっさんか窒素ちっそ過剰かじょうさんせいによる自滅じめつ誘発ゆうはつし、みどりうみきん生育せいいく極端きょくたんよわくなる[4]

CFびょう治療ちりょうもちいられている抗生こうせい物質ぶっしつおおくは、みどりうみきん呼吸こきゅう形態けいたい変更へんこうにより効果こうか減少げんしょうするかまったくなくなるため、嫌気いやけてき代謝たいしゃ攻撃こうげきするあたらしい抗生こうせい物質ぶっしつ開発かいはつのぞまれている。

きん体外たいがい毒素どくそ分泌ぶんぴつ酵素こうそ[編集へんしゅう]

みどりうみきんは、さまざまなタンパク質たんぱくしつきん体外たいがい分泌ぶんぴつしている。これにはそと毒素どくそ溶血ようけつもと分泌ぶんぴつ酵素こうそとしてはたらくものがふくまれており、みどりうみきん病原びょうげんせい密接みっせつ関連かんれんしている。

みどりうみきん分泌ぶんぴつするそと毒素どくそ代表だいひょうは、エキソトキシンAそと毒素どくそA)である。臨床りんしょうから分離ぶんりされるみどりうみきんの90%がエキソトキシンAさんせいせいである。エキソトキシンAは、ジフテリアきんつくるジフテリア毒素どくそおな生理せいり活性かっせい毒素どくそである。すなわち、エキソトキシンAがペプチド伸張しんちょう因子いんしであるEF2をADP-リボシルすることで、動物どうぶつ細胞さいぼうのすべてのタンパク質たんぱくしつ合成ごうせい可逆かぎゃくてき阻害そがいし、最終さいしゅうてき細胞さいぼういたる。このほか、EF2以外いがいなんらかの分子ぶんし標的ひょうてきにADP-リボシルする活性かっせいつエキソエンザイムS(細胞さいぼうがい酵素こうそS)も分泌ぶんぴつすることがられている。

みどりうみきん分泌ぶんぴつする溶血ようけつもとには、つよ細胞さいぼう傷害しょうがいせいつヘモリジン(タンパク質たんぱくしつせい溶血ようけつどく)と、溶血ようけつ殺菌さっきん作用さようつラムノリピドの種類しゅるいられている。血液けつえき寒天かんてん培地ばいちうえではβべーた溶血ようけつせいしめす。また分泌ぶんぴつ酵素こうそとしては、アルカリペプチダーゼや、エラスターゼコラゲナーゼリパーゼなどをさんせいする。これらは感染かんせん部位ぶい組織そしき破壊はかいし、細菌さいきん侵入しんにゅう増殖ぞうしょく容易よういにすると同時どうじに、出血しゅっけつ壊死えしなどをこす病原びょうげん因子いんしとしてはたらく。

薬剤やくざい抵抗ていこうせい[編集へんしゅう]

一般いっぱんに、グラム陰性いんせいきんほうがグラム陽性ようせいきんよりも、薬剤やくざい抵抗ていこうせいつよ傾向けいこうにあるが、みどりうみきんはグラム陰性いんせいきんなかでもとくつよ薬剤やくざい抵抗ていこうせいつ、すなわちこれらの薬剤やくざいによる殺菌さっきんつよ抵抗ていこうりょくつことでられる。

この抵抗ていこうせいには、みどりうみきんもとからっていたもの(自然しぜんたいせい)と、後天的こうてんてき獲得かくとくしたもの(獲得かくとくたいせい、いわゆる薬剤やくざいたいせい)がある。これらがわさることで、みどりうみきん薬剤やくざい抵抗ていこうせいひろ範囲はんいおよんだ、いわゆるざいたいせい状態じょうたいにあるものがおおられる。

消毒しょうどくやくではぎゃくせい石鹸せっけんクロルヘキシジン(ヒビテン Hibitane)などにたいする自然しぜんたいせいつよく、てい濃度のうど場合ばあいにはこれらの消毒しょうどくえきちゅうみどりうみきん増殖ぞうしょくすることもある。こう細菌さいきんやく(いわゆる抗生こうせい物質ぶっしつ)においては自然しぜんたいせいたかさだけでなく、獲得かくとくたいせいによって無効むこうになったものもおおい。ペニシリンセフェムけいなどのβべーた-ラクタムけい抗生こうせい物質ぶっしつアミノグリコシドけい抗生こうせい物質ぶっしつ当初とうしょから効果こうかがなく、広域こういきペニシリン、だいさん世代せだいセフェム、カルバペネム、こうみどりうみきんせいアミノグリコシド、ニューキノロンなどの開発かいはつによって、ようやくみどりうみきん治療ちりょう有効ゆうこうなものがられた。ただし、現在げんざいではカルバペネムけいやく・アミノグリコシドけいやくニューキノロンけいやくの3系統けいとうすべてにたいせいしめざいたいせいみどりうみきん出現しゅつげんしている。ざいたいせいみどりうみきんたいして有効ゆうこうかんがえられているのは、こうMRSAやくである硫酸りゅうさんアルベカシン、モノバクタムけいやくであるアズトレオナム、ポリペプチドけいやくである硫酸りゅうさんポリミキシンBやコリスチンメタンスルホンさんナトリウムなどである。

このほかみどりうみきん一般いっぱんもちいる石鹸せっけん食塩しょくえんによる殺菌さっきんしずかきん効果こうかひくい。一方いっぽうさんぎんイオンによる殺菌さっきんには感受性かんじゅせいであり、またEDTAたいしては感受性かんじゅせいしめすだけでなく、EDTA存在そんざいでは消毒しょうどくやく効果こうか増強ぞうきょうされる。

みどりうみきん薬物やくぶつ抵抗ていこうせいには、複数ふくすう薬剤やくざいたいせいメカニズムがかかわっている。

  1. 薬物やくぶつ細胞さいぼうないへのみを制限せいげんする機構きこう
  2. まれた薬物やくぶつふたた細胞さいぼうがい排出はいしゅつする機構きこう
  3. 獲得かくとくしたたいせい酵素こうそによる薬物やくぶつ分解ぶんかい修飾しゅうしょく
  4. 抗生こうせい物質ぶっしつ標的ひょうてきとなるタンパク質たんぱくしつ変化へんかによる阻害そがい回避かいひ
  5. バイオフィルムによる薬剤やくざい浸透しんとうせい低下ていか

これらの薬剤やくざいたいせいは、抗生こうせい物質ぶっしつ使用しようによってみどりうみきんすで獲得かくとくしていた機構きこう誘導ゆうどうされるだけでなく、せいせんかいした接合せつごうによる薬剤やくざいたいせいプラスミド(Rプラスミド)の伝達でんたつや、形質けいしつ導入どうにゅうによる薬剤やくざいたいせい遺伝子いでんし獲得かくとくなどによって、ことなる菌株きんしゅから新規しんき伝達でんたつされる場合ばあいもある。

なお、細菌さいきん検査けんさ分野ぶんやでは、ぎゃくせい石鹸せっけんの1しゅである消毒しょうどくやくセトリミドCetrimide)に抵抗ていこうせいがあることを利用りようして、セトリミドをくわえた培地ばいちもちいて選択せんたくてき分離ぶんり培養ばいようすることができる。セトリミドとともに、抗菌こうきんざいであるナリジクスさんくわえた、NAC (Nalidic-Acid, Cetrimide) 培地ばいちみどりうみきん選択せんたく分離ぶんりもちいられている。

病原びょうげんせい[編集へんしゅう]

みどりうみきんは、健常けんじょうなヒトに感染かんせんしても症状しょうじょうることがほとんどない毒性どくせいひく細菌さいきんであるが、免疫めんえきちから低下ていかしたヒトに、ムコイドがたみどりうみきん日和見ひよりみ感染かんせんすると、みどりうみきん感染かんせんしょうこす。院内いんない感染かんせんによって発生はっせいすることもおおい。発症はっしょうした場合ばあいみどりうみきん薬剤やくざいたいせいのために薬剤やくざいによる治療ちりょう困難こんなんであることもおおい。βべーた-ラクタムけいアミノグリコシドけいニューキノロンけいの3系統けいとうこう細菌さいきんやくにそれぞれ有効ゆうこうなものがあるが、これらの系統けいとうすべてにたいしてたいせい獲得かくとくしたざいたいせいみどりうみきん感染かんせんしょう出現しゅつげんしており、医療いりょうじょう問題もんだいになっている。

みどりうみきん感染かんせんしょう[編集へんしゅう]

みどりうみきん感染かんせんしょうは、健常けんじょうしゃにはられないが、免疫めんえき抑制よくせいざい使用しよう後天こうてんせい免疫めんえき不全ふぜん症候群しょうこうぐん(エイズ)などにより免疫めんえきりょく低下ていかしたひとや、長期間ちょうきかん入院にゅういん手術しゅじゅつなどで体力たいりょく消耗しょうもうしているひとたきりの状態じょうたいにある老人ろうじんなど、いわゆる「えき感染かんせん宿主しゅくしゅ」に発症はっしょうする疾患しっかん日和見ひよりみ感染かんせんしょう)である。

医療いりょうようカテーテル気管きかん挿管外科げかてき手術しゅじゅつなどの医療いりょう行為こういによって尿道にょうどう気道きどう創傷そうしょうからの感染かんせんこしたり、しとねかさ火傷かしょう外傷がいしょうなどで皮膚ひふのバリア機構きこううしなわれた部分ぶぶんから感染かんせんするケースがおおい。このほか、コンタクトレンズ着脱ちゃくだつ損傷そんしょうによって感染かんせんこす場合ばあいられる。局所きょくしょ感染かんせん場合ばあいは、では角膜かくまくえん炎症えんしょうみみ外傷がいしょうなどによる)では「スイマーズイヤー (swimmer's ear、水泳すいえいしゃみみ)」とよばれる外耳がいじえん皮膚ひふでは化膿かのうせい発疹はっしんなどをこすほか、気道きどう感染かんせんによる肺炎はいえんこす場合ばあいもある。またこれらの局所きょくしょ感染かんせんつづき、あるいは創傷そうしょうなどからの血管けっかんないへの感染かんせんによって全身ぜんしん感染かんせんこし、敗血症はいけつしょう続発ぞくはつせい肺炎はいえんしんないまくえん中枢ちゅうすう神経しんけい感染かんせんなどのじゅうあつし疾患しっかんこすこともある。とくに、みどりうみきん敗血症はいけつしょうでは致死ちしりつやく80%にのぼるとわれている。

みどりうみきん院内いんない感染かんせん[編集へんしゅう]

医療いりょう機関きかんでは、(1) みどりうみきん存在そんざいしやすい環境かんきょうで、(2) えき感染かんせん宿主しゅくしゅたいして、(3) 感染かんせん原因げんいんにもなりうる医療いりょう行為こういおこなう、という条件じょうけんそろっているため、みどりうみきんによる院内いんない感染かんせんがしばしば問題もんだいになる。

みどりうみきんえき感染かんせん宿主しゅくしゅ日和見ひよりみ感染かんせんして感染かんせんしょうこすが、病院びょういんなどの医療いりょう機関きかん入院にゅういん通院つういんわず、このようなえき感染かんせん宿主しゅくしゅあつまる環境かんきょうにある。また、医療いりょう機関きかんでは日常にちじょうてきにさまざまな消毒しょうどくやく抗生こうせい物質ぶっしつなどの薬剤やくざい使用しようされているため、これらの薬剤やくざいたいして感受性かんじゅせいのある微生物びせいぶつ増殖ぞうしょくしにくい一方いっぽうで、みどりうみきんのように薬剤やくざい抵抗ていこうせいつよ微生物びせいぶつ選択せんたくてきのこりやすい傾向けいこうにある。さらにあらたなたいせい獲得かくとくした薬剤やくざいたいせいきんまれやすい環境かんきょうである。そのうえ外科げかてき処置しょちや挿管などの医療いりょう行為こういは、充分じゅうぶん配慮はいりょおこなわれない場合ばあいみどりうみきん感染かんせん直接ちょくせつのきっかけになりうる。かく医療いりょう機関きかんおこなっている対策たいさくによって、病原びょうげんたいとともにみどりうみきん発生はっせいじょうきょうはモニタリングされ、院内いんない感染かんせん予防よぼうおこなわれているが、環境かんきょうちゅうつねざいきんでもあるみどりうみきん完全かんぜん除去じょきょ困難こんなんであり、しばしば院内いんない感染かんせんれい報告ほうこくされている。(患者かんじゃ保有ほゆうしているもののほか患者かんじゃへの見舞みまひんみどりうみきん感染かんせんげんとなりうる。みどりうみきん花卉かき商品しょうひん用土ようど以外いがい使用しようされているものもふくむ)や植物しょくぶつ自体じたい付着ふちゃく生息せいそくしていることおおく、そのため病院びょういんでは院内いんないへのみどりうみきん流入りゅうにゅう阻止そしするために見舞みまとうでも花卉かきみを禁止きんししているところすくなからず存在そんざいする。)

治療ちりょう[編集へんしゅう]

みどりうみきん感染かんせんしょう治療ちりょうは、みどりうみきんたいする抗菌こうきんせいゆうする薬剤やくざいによる化学かがく療法りょうほうおこなわれる。だい1選択せんたくとなるアミノグリコシドけいゲンタマイシントブラマイシンアミカシンのほか、ペニシリンけいチカルシリンピペラシリンだい3世代せだいセフェムであるセフタジジム、また完全かんぜん合成ごうせいβべーた-ラクタムであるカルバペネムけいイミペネムシラスタチンごうざい、メロペネム,ドリペネムや、ニューキノロンけいシプロフロキサシンもちいられることがある。

しかしみどりうみきん感染かんせんでバイオフィルムを形成けいせいした場合ばあいには、その内部ないぶへの薬剤やくざい浸透しんとうせいひくくなるため、完全かんぜん除去じょきょ困難こんなんになるケースもおおい。またみどりうみきん比較的ひかくてき新規しんき薬剤やくざいたいせい獲得かくとくしやすいため、上記じょうき治療ちりょうやくたいするたいせいきんとくざいたいせいみどりうみきん出現しゅつげん問題もんだいになる。

ざいたいせいみどりうみきん感染かんせんしょう[編集へんしゅう]

ざいたいせいみどりうみきん(MDRP)は1970年代ねんだいまでにはすでにその存在そんざいられていた。当時とうじは「複数ふくすう薬剤やくざいたいせいあわったもの」にたいする総称そうしょうであったが、そのみどりうみきん感染かんせんしょう治療ちりょう有効ゆうこうな3系統けいとう薬剤やくざい、すなわち、広域こういきβべーた-ラクタムけい、アミノグリコシドけい、ニューキノロンけいたいして、同時どうじたいせいしめすものをすようになった。とくに2000年代ねんだい以降いこうは、イミペネムβべーた-ラクタムのカルバペネムけい)、アミカシン(アミノグリコシド)、シプロフロキサシン(ニューキノロンけい)などにたいするたいせい指標しひょうとする傾向けいこうがある。

ざいたいせいみどりうみきん感染かんせんしょうは、世界中せかいじゅう医療いりょう関係かんけい機関きかんによってその発生はっせい動向どうこうかんされている。日本にっぽんでは、感染かんせんしょうほうで五類感染症定点把握疾患に指定していされており、指定してい医療いりょう機関きかんにおいてしゅう単位たんい発生はっせいじょうきょう報告ほうこく義務ぎむづけられている。コリスチンはMDRP感染かんせんしょうたいして有効ゆうこう薬剤やくざいのひとつである。

歴史れきし[編集へんしゅう]

みどりうみきんは、1872ねんにSchroeterによって発見はっけん命名めいめいされたのち1882ねんCarle Gessardによって、みどり着色ちゃくしょくした包帯ほうたいからはじめて分離ぶんり培養ばいようされた。そのみどりうみきんおよびみどりうみきん感染かんせんしょうについての基礎きそてき研究けんきゅうすすみ、薬剤やくざい抵抗ていこうせい物質ぶっしつさんせいのメカニズムが解明かいめいされていった。

1929ねんアレクサンダー・フレミングによるペニシリン発見はっけん以降いこうおおくの抗生こうせい物質ぶっしつ発見はっけん開発かいはつされた。当初とうしょグラム陽性ようせいきんにのみ有効ゆうこうであった抗生こうせい物質ぶっしつなかから、グラム陰性いんせいきんにも有効ゆうこうなものが徐々じょじょつかっていったが、みどりうみきんたいして効果こうかしめ薬剤やくざいはほとんどつからなかった。1960年代ねんだい以降いこうになって、ゲンタマイシンなどみどりうみきん有効ゆうこう抗生こうせい物質ぶっしつがいくつか発見はっけんされた。また新薬しんやく開発かいはつつづけられていたペニシリンけい抗生こうせい物質ぶっしつなかから、はじめてみどりうみきんたいする効果こうか獲得かくとくしたカルベニシリン開発かいはつされ、これらの薬剤やくざいみどりうみきん治療ちりょうやくとして実用じつようされた。しかし、1970年代ねんだいまでには、当時とうじもちいられていた複数ふくすう抗生こうせい物質ぶっしつたいするざいたいせいみどりうみきん存在そんざいられるようになった。

2000ねんには、みどりうみきんのPAO1かぶぜんゲノム解読かいどく完了かんりょうしている。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 助川すけかわ化学かがく株式会社かぶしきがいしゃみどりうみきん
  2. ^ アズワン「シュードモナス寒天かんてん培地ばいちピオシアニン(ベクトン・ディッキンソン)」
  3. ^ 金沢医科大学かなざわいかだいがく 臨床りんしょう感染かんせんしょうがく感染かんせんしょう質問しつもんばこ
  4. ^ a b Hassett D, Cuppoletti J, Trapnell B, Lymar S, Rowe J, Yoon S, Hilliard G, Parvatiyar K, Kamani M, Wozniak D, Hwang S, McDermott T, Ochsner U (2002). “Anaerobic metabolism and quorum sensing by Pseudomonas aeruginosa biofilms in chronically infected cystic fibrosis airways: rethinking antibiotic treatment strategies and drug targets”. Adv Drug Deliv Rev 54 (11): 1425–1443. doi:10.1016/S0169-409X(02)00152-7. PMID 12458153. 

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 吉田よしだ眞一しんいちやなぎ雄介ゆうすけへん戸田とだしん細菌さいきんがく改訂かいてい32はん南山みなみやまどう、2004ねん ISBN 4525160128
  • Bruce Albertへん細胞さいぼう分子生物学ぶんしせいぶつがくだい4はん中村なかむら桂子けいこ松原まつばら謙一けんいち監訳かんやく、ニュートンプレス、2004ねん ISBN 4315517305
  • William A. Strohlへん『イラストレイテッド微生物びせいぶつがく』、山口やまぐち惠三けいぞう松本まつもと哲哉てつや監訳かんやく丸善まるぜん株式会社かぶしきがいしゃ、2005ねん ISBN 4621074768
  • 国立こくりつ感染かんせんしょう研究所けんきゅうじょ学友がくゆうかいへん感染かんせんしょう事典じてん』、朝倉書店あさくらしょてん、2004ねん ISBN 4254300735

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]