桿菌かんきん

桿菌かんきん（かんきん、杆菌）とは、個々ここの細胞さいぼうの形状けいじょうが細長ほそながい棒状ぼうじょうまたは円筒えんとう状じょうを示しめす細菌さいきんないし古こ細菌さいきんのこと。球菌きゅうきん、らせん菌きんと併あわせて、微生物びせいぶつを形態けいたいによって分類ぶんるいするときに用もちいられる慣用かんよう的てきな分類ぶんるい群ぐんである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

最初さいしょに微生物びせいぶつを発見はっけんしたことで知しられるレーウェンフックが、1683年ねん9月にイギリスの王立おうりつ協会きょうかいに送おくったスケッチにも、球菌きゅうきんおよびらせん菌きんと共ともに、桿菌かんきんと思おもわれるものが描えがかれており、細菌さいきんが発見はっけんされた当時とうじからその存在そんざいが知しられていたことが窺うかがえる。

細菌さいきんは単細胞たんさいぼう生物せいぶつであるが、その一ひとつ一ひとつの細胞さいぼうの形状けいじょうは種たねごとに異ことなる。このため細菌さいきん学がくの初期しょきの段階だんかいから、細胞さいぼうの形状けいじょうは細菌さいきんを鑑別かんべつ同定どうていあるいは分類ぶんるいするための指標しひょうとして用もちいられてきた。特とくに、生理学せいりがく的てき分類ぶんるい、生化学せいかがく的てき分類ぶんるい、遺伝いでん学がく的てき分類ぶんるいが発達はったつする以前いぜんには、顕微鏡けんびきょうによって観察かんさつ可能かのうな細菌さいきんの細胞さいぼう形状けいじょうは、最もっとも重要じゅうような判断はんだん材料ざいりょうの一ひとつであった。

2000年ねん頃ごろからは、細菌さいきん学がくの分野ぶんやでは遺伝いでん学がく的てきな分類ぶんるい法ほうが主流しゅりゅうになっているが、球菌きゅうきんや桿菌かんきんなどのような形状けいじょうを指標しひょうにした分類ぶんるいはその新あたらしい分類ぶんるい法ほうと必かならずしも一致いっちしないため、分類ぶんるい学がく的てきな重要じゅうよう性せいは低ひくくなった。しかし依然いぜんとして、細菌さいきんの鑑別かんべつ同定どうていを行おこなう場合ばあいには重要じゅうような判断はんだん材料ざいりょうの一ひとつであり、医科いか細菌さいきん学がくなど一部いちぶの分野ぶんやでは慣用かんよう的てきな分類ぶんるい群ぐんとして利用りようされている。

自然しぜん界かいの至いたるところに桿菌かんきんは存在そんざいしており、その生育せいいく環境かんきょうは菌きん種しゅごとに多岐たきにわたる。一部いちぶの桿菌かんきんはヒトや動物どうぶつの常つね在ざい細菌さいきんとして、体からだ表面ひょうめん、鼻はな咽のど腔、消化しょうか管かん、泌尿器ひにょうきなどに生息せいそくしている。また、一部いちぶのものはヒトに対たいする病原びょうげん性せいを持もち、さまざまな感染かんせん症しょうの原因げんいんになる。代表だいひょう的てきな病原びょうげん性せいの桿菌かんきんには、グラム陽性ようせいのものとして、炭疽たんそ菌きん、破傷風はしょうふう菌きん、ボツリヌス菌きん、ジフテリア菌きん、結核けっかく菌きん、グラム陰性いんせいのものとして、腸ちょう内ない細菌さいきん科か（大腸菌だいちょうきん、赤痢せきり菌きん、サルモネラ、ペスト菌きんなど）、緑みどり膿うみ菌きん、百日咳ひゃくにちぜき菌きんなどが挙あげられる。

形態けいたいと配列はいれつ[編集へんしゅう]

ほぼ完全かんぜんな球形きゅうけいで比較的ひかくてき小型こがたの（0.5〜2µm）ものが多おおい球菌きゅうきんと比くらべて、桿菌かんきんは形状けいじょうも大おおきさもバリエーションに富とんでいる（桿菌かんきんの例れいの画像がぞうギャラリーも参照さんしょう）

一般いっぱん的てきな桿菌かんきんの大おおきさとしては、短たん径みちが0.2〜1µm、長径ちょうけいが1〜5µm程度ていどのものが多おおい。セラチア（セラチア菌きん、霊れい菌きん）のように0.5x0.7µm程度ていどの小型こがたのものから、炭疽たんそ菌きんのように長径ちょうけいが10µmを超こえる大型おおがたのもの（大だい桿菌かんきん）まで、さまざまな大おおきさのものが存在そんざいする。短たん径みちと長径ちょうけいの比率ひりつは1.5〜5倍ばい程度ていどのものが多おおいが、中なかには短たん径みちと長径ちょうけいにあまり差さのない短みじかいもの（短たん桿菌かんきん）や、ほとんど変かわらず球菌きゅうきんと見分みわけのつかないもの（球たま桿菌かんきん）なども存在そんざいする。

菌きん体たいの形状けいじょうも、円筒えんとう状じょうで顕微鏡けんびきょう下かではほぼ長方形ちょうほうけいに見みえるもの、角かくの丸まるい長方形ちょうほうけい状じょうに見みえるもの、長円ちょうえん形がたのもの、また菌きん体たいの両りょう端はしまたは一端いったんが膨ふくれて棍棒こんぼうやマッチ棒ぼうのように見みえるもの（破傷風はしょうふう菌きんやジフテリア菌きんなど）など、さまざまなものがある。特殊とくしゅなものとしては、カビと同様どうように、枝分えだわかれした菌糸きんし状じょうの形態けいたいをとって成長せいちょうする放線ほうせん菌きんも桿菌かんきんの範疇はんちゅうに含ふくめることがある。コレラ菌きんに代表だいひょうされるビブリオについては「コンマ状じょう桿菌かんきん」と呼よばれる場合ばあいも比較的ひかくてき多おおく見みられる。

球菌きゅうきんの場合ばあいは、個々ここの菌きん体たいの形状けいじょうだけではなく、それらがどのように並ならんでいるかという、菌きん体たいの配列はいれつが重要じゅうよう視しされることが多おおいが、桿菌かんきんの場合ばあいは配列はいれつが重要じゅうよう視しされることは少すくない。一般いっぱん的てきに桿菌かんきんは、個々ここの菌きん体たいが解離かいりして不規則ふきそくに並ならんでいる場合ばあいが多おおいためである。しかしながら、桿菌かんきんの一部いちぶには特徴とくちょう的てきな配列はいれつをとるものも見みられる。炭疽たんそ菌きんは、大おおきな桿菌かんきんが長ちょう軸じく方向ほうこうに連鎖れんさし、一直線いっちょくせんに長ながく連つらなった配列はいれつをとることが多おおく、このような形状けいじょうのものを「連鎖れんさ桿菌かんきん」と呼よぶことがある。また、ビフィズス菌きんに代表だいひょうされるビフィドバクテリウム属ぞく (Bifidobacterium)、ジフテリア菌きんに代表だいひょうされるコリネバクテリウム属ぞく (Corynebacterium) などでは、V字じ型がたやY字じ型がた、T字じ型がたなど、特徴とくちょう的てきな配列はいれつが見みられる。

以上いじょうのような桿菌かんきんの大おおきさや形状けいじょう、配列はいれつは菌きん種しゅによってそれぞれ異ことなるため、細菌さいきんを鑑別かんべつ同定どうていする上じょうでの手てがかりの一ひとつになる。ただし同おなじ細菌さいきんであっても、培養ばいよう条件じょうけんが変かわるとその形状けいじょうが変化へんかする場合ばあいも多おおい。

成長せいちょうと分裂ぶんれつ[編集へんしゅう]

一般いっぱんに桿菌かんきんは分裂ぶんれつの際さい、菌きん体たいの長ちょう軸じく方向ほうこう、すなわち円筒えんとうの太ふとさが一定いっていで長ながさだけが長ながくなるかたちで成長せいちょうし、ある程度ていどの大おおきさまで成長せいちょうすると、その中心ちゅうしんでほぼ均等きんとうに二分にぶんされる形かたちで分裂ぶんれつする。このとき、菌きん体たいの中央ちゅうおう部分ぶぶんに新あたらしい細胞さいぼう壁かべが作つくられて中心ちゅうしんから成長せいちょうするものと、菌きん体たいの端はしに新あたらしい細胞さいぼう壁かべが作つくられて先端せんたん成長せいちょうするものが知しられる。前者ぜんしゃには大腸菌だいちょうきんや枯草かれくさ菌きんなど桿菌かんきんの多おおくが、後者こうしゃにはジフテリア菌きんなど一部いちぶのものが該当がいとうする。どちらの場合ばあいでも、菌きん体たいの端はし部ぶの細胞さいぼう壁かべのうち、片方かたがたは分裂ぶんれつ前まえの古ふるいもの、もう片方かたがたはその分裂ぶんれつの直前ちょくぜんに作つくられた新あたらしいもので、それぞれ構成こうせいされることになり、桿菌かんきん菌きん体たいの両りょう端はしは「全まったく同おなじ」というわけではない。い換いかえれば、桿菌かんきんの菌きん体たいには極性きょくせいがあることが明あきらかになっている。また、このことから、細胞さいぼう分裂ぶんれつが繰くり返かえされていっても、最初さいしょの菌きん体たいを構成こうせいしていた細胞さいぼう壁かべを一いち端はしに持もつ子孫しそんがずっと存在そんざいしつづけることになる。

このような一般いっぱん的てきな二に分裂ぶんれつの他ほかに、不ふ均等きんとうな分裂ぶんれつ（芽胞がほう形成けいせい菌きんが芽胞がほうを作つくる時ときに見みられる）や、放線ほうせん菌きんに見みられるように成長せいちょうした菌糸きんしが一いち度どに多数たすうの菌きん体たいに分断ぶんだんされたり、一種いっしゅの胞子ほうし形成けいせいなどによって増殖ぞうしょくするケースなど、桿菌かんきんでも菌きん種しゅによっては特殊とくしゅな形かたちで成長せいちょうや分裂ぶんれつをするものがある。