ねつ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ねつウイルス
ネッタイシマカ

ねつ(おうねつ、えい: yellow fever)は、ネッタイシマカ (Aedes aegypti) などの)によって媒介ばいかいされるフラビウイルスフラビウイルスぞくぞくするねつウイルス病原びょうげんたいとする感染かんせんしょう。ウイルスせい出血しゅっけつねつのひとつ。感染かんせんしょうほうにおけるよんるい感染かんせんしょう黄熱病おうねつびょう同義どうぎ発熱はつねつともない、重症じゅうしょう患者かんじゃ黄疸おうだんられることから命名めいめいされた。

熱帯ねったいアフリカと中南米ちゅうなんべい風土病ふうどびょうである。黒色こくしょく嘔吐おうと吐血とけつ)をこすことから通称つうしょうを「くろ吐病」という。日常にちじょう生活せいかつにおけるヒトからヒトへの直接ちょくせつ感染かんせんはない。

症状しょうじょう[編集へんしゅう]

潜伏期せんぷくきあいだは3 - 6にちで、突然とつぜん発熱はつねつ頭痛ずつう背部はいぶつう虚脱きょだつ悪心あくしん嘔吐おうと下痢げり発症はっしょうする。発症はっしょう3 - 4にち症状しょうじょう軽快けいかいし、そのまま回復かいふくすることもある。

しかし、じゅう症例しょうれいでは、数時間すうじかんから2にち再燃さいねんし、出血しゅっけつねつこす。発熱はつねつ高熱こうねつ)、じん障害しょうがいはな歯根しこんからの出血しゅっけつ黒色こくしょく嘔吐おうと吐血とけつ)、血便けつべんしも)をともな下痢げり子宮しきゅう出血しゅっけつ黄疸おうだんかん障害しょうがい)などがみられる。

黄熱病おうねつびょう死亡しぼうりつは、30 - 50%とされている。これはエボラ出血熱えぼらしゅっけつねつ匹敵ひってきし、非常ひじょう危険きけん感染かんせんしょうである。

診断しんだん[編集へんしゅう]

症状しょうじょう出現しゅつげんした初期しょき段階だんかいでは感染かんせんしょう(レプトスピラ急性きゅうせい肝炎かんえんマラリアひとし)との判別はんべつきにくいため、PCR検査けんさによる鑑定かんていにより病原びょうげんたい特定とくていする。

治療ちりょう[編集へんしゅう]

疫学えきがく[編集へんしゅう]

感染かんせんする可能かのうせいがあるくに地域ちいき[編集へんしゅう]

アフリカ(五十音ごじゅうおんじゅん):アンゴラウガンダエチオピアカメルーンガーナガボンガンビアギニアギニアビサウケニアコンゴ共和きょうわこくコンゴ民主みんしゅ共和きょうわこくコートジボワールシエラレオネスーダンセネガル赤道せきどうギニア中央ちゅうおうアフリカチャドトーゴナイジェリアニジェールブルキナファソブルンジベナンマリみなみスーダンリベリアモーリタニア [1]

アメリカ(五十音ごじゅうおんじゅん):アルゼンチンエクアドルガイアナコロンビアスリナムパナマフランスりょうギアナブラジルペルーベネズエラボリビアトリニダード・トバゴトリニダードとうのみ)、パラグアイ [1]

2013ねんにおいてアフリカではねつにより8まん4せんにんから17まんにんじゅうあつし感染かんせんしゃと2まん9せんにんから6まんにん死者ししゃ発生はっせいし、年間ねんかん20まんにんねつ患者かんじゃのうち、やく90パーセントがアフリカで発生はっせいしたと推測すいそくされている。

なおおなじく、媒介ばいかいするデング熱でんぐねつとはことなり、アジアでの発生はっせいられない。

予防よぼう接種せっしゅ[編集へんしゅう]

ねつ予防よぼう接種せっしゅ証明しょうめいしょ(イエローカード)

流行りゅうこう地域ちいき流行りゅうこう可能かのう地域ちいきは、出入国しゅつにゅうこく管理かんりさいして国家こっか機関きかん発行はっこうによる国際こくさい予防よぼう接種せっしゅ証明しょうめいしょイエローカード)がもとめられる。かつて、イエローカードの有効ゆうこう期間きかんは、接種せっしゅ10にちから10年間ねんかんとされてきたが、世界せかい保健ほけん機関きかんは、2016ねん7がつ11にちより、生涯しょうがい有効ゆうこう延長えんちょうすることを勧告かんこくした。

これにともない、日本にっぽん発行はっこうされるねつ予防よぼう接種せっしゅ証明しょうめいしょ有効ゆうこう期間きかんも、1かい接種せっしゅ生涯しょうがい有効ゆうこうとなった[2]。なお2016ねん平成へいせい28ねん7がつ11にち時点じてんで、すで有効ゆうこう期限きげんれているイエローカードも有効ゆうこうとしてあつかわれる。

日本にっぽんでは、イエローカードの発行はっこう権限けんげん関係かんけいから、検疫けんえきしょ日本にっぽん検疫けんえき衛生えいせい協会きょうかいおよ厚生こうせい労働省ろうどうしょうから指定していけた医療いりょう機関きかん国立こくりつ国際こくさい医療いりょう研究けんきゅうセンターひとし)でのみ予防よぼう接種せっしゅけられる。

日本にっぽん薬事やくじ承認しょうにんけているワクチン(YF-VAX)は、発育はついく鶏卵けいらん接種せっしゅしてつくられている。このため、接種せっしゅ予定よていしゃたまごアレルギーであれば、予防よぼう接種せっしゅけることが出来できないが、代替だいたい処置しょちとして禁忌きんき証明しょうめいしょ発行はっこうされる。なお、イエローカードとはことなり、入国にゅうこくさい禁忌きんき証明しょうめいしょ提示ていじしても上陸じょうりく拒否きょひける場合ばあいがある。

研究けんきゅう[編集へんしゅう]

キューバ開業かいぎょうした医師いしカルロス・フィンレイ英語えいごばんによる媒介ばいかい伝染でんせん提唱ていしょうしている。このような媒介ばいかい想定そうていしたモスキート仮説かせつ研究けんきゅう初期しょきから存在そんざいしたが、当時とうじひとからひとつてそまるものとする論者ろんしゃおおかった[3]

1900ねんアメリカぐん軍医ぐんいだったウォルター・リード英語えいごばんは、モスキート仮説かせつった実証じっしょう実験じっけんのためにキューバに医師いしだん派遣はけんした[4]最初さいしょ参加さんかした医師いし軍人ぐんじん使つかった媒介ばいかい実験じっけんおこなったが、死亡しぼうしゃ続出ぞくしゅつしたため、スペインけい移民いみん労働ろうどうしゃ謝礼しゃれいきん医療いりょう補償ほしょうあたえる条件じょうけん実験じっけん継続けいぞくし、モスキート仮説かせつ証明しょうめいされた。リードのおこなった集団しゅうだん実験じっけんは、自分じぶん意志いし参加さんかした被験者ひけんしゃと、契約けいやくうえおこなわれた史上しじょうはつ人体じんたい実験じっけんれいとされている[4]

そのパナマ運河うんが建設けんせつさいし、駆除くじょ中心ちゅうしんとした防疫ぼうえき対策たいさくおこな効果こうかげたことから、フィンレーの媒介ばいかいせつただしさが証明しょうめいされた。さらに、野口のぐち英世ひでよによってねつ研究けんきゅうがけられるものの、その中途ちゅうと感染かんせん死亡しぼうした。そのみなみアフリカ出身しゅっしんアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく微生物びせいぶつ学者がくしゃマックス・タイラー(Max Theiler、サイラーとも)がねつワクチン開発かいはつ。このワクチン開発かいはつ功績こうせきによりタイラーは、1951ねんノーベル医学いがく生理学せいりがくしょう受賞じゅしょうした。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b ねつ注意ちゅういしましょう!厚生こうせい労働省ろうどうしょう検疫けんえきしょホームページ)2016/8/25閲覧えつらん
  2. ^ ねつ予防よぼう接種せっしゅ証明しょうめいしょ生涯しょうがい有効ゆうこうとアフリカでのねつ監視かんし強化きょうか厚生こうせい労働省ろうどうしょう検疫けんえきしょホームページ)2016/8/25閲覧えつらん
  3. ^ トレヴァー・ノートン『にも奇妙きみょう人体じんたい実験じっけん歴史れきし赤根あかね洋子ようこやく 文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう 2012ねんISBN 978-4-16-375440-6 pp.115-121.
  4. ^ a b グレゴワール・シャマユー『人体じんたい実験じっけん哲学てつがく加納かのう由起子ゆきこやく 明石書店あかししょてん 2018ねんISBN 978-4-7503-4728-8 pp.358-363.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]