元もと農水のうすい事務次官じむじかん長男ちょうなん殺害さつがい事件じけん

元もと農水のうすい事務次官じむじかん長男ちょうなん殺害さつがい事件じけん
場所ばしょ	東京とうきょう都と練馬ねりま区く
日付ひづけ	2019年ねん6月1日にち（日本にっぽん時間じかん） (JST)
攻撃こうげき手段しゅだん	刃物はもの
攻撃こうげき側がわ人数にんずう	1人ひとり
死亡しぼう者しゃ	1人ひとり
被害ひがい者しゃ	無職むしょくの長男ちょうなんY (当時とうじ44歳さい)
犯人はんにん	元もと農林のうりん水産すいさん事務次官じむじかんの父親ちちおやX (当時とうじ76歳さい)
容疑ようぎ	殺人さつじん罪ざい
動機どうき	家庭かてい内ない暴力ぼうりょくによる精神せいしん的てき疲弊ひへい
刑事けいじ訴訟そしょう	懲役ちょうえき6年ねん
管轄かんかつ	警視庁けいしちょう練馬ねりま警察けいさつ署しょ 東京とうきょう地方ちほう検察庁けんさつちょう

元もと農水のうすい事務次官じむじかん長男ちょうなん殺害さつがい事件じけん（もとのうすいじむじかんちょうなんさつがいじけん）は、2019年ねん6月1日にち、元もと農林のうりん水産すいさん事務次官じむじかんの父親ちちおやX（当時とうじ76歳さい）が東京とうきょう都と練馬ねりま区くにある自宅じたくにおいて、無職むしょくの長男ちょうなんY（当時とうじ44歳さい）を刺殺しさつした事件じけんである。

犯行はんこうの動機どうきは、一いち審しん公判こうはんでは長男ちょうなんYからの家庭かてい内ない暴力ぼうりょくとされたが、4日にち前まえの2019年ねん5月28日にちに川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけんが起おきており、父親ちちおやXが逮捕たいほ時ときに「この事件じけんが頭あたまに浮うかんで不安ふあんに思おもい長男ちょうなんを殺害さつがいした」と供述きょうじゅつしたことから、マスメディアでは相次あいついで起おこった2つの殺人さつじん事件じけんを結むすびつけ、引びきこもりの高齢こうれい化かによる「8050問題もんだい」として報道ほうどうされることが多おおかった。

事件じけん発生はっせい

事件じけん発生はっせいの1週間しゅうかん前まえとなる2019年ねん5月25日にち、長年ながねん家族かぞくと離はなれて暮くらしていた長男ちょうなんYが自宅じたくに戻もどり、父親ちちおやXと母親ははおやと長男ちょうなんYでの3人にんの生活せいかつが始はじまった。父親ちちおやXの供述きょうじゅつによれば、その翌日よくじつ長男ちょうなんYが自分じぶんの人生じんせいを悲観ひかんし泣ないていたところ、父親ちちおやXが「もともと住すんでいた家いえのゴミを片付かたづけたらいいのでは」とアドバイスしたところ、長男ちょうなんYが激高げっこうし激はげしい家庭かてい内ない暴力ぼうりょくを行おこない、父親ちちおやXと母親ははおやはおびえて暮くらすようになっていたという。

長男ちょうなんYは外出がいしゅつせず、オンラインゲーム（ドラゴンクエストX オンラインのヘビーゲーマーで、「ステラ神しん」と名乗なのってTwitterでも活動かつどうしていた）等とうをして引びきこもり状態じょうたいの生活せいかつをしていた。父親ちちおやXの逮捕たいほ時じの供述きょうじゅつによれば、事件じけん当日とうじつに近所きんじょの小学校しょうがっこうの運動会うんどうかいの声こえがうるさいと腹はらを立たて「ぶっ殺ころす」と発言はつげんしたことから、自みずからが殺ころされるという恐怖きょうふ心しんと、4日にち前まえに起おきた川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけんを思おもい出だして「息子むすこも周まわりに危害きがいを加くわえるかもしれない」と不安ふあんに感かんじ、刃物はもので長男ちょうなんYを殺害さつがいした。

父親ちちおやXは自みずから「息子むすこを刺さし殺ころした」と110番ばん通報つうほうし、長男ちょうなんYは搬送はんそう先さきの病院びょういんで死亡しぼうした。父親ちちおやXは警視庁けいしちょう練馬ねりま警察けいさつ署しょに現行げんこう犯はん逮捕たいほされ、取とり調しらべに対たいし容疑ようぎを認みとめた。長男ちょうなんYは十じゅう数箇所すうかしょを刺さされており、初はつ公判こうはんでも「強固きょうこな殺意さついに基もとづく犯行はんこう」とされた。なお、長男ちょうなんYの件けんについて警察けいさつや区役所くやくしょなどに相談そうだんしたことはなかったという。

関係かんけい者しゃの人物じんぶつ像ぞう

加害かがい者しゃとして逮捕たいほ・起訴きそされた父親ちちおやXは元もと官僚かんりょうで、東京大学とうきょうだいがく法学部ほうがくぶ卒業そつぎょう後ご、当時とうじの農林省のうりんしょうに入省にゅうしょうした。農林水産省のうりんすいさんしょうの事務次官じむじかんに就任しゅうにんするが、翌年よくねんに社会しゃかい問題もんだいの責任せきにんを取とる形かたちで退官たいかんした。その後ごは特命とくめい全権ぜんけん大使たいしや農水のうすい系けい研究所けんきゅうじょの理事りじ長ちょうを務つとめていた。

刺殺しさつされた長男ちょうなんYは、幼少ようしょうの頃ころ、父親ちちおやの仕事しごとの都合つごう上じょうで、一家いっかで一時期いちじきアメリカで暮くらしていた。日本にっぽんに帰国きこく後ご、小学校しょうがっこうでは長男ちょうなんはゲーム好すきのごく普通ふつうの少年しょうねんだったと言いう。中学ちゅうがく・高校こうこうは父親ちちおやの様ように、東京とうきょう大学だいがくに進学しんがくして欲ほしい、母親ははおやの望のぞみにより、私立しりつ中高なかだか一貫いっかん校こうの駒場こまば東邦とうほう中学校ちゅうがっこうに進学しんがくする事こととなったが、中学ちゅうがく時代じだいに揶揄やゆわれたり、鉛筆えんぴつで突つきされたり、後うしろからいきなり背中せなかを蹴飛けとばされるなどの、激はげしいいじめに遭あったという。

中学ちゅうがく時代じだいの同級生どうきゅうせいの友人ゆうじんの話はなしによると長男ちょうなんはクラスで友達ともだちと話はなしをする時とき、一方いっぽう的てきに自分じぶんの話はなしをするだけで話はなしが通つうじない「変へんな奴やつ」と見みられ、彼かれを嫌きらって避さけられていた為ため、長男ちょうなんはクラス内ないで孤立こりつ状態じょうたいであったという。

また中学ちゅうがく時代じだいの同級生どうきゅうせいの友人ゆうじんの話はなしによると長男ちょうなんはテレビゲームやアーケードゲームが大好だいすきで、ゲームがとてもうまく、またゲームに異常いじょうに詳くわしかったと話はなす。中学ちゅうがく在学ざいがく中ちゅうは親したしい友人ゆうじんもおらず部活ぶかつにも入はいらずゲームに熱中ねっちゅうしていたという。

高校こうこうでは部活ぶかつに所属しょぞくし文化ぶんか祭さいや体育たいいく祭さいにも参加さんかするなど、社交しゃこう的てきとは言いわないまでもまったく孤立こりつしていたわけではなかった。

学校がっこうではよくゲームのキャラクターの絵えを描えがいていて絵えがうまかったという。また長男ちょうなんは将来しょうらい、ゲームのキャラクターの絵えを描えがく仕事しごとをしたいとも言いっていたという。

長男ちょうなんの母親ははおや（父親ちちおやXの妻つま）は資産しさん家かの娘むすめで、父親ちちおやと同おなじくエリートだった。母親ははおやは厳きびしく長男ちょうなんを父親ちちおやの様ようにエリートの道みちに行いかせようと英才えいさい教育きょういくを施ほどこす教育きょういく熱心ねっしんな人ひとで教育きょういくママであったという。長男ちょうなんの成績せいせきが悪わるいと長男ちょうなんのおもちゃなど取とり上あげて壊こわすなど厳いかめしかったという。中学生ちゅうがくせいの時ときに勉強べんきょうせずにテレビゲームに没頭ぼっとうしている長男ちょうなんに母親ははおやが怒おこって、長男ちょうなんの大切たいせつにしていたプラモデルを母親ははおやが勝手かってに処分しょぶんして捨すてた事ことがあり、長男ちょうなんがそれにキレて家いえの中なかで大だい暴あばれした事こともあったという。その様ような状況じょうきょうの中なかで中学ちゅうがく2年生ねんせいの頃ころから母親ははおやに暴力ぼうりょくを振ふるうようになったという。

長男ちょうなんはTwitterで母親ははおやの事ことを「愚母ぐぼ」などと罵倒ばとうし、学生がくせい時代じだいに成績せいせきや進学しんがくの事ことなど自分じぶんは母親ははおやにコントロールされていたなどと語かたっており、テストなど勉強べんきょうで成績せいせきが悪わるいと大切たいせつなプラモデルを壊こわされたり処分しょぶんされる為ため、高校こうこうまで母親ははおやに怯おびえていたと語かたっている。学校がっこうでの成績せいせきは優秀ゆうしゅうな方ほうであったとも言いうが、中学ちゅうがくに入はいってから母親ははおやのエリート教育きょういくへの反発はんぱつから成績せいせきは芳かんばしくなかったとも言いわれている。勉強べんきょうは苦手にがてで嫌きらいであったが、母親ははおやに大切たいせつなプラモデルを壊こわされない為ためだけに、母親ははおやが望のぞんだ通とおりに嫌々いやいや勉強べんきょうやっていただけだと長男ちょうなんは語かたっている。

また母親ははおやとは対照たいしょう的てきに長男ちょうなんは父親ちちおやに対たいしては尊敬そんけいしていて、ゲーム仲間なかまに「父親ちちおや自慢じまん」をしていた。 高校こうこうでも両親りょうしんの望のぞみ通どおりの期待きたいに応こたえられず成績せいせきはあまり良よくなかった為ため、大学だいがく受験じゅけんを失敗しっぱいしている。大学だいがく受験じゅけんの失敗しっぱい後ごにゲーム好すきから代々木よよぎアニメーション学院がくいんに入学にゅうがくし、そこでアニメの面白おもしろさに目覚めざめた。高校こうこう在学ざいがく中ちゅうは文系ぶんけいであったが、日本にっぽん大学だいがくの理工学部りこうがくぶ土木どぼく工学科こうがっかに進学しんがくした。その後ごに流通経済大学りゅうつうけいざいだいがくの大学院だいがくいんにも進学しんがくし、CGについて学まなび、2001年ねんに大学院だいがくいんを修了しゅうりょうした。

他た、長男ちょうなんはゲームやアニメ関係かんけいの就職しゅうしょくを希望きぼうしていたがうまくいかず失敗しっぱいし、見みかねた父親ちちおやの案あんでコミックマーケットに参加さんかもするもうまくいかなかった。その後ご一いち時じは父親ちちおやにより長男ちょうなんは病院びょういんの関連かんれん施設しせつに就職しゅうしょくしたものの退職たいしょくし、事件じけん直前ちょくぜんは無職むしょくであった。事件じけんまでは20年ねん以上いじょう実家じっかを離はなれ、母親ははおや（父親ちちおやXの妻つま）が所有しょゆうする東京とうきょう都内とないの一軒家いっけんやに一人暮ひとりぐらしをしていた。精神せいしん疾患しっかん（統合とうごう失調しっちょう症しょうと診断しんだんを受うけている。）があって薬物やくぶつ治療ちりょうを受うけており、2008年ねんからは無職むしょくとなっていた。オンラインゲーム依存いぞんになり、SNSにもはまっていたという。2015年ねんに長男ちょうなんは発達はったつ障害しょうがいのアスペルガー症候群しょうこうぐんであると診断しんだんを受うけている。また、Kの長女ちょうじょ(被害ひがい者しゃの妹いもうと)は事件じけんの5年ねんほど前まえに、引ひきこもりの兄あにの存在そんざいにより縁談えんだんが悉ことごとく破談はだんとなったのを苦くにして精神せいしんを病やみ、自宅じたくで命いのちを絶たっている。 また、長男ちょうなんと妹いもうとの長女ちょうじょの兄妹きょうだい仲なかは 悪わるかったとされ、妹いもうとの長女ちょうじょは引ひきこもり状態じょうたいの長男ちょうなんを嫌きらい、長男ちょうなんも妹いもうとに対たいして嫌悪けんお気味ぎみから、Twitterで妹いもうとや妹いもうとの婚約こんやく者しゃの悪口わるぐちを言いいふらしたり邪魔じゃましたりしていたと言いう。

裁判さいばん

2019年ねん12月12日にちの東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょにおける初はつ公判こうはんで、父親ちちおやXは起訴きそ事実じじつを認みとめ、懲役ちょうえき8年ねんが求刑きゅうけいされた。同年どうねん12月がつ16日にちの判決はんけつで、殺人さつじん罪ざいとして懲役ちょうえき6年ねんの実刑じっけいがい渡いわたされた。判決はんけつでは家庭かてい内ない暴力ぼうりょくや、父親ちちおやXが長男ちょうなんYをアニメ専門せんもん学校がっこうに進学しんがくさせたり、同人どうじん誌し制作せいさくの手伝てつだいをしたなどの努力どりょくも考慮こうりょされたが、なお執行しっこう猶予ゆうよを付つける事案じあんではないとされた。

この初はつ公判こうはんにおいて、長男ちょうなんYには妹いもうとがいたことが明あきらかになった。妹いもうとには縁談えんだんがあったが長男ちょうなんYがいたことで破談はだんとなり、事件じけんの数すう年ねん前まえに自殺じさつしていた。また母親ははおやは長男ちょうなんYの家庭かてい内ない暴力ぼうりょくや妹いもうとの自殺じさつなどによってうつ病びょうになった。母親ははおや（Xの妻つま）は初はつ公判こうはんで涙なみだながらに父親ちちおやXへの寛大かんだいな量刑りょうけいを求もとめた。

公判こうはんではこうした家庭かてい崩壊ほうかいともいえる状況じょうきょうが生々なまなましく明あかされる一方いっぽうで、犯行はんこう当時とうじに動機どうきとしていた川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけんとの関係かんけい性せいについて父親ちちおやXは公判こうはんでは「直接ちょくせつの原因げんいんではない」と否定ひていした。

被告ひこく側がわは被害ひがい者しゃともみ合あううちに刺さしてしまった突発とっぱつ的てき犯行はんこうであると主張しゅちょうしたが、検察けんさつ側がわは、父親ちちおやXが妻つま（長男ちょうなんYの母親ははおや）に宛あてた「他たに方法ほうほうがありません」と長男ちょうなんYの殺害さつがいを示唆しさする手紙てがみや、自宅じたくパソコンに「殺人さつじん罪ざい 執行しっこう猶予ゆうよ」などの検索けんさく履歴りれきが残のこっていたことから、計画けいかく的てき犯行はんこうであったと主張しゅちょうした。

公判こうはんには長男ちょうなんYの主治医しゅじいであった精神せいしん科か医いも被告ひこく側がわ証人しょうにんとして出廷しゅっていした。この医師いしの病院びょういんは父親ちちおやXの義弟ぎていが会長かいちょうを務つとめており、会長かいちょうから長男ちょうなんYの主治医しゅじいを引ひき継ついだ。父親ちちおやXは、長男ちょうなんYが専門せんもん学校がっこう卒業そつぎょう後ごはその病院びょういんの関連かんれん施設しせつに就職しゅうしょくさせたが、退職たいしょくしてからは無職むしょくとなっていた。なお、母親ははおやもうつ病びょうを患わずらって同おなじ病院びょういんに通院つういんしている。長男ちょうなんYは当初とうしょは統合とうごう失調しっちょう症しょうと診断しんだんされていたが、2015年ねんに証人しょうにんが長男ちょうなんYの主治医しゅじいとなり、2018年ねんに長男ちょうなんYが医療いりょう保護ほご入院にゅういんしてから、診断しんだん名めいがアスペルガー症候群しょうこうぐんに変更へんこうされた。しかしその間あいだの3年間ねんかんは主治医しゅじいは長男ちょうなんY本人ほんにんを診察しんさつしておらず、父親ちちおやXのみが面会めんかいして薬くすりを処方しょほうしており、その点てんを検察官けんさつかんにも指摘してきされている。事件じけん1週間しゅうかん前まえに長男ちょうなんYが自宅じたくへ帰かえってきた理由りゆうは「（一人ひとりで住すんでいた家いえに）毒どくを撒まかれた」と言いっていたという。

保釈ほしゃく・控訴こうそ

2019年ねん12月がつ20日はつか、東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょは保釈ほしゃくを認みとめなかった地裁ちさいの決定けっていを取とり消けし、実刑じっけい判決はんけつとしては異例いれいの保釈ほしゃくを認みとめた。同日どうじつ、被告ひこくは保釈ほしゃく保証ほしょう金きん500万まん円えんを納付のうふし東京とうきょう拘置こうち所しょから保釈ほしゃくされた。同年どうねん12月がつ25日にち、被告ひこく側がわは実刑じっけい判決はんけつを不服ふふくとして東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょに控訴こうそした。

事件じけんから約やく1年ねん後ごの2020年ねん6月21日にち、父親ちちおやXが妻つまとともに、事件じけん現場げんばでもある練馬ねりま区くの自宅じたくで生活せいかつしていることが週刊しゅうかん誌しによって報道ほうどうされた。

控訴こうそ審しん

2020年ねん10月がつ20日はつか、東京とうきょう高裁こうさいにおける控訴こうそ審しん初はつ公判こうはんで、被告ひこく（父親ちちおやX）側がわは「被害ひがい者しゃに殺ころされると直感ちょっかんし、反射はんしゃ的てきに殺害さつがいした」と指摘してきし、正当せいとう防衛ぼうえいが成立せいりつするとして、無罪むざいを主張しゅちょうした。

報道ほうどうによると被告ひこく（加害かがい者しゃである父親ちちおやX）側がわの主張しゅちょうは、被害ひがい者しゃ（長男ちょうなんY）が「殺ころすぞ」という言葉ことばとともにファイティングポーズをとったことで、包丁ほうちょうで抵抗ていこうするしかないと考かんがえたという。

一いち審しんでは被告ひこく（父親ちちおやX）が妻つま（長男ちょうなんYの母親ははおや）宛あてに書かいた「これしか他たに方法ほうほうはないと思おもいます」と長男ちょうなん殺害さつがいをほのめかしていたとも思おもえる手紙てがみが読よみ上あげられたが、控訴こうそ審しんでは「手紙てがみを書かいた記憶きおくはない」とし、「手紙てがみの記憶きおくがないのは、急性きゅうせいストレス反応はんのうを発症はっしょうしたことによる解離かいり症状しょうじょうということで説明せつめいが可能かのう」と主張しゅちょうした。

また、一いち審しんで正当せいとう防衛ぼうえいの主張しゅちょうをしなかったのは「『償つぐないたい』という被告人ひこくにんの意向いこうに添そい、また裁判さいばん員いん裁判さいばんの特性とくせいを考慮こうりょし」たためという。被告ひこく弁護べんご側がわの証拠しょうこ取とり調しらべ請求せいきゅうは裁判所さいばんしょにより却下きゃっかされた。

奇くしくも本件ほんけん控訴こうそ審しんの初はつ公判こうはん（2020年ねん10月がつ20日はつか）は東池袋ひがしいけぶくろ自動車じどうしゃ暴走ぼうそう死傷ししょう事故じこの一いち審しん初はつ公判こうはん（2020年ねん10月がつ8日にち）からわずか10日とおかほど後のちにひらかれており、東池袋ひがしいけぶくろの事故じこでも被告ひこく側がわ（加害かがい者しゃ、事故じこ当時とうじ87歳さい）が自動車じどうしゃの不具合ふぐあいを理由りゆうに無罪むざいを主張しゅちょうしていること、加害かがい者しゃが高齢こうれいかつ社会しゃかい的てき地位ちいが高たかいことから、事件じけん事故じこの性質せいしつこそ異ことなっているが「罪つみを認みとめない高齢こうれい者しゃ」として併あわせて論ろんじる報道ほうどうがみられる。

2020年ねん12月15日にちに行おこなわれた被告人ひこくにん質問しつもんで父親ちちおやXは「息子むすこから『殺ころすぞ』と言いわれて、本当ほんとうに殺ころされると思おもい、反射はんしゃ的てきに包丁ほうちょうを取とりに行いってしまった。殺ころす以外いがいの体からだの反応はんのうができなかった」「一いち審しん判決はんけつを聞きいたとき、裁判官さいばんかんや裁判さいばん員いんが事実じじつと違ちがう状況じょうきょうを想像そうぞうして判断はんだんしたと感かんじた。正ただしい判決はんけつをもらいたい」と述のべた。被告ひこくの弁護士べんごしは、正当せいとう防衛ぼうえいが成立せいりつしないとしても、自分じぶんの命いのちを守まもるためで、深ふかく反省はんせいしているとして、執行しっこう猶予ゆうよを求もとめた。

控訴こうそ審しんの判決はんけつは2021年ねん2月がつ2日にちにい渡いわたされ、「長男ちょうなんは被告ひこくを追おいかけたり、攻撃こうげきするような動うごきは見みせておらず、危害きがいを受うける危険きけん性せいは迫せまっていなかった」と指摘してきし、正当せいとう防衛ぼうえいには当あたらないと判断はんだんし、一いち審しんと同おなじ懲役ちょうえき6年ねんの実刑じっけいがい渡いわたされた。弁護べんご側がわ、検察けんさつ側がわが上告じょうこくせず2月がつ17日にちに刑けいが確定かくていした。弁護人べんごにんによると、既すでに収監しゅうかん手続てつづきを終おえており、東京とうきょう拘置こうち所しょに収容しゅうようされたとみられる。

事件じけんの影響えいきょう

前述ぜんじゅつした川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけんの直後ちょくごであり、父親ちちおやXが当初とうしょ「息子むすこが同おなじような犯行はんこうをするかもしれないと思おもい刺さした」という趣旨しゅしの供述きょうじゅつをしていたことから、報道ほうどうではふたつの事件じけんを「中高年ちゅうこうねん引びきこもりが関係かんけいする事件じけん」として合あわせて扱あつかうことがあった。

また父親ちちおやXの供述きょうじゅつを受うけて「父親ちちおやとしての責任せきにんを果はたした」「（父親ちちおやXを）責せめることはできない」といった、加害かがい者しゃを擁護ようごするかのようなコメントがテレビ番組ばんぐみなどでなされた。父親ちちおやXと長男ちょうなんYの人物じんぶつ像ぞうに関かんしても、報道ほうどうにしばしばみられる「被害ひがい者しゃを賛美さんびし加害かがい者しゃを貶おとしめる姿勢しせい」とは逆ぎゃくに、父親ちちおやX（加害かがい者しゃ）が省庁しょうちょう在任ざいにん時代じだいに信頼しんらいされる人柄ひとがらと評ひょうされていたことや、長男ちょうなんYの世話せわをしていたことが肯定こうてい的てきに紹介しょうかいされる一方いっぽうで、長男ちょうなんY（被害ひがい者しゃ）については中学ちゅうがく時代じだいにいじめられたことが紹介しょうかいされたものの、それ以外いがいはSNSでの暴言ぼうげんや家庭かてい内ない暴力ぼうりょくなど否定ひてい的てき側面そくめんが紹介しょうかいされた。

事件じけん発生はっせい当初とうしょは「引びきこもり≒犯罪はんざい者しゃ予備よび軍ぐん」「（通とおり魔まのような）犯罪はんざいを引ひき起おこすまえに（殺害さつがいもふくめて）なんとかするべき」といった風潮ふうちょうがみられた。引びきこもり当事とうじ者しゃや支援しえん者しゃから異論いろんが出でるなどする一方いっぽう、「（長男ちょうなんYは）引ひきこもりではない」とする切きり離はなし発言はつげんもみられた。ライターの磯部いそべ涼すずかは著書ちょしょ「令れい和わ元年がんねんのテロリズム」で、「川崎かわさき殺傷さっしょう事件じけんの犯人はんにんと長男ちょうなんYは定職ていしょくに就つかず親族しんぞくの資産しさんに頼たよっていたという点てんでは共通きょうつうしているが、長男ちょうなんYは殺害さつがいされる1週間しゅうかん前まえまで、母親ははおやが所有しょゆうする住宅じゅうたくとはいえそこでひとり暮くらしをしていたことから引ひきこもりの定義ていぎから外はずれている」「更さらに長男ちょうなんYはインターネット上じょうにおいてはどちらかというと“交遊こうゆう”が多おおいタイプであった」「川崎かわさき殺傷さっしょう事件じけんの犯人はんにんがパソコンも携帯けいたい電話でんわも持もたず、ネット上じょうで存在そんざいの痕跡こんせきを全まったく見みつけられないのに対たいして、長男ちょうなんYの場合ばあいは全すべてを把握はあくすることが困難こんなんであるほど大量たいりょうの情報じょうほうを残のこした」と論ろんじている。

本ほん事件じけんや川崎かわさき市しの事件じけんに関かんして、引ひきこもりの当事とうじ者しゃ団体だんたいは、事件じけんと引びきこもりを結むすびつける報道ほうどう姿勢しせいに対たいして警鐘けいしょうを鳴ならす声明せいめいを発表はっぴょうした。また事件じけん後ご、引ひきこもりの家族かぞく会かいには相談そうだんが急増きゅうぞうしたという。

短期間たんきかんに立たて続つづけに事件じけんが起おきたことから、根本ねもと匠たくみ厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんは「安易あんいに（事件じけんを）ひきこもりなどと結むすび付つけるのは慎つつしむべきだ」と発言はつげんするとともに、都道府県とどうふけんなどが設置せっちするひきこもり地域ちいき支援しえんセンターや、各かく自治体じちたいの自立じりつ支援しえん窓口まどぐちなどに相談そうだんするよう呼よびかけた。 その一方いっぽうで、初はつ公判こうはんで父親ちちおやXに殺人さつじん罪ざいとしては比較的ひかくてき短期たんきの実刑じっけい6年ねんがい渡いわたされ、さらに実刑じっけい判決はんけつとしては異例いれいの保釈ほしゃくが認みとめられたことなどに対たいする疑問ぎもんや批判ひはんの声こえもあった。

さらに加害かがい者しゃが社会しゃかい的てき地位ちいの高たかい高齢こうれい者しゃであったことで、東池袋ひがしいけぶくろ自動車じどうしゃ暴走ぼうそう死傷ししょう事故じこを想起そうきする意見いけんもあり「社会しゃかい的てき地位ちいがある（あった）高齢こうれい者しゃに甘あまい処罰しょばつしかなされない」という「上級じょうきゅう国民こくみん」の発想はっそうがインターネット上じょうで再さい浮上ふじょうした。

関連かんれん文献ぶんけん

磯部いそべ涼すずか（2021）『令れい和わ元年がんねんのテロリズム』新潮社しんちょうしゃ：本ほん事件じけんと川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけん、京都きょうとアニメーション放火ほうか殺人さつじん事件じけんのルポルタージュ

脚注きゃくちゅう

タイトルに事件じけん関係かんけい者しゃの実名じつめいが含ふくまれる場合ばあいは、省略しょうりゃくまたはイニシャルに変更へんこう。

関連かんれん項目こうもく

• 家庭かてい内ない暴力ぼうりょく
  • 機能きのう不全ふぜん家族かぞく
  • 共きょう依存いぞん
  • 子こ殺ころし
  • 高齢こうれい者しゃ虐待ぎゃくたい
• 引びきこもり
  • 8050問題もんだい
  • パラサイト・シングル（パラサイト中年ちゅうねん）
• 川崎かわさき市し登戸のぶと通とおり魔ま事件じけん - 同どう時期じきに発生はっせいした事件じけん。
• 無敵むてきの人ひと (インターネットスラング)