別当寺べつとうじ

別当寺べつとうじ（べっとうじ）とは、専もっぱら神仏しんぶつ習合しゅうごうが行おこなわれていた江戸えど時代じだい以前いぜんに、神社じんじゃを管理かんりするために置おかれた寺てらのこと。神前しんぜん読経どきょうなど神社じんじゃの祭祀さいしを仏式ぶっしきで行おこない、その主催しゅさい者しゃを別当べっとう（社しゃ僧そうの長ちょうのこと）と呼よんだことから、別当べっとうの居いる寺てらを別当寺べつとうじと称しょうした。神宮寺じんぐうじ（じんぐうじ）、神護かんご寺てら（じんごじ）、宮寺みやでら（ぐうじ、みやでら）なども同義どうぎ。

概要がいよう

別当べっとうとは、すなわち「別べつに当あたる」であり、本来ほんらいの意味いみは、「別べつに本職ほんしょくにあるものが他たの職しょくをも兼務けんむする」という意味いみであり、「寺務じむを司つかさどる官職かんしょく」である。

別当寺べつとうじは、本地垂迹ほんじすいじゃく説せつにより、神社じんじゃの祭神さいじんが仏ふつの権現ごんげんであるとされた神仏しんぶつ習合しゅうごうの時代じだいに、「神社じんじゃはすなわち寺てらである」とされ、神社じんじゃの境内けいだいに僧坊そうぼうが置おかれて渾然一体こんぜんいったいとなっていた。神仏しんぶつ習合しゅうごうの時代じだいから明治維新めいじいしんに至いたるまでは、神社じんじゃで最もっとも権力けんりょくがあったのは別当べっとうであり、宮司ぐうじはその下したに置おかれた。

別当寺べつとうじが置おかれた背景はいけいには、戸籍こせき制度せいどが始はじまる以前いぜんの日本にっぽんでは、寺院じいんの檀家だんか帳とばりが戸籍こせきの役割やくわりを果はたしたり、寺社じしゃ領りょうを保有ほゆうし、通行つうこう手形てがたを発行はっこうするなど寺院じいんの権勢けんせいが今いまよりも強つよかったことがあげられる。一ひとつの村むらに別当寺べつとうじが置おかれると、別当寺べつとうじが、村内むらうちの他ほかのいくつかの神社じんじゃをも管理かんりした。神仏しんぶつにかかわらず、一ひとつの宗教しゅうきょう施設しせつ、信仰しんこうのよりどころとして一体いったいのものとして保護ほごしたのである。

また、神道しんとうにおいて、祭神さいじんは偶像ぐうぞうではない。神かみの拠よりどころ代だいとして、神器じんぎを奉たてまつったり、自然しぜんの造形ぞうけい物ぶつを神かみに見立みたてて遥拝ようはいしているが、別当寺べつとうじを置おくことにより、神社じんじゃの祭神さいじんを仏ふつの権現ごんげん(本地ほんじ仏ふつ)とみなし、本地ほんじ仏ふつに手てを合あわせることで、神仏しんぶつともに崇拝すうはいすることができた。

別当べっとうが置おかれたからといって、その神社じんじゃが仏式ぶっしきであったということではない。宮司ぐうじは神式しんしきに則のっとった祭祀さいしを行おこない、別当べっとうは本地ほんじ仏ふつに対たいして仏式ぶっしきに則のっとった勤行ごんぎょうを行おこなっていた。信徒しんとは、神式しんしきでの祭祀さいしを行おこなう一方いっぽうで、仏式ぶっしきでの勤行ごんぎょうも行おこなった。神仏しんぶつ習合しゅうごうの時代じだいには普通ふつうに見みられた形態けいたいである。

明治めいじ時代じだいの神仏しんぶつ分離ぶんり令れいにより、神道しんとうと仏教ぶっきょうは別個べっこの物ものとなり、両者りょうしゃが渾然こんぜんとした別当寺べつとうじはなくなっていった。