南極なんきょく環たまき流りゅう

世界せかいの主おもな海流かいりゅう（暖流だんりゅうは赤あか、寒流かんりゅうは青あお）。南極なんきょく環たまき流りゅうは南極大陸なんきょくたいりく周囲しゅういを西にしから東ひがしに流ながれている。

南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅう（なんきょくしゅうきょくりゅう、Antarctic Circumpolar Current）または南極なんきょく環たまき流りゅう（なんきょくかんりゅう）とは、南極大陸なんきょくたいりくの周まわりを取とり囲かこむように東ひがし向むきに流ながれる海流かいりゅう（環たまき流りゅう）のことである。西風せいふう海流かいりゅう、環たまき南極なんきょく海流かいりゅう、周しゅう極きょく流りゅうとも呼よばれる。

概要がいよう

南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうは地球ちきゅう上じょうで最大さいだいの海流かいりゅうである。典型てんけい的てきな流速りゅうそくは20 cm/s、流ながれ幅はばが広ひろく、厚あつさが3000m以上いじょうであるため、流量りゅうりょうとしては100–150スベルドラップ（Sv, 毎秒まいびょう 10⁶ m³）に達たっする。およそ3300万まん年ねん前まえの新生代しんせいだい古ふる第だい三紀みき、南極大陸なんきょくたいりくと陸続りくつづきだった南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくとオーストラリア大陸たいりくが完全かんぜんに南極大陸なんきょくたいりくから分裂ぶんれつし、海うみが南極大陸なんきょくたいりく周辺しゅうへんに生しょうじ、地球ちきゅうの自転じてんの影響えいきょうで生うまれた海流かいりゅう。赤道あかみちからの暖流だんりゅうを遮さえぎって南極大陸なんきょくたいりくを急速きゅうそくに氷こおりの大陸たいりくへと変かえた。大おおまかな流ながれの中心ちゅうしんは太平洋たいへいようとインド洋いんどようでは南緯なんい50度ど付近ふきん、大西おおにし洋ひろしでは南緯なんい60度ど付近ふきんにある。南半球みなみはんきゅうの偏西風へんせいふうによって主おもに駆動くどうされており、南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうの位置いちは偏西風へんせいふうの緯度いどと大体だいたい一致いっちしている。他たの海域かいいきの風成かざなし循環じゅんかんとは異ことなり、西岸せいがん境界きょうかい流りゅうが存在そんざいしないため、偏西風へんせいふうが供給きょうきゅうする東ひがし向むき運動うんどう量りょうは、海底かいてい地形ちけいに由来ゆらいする形状けいじょう応力おうりょくとバランスしている。

構造こうぞう

南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうにおける海洋かいようフロントの構造こうぞう。Orsi et al. (1995)に基もとづく。

流ながれ路ろは海陸かいりく分布ぶんぷや海底かいてい地形ちけいの影響えいきょうを受うけて変化へんかする。すなわち、大西洋たいせいよう中央ちゅうおう海嶺かいれいの南端なんたん、インド洋いんどようのケルゲレン海うみ台だい、東ひがし太平洋たいへいよう海嶺かいれいの末端まったんなど海底かいていの浅あさいところでは流ながれ向むかいが北側きたがわに曲まがり、これらを乗のり越こえると南側みなみがわに曲まがる。浅あさい海底かいてい地形ちけいの下流かりゅう側がわでは、海洋かいよう渦うずの形成けいせいが盛さかんにおこなわれ、水みず塊かたまり交換こうかんのホットスポットとなっている。

複数ふくすうの海洋かいようフロントに伴ともなう東ひがし向むき流りゅうジェットによって構成こうせいされており、亜熱帯あねったい付近ふきんのSubantarctic Front (SAF)、中心ちゅうしん付近ふきんのPolar Front (PF)、亜寒帯あかんたい付近ふきんのSouthern ACC Front (SACCF)が主おもなフロントとして知しられている。南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうの南限なんげんであるSouthern Boundary (SB)は、上部じょうぶ子こ午うま面めん循環じゅんかんの南限なんげんに対応たいおうする。南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうのさらに南側みなみがわには、大陸棚たいりくだな斜面しゃめんに沿そって西向にしむきに流ながれる南極なんきょく斜面しゃめん流りゅうが存在そんざいしており、南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうとの間あいだで時計とけい回まわりの亜寒帯あかんたい循環じゅんかん（極きょく循環じゅんかんとも）を形成けいせいしている。

気候きこう学がく的てきな役割やくわり

全ぜん球たまの海洋かいよう深層しんそう循環じゅんかんの模も式しき図ず。

南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうは、太平洋たいへいよう・大西おおにし洋ひろし・インド洋いんどようの3つの大洋たいようを繋つなぐことで、地球ちきゅう上じょうの熱ねつと物質ぶっしつの再さい分配ぶんぱいを担になっている。具体ぐたい的てきには、西にし、東ひがしオーストラリア、ペルー、フォークランド、ブラジル、アガラス海流かいりゅうなどによって水みず塊かたまりの交換こうかんが行おこなわれている。南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうを横切よこぎる流ながれとして、底そこ層そうでは南極なんきょく沿岸えんがんの海うみ氷ごおり生産せいさんに由来ゆらいする南極なんきょく底そこ層そう水すいが低てい緯度いど側がわへと輸送ゆそうされている。一方いっぽうで、中ちゅう深層しんそうではグリーンランド沖おきで沈しずみ込こんだ北大西洋きたたいせいよう深層しんそう水すいに由来ゆらいする周しゅう極きょく深層しんそう水すいが渦うず拡散かくさんなどによって高緯度こういど側がわへと輸送ゆそうされている。したがって、南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうは全ぜん球たまの海洋かいよう深層しんそう循環じゅんかん（熱塩あつしお循環じゅんかん）の中枢ちゅうすうであり、地球ちきゅう上じょうの熱ねつ循環じゅんかんと炭素たんそ循環じゅんかんを考かんがえる上うえで本質ほんしつ的てきに重要じゅうようである。

南極なんきょく周しゅう極きょく流りゅうによって東ひがし向むきに運はこばれる周しゅう極きょく深層しんそう水すいは、南極なんきょく沿岸えんがん域いきにおいて最もっとも高温こうおん・高こう塩分えんぶんな水みず塊かたまりであるため、南極なんきょくの気候きこうを制御せいぎょしている。周しゅう極きょく深層しんそう水すいが南極なんきょくの大陸棚たいりくだなに流入りゅうにゅうすると、南極なんきょくの棚たな氷ごおりの融解ゆうかいを引ひき起おこす。こうして海うみが供給きょうきゅうする熱ねつが、南極なんきょく氷ごおり床ゆかの融解ゆうかいが進行しんこうしている主おもな原因げんいんとなっている。地球ちきゅう温暖おんだん化かに伴ともなって偏西風へんせいふうが強化きょうかされることが予測よそくされているが、風ふうが強つよくなると周しゅう極きょく深層しんそう水すいの極きょく向むき渦うず輸送ゆそうを強化きょうかする可能かのう性せいがあるため、氷こおり床ゆか融解ゆうかいへの影響えいきょうが懸念けねんされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 青木あおき茂しげる『南極なんきょく海かいダイナミクスをめぐる地球ちきゅうの不思議ふしぎ』シーアンドアール研究所けんきゅうじょ〈SUPERサイエンス〉。 
• Talley et al., Descriptive Physical Oceanography 6th edition, Elsevier
• IPCC 海洋かいよう・雪氷せっぴょう圏けん特別とくべつ報告ほうこく書しょ（2019）

関連かんれん項目こうもく

• 南極なんきょく海かい
• 南極なんきょく氷ごおり床ゆか
• 偏西風へんせいふう
• 熱塩あつしお循環じゅんかん
• 南極なんきょく底そこ層そう水すい
• 棚たな氷ごおり

外部がいぶリンク

• Circulation of the Southern Ocean
• “海上保安庁かいじょうほあんちょうによる漂流ひょうりゅうブイの軌跡きせき”. 海上保安庁かいじょうほあんちょう. 2015年ねん2月がつ22日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2009年ねん1月がつ17日にち閲覧えつらん。