土岐とき定じょう政せい

凡例はんれい 土岐とき定じょう政せい
時代じだい	戦国せんごく時代じだい - 安土あづち桃山ももやま時代じだい
生誕せいたん	天文てんもん20年ねん（1551年ねん）
死没しぼつ	慶長けいちょう2年ねん3月3日にち（1597年ねん4月がつ19日にち）
改名かいめい	愛あい菊丸きくまる（幼名ようみょう）→菅沼すがぬま定じょう政せい→土岐とき定じょう政せい
別名べつめい	藤蔵とうぞう（通称つうしょう）
戒名かいみょう	増ぞう円えん寺てら真ま庵あん源げん空そら
墓所はかしょ	東京とうきょう都と品川しながわ区く北品川きたしながわの東海寺とうかいじ春雨はるさめ庵あん
官位かんい	従したがえ五ご位い下した、山城やましろ守もり
主君しゅくん	徳川とくがわ家康いえやす
藩はん	下総しもうさ守谷もりや藩はん主あるじ
氏族しぞく	明智あけち氏し?→菅沼すがぬま氏し→土岐とき氏し
父母ちちはは	父ちち：明智あけち定明さだあき?、母はは：菅沼すがぬま定広さだひろの娘むすめ 養父ようふ：菅沼すがぬま定じょう仙せん
妻つま	鳥居とりい元忠もとただの娘むすめ
子こ	頼よりゆき顕あきら、定義ていぎ、女子じょし（本多ほんだ成しげる重じゅう室しつ）、女子じょし（牧野まきの信成のぶなり室しつ）

土岐とき 定じょう政せい（とき さだまさ）は、戦国せんごく時代じだいから安土あづち桃山ももやま時代じだいにかけての武将ぶしょう。美濃みの土岐とき氏し庶流・明智あけち氏しの一族いちぞくを称しょうし、明智あけち一族いちぞくが離散りさんした際さいに母方ははかたの菅沼すがぬま氏しを頼たよって三さん河かわに逃のがれたものとした。少年しょうねん時代じだいから徳川とくがわ家康いえやすに近侍きんじし、菅沼すがぬま定じょう政せい（通称つうしょうは藤蔵とうぞう）として多おおくの戦たたかいで武功ぶこうを挙あげた。家康いえやすの関東かんとう入部にゅうぶ後ごは下総しもうさ国守こくしゅ谷だに（現在げんざいの茨城いばらき県けん守谷もりや市し）で1万まん石せきの領主りょうしゅとなり、家康いえやすの命いのちを受うけて名字みょうじを土岐ときに改あらためた。

人物じんぶつ

生おい立たち

江戸えど期きに編纂へんさんされた『寛政かんせい重じゅう修おさむ諸家しょか譜ふ』（以下いか『寛政かんせい譜ふ』）では室町むろまち時代じだい初期しょきに美濃みの国こく土岐とき郡ぐん明智めいちを領りょうして「明智めいち」を称しょうした土岐とき（明智めいち）頼よりゆき重じゅうの子孫しそんとし、祖父そふは頼よりゆき明あきら（彦九郎ひこくろう、上総かずさ介かい）、父ちちは定明さだあき（兵部ひょうぶ大輔だいすけ）とした。定てい政せいは天文てんもん20年ねん（1551年ねん）、美濃みの国こく多芸たげい郡ぐんに生うまれた。母ははは菅沼すがぬま定広さだひろ（大膳だいぜん亮あきら）の娘むすめで、幼名ようみょうは「愛あい菊きく」という。天文てんもん21年ねん（1552年ねん）、斎藤さいとう道三どうさんとの戦たたかいで父ちちが討死うちじにし、一族いちぞくは離散りさんしたとし、幼少ようしょうの愛あい菊きくは明智めいち家かの家臣かしんたちに抱いだかれて三河みかわ国こくに逃のがれ、母方ははかたのおじである菅沼すがぬま定てい仙せん（さだのり）（常陸ひたち介かい）に養やしなわれたとした。菅沼すがぬま定じょう仙せんは井代いしろ城じょう（新城しんじょう市し井代いしろ）の城主じょうしゅで田峯だみね菅沼すがぬま定広さだひろの五ご男なん（菅沼すがぬま定じょう継つぎ・定てい直じきらの弟おとうと）にあたる。

『上野うえの沼田ぬまた 土岐とき家か譜ふ』によれば、父ちち定明じょうみょうが惣領そうりょう家かの美濃みの守護しゅご土岐とき頼よりゆき芸げいと家臣かしんの斎藤さいとう道三どうさんの間あいだの内紛ないふんに巻まき込こまれて、それに乗じょうじた弟おとうとの定てい衡（定てい政せいの叔父おじ）によって殺害さつがいされる事変じへんが起おこったという。

徳川とくがわ家康いえやすに仕つかえる

永えい禄ろく7年ねん（1564年ねん）、14歳さいの愛あい菊きくは定てい仙せんに伴ともなわれて家康いえやすに御ご目見まみし、「菅沼すがぬま藤蔵とうぞう」を称しょうして家康いえやすの近侍きんじとなった。『寛政かんせい譜ふ』によれば思慮しりょ深ふかい美少年びしょうねん（「其そのかたち美麗びれいにしてこころばせ人じんにこえたり」）であったといい、家康いえやすの寵愛ちょうあいを受うけて、同年どうねんには加藤かとう吉正よしまさ（久ひさ大夫たいふ）を附属ふぞくされた。永えい禄ろく8年ねん（1565年ねん）、寺部てらべ城じょう攻せめで初陣ういじんを飾かざるが、この時とき家康いえやすは自みずから定てい政せいに鎧よろいを着きせ、貞宗さだむねの脇差わきざしを与あたえた。定てい政せいは初陣ういじんながら先登せんとうを果はたし、首級しゅきゅうを挙あげたことから、三河そうご国こく加茂かも郡ぐん内ないに知行ちぎょう地ちを与あたえられた。

以後いご、永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）から翌年よくねんの掛川かけがわ城しろ攻ぜめに加くわわり、元もと亀かめ元年がんねん（1570年ねん）の姉川あねがわの戦たたかいでは首級しゅきゅう6を挙あげた。元もと亀かめ3年ねん（1572年ねん）、武田たけだ信玄しんげんが遠江とおとうみ国こくに侵攻しんこうすると、本多ほんだ忠勝ただかつの指揮しき下かで一言ひとこと坂ざかの戦たたかいを戦たたかい、渡辺わたなべ守まもる綱つなとともに殿軍でんぐんを務つとめた。同年どうねん12月がつ22日にちの三方みかたヶ原ばらの戦たたかいでも奮戦ふんせんした。天正てんしょう2年ねん（1574年ねん）4月がつ、遠江とおとうみ国こく犬いぬ居きょ谷だにの天野あまの景けい貫ぬきとの戦たたかいでは、徳川とくがわ勢ぜいが混乱こんらんする中なかで奮戦ふんせんし、首級しゅきゅう13を挙あげた。天正てんしょう3年ねん（1575年ねん）5月がつ21日にちの長篠ながしのの戦たたかいにおいては先陣せんじんを受うけ持もち、戦後せんごの遠江とおのえ国こく進攻しんこうにも活躍かつやくした。小山こやま城しろ攻せめに際さいしては「井い呂りょの退しりぞき口こう」と語かたられる活躍かつやくを見みせている。

天正てんしょう10年ねん（1582年ねん）に武田たけだ家かが滅ほろびたのち、甲斐かい国こく巨摩こま郡ぐん切石きりいし（現在げんざいの山梨やまなし県けん南巨摩みなみこま郡ぐん身延みのぶ町まち切石きりいし）で1万まん石せきの所領しょりょうを与あたえられた。天正てんしょう12年ねん（1584年ねん）の小牧こまきの戦たたかいでは、敵てき将しょうを生いけ捕どり密書みっしょを押収おうしゅうするなどの活躍かつやくを見みせ、長久手ながくての戦たたかいでは池田いけだ勝まさる入いれ（恒つね興きょう）勢いきおいと交戦こうせんして敗走はいそうさせたほか、夜間やかんに敵陣てきじんに1騎きで突入とつにゅうして敵情てきじょうを探さぐり、小幡おばた城しろから小牧こまき山城やましろへの軍勢ぐんぜい移動いどうの判断はんだんに貢献こうけんした。秀吉ひでよしは家康いえやすのこの判断はんだんを大おおいに賞賛しょうさんしたという。定てい政せいは家康いえやすから功こうを賞しょうされ、与力よりき36騎き（もと柴田しばた康かん忠ただし配下はいか）を附属ふぞくされた。天正てんしょう13年ねん（1585年ねん）の第だい一いち次じ上田うえだ合戦かっせんでは援軍えんぐんとして出動しゅつどう。天正てんしょう14年ねん（1586年ねん）に家康いえやすが秀吉ひでよしと和睦わぼくして上洛じょうらくする際さいには、浜松はままつ城じょう守衛しゅえいを命めいじられた。

天正てんしょう18年ねん（1590年ねん）の小田原おだわら征伐せいばつに、菅沼すがぬま定じょう政せいは穴山あなやま衆しゅうを預あずかって従軍じゅうぐんし、小田原おだわら落城らくじょう後ごは関宿せきやど城じょう守衛しゅえいの任務にんむにあたった。天正てんしょう18年ねん（1590年ねん）9月がつ、菅沼すがぬま定じょう政せいは下総しもうさ国こく相馬そうま郡ぐんに領りょう知ちを移うつされ、守谷もりや（『寛政かんせい重じゅう修おさむ諸家しょか譜ふ』は「守屋もりや」と表記ひょうきする。現在げんざいの茨城いばらき県けん守谷もりや市し）を居所きょしょとした（守谷もりや藩はんの成立せいりつと見みなされる）。天正てんしょう19年ねん（1591年ねん）には九戸くのへ政実まさみの乱らんへの出兵しゅっぺいに従したがい、文ぶん禄ろく元年がんねん（1592年ねん）の朝鮮ちょうせん出兵しゅっぺいに際さいしては名護屋なごや城しろに赴おもむいている

文ぶん禄ろく2年ねん（1593年ねん）、菅沼すがぬま定じょう政せいは家康いえやすの命いのちで土岐ときを称しょうするとともに、従したがえ五ご位い下か・山城やましろ守まもるに叙任じょにんした。

慶長けいちょう2年ねん（1597年ねん）3月がつ3日にち、守谷もりやにおいて47歳さいで死去しきょ。守谷もりやに定てい政せいが創建そうけんした増ぞう円えん寺てらに葬ほうむられた。なお、土岐とき頼よりゆき行ぎょうが増ぞう円えん寺てらを出羽いずは国こく軽井沢かるいざわに移うつしたことにともない改葬かいそうされ、さらに土岐とき頼よりゆき殷いんのときに品川しながわの東海寺とうかいじ春雨はるさめ庵あんに改葬かいそうされた。

家督かとくは嫡男ちゃくなんの土岐とき定義さだよしが継ついだ。

逸話いつわ　

• 『寛政かんせい譜ふ』『徳川とくがわ実紀みき』には以下いかのようなエピソードが載のる。少年しょうねん時代じだいのある時とき（『寛政かんせい譜ふ』によれば三方みかたヶ原ばらの戦たたかいの前まえ）、定てい政せいが家康いえやすの側がわに控ひかえて仮眠かみんをとっていたが、この際さい寝言ねごとで養父ようふ（菅沼すがぬま定じょう仙せん）のことをい出いだした。しかしこの時とき定てい仙せんは武田たけだ方かたについており、甲府こうふにいた。次つぎの朝あさ、家康いえやすが定てい政せいに対たいして、養父ようふを思おもうこと切実せつじつであると見みえる、さぞ会あいたいのであろう、暇ひまを取とらせるのでいずこにも行いくと良よい、と言いった。定てい政せいが御前ごぜんから下さがって朋輩ほうばいに言いうには、養父ようふを思おもうがあまり夢ゆめの中なかとは言いえ敵国てきこくに行いこうと言いったのはこの上うえもない恥辱ちじょくである。この上うえは切腹せっぷくしてご恩おんに報むくいよう、と、脇差わきざしに手てをかけたので朋輩ほうばいが押おしとどめ、この顛末てんまつを家康いえやすに言上ごんじょうした。家康いえやすは定てい政せいを呼よび出だし、先さきに言いったことは一時いちじの戯じゃれであるので、これまでと変かわらず仕つかえよと言いった。定てい政せいは感謝かんしゃして座ざを下さがると、朋輩ほうばいに対たいして恩命おんめいのありがたさを語かたり、これから戦場せんじょうに立たつときは、人ひとに先立さきだって死しぬか、衆人しゅうじんに抜ぬき出でて勇名ゆうめいをあらわそうと誓ちかった。以後いご、その通とおり武功ぶこうを重かさねたため人々ひとびとは感かんじ入いり、家康いえやすは「長光ちょうこうの御ご刀かたな」を下賜かししたという。

系譜けいふ

特記とっき事項じこうのない限かぎり、『寛政かんせい重じゅう修おさむ諸家しょか譜ふ』による。子この続柄つづきがらの後のちに記しるした ( ) 内ないの数字すうじは、『寛政かんせい譜ふ』の記載きさい順じゅん。

• 父ちち：明智あけち定明さだあき？
• 母はは：菅沼すがぬま定広さだひろの娘むすめ
• 生母せいぼ不明ふめいの子こ
  • 長男ちょうなん(1)：頼よりゆき顕あらわ - 早世そうせい。
• 正室せいしつ：鳥居とりい元忠もとただの娘むすめ
  • 二男じなん(2)：土岐とき定義さだよし
  • 女子じょし(3)：本多ほんだ成しげる重じゅう室しつ
  • 女子じょし(4)：牧野まきの信成のぶなり室しつ

『寛政かんせい譜ふ』の土岐とき家かの譜ふによれば、定てい政せいの母はは（菅沼すがぬま定広さだひろの娘むすめ）は明智めいち家か没落ぼつらく時じに家いえに伝来でんらいした文書ぶんしょ（足利あしかが将軍家しょうぐんけの御教書みぎょうしょや系図けいずなど）を携たずさえて他国たこくに逃のがれ、辛苦しんくすること数すう十じゅう年ねんののちに定てい政せいの所在しょざいを知しり、これらを渡わたしたとある。ただし『寛政かんせい譜ふ』の菅沼すがぬま家かの譜ふによれば、定てい政せいの母ははは明智あけち定明さだあきの没後ぼつご、奥平おくだいら貞勝さだかつに再嫁さいかしたとある。

庶長子ちょうしの頼よりゆき顕あきら（よりあきら）は、父ちちと同おなじ「藤蔵とうぞう」の通称つうしょうを名乗なのっているが、早世そうせいした。

明智あけち光秀みつひでとの関係かんけい

織田おだ信長のぶながに仕つかえた明智あけち光秀みつひでは、その出自しゅつじなども含ふくめ諸説しょせつが唱となえられているが、『続つづけ群ぐん書しょ類従るいじゅう』所収しょしゅう「土岐とき家系かけい図ず」や、定てい政せいの子孫しそんである沼田ぬまた藩はん土岐とき家かに伝つたわった『土岐とき定じょう政せい伝でん』（1679年ねん）によれば光秀みつひでと定てい政せいは「従兄弟いとこ」にあたるとされた。文ぶん亀かめ2年ねん（1502年ねん）の年紀としのりのある「土岐とき頼よりゆき尚なお譲状ゆずりじょう」は、頼よりゆき典てん（兵部ひょうぶ少しょう輔）を廃嫡はいちゃくして弟おとうとの頼よりゆき明あきら（彦九郎ひこくろう）に所領しょりょうと家督かとくを譲ゆずるというもので、光秀みつひでは頼よりゆき典てんの孫まごにあたるとされる。

外部がいぶリンク

• 山城やましろ守まもる土岐とき定じょう政せい伝でん - 国立こくりつ公文書こうぶんしょ館かん
• 明智あけち物語ものがたり - 国立こくりつ公文書こうぶんしょ館かん