坂井さかい宏ひろし先さき

坂井さかい 宏ひろし先さき（さかい ひろゆき、1946年ねん - 2014年ねん4月がつ18日にち）は愛知あいち県けん新城しんじょう市し出身しゅっしんの編集へんしゅう者しゃ、出版しゅっぱん社しゃ経営けいえい者しゃ。ポプラ社ぽぷらしゃ元もと代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう。

経歴けいれき

家具かぐ屋やの家庭かていに生うまれる。本来ほんらいは小説しょうせつ家か志望しぼうで、早稲田大学わせだだいがく教育きょういく学部がくぶ卒業そつぎょう後ごに女子美術大学じょしびじゅつだいがく付属ふぞく高等こうとう学校がっこうで1年間ねんかん教鞭きょうべんを執とりつつ小説しょうせつを書かいたが、作家さっかの道みちを断念だんねんし、1972年ねん、ポプラ社ぽぷらしゃに中途ちゅうと入社にゅうしゃ。

初はじめは倉庫そうこに配属はいぞくされ、砂埃すなぼこりの舞まう劣悪れつあくな環境かんきょうに憤いきどおりを感かんじて「オレが社長しゃちょうになって、この会社かいしゃを変かえてやる」と宣言せんげん。1974年ねん、「同族どうぞく会社かいしゃの悲劇ひげき」と題だいする意見いけん書しょを経営けいえい陣じんに提出ていしゅつし、同族どうぞく経営けいえいだったポプラ社ぽぷらしゃの体質たいしつを批判ひはんしたために当時とうじの社長しゃちょうから解雇かいこされそうになった。また、労働ろうどう組合くみあいのない同社どうしゃで「社員しゃいんの会かい」を結成けっせいし、労使ろうし交渉こうしょうに乗のり出だして「代表だいひょう取締役とりしまりやくヒラ社員しゃいん」と呼よばれた。

編集へんしゅう者しゃとしては那須なす正幹まさみきの『ズッコケ三さん人組にんぐみ』シリーズを第だい1作さく『それいけズッコケ三さん人組にんぐみ』（1978年ねん）から全作ぜんさく手てがけた他ほか、原はらゆたかの人気にんきシリーズ『かいけつゾロリ』をも担当たんとう。1983年ねんには発注はっちゅう先さきの印刷いんさつ会社かいしゃの再編さいへんに乗のり出だし、その年度ねんどで9200万まん円えん、次じ年度ねんどで2億おく円えんの経費けいひ削減さくげんに成功せいこう。1987年ねん、初はじめて管理かんり職しょく（課長かちょう代理だいり）になる。

編集へんしゅう部長ぶちょうから専務せんむ取締役とりしまりやくを経へて、1998年ねんに代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう就任しゅうにん。2000年ねんには一般いっぱん向むけ書籍しょせきの編集へんしゅう部ぶを設立せつりつし、翻訳ほんやく物ぶつの自己じこ啓発けいはつ小説しょうせつ『Good Luck』で160万まん部ぶの売うり上あげを記録きろく。また2002年ねんには児童じどう向むけ総合そうごう百科ひゃっか事典じてん『総合そうごう百科ひゃっか事典じてんポプラディア』全ぜん12巻かんを企画きかくし、社員しゃいんからの猛もう反対はんたいにもかかわらず2010年ねんまでに6万まんセット以上いじょうの売うり上あげを達成たっせいした。中国ちゅうごく進出しんしゅつにも野心やしん的てきであった。

2013年ねん11月25日にち、社長しゃちょう職しょくを退任たいにんし、非常勤ひじょうきん顧問こもんに就任しゅうにんした。この頃ころから病気びょうき療養りょうよう中ちゅうだったという。

2014年ねん4月がつ18日にち死去しきょ。68歳さい没ぼつ。

人物じんぶつ

40歳さい頃ごろまで実家じっかから仕送しおくりを受うけていたが、いつか必かならず社長しゃちょうになると自みずから信しんじていたため、それまでの必要ひつよう経費けいひと思おもっていたという。

逸話いつわ

ズッコケ三さん人組にんぐみの誕生たんじょう

『それいけズッコケ三さん人組にんぐみ』は本来ほんらい『ずっこけ三さん銃じゅう士し』という題名だいめいだったが、それを古臭ふるくさいと感かんじて現行げんこうの題名だいめいに改あらためたのは坂井さかいだった。著者ちょしゃの那須なす正幹まさみきに無断むだんで改題かいだいして刊行かんこうし、那須なすを驚おどろかせた。

ズッコケシリーズの後書あとがきで「8ヶ月かげつに1冊さつ書かきます」と書かいた那須なすの文章ぶんしょうを「6ヶ月かげつに1冊さつ」として活字かつじ化かし、「もう本ほんになってしまってますし、今いまから変更へんこうするのもおかしいし、あれで読者どくしゃは6ヵ月かげつ後ごと思おもってます。このままでいきましょう!」と強引ごういんに押おし切きって1年ねん2冊さつのペースに持もって行いかせたのも坂井さかいだった。

那須なす正幹まさみきへの謝罪しゃざい

1983年ねんに『とびだせズッコケ事件じけん記者きしゃ』が出でた頃ころ、東京とうきょう新宿しんじゅくの飲のみ会かいで那須なすが当時とうじの新人しんじん作家さっか薫かおるくみこに「編集へんしゅう者しゃは坂井さかいさん一いち人にんじゃないけん、いろんな人ひととやりなさい」と発言はつげんした。

しかし、これに坂井さかいが反撥はんぱつし、「何なにてことを言いうんだ。この子こはぼくが全力ぜんりょくを尽つくして、ここまで育そだてて来きたんだ」、「だいたいあんたたちは礼儀れいぎがなっていない。室生むろう犀星さいせいは軽井沢かるいざわにいたころ、東京とうきょうからの編集へんしゅう者しゃをお迎むかえするときは、玄関げんかんに水みずをまき、玉砂利たまじゃりの目めをそろえて、心こころしてお迎むかえしたものだ。しかるにあんたたちは、そうした礼儀れいぎも何なにもないではないか」と那須なすや吉本よしもと直志ただし郎ろうを難詰なんきつした。

坂井さかいの言葉ことばに不快ふかい感かんを覚おぼえた那須なすは憤懣ふんまんやる方ほうなく「もう坂井さかいさんとの付つき合あいはやめよう、だからズッコケも終おわりにしよう」と決心けっしん、「わしはもう、ズッコケは書かけない。これは坂井さかいさんとの仕事しごとだからね。ほかの編集へんしゅう者しゃとではだめなんだ」と坂井さかいにい渡いわたし、シリーズが中絶ちゅうぜつの危機ききに瀕ひんしたこともあった。この時ときは、坂井さかいが不遜ふそんを詫わびて和解わかいが成立せいりつした。「36年ねんの人生じんせいで初はじめて、心しんから頭あたまを下さげた」と坂井さかいは言いっている。

前川まえかわかずおから高橋たかはし信也しんやへの交代こうたい

1992年ねん7月がつ、ズッコケシリーズの挿絵さしえを第だい1作さくから担当たんとうしていた前川まえかわかずおが急性きゅうせい白血病はっけつびょうで入院にゅういんし、面会めんかい謝絶しゃぜつとなった。

同年どうねん12月1日にちに『ズッコケ三さん人組にんぐみ対たい怪盗かいとうX』の刊行かんこうを予定よていしていた坂井さかいは12月刊行かんこうを諦あきらめかけたが、別べつの人気にんきシリーズが画家がかの妊娠にんしんによって1年ねん休刊きゅうかんしたばかりに売うれなくなってしまったという苦にがい経験けいけんを持もっていた上うえ、ポプラ社ぽぷらしゃ会長かいちょうの田中たなか治夫はるお（当時とうじ）から「坂井さかい君くん、こども達たちは待まっているぞ」と言いわれたことで決心けっしんを固かため、前川まえかわに無断むだんで高橋たかはし信也しんやに「前川まえかわ先生せんせいそっくりの画がを描えがいてくれないか」と持もちかけ、「それは無理むりです。前川まえかわ先生せんせいに失礼しつれいですよ」と固辞こじする高橋たかはしを強引ごういんに説得せっとくして前川まえかわタッチのイラストを描えがかせた。

その後ご、前川まえかわ夫人ふじんにそのイラストを見みせ「実じつは12月には、どうしても本ほんを出だしたいんです。先生せんせいの病状びょうじょうは良よくなりませんし、このままでは本ほんが出だせませんので」と説明せつめいした。前川まえかわ夫人ふじんは「あなたは一体いったい、何なにを考かんがえているの。主人しゅじんは今いま、病気びょうきと闘たたかって生いきるか死しぬかの境さかいをさまよっているんですよ」、「画家がかを代かえるなら別べつシリーズにしてほしい、というのが夫おっとの考かんがえ」と反撥はんぱつしたが、坂井さかいは「こども達たちは待まっているんです」と田中たなかの言葉ことばを引用いんようして前川まえかわ夫人ふじんを説得せっとくし、最終さいしゅう的てきには前川まえかわ夫妻ふさいの諒承りょうしょうを取とり付つけ、12月24日にちの同書どうしょ刊行かんこうを実現じつげんした。

前日ぜんじつから自宅じたくに一時いちじ帰宅きたくを許ゆるされていた前川まえかわに向むかって坂井さかいが「ありがとうございました。本ほんができました」と本ほんを差さし出だすと、前川まえかわはその1ページ1ページを慈いつくしむように見みながら「よかったね。よかった、よかった」と我わが事ことのように喜よろこんだ。前川まえかわは、刊行かんこうから約やく3週間しゅうかん後ごの翌よく1993年ねん1月がつ13日にち、55歳さいで死去しきょした。

社長しゃちょう解任かいにんから死しに至いたる経緯けいい

2013年ねん11月25日にち、坂井さかいは取締役とりしまりやく会かいでクーデターを起おこされ、社長しゃちょうを解任かいにんされた。その理由りゆうは、主おもに会社かいしゃの私物しぶつ化かだったと『週刊しゅうかん新潮しんちょう』2014年ねん5月29日にち号ごうに報ほうじられている。

その後ご、坂井さかいは突如とつじょとして失踪しっそうし、遺体いたいとなって発見はっけんされた。死因しいんは心臓しんぞう発作ほっさ。

外部がいぶリンク

• 井坂いさか博ひろし恭きょうによるインタビュー