子宮しきゅう移植いしょく

子宮しきゅう移植いしょく（しきゅういしょく）は、子宮しきゅうを生体せいたいまたは死体したいから移植いしょくすることである。先天せんてん性せいの子宮しきゅう欠損けっそんや病気びょうき・事故じこ等とうにより子宮しきゅうを失うしなった女性じょせいが、自みずから妊娠にんしん・出産しゅっさんできるようにすることを目的もくてきとする。

概要がいよう

子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつに要ようする手術しゅじゅつ時間じかんは6時じ間あいだほどで、施術しじゅつ12ヶ月かげつ後ごを経過けいかした後のちに、体外たいがい受精じゅせいの手続てつづきを開始かいしすることが可能かのうで、妊娠にんしん中ちゅうの母親ははおやは合併症がっぺいしょう予防よぼうのために免疫めんえき抑制よくせい剤ざいを服用ふくようする必要ひつようがある。子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつを受うけた女性じょせいは2回かいまで妊娠にんしんを希望きぼうでき、2回かい目めを過すぎると免疫めんえき抑制よくせい剤ざいの服用ふくようを中止ちゅうしするために子宮しきゅう摘出てきしゅつ手術しゅじゅつを受うける。

子宮しきゅう移植いしょくを受うけるにはいくつか制限せいげんがあり、イギリスの子宮しきゅう移植いしょく支援しえん団体だんたい「Womb Tranplant UK」によれば、38歳さい以下いかであること、子宮しきゅう移植いしょくを受うける女性じょせいと関係かんけいが長期ちょうきに及およぶパートナーが存在そんざいすること、健康けんこう体重たいじゅうを維持いじしていること、などを施術しじゅつ条件じょうけんとしている。

歴史れきし

2000年ねんにサウジアラビアで世界せかい初はつの生体せいたい子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつが行おこなわれた。26歳さいの女性じょせいに対たいし血縁けつえん関係かんけいにない閉経へいけい後ごの46歳さいの女性じょせいから子宮しきゅうの提供ていきょうを受うけ移植いしょく、移植いしょく後ご2度どの生理せいりが確認かくにんされたが施術しじゅつ後ご99日にち目めに子宮しきゅう内ないに血栓けっせんが発生はっせいし、失敗しっぱいした。

2007年ねん1月がつ15日にちにはアメリカでもニューヨーク・ダウンタウン病院びょういん(New York Downtown Hospital) で2007年度ねんど後半こうはんに実施じっしを計画けいかくしていたことが判明はんめいし、物議ぶつぎを醸かもした。この計画けいかくは「病気びょうきや事故じこで子宮しきゅうを失うしなったが子こどもを望のぞむ女性じょせいに、脳死体のうしたいなどから子宮しきゅうを移植いしょくする手術しゅじゅつ」を目的もくてきとして計画けいかくされ、拒絶きょぜつ反応はんのうの問題もんだいから出産しゅっさん後ごの摘出てきしゅつを目標もくひょうとしており、成功せいこうした。

2011年ねん8月がつにトルコのアクデニズ大学だいがく病院びょういんで先天せんてん性せい子宮しきゅう欠損けっそん症しょうの女性じょせい（卵巣らんそうは存在そんざいし卵子らんしの生産せいさん能力のうりょくを有ゆうする）への死体したいからの子宮しきゅう移植いしょくに成功せいこうした。この女性じょせいは2013年ねん4月がつ、体外たいがい受精じゅせいした胚はいにより妊娠にんしんに成功せいこうした。

2012年ねんにはスウェーデンのヨーテボリ大学だいがくにおいて2組くみ、いずれも母ははから娘むすめへの生体せいたい子宮しきゅう移植いしょくに成功せいこうした。同どう研究けんきゅうチームは、引ひき続つづき8組くみの生体せいたい子宮しきゅう移植いしょくを予定よていしている。その目的もくてきはあくまで子宮しきゅうを欠かく出産しゅっさん適齢てきれいの女性じょせいへの支援しえんであり、出産しゅっさん可能かのう年齢ねんれいを超こえた女性じょせいを助たすけるためではないと強調きょうちょうしている。 2014年ねん1月がつには、同どうグループは、生体せいたい間あいだでの子宮しきゅう移植いしょくを9組くみ行おこなったと発表はっぴょうし、一時いちじ的てきな拒絶きょぜつ反応はんのうや感染かんせんが見みられた例れいもあったが、経過けいかは順調じゅんちょうで全員ぜんいんが数日すうじつ内ないに退院たいいんし、子宮しきゅうの状態じょうたいも良好りょうこうとしている。

2014年ねん9月、子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつを受うけた36歳さいの女性じょせいが、世界せかいで初はじめてとなる出産しゅっさんに成功せいこうした。出産しゅっさんした子供こどもは男児だんじで、早産そうざん気味ぎみではあるものの、母子ぼしともに健康けんこうであると報ほうじられた。

2016年ねん9月、ブラジルのサンパウロ大学だいがく病院びょういんでマイヤー・ロキタンスキー・キュスター・ハウザー症候群しょうこうぐんを患わずらっていた32歳さいの女性じょせいに、45歳さいで脳出血のうしゅっけつ（くも膜まく下か出血しゅっけつ）で亡なくなった女性じょせい脳死体のうしたいからの子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつを実施じっしした。移植いしょくされた女性じょせいの卵巣らんそうに問題もんだいは無なかったため、夫おっとの精子せいしにより体外たいがい受精じゅせいで受精卵じゅせいらんは凍結とうけつ保存ほぞんされた。約やく6週間しゅうかん後ご、月経げっけいが始はじまり、さらに7カ月かげつ後ご、医師いし団だんは受精卵じゅせいらんを子宮しきゅうに着き床ゆかさせた。10日とおか後ごに妊娠にんしんが確認かくにんされ、2017年ねん12月15日にち、35週しゅうおよび3日にちで帝王切開ていおうせっかいにより無事ぶじ出産しゅっさんされた。キングス・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・シェナン教授きょうじゅは子宮しきゅうにもかかわらず、移植いしょくの前まえにおよそ8時じ間あいだ無む酸素さんその状態じょうたいにあり通常つうじょうのおよそ4倍ばいの時間じかん、機能きのう維持いじしたことを特筆とくひつしている。

日本にっぽんでの研究けんきゅう

日本にっぽんでも筑波大学つくばだいがくで動物どうぶつ実験じっけんによる基礎きそ検討けんとう研究けんきゅうが行おこなわれているほか、2009年ねん2月がつには東京大学とうきょうだいがく形成けいせい外科げか三原みはら研究けんきゅうチームの「小児しょうに血液けつえき癌がん患者かんじゃ・卵巣らんそう凍結とうけつに関かんする研究けんきゅう」第だい26回かいワークショップにて、ブタの子宮しきゅう移植いしょくの実験じっけん結果けっか報告ほうこくが公開こうかいされ、子宮しきゅう移植いしょく手術しゅじゅつ自体じたいは可能かのうであると結論けつろんづけた。

2010年ねんに東京大学とうきょうだいがくや慶應義塾けいおうぎじゅくなどの研究けんきゅうチームが行おこなったカニクイザルでの自家じか子宮しきゅう移植いしょく実験じっけんでは、実験じっけんに使つかわれた2匹ひき中ちゅう1匹ひきが手術しゅじゅつに成功せいこうした。1匹ひきは移植いしょくの翌日よくじつ死亡しぼうしたが、1匹ひきは移植いしょく後ごすでに2回かい月経げっけいがあり、子宮しきゅうが機能きのうしていることが確認かくにんされている。 東京とうきょう大学だいがく形成けいせい外科げか三原みはら研究けんきゅうチームより、2011年ねん11月に新あたらしい子宮しきゅう移植いしょく方法ほうほうに関かんし、2012年ねん8月がつに霊長れいちょう類るいを用もちいた自家じか子宮しきゅう移植いしょく後ごの世界せかい初はつの自然しぜん妊娠にんしん・出産しゅっさんが海外かいがい医学いがく誌しに発表はっぴょうされ、子宮しきゅう移植いしょくの基礎きそ研究けんきゅうが大幅おおはばに進すすんだ。2013年ねん5月がつには、日本にっぽん産科さんか婦人ふじん科か学会がっかい学術がくじゅつ講演こうえん会かいにて慶應大学けいおうだいがく産婦人科さんふじんか木須きす伊織いおり助じょ教きょうらがカニクイザルでの自家じか移植いしょく後ごの妊娠にんしん出産しゅっさんを発表はっぴょうし、世界せかいで初はじめて霊長れいちょう類るいでの子宮しきゅう移植いしょく後ごの妊娠にんしん出産しゅっさんに成功せいこうしたことを報告ほうこくした。また、2014年ねん3月がつには子宮しきゅう移植いしょくを研究けんきゅうしている慶応大けいおうだい・京大きょうだい・東大とうだいらのチームが、倫理りんり的てき課題かだいなどを議論ぎろんするために研究けんきゅう会かいを設立せつりつし、国内こくないで臨床りんしょう応用おうようを進すすめる上うえでの留意りゅうい点てんをまとめた指針案ししんあんを公表こうひょうした。2014年ねん8月がつには、慶応大けいおうだいや京都大きょうとだいなどのグループが、国内こくないでの移植いしょく実施じっしに向むけ、子宮しきゅう提供ていきょう者しゃの自発じはつ的てきな意思いし決定けっていや安全あんぜんを確保かくほし、生うまれた子この福祉ふくしに配慮はいりょするとした指針ししん（案あん）をまとめた。 また、2018年ねん5月がつに慶應大学けいおうだいがく産婦人科さんふじんか木須きす伊織いおりらの研究けんきゅうグループが、霊長れいちょう類るい動物どうぶつにおいて免疫めんえき抑制よくせい剤ざいを使用しようしながら子宮しきゅう移植いしょくを行おこない、世界せかいで初はじめて霊長れいちょう類るい動物どうぶつにおける子宮しきゅう同種どうしゅ移植いしょく後ごの妊娠にんしんに成功せいこうしたことを報告ほうこくした。

動物どうぶつ実験じっけん

2002年ねん8月がつ22日にちにスウェーデンのイエいえーテボリ大学てぼりだいがくでマウスの子宮しきゅう移植いしょく・妊娠にんしんに成功せいこうし、イギリスの「内分泌ないぶんぴつ学がく誌し」8月がつ号ごうに発表はっぴょうした。子宮しきゅう移植いしょくの成功せいこう例れいは初はつの事例じれいで、グループは「2、3年ねん後ごには人ひとへの臨床りんしょう応用おうようへ進すすみたい」と語かたった。

2006年ねんに上海しゃんはい交通こうつう大学だいがくで行おこなわれたラットでの同種どうしゅ異こと系けい子宮しきゅう移植いしょく実験じっけんでは、同種どうしゅ異こと系けい子宮しきゅう移植いしょく群ぐんで拒否きょひ反応はんのうが発生はっせいし日ひごとに悪化あっかしたが、同系どうけい子宮しきゅう移植いしょく群ぐんでは拒否きょひ反応はんのうの徴候ちょうこうがないことを示しめした。

また、同おなじく2006年ねんに中華ちゅうか顕微けんび外科げか雑誌ざっしに掲載けいさいされたビーグル犬けんを使つかった実験じっけんでは実験じっけんに使つかわれた8匹ひき中ちゅう6匹ひきが手術しゅじゅつに成功せいこう、6匹ひきのうち2匹ひきが腹腔ふくこう内ない出血しゅっけつおよび失しつ血ちにより死亡しぼうしたが、生存せいぞんした4匹ひきは血栓けっせんがないことが確認かくにんされた。このうち2匹ひきが328日間にちかん生存せいぞんし、残のこり2匹ひきは長期ちょうき的てきに生存せいぞん、移植いしょく7カ月かげつ後ごに自然しぜん妊娠にんしんと自然しぜん分娩ぶんべんを行おこなった。この実験じっけんの結果けっか、ビーグル犬けんの自体じたい子宮しきゅう卵巣らんそう移植いしょくの動物どうぶつモデルは可能かのうであり、生存せいぞん子宮しきゅうは自分じぶんで妊娠にんしんや分娩ぶんべんすることができ、ヒト子宮しきゅう移植いしょくに関連かんれん的てきな実験じっけん証拠しょうこを提供ていきょうできると結論けつろんづけた。

脚注きゃくちゅう・参考さんこう文献ぶんけん

参考さんこう文献ぶんけん

• 三原みはら誠まこと (2009年ねん7月がつ3日にち) (blog). 女性じょせい器き癌がん患者かんじゃにおける卵巣らんそう凍結とうけつと妊にん孕性再建さいけん研究けんきゅう. 東京大学とうきょうだいがく. http://blog.goo.ne.jp/wakate-a/e/069a766fa8a037ca755038d44a6a3b24 2009年ねん7月がつ6日にち閲覧えつらん。. 
• Racho El-Akouri R; Kurlberg G; Dindelegan G; etc. (2002-08). “Heterotopic uterine transplantation by vascular anastomosis in the mouse.” (英語えいご). J Endocrinol. 174 (2): 157-66. ISSN 0022-0795. PMID 12176655. 2002年ねんにイエいえーテボリ大学てぼりだいがくが発表はっぴょうした論文ろんぶん。

関連かんれん項目こうもく

• 不ふ妊にん治療ちりょう
• 代理だいり母はは出産しゅっさん
• リリー・エルベ
• 性別せいべつ適合てきごう手術しゅじゅつ
• ミュラー管かん無む発生はっせい（ロキタンスキー症候群しょうこうぐん）

外部がいぶリンク

• Womb Transplant UK（英語えいご）