川かわ鍋なべ秋蔵あきぞう

川かわ鍋なべ 秋蔵あきぞう（かわなべ あきぞう、1899年ねん8月がつ29日にち - 1983年ねん9月30日にち）は、日本にっぽんの実業じつぎょう家か。グループ売上うりあげ高だかでは日本にっぽん最大さいだいのハイヤー・タクシー会社かいしゃである日本にっぽん交通こうつう株式会社かぶしきがいしゃの創業そうぎょう者しゃである。ハイタク事業じぎょう以外いがいでも、東京急行電鉄とうきょうきゅうこうでんてつの創業そうぎょう者しゃ・五島ごしま慶太けいたと盟友めいゆう関係かんけいにあり、東急とうきゅうグループ傘下さんかに入はいった自動車じどうしゃメーカーである日本にっぽん内燃ないねん機き・オオタ自動車じどうしゃ工業こうぎょうや、英国えいこく車しゃの輸入ゆにゅう販売はんばい大手おおてであった日にち英えい自動車じどうしゃの経営けいえいにも当あたった。

来歴らいれき・人物じんぶつ

埼玉さいたま県けん北足立きたあだち郡ぐん宮原みやはら村むら（後ごの大宮おおみや市し、現げん・さいたま市し北きた区く）に9人にん兄けい姉あねの一人ひとりとして生うまれ、鉄道てつどう省しょう立たて鉄道てつどう工業こうぎょう学校がっこう卒業そつぎょう後ご、鉄道てつどう省しょう大宮おおみや工場こうじょう（現げん・大宮おおみや総合そうごう車両しゃりょうセンター）に勤つとめたが、独立どくりつを志こころざして1919年ねんに上京じょうきょう。梁瀬やなせ商会しょうかいの見習みならい運転うんてん手しゅとなり、1921年ねんには川崎かわさき造船ぞうせん所しょ社長しゃちょう・松方まつかた幸次郎こうじろうの運転うんてん手しゅに転てんじ、将来しょうらいの独立どくりつを目指めざす。

独立どくりつ・開業かいぎょう

1928年ねん4月がつ、貯金ちょきんをはたいて1928年ねん型がたビュイックのフェートン(幌ほろ型がた)の新車しんしゃを4000円えんで購入こうにゅうして独立どくりつ、京橋きょうばし区く木挽こびき町まち(当時とうじ)の同どう業者ぎょうしゃ「トンボ自動車じどうしゃ」の車庫しゃこを間借まがりするいわゆる「同居どうきょ営業えいぎょう」であった。昼間ひるまは川崎かわさき造船ぞうせん所しょの専属せんぞくとして、夜よるは待合まちあいや旅館りょかんを対象たいしょうに営業えいぎょうした。客きゃくの荷物にもつをホームまで運はこんだり、切符きっぷの手配てはいなどの雑用ざつようを引ひき受うけるなど、営業えいぎょう努力どりょくを惜おしまなかったことから業績ぎょうせきは順調じゅんちょうで、年末ねんまつには同おなじビュイックのセダンも購入こうにゅう、運転うんてん手しゅを雇やとって経営けいえい者しゃの立場たちばになった。

1929年ねん6月がつには木挽こびき町まちにおいて「川かわ鍋なべ自動車じどうしゃ商会しょうかい」を設立せつりつした。1931年ねん6月がつには、折おりからの昭和しょうわ恐慌きょうこうによる業績ぎょうせき不振ふしんを打破だはすべく、手持てもちの大型おおがた車しゃ6台だい(ハドソン3台だい、ハップモビル2台だい、スチュードベーカー1台だい)を全すべて売却ばいきゃくして小型こがたのプリマス10台だいに買かい替かえ、大型おおがた車しゃの半額はんがくの料金りょうきんで営業えいぎょうする奇策きさくに打うって出でて成功せいこうした。1934年ねん7月がつには箱根はこねで6台だいによる夏季かき営業えいぎょう開始かいし、1936年ねん4月がつには初はじめて制服せいふく・制帽せいぼうを制定せいてい、業界ぎょうかい内ないでは異例いれいの早はやさで複式ふくしき簿記ぼきを導入どうにゅうし管理かんり面めんを整備せいびするなど新あたらしい試こころみを果敢かかんに実行じっこうし、川かわ鍋なべ自身じしんが陣頭じんとう指揮しきで配車はいしゃに心しんを配くばり得意とくい客きゃくを定着ていちゃくさせたこともあって、東京とうきょうのハイヤー業界ぎょうかいでは一目いちもく置おかれる存在そんざいに成長せいちょうした。(当初とうしょはハイヤー専業せんぎょう、タクシー営業えいぎょうは1940年ねんに開始かいし)

企業きぎょう合同ごうどうによる飛躍ひやく

1937年ねん5月、同どう業者ぎょうしゃの中谷なかたに作次郎さくじろう、岩崎いわさき正治しょうじと合弁ごうべんで資本しほん金きん10万まん円えんの「東宝とうほう自動車じどうしゃ株式会社かぶしきがいしゃ」を設立せつりつし、車両しゃりょう数すう100台だいを数かぞえる大手おおて事業じぎょう者しゃとなる。1938年ねん4月がつには資本しほん金きん45万まん円えんの「日東にっとう自動車じどうしゃ株式会社かぶしきがいしゃ」となり、貸かしガレージや自動車じどうしゃ修理しゅうり業ぎょうなどを営業えいぎょう種目しゅもくに加くわえた。折おりからの日にち中ちゅう戦争せんそうによる戦時せんじ経済けいざい統制とうせいが進行しんこうする中なか、不要ふよう不急ふきゅうと見みなされたハイタク業界ぎょうかいは企業きぎょう合同ごうどうに生いき残のこりを賭かける以外いがいの選択肢せんたくしを失うしない、日東にっとう自動車じどうしゃには中小ちゅうしょうタクシー会社かいしゃが続々ぞくぞくと吸収きゅうしゅう合併がっぺいされていった。

1945年ねんには東京とうきょうのタクシー業界ぎょうかいは俗ぞくに「大だい・日本にっぽん・帝みかど・国くに」と呼よばれる4大会たいかい社しゃに統合とうごうされることとなったが、日東にっとうが京成電鉄けいせいでんてつが設立せつりつした帝都自動車交通ていとじどうしゃこうつう、山崎やまざき種しゅ二にのちに小佐野おさの賢治けんじがバックについた国際こくさい自動車じどうしゃ、業界ぎょうかい大手おおての大和自動車交通だいわじどうしゃこうつうとともに生いき残のこったのは、小山こやま亮あきら元もと代議士だいぎしの紹介しょうかいで、当時とうじ運輸うんゆ通信つうしん大臣だいじんから東京急行電鉄とうきょうきゅうこうでんてつの会長かいちょうに返かえり咲ざいたばかりの五島ごしま慶太けいたを紹介しょうかいされ、東急とうきゅう系けいの東京とうきょうタクシー300台だいとの連携れんけいに成功せいこうし東京とうきょう横浜よこはま電鉄でんてつ（現げん・東急とうきゅう電鉄でんてつ）系けいの「東京とうきょうタクシー株式会社かぶしきがいしゃ」を傘下さんかに収おさめることに成功せいこうしたためで、東急とうきゅうの事実じじつ上じょうの創業そうぎょう者しゃ・五島ごしま慶太けいたとの盟友めいゆう関係かんけいがここに成立せいりつした。川かわ鍋なべは「信仰しんこう的てきなまでの愛情あいじょう」をもって五島ごしま慶太けいたを敬愛けいあいしていたとされるが、五島ごしま慶太けいたによる川かわ鍋なべへの後援こうえんも非常ひじょうに大おおきく、後年こうねんには周囲しゅういから、小佐野おさの賢治けんじ、大川おおかわ博ひろしとともに「五島ごしま門下生もんかせい」と並ならび称しょうされるほどであった。

戦後せんごの発展はってん

1945年ねん12月1日にち、日東にっとうを中心ちゅうしんに経営けいえい統合とうごうしていた11社しゃは「日本にっぽん自動車じどうしゃ交通こうつう株式会社かぶしきがいしゃ」を設立せつりつし、12月29日にちに「日本にっぽん交通こうつう株式会社かぶしきがいしゃ」して今日きょうに至いたっている。しかし、当初とうしょは共同きょうどう経営けいえい者しゃの出資しゅっし持分もちぶんの大半たいはんを日にち交成立せいりつ時じまでに東急とうきゅうが肩代かたがわりしていたため、川かわ鍋なべ秋蔵あきぞうは社長しゃちょうには就任しゅうにんしたものの、会長かいちょうに当初とうしょは東京とうきょうタクシーの品川しながわ主計かずえ、後のちに東急とうきゅう副ふく社長しゃちょうの立花たちばな栄吉えいきちと東急とうきゅう側がわの人間にんげんが据すえられ、主導しゅどう権けんを東急とうきゅう側がわが握にぎった。そして、1947年ねん末まつ頃ごろからは、川かわ鍋なべ側がわと東急とうきゅう側がわの対立たいりつによる川かわ鍋なべ排斥はいせき運動うんどうが展開てんかいされたが、最終さいしゅう的てきには五島ごしま慶太けいたが、「実際じっさいに同社どうしゃを執とり仕切しきっている川かわ鍋なべが自みずからオーナーとなって経営けいえいした方ほうが良よい」と判断はんだんし、1951年ねんに川かわ鍋なべに持株もちかぶの大半たいはんを譲渡じょうとし、日本にっぽん交通こうつうは名実めいじつともに川かわ鍋なべの会社かいしゃとなった。

その後ごもタクシーの屋根やねに行灯あんどんを乗のせたり、1952年ねんの時点じてんで発売はつばい直後ちょくごの国産こくさん車しゃプリンス・セダンを120台だい一括いっかつ購入こうにゅうしたり、無線むせんタクシー、LPG車しゃ、冷房れいぼう車しゃの導入どうにゅうの先頭せんとうを切きるなど、業界ぎょうかい改革かいかくのイニシアティブを取とり続つづける一方いっぽう、1960年ねん4月がつにはそれまで三さん団体だんたいに分裂ぶんれつしていた東京とうきょうのタクシー業界ぎょうかいを一本いっぽん化かし、東京とうきょう乗用じょうよう旅客りょかく自動車じどうしゃ協会きょうかいを発足ほっそくさせたほか、二ふたつ存在そんざいしていた全国ぜんこく組織そしきも同年どうねん7月がつに統一とういつさせ全国ぜんこく乗用じょうよう旅客りょかく自動車じどうしゃ連合れんごう会かいも発足ほっそくさせ、当時とうじ社会しゃかい問題もんだいになっていた「神風かみかぜタクシー」に対たいして業界ぎょうかいの体質たいしつ改善かいぜん運動うんどうを行おこない、業界ぎょうかいのリーダーとなった。

1970年代ねんだい初頭しょとうに問題もんだいとなったタクシー不足ふそくによる乗車じょうしゃ拒否きょひ、乱暴らんぼう運転うんてんの横行おうこうに対たいしても、業界ぎょうかいの体質たいしつ改善かいぜんに取とり組くむと同時どうじに「タクシー下駄げた・靴くつ論議ろんぎ」を展開てんかいし、業界ぎょうかいの不祥事ふしょうじ続発ぞくはつの根源こんげんの一ひとつは、本来ほんらいは多少たしょうぜいたくな乗のり物ものであるタクシーが長年ながねん低ひくい料金りょうきんに抑おさえられていることによると主張しゅちょうし、マスコミを通つうじて一般いっぱん利用りよう者しゃにも理解りかいを求もとめ、東京とうきょうタクシー近代きんだい化かセンター（現げん：東京とうきょうタクシーセンター）設立せつりつへの流ながれを作つくった。

ハイタク業ぎょう以外いがいでの活躍かつやく

1947年ねん、出身しゅっしん地ちである大宮おおみや市しの市議会しぎかい議員ぎいんに当選とうせん。同年どうねんには宮原みやはら小学校しょうがっこうへプールの寄贈きぞうを行おこなっている。宮原みやはら駅えきの東口ひがしぐちには川かわ鍋なべの銅像どうぞうが建たっている。

1950年ねんには日にち英えい自動車じどうしゃを設立せつりつし自動車じどうしゃ輸入ゆにゅう業ぎょうに進出しんしゅつ、1951年ねんには日本にっぽん遊覧ゆうらん自動車じどうしゃ株式会社かぶしきがいしゃを傘下さんかに収おさめ、観光かんこうバス事業じぎょうに進出しんしゅつするなど、実業じつぎょう家かとしてその守備しゅび範囲はんいを広ひろげていった。1954年ねんには五島ごしま慶太けいたの依頼いらいにより、破綻はたんしたオオタ自動車じどうしゃ工業こうぎょうと日本にっぽん内燃ないねん機きの経営けいえいを引ひき受うけ、両社りょうしゃを合併がっぺいして「日本にっぽん自動車じどうしゃ工業こうぎょう」を設立せつりつしたが、自動車じどうしゃメーカーの経営けいえいは軌道きどうに乗のらず、東急とうきゅうグループの「東急とうきゅうくろがね工業こうぎょう」に改組かいそされた後のちは経営けいえいから手てを引ひいた。

また、アジア石油せきゆ（現げん・コスモ石油こすもせきゆ）において石油せきゆの精製せいせい・販売はんばい業ぎょうを経営けいえい、日本電信電話にほんでんしんでんわ公社こうしゃ経営けいえい委員いいん会かい委員いいんも務つとめた。

1960年ねん運輸うんゆ大臣だいじん賞しょう、1961年ねん藍綬らんじゅ褒章ほうしょう、1969年ねん9月がつに勲くん二に等とう瑞宝章ずいほうしょう、1980年ねん5月がつに勲くん二に等とう旭日重光章きょくじつじゅうこうしょうを受章じゅしょうしている。没後ぼつごは東急とうきゅうグループ所有しょゆうの神社じんじゃである東横ひがしよこ神社じんじゃに合祀ごうしされた。

家族かぞく

神かみ一いち行ぎょう著ちょ『閨ねや閥ばつ 改訂かいてい新版しんぱん 特権とっけん階級かいきゅうの盛衰せいすいの系譜けいふ』 336-337頁ぺーじによれば、

｢この川かわ鍋なべ家かの係累けいるいをたどると、長女ちょうじょ・静子しずこは元もと東ひがし交物産ぶっさん社長しゃちょうの峯みね泳およげ造づく、二女じじょ・明子あきこは元もと小田急電鉄おだきゅうでんてつ名誉めいよ会長かいちょう安藤あんどう楢なら六ろくの長男ちょうなん・信正のぶまさ、四よん女じょ・園子そのこは元もと衆議院しゅうぎいん議員ぎいん早稲田わせだ柳やなぎ右みぎ衛門えもんの甥おい、早はや稲田いなだ元彦もとひこにそれぞれ嫁とついでいる。」という。邦子くにこは東京とうきょうガス相談役そうだんやくの安西あんざい邦夫くにおに嫁とついだ。

• 川かわ鍋なべ秋蔵あきぞう
• （婚こん族ぞく）-
  • 川かわ鍋なべ静子しずこ
  • （婚こん族ぞく）峯みね泳およげ造づく - 東ひがし交物産ぶっさん社長しゃちょう
  • 川かわ鍋なべ明子あきこ
  • （婚こん族ぞく）安藤あんどう信正のぶまさ - 小田急電鉄おだきゅうでんてつ名誉めいよ会長かいちょう安藤あんどう楢なら六ろくと、東京とうきょう市し電気でんき局長きょくちょう・鬼怒川きぬがわ水力すいりょく電気でんき役員やくいんの井上いのうえ敬次郎けいじろうの娘むすめ英子えいこ（または東京とうきょう渡辺わたなべ銀行ぎんこう頭取とうどりの渡辺わたなべ治おさむ右みぎ衛門えもんの娘むすめ若子わかこ）の長男ちょうなん
  • 川かわ鍋なべ邦子くにこ
  • （婚こん族ぞく）安西あんざい邦夫くにお - 東京とうきょうガス相談役そうだんやく。内閣ないかく総理そうり大臣だいじん佐藤さとう栄作えいさくの息子むすこの義理ぎりの兄弟きょうだい。
  • 川かわ鍋なべ園子そのこ
  • （婚こん族ぞく）早稲田わせだ元彦もとひこ - 衆議院しゅうぎいん議員ぎいん（1946年ねん - 1976年ねん）早稲田わせだ柳やなぎ右みぎ衛門えもん（勲一等くんいっとう旭日大綬章あさひだいじゅしょう）の甥おい

孫まごに川かわ鍋なべ一いち朗ろう。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『日本にっぽん交通こうつう社しゃ史し』(同社どうしゃ刊かん・1960年ねん)
• 小田おだ獄ごく夫おっと著ちょ『くるま人生じんせい―川かわ鍋なべ秋蔵あきぞう』（1962年ねん）