折口おりぐち春洋はるみ

折口おりぐち 春洋はるみ（おりくち はるみ、旧姓きゅうせい: 藤井ふじい、1907年ねん2月がつ28日にち - 1945年ねん3月19日にち）は、日本にっぽんの国文学こくぶんがく者しゃ、歌人かじん。折口おりぐち信夫しのぶの愛人あいじん、養子ようし。國學院大學こくがくいんだいがく教授きょうじゅ。最終さいしゅう階級かいきゅうは陸軍りくぐん中尉ちゅうい。

経歴けいれき

1907年ねん（明治めいじ40年ねん）2月がつ28日にち、石川いしかわ県けん羽咋はくい郡ぐん一ノ宮いちのみや村むら一ノ宮いちのみや寺家じけい千せん五ご十じゅう七なな番地ばんち（現げん・羽咋はくい市し）に藤井ふじい升ます義ぎの四よん男おとことして生うまれる。

1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）4月がつ、一ノ宮いちのみや小学校しょうがっこうに入学にゅうがく。1919年ねん（大正たいしょう8年ねん）4月がつ、金沢かなざわ市し少将しょうしょう町まち高等こうとう小学校しょうがっこうに転てんじる。長兄ちょうけい・次兄じけいと共ともに、同村どうそんの老婦ろうふをつけて、早はやくから遊学ゆうがくさせられた。1920年ねん（大正たいしょう9年ねん）4月がつ、石川いしかわ県立けんりつ金沢かなざわ第だい一いち中学校ちゅうがっこう（現げん・石川県立金沢泉丘高等学校いしかわけんりつかなざわいずみがおかこうとうがっこう）入学にゅうがく。

1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）4月がつ、國學院大學こくがくいんだいがく予よ科か入学にゅうがく。当時とうじ、予よ科か二に年生ねんせいであった中村なかむら浩ひろし・藤井ふじい貞文さだふみ等ひとしと共ともに、鳥とり船せん社しゃを結むすび、教授きょうじゅ折口おりぐち信夫しのぶの指導しどうによって、初はじめて新派しんぱ短歌たんかを作つくる。1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）10月がつ、品川しながわ区く大井おおい出石いずし町まち五ご千せん五ご十じゅう二に番地ばんち折口おりぐち方かたへ転居てんきょ。折口おりぐち並ならびに鈴木すずき金太郎きんたろう（折口おりぐち信夫しのぶの今宮いまみや中学校ちゅうがっこうでの教おしえ子ご）の影響えいきょうを受うける。1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）3月がつ、國學院大學こくがくいんだいがく国文こくぶん科か卒業そつぎょう。その4月がつ、能登のとから、老婢ろうひ宮永みやながみか女おんなを呼よび来くる。

1931年ねん（昭和しょうわ6年ねん）1月がつ、志願しがん兵へいとして、金沢かなざわの歩兵ほへい第だい7連隊れんたいに入はいり、12月退すさ営。

1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）4月がつ、國學院大學こくがくいんだいがく講師こうしとなる。この頃ころ、加か・越えつ・能のう地方ちほうにおける大だい演習えんしゅうに参加さんか、三日みっか三さん夜やに渉わたるる雨中うちゅう行軍こうぐんの為ため、肋膜ろくまくを冒おかされる。同おなじ頃ごろ、鈴木すずき金太郎きんたろう大阪おおさかに転勤てんきん、家族かぞくとして、折口おりぐちの外そとは、春洋はるみ並ならびにみか女おんなあるのみ。7・8・9月がつ、北軽井沢きたかるいざわの法政大学ほうせいだいがく村むらに療養りょうよう。

1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）12月、折口おりぐちと共ともに、沖縄おきなわ研究けんきゅうに出発しゅっぱつ。鹿児島かごしまからの船ふねに乗のる。

1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）1月がつ下旬げじゅん、大刀洗たちあらい陸軍りくぐん飛行場ひこうじょうに帰かえり著ちょ。同おなじ頃ごろ、明治めいじ神宮じんぐう青年せいねん会館かいかん出版しゅっぱん部ぶ発行はっこう青年せいねん叢書そうしょの一巻いっかんとして、謡曲ようきょく口こう訳やく篇へんを出だす。國學院大學こくがくいんだいがく教授きょうじゅとなる。

1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）8月がつ、「万葉集まんようしゅう研究けんきゅう東歌あずまうた・大伴おおとも集しゅう読本とくほん」（学芸がくげい社しゃ）を著あらわす。

1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）6月がつ4日にちのラジオ放送ほうそう国民こくみん講座こうざ「日本にっぽん民俗みんぞく学がく」第だい5回かいで「祭まつり」と題だいした放送ほうそうを行おこなう。

出征しゅっせい

同年どうねん12月がつ、召集しょうしゅうによつて歩兵ほへい第だい49連隊れんたい入隊にゅうたい。1942年ねん（昭和しょうわ17年ねん）5月がつに召集しょうしゅう解除かいじょされるが、1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）9月がつに再ふたたび召集しょうしゅうを受うけ、地元じもとの金沢かなざわ聯隊れんたいに入はいる。

1944年ねん（昭和しょうわ19年ねん）6月がつ21日にち、千葉ちば県けん柏かしわに集結しゅうけつし、7月がつ9日にち、横浜よこはまから乗船じょうせん。八丈島はちじょうじまへ向むかう。途中とちゅう先発せんぱつ船せん沈没ちんぼつのため、急きゅうに予定よていを変かえて到着とうちゃくしたのが硫黄いおう島とうであったという。

硫黄いおう島とう滞在たいざい中ちゅう、分隊ぶんたい長ちょうを失うしなう。ひとりは内地ないち送還そうかん後ご、折口おりぐち信夫しのぶに春洋はるみの消息しょうそくを伝つたえた矢部やべ健治けんじである。なお、初期しょきは、硫黄いおう島とうの屏風岩びょうぶいわ付近ふきんに配置はいちされていたが、その後ご、元山もとやま部落ぶらくから、春洋はるみ率ひきいる第だい四よん小隊しょうたいが摺鉢山すりばちやまに派遣はけんされ、摺鉢山すりばちやま地区ちくの長田ながた大尉たいい指揮しき下かに入はいり、摺鉢山すりばちやま地区ちくの陣地じんち構築こうちくに取とりかかった。島しまで生活せいかつは厳きびしく、パラチフス、アミーバ病びょうにり患かんした（回復かいふくしている）。

7月がつ21日にち、折口おりぐち信夫しのぶ養嗣子ようししとなる。此頃出先でさきで、中尉ちゅうい任命にんめいのことがある。

1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）3月がつ19日にち、硫黄いおう島とう方面ほうめんで戦死せんしの由よし、東京とうきょう聯隊れんたい区く司令しれい官かんの名なで報告ほうこくがあった。だが、詳細しょうさいな死所しにどころ及およびその月日つきひを知しることは出来できない。折口おりぐち信夫しのぶは米べい軍ぐん上陸じょうりくの2月がつ17日にちを折口おりぐち春洋はるみの命日めいにちと定さだめ、「南島なんとう忌き」と名なづけた。

折口おりぐち信夫しのぶが建たてた父子ふしの墓はかは羽咋はくい市しにある。折口おりぐち信夫しのぶの撰せんした墓碑銘ぼひめい「もつとも苦くるしき ／ たゝかひに ／ 最もっともくるしみ ／ 死しにたる ／ むかしの陸軍りくぐん中尉ちゅうい ／ 折口おりぐち　春洋はるみ ／ ならびにその ／ 父ちち　信夫しのぶの墓はか｣ （／は改行かいぎょう、引用いんよう者しゃが挿入そうにゅう）が刻きざまれている。骨ほねは帰かえってこなかったため、遺髪いはつと軍刀ぐんとうが墓はかには収おさめられている。

家族かぞく・親族しんぞく

• 兄あに - 巽たつみ（眼科がんか医い）
• 養父ようふ - 折口おりぐち信夫しのぶ

歌集かしゅう

• 「鵠くぐいが音おと」（たずがね）、 折口おりぐち信夫しのぶ編纂へんさん（角川書店かどかわしょてん刊かん、1952年ねん）　中公ちゅうこう文庫ぶんこで再刊さいかん（解説かいせつ岡野おかの弘彦ひろひこ、1978年ねん）

1800首しゅを収録しゅうろく。巻末かんまつには「島しま（硫黄いおう島とう）の消息しょうそく」と「追ついひ書がき」があり、硫黄いおう島とうで詠よんだ歌うたと手紙てがみを収おさめる。

研究けんきゅう

雑誌ざっし『民俗みんぞく学がく』に故郷こきょう能登のとの民俗みんぞくについて書かいた「くどきぶし」（3号ごう）、「気き多た通信つうしん（一いち）」（4号ごう）、「気き多た通信つうしん（二に）」（5号ごう）などがある。

『萬葉集まんようしゅうの総合そうごう研究けんきゅう 第だい一いち輯』に「歌うた格かく・文法ぶんぽう・修辞しゅうじ」、『日本にっぽん民俗みんぞく』第だい3号ごうに「弱じゃく法師ほうし」という論文ろんぶんを書かいている。

雑誌ざっし『むらさき』には短歌たんか「卵たまご三みっつ」（8巻かん5号ごう）、「兵へいは若わかし」（9巻かん7号ごう）、「偉えらいなるひと年ねん」（9巻かん12号ごう）、論文ろんぶん「万葉集まんようしゅう・家持いえもちを中心ちゅうしんに」（10巻かん7号ごう）が掲載けいさいされている。

座談ざだん会かい方式ほうしきだが、『國學院こくがくいん雜誌ざっし』46（2）に「神功じんぐう皇后こうごう紀きの輪講りんこう」、『國學院こくがくいん雜誌ざっし』69（2）に「神功しんこう皇后こうごう紀き輪読りんどく」を展開てんかいしている。

米津よねつ千せん之これの「春洋はるみの横顔よこがお」から判明はんめいしたが、『東歌あずまうた、大伴おおとも集しゅう読本とくほん』という著作ちょさくが1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）に學藝がくげい社しゃから出版しゅっぱんされ（北原きたはら白秋はくしゅう、折口おりぐち信夫しのぶ編へん）、その主任しゅにんをつとめている。

論文ろんぶんにとどまらず、ラジオにも出演しゅつえんしていた。石井いしい正ただし己おのれの「柳田やなぎだ国男くにおの放送ほうそう」p.304によれば、国民こくみん講座こうざ「日本にっぽん民俗みんぞく学がく」のうち、1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）6月がつ4日にちの第だい5回かい放送ほうそうで、春洋はるみが「祭まつり」と題だいした放送ほうそうを行おこなっている。

また研究けんきゅうからは少すこし外はずれるが、改造かいぞう社しゃの『新しん万葉集まんようしゅう 巻まき7』に22首しゅ短歌たんかが採用さいようされている。波多はた幾太郎いくたろうがほめたという記録きろくがある。

参考さんこう文献ぶんけん

• 梯はしご久美子くみこ『硫黄いおう島とう 栗林くりばやし中将ちゅうじょうの最期さいご』（Amazon Kindle）文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、2013年ねん。 
• 石井いしい正ただし己おのれ「柳田やなぎだ国男くにおの放送ほうそう」『東京学芸大学とうきょうがくげいだいがく紀要きよう』、1999年ねん
• 池田いけだ彌三郎やさぶろう「折口おりぐち信夫しのぶ外伝がいでん――折口おりぐち春洋はるみのこと――」『中央公論ちゅうおうこうろん』77（5）（894）4月がつ特大とくだい号ごう、1962年ねん
• 「独立どくりつ機関きかん銃じゅう第だい二に大隊だいたい第だい一いち中隊ちゅうたい小隊しょうたい長ちょう　滝澤たきざわ信治しんじ中尉ちゅうい日記にっき」
• 「参考さんこう書類しょるい綴つづり　独立どくりつ機関きかん銃じゅう第だい2大隊だいたい第だい3中隊ちゅうたい兵器へいき係がかり」
• 硫黄いおう島とう協会きょうかい『硫黄いおう島とう協会きょうかいのあゆみ』、1997年ねん
• 折口おりぐち春洋はるみ『鵠くぐいが音おと』中公ちゅうこう文庫ぶんこ、1978年ねん
• 毎日新聞まいにちしんぶん「墓はかマイラー見聞けんぶん録ろく」2018年ねん11月29日にち付づけ朝刊ちょうかん石川いしかわ版ばん
• 米津よねつ千せん之これ「春洋はるみの横顔よこがお」　『短歌たんか研究けんきゅう』20（8）、1963年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「くどきぶし」『民俗みんぞく学がく』3号ごう、1929年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「気き多た通信つうしん（一いち）」『民俗みんぞく学がく』4号ごう、1929年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「気き多た通信つうしん（二に）」『民俗みんぞく学がく』5号ごう、1929年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「弱じゃく法師ほうし」『日本にっぽん民俗みんぞく』小川おがわ直之なおゆき、クレス出版しゅっぱん、1935年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「卵たまご三みっつ」『雑誌ざっし むらさき』8巻かん5号ごう、1941年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「兵へいは若わかし」『雑誌ざっし むらさき』9巻かん7号ごう、1942年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「偉えらいなるひと年ねん」『雑誌ざっし むらさき』9巻かん12号ごう、1942年ねん
• 藤井ふじい春洋はるみ「万葉集まんようしゅう・家持いえもちを中心ちゅうしんに」『雑誌ざっし むらさき』10巻かん7号ごう、1943年ねん
• 北原きたはら白秋はくしゅう、折口おりぐち信夫しのぶ編へん『東歌あずまうた、大伴おおとも集しゅう読本とくほん』 學藝がくげい社しゃ、1935年ねん
• 山本やまもと三さん生なま 編集へんしゅう『新しん万葉集まんようしゅう』巻まき7 改造かいぞう社しゃ、1938年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 硫黄いおう島とうの戦たたかい
• 折口おりぐち信夫しのぶ
• 池田いけだ弥三郎やさぶろう
• 岡野おかの弘彦ひろひこ
• 加藤かとう守雄もりお
• 角川かどかわ源義げんよし

外部がいぶリンク

• 折口おりぐち 春洋はるみ：作家さっか別べつ作品さくひんリスト - 青空あおぞら文庫ぶんこ
• 折口おりぐち信夫しのぶ父子ふし　ゆかりの地ち