放任ほうにん

放任ほうにん（ほうにん）とは、成なり行ゆきに任まかせること。または干渉かんしょうせずに放はなっておくこと。

概要がいよう

放任ほうにんとは、事態じたいの推移すいいになんら手てを出ださないということであり、人ひとの行動こうどうの上うえでは当人とうにんの自己じこ責任せきにんに委ゆだねるという考かんがえである。こと教育きょういくの範疇はんちゅうでは、なんら指導しどうを行おこなわないことを意味いみしている。い換いかえれば各々おのおのが自由じゆうに行動こうどうするに任まかせ、その過程かていで各々おのおのが様々さまざまな判断はんだんを交まじえながら行動こうどうすることを許ゆるす状態じょうたいである。またその結果けっか発生はっせいする責任せきにんをどう果はたすかも当人とうにんの自由じゆうに任まかされている。

プラトンは『国家こっか』第だい8巻かん（557B）において、自由じゆう（エレウテリア）を原理げんりとする民主みんしゅ制せいの特徴とくちょうとして、「言論げんろんの自由じゆう・率直そっちょくさ」（パレーシア）と共ともに、「放任ほうにん」（エクスーシア）を挙あげている。

フランス語ふらんすごのレッセフェール（自由じゆう放任ほうにん主義しゅぎとも）という概念がいねんは、経済けいざい学がくの範疇はんちゅうでしばしば利用りようされる。これは18世紀せいきのフランス重じゅう農のう主義しゅぎ者ものたちが使つかい始はじめたのを、アダム・スミスら古典こてん派は経済けいざい学がく者ものが採用さいようし、定着ていちゃくした概念がいねんである。この形態けいたいに基もとづく経済けいざいは中世ちゅうせいから近代きんだいまで見みえざる手ての働はたらきによってうまく機能きのうしていたが、経済けいざいが複雑ふくざつ化かして実態じったいの無ない価値かち観念かんねんだけが一人ひとり歩あるきするようになっていくと、その方々かたがたで問題もんだいを生うんだ傾向けいこうも否定ひていできない。

家庭かていにおける放任ほうにん

放任ほうにんという言葉ことばが、一般いっぱんの日常にちじょう生活せいかつの場ばで使つかわれる場合ばあいには、もっぱら家庭かてい教育きょういくの範疇はんちゅうで、その家庭かていにおける子供こどもの養育よういく（育児いくじ・しつけ）方針ほうしんのある方向ほうこう性せいを示しめす傾向けいこうがある。この場合ばあいにおける「放任ほうにん主義しゅぎ」とは、主おもに子供こどもには何なにも要求ようきゅうしないでお手伝てつだいの分担ぶんたんも自主じしゅ性せいに任まかせる代かわりに、何なんらかの失敗しっぱいがあってもフォローしないという程度ていどである。

なお行動こうどうには結果けっかが付ついて回まわるわけだが、この結果けっかにどのように対応たいおうするかの意思いし決定けっていも当人とうにんに負おわせるのが放任ほうにんである。更さらに言いえば、その選択せんたくが間違まちがっている場合ばあいでも手てを出ださないのも放任ほうにんであるが、ただ子供こどもは成長せいちょう過程かていで社会しゃかい通念つうねん上じょうモラトリアムと呼よばれる社会しゃかい性せいを獲得かくとくする過程かていで間違まちがいが許容きょようされる期間きかんがあり、これを過すぎてなお過あやまちを繰くり返かえす場合ばあいには、ある一定いってい年齢ねんれい以上いじょうから途端とたんに社会しゃかい責任せきにんを追及ついきゅうされる結果けっかとなる。このため、放任ほうにんにおいても規範きはんを身みをもって示しめすことを通とおして価値かち判断はんだんを行おこなう基準きじゅんをきちんと教育きょういくする必要ひつよう性せいは存在そんざいする。

放任ほうにんの誤用ごよう

ただ、完全かんぜんに養育よういくを放棄ほうきして世話せわもしないこと（いわゆる放置ほうち）は育児いくじ放棄ほうきという児童じどう虐待ぎゃくたいで、これは完全かんぜんに別べつの話はなしである。

家庭かてい教育きょういく全般ぜんぱんで「放任ほうにん」という場合ばあいは、もっぱら厳密げんみつな意味いみでの自己じこ責任せきにんを負おわせるという極きわめて厳きびしいものから、子供こどもの手てに余あまるような事態じたいを除のぞいては手てを出ださないで放はなっておくという程度ていどの自活じかつ、あるいはネグレクトに程近ほどちかい基礎きそ的てきな衣食住いしょくじゅうの提供ていきょう以外いがいは世話せわをしないというものまで、様々さまざまな意味いみを含ふくんでいる。一概いちがいに「放任ほうにん主義しゅぎ」といっても、その内容ないようも程度ていども様々さまざまである。