斜視しゃし

斜視しゃし
概要がいよう
診療しんりょう科か	眼め科学かがく, 斜視しゃし学がく[*]
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10	H49 – H50
ICD-9-CM	378
OMIM	185100
DiseasesDB	29577
MedlinePlus	001004
Patient UK	斜視しゃし
MeSH	D013285

斜視しゃし（しゃし）とは、ヒトの眼めの片方かたがたは視線しせんが正まさしく目標もくひょうとする方向ほうこうに向むいているが、もう片方かたがたの目めが内側うちがわや外側そとがわ、あるいは上うわや下かに向むいている状態じょうたいのことをいう。教室きょうしつなど前まえに近ちかい場所ばしょでは見みえづらく、個人こじん差さがある。

京都大学きょうとだいがくの研究けんきゅうグループはレセプトに基もとづいて、斜視しゃしに分類ぶんるいされる約やく80の病気びょうきを合算がっさんし、加か齢よわいで眼球がんきゅうを支ささえる組織そしきが弱よわることに伴ともなう発症はっしょうを含ふくめて日本人にっぽんじんの50人にんに1人ひとり程度ていどが患わずらっていると推計すいけいし、「国民こくみん病びょうの一ひとつ」と指摘してきしている。

俗ぞくに眇すがめ（すがめ）、ひんがら目め（ひんがらめ）、藪睨やぶにらみ（やぶにらみ）、ガチャ目め、ロンパリ、寄より目めと言いわれる。

眇すがめは、片目かためが細ほそい、あるいは潰つぶれているさまを表あらわすこともある。ひんがら目めは「僻目ひがめ（ひがらめ。僻へき眼めとも）」が変化へんかした語かたりである。また「ロンパリ」は、一方いっぽうの目めでロンドンを見みつつ、もう一方いっぽうの目めでパリを見みているさまに喩たとえた語かたりであるとされる。

原因げんいん

遺伝いでんという説せつもあるが、はっきりした関係かんけい性せいやメカニズムなどはわかっておらず、遺伝いでんによるものとは断定だんていできない。他たには、強度きょうどの近視きんしや遠視えんし、失明しつめい、乳幼児にゅうようじ期きの弱視じゃくしなどで目めの筋肉きんにくバランスが崩くずれてしまうことによる。また、外傷がいしょうによる場合ばあいもある。脳腫瘍のうしゅようによるものもあるので注意ちゅうい。

症状しょうじょう

左右さゆうの目めがそれぞれ異ことなる方向ほうこうを向むいているため、美容びよう的てきなデメリットの他ほか、機能きのう的てきには両りょう眼め視差しさによる立体りったい視し（遠近えんきん感かんの獲得かくとく）が困難こんなんになる他ほか、視みている像ぞうが二ふたつに見みえる複ふく視しが生しょうじることもある。両りょう眼め視差しさによる立体りったい視しはおおよそ生後せいご2ヶ月かげつから2歳さい頃ごろまでで形成けいせいされるので、その期間きかんで恒常こうじょう性せい斜視しゃしが続つづくと、手術しゅじゅつで矯正きょうせいされても両りょう眼め視差しさによる立体りったい視しを獲得かくとくするのは難むずかしくなる。ただし、大人おとなになってから立体りったい視し機能きのうを獲得かくとくした例れいもある。

人間にんげんの目めは本来ほんらい、片方かたがたが左右さゆうのずれを捉とらえ、もう片方かたがたで奥行おくゆきのずれを捉とらえる事ことにより立体りったい視ししている。両りょう眼め視し機能きのうがない人間にんげんは「き目きめ」が両方りょうほうの役割やくわりを担になうことになる。そのためき目きめに負担ふたんがかかりやすく、逆ぎゃくの目めの映像えいぞうは複ふく視しや視力しりょく差さにより脳のう内ないで混乱こんらんを起おこすため「抑制よくせい」と呼よばれる脳のう機能きのうで本来ほんらいの映像えいぞうが制限せいげんされる。両りょう眼め視し機能きのうがある状態じょうたいであれば、前ぜん視界しかいのうち50/50程度ていどの割合わりあいとなるが、仮かりに右目みぎめが斜視しゃし、左目ひだりめが通常つうじょうの場合ばあいは70/30といったような役割やくわり分担ぶんたんとなる。「抑制よくせい」は特とくに幼少ようしょう期きの患者かんじゃに起おこるが、「抑制よくせい」により使つかわれなくなった目めは視力しりょく低下ていかなどを併発へいはつする傾向けいこうがあり、これによりさらに斜視しゃしの症状しょうじょうが進すすんだり、弱視じゃくしとなる可能かのう性せいもある（「斜視しゃし弱視じゃくし」も参照さんしょう）。

左右さゆうどちらの眼めで見みているのか自覚じかくできる場合ばあいがある。片かた眼めしか見みえないわけではなく常つねに両りょう眼めが見みえているのだが、「見みている」眼めと「見みえている」眼めとに意識いしき的てきに切きり替かえることができる。それにより遠方えんぽうと近ちか方かたを左右さゆうで使つかい分わける習慣しゅうかんが身みについた場合ばあい、左右さゆうの視力しりょく差さが大おおきくなることもある。

日常にちじょう生活せいかつへの影響えいきょう

重度じゅうどの斜視しゃしは外見がいけん上じょう非常ひじょうに目立めだつため、いじめや差別さべつ、人ひとの目めを真まっすぐ見みられないなどの理由りゆうによる対人たいじん恐怖症きょうふしょうや、コミュニケーション障害しょうがいになる事こともある。近年きんねんでは心しんのケアを目的もくてきとした外科げか手術しゅじゅつでの見みた目めのみの修正しゅうせいも行おこなわれている。一般いっぱん的てきには3歳さい頃ごろまでに両りょう眼め視し機能きのうを獲得かくとくできなければ、その後ごの獲得かくとくは非常ひじょうに難むずかしく、見みた目めを矯正きょうせいできても両りょう眼め視し機能きのうを獲得かくとくできるわけではないため、物ものが二に重じゅうに見みえたり、左右さゆう別々べつべつの視野しや情報じょうほうを脳のうが「抑制よくせい」してしまい斜視しゃしの目めを使つかわなくなるため、数すう年ねんで戻もどってしまうことが多おおい。ただし、多感たかんな幼少ようしょう期き〜青年せいねん期きにおいて人ひとと目めを見みて話はなすことができないというデメリットを考かんがえると、精神せいしん的てきに大人おとなになるまで定期ていき的てきに外科げか手術しゅじゅつを受うけるのは悪わるくない選択せんたくである。

両りょう眼め視差しさによる立体りったい視し（遠近えんきん感かん）能力のうりょくが無ないと、物ものに触ふれたり物ものをつかんだり、球技きゅうぎ等ひとしをする際さいに目測もくそくを定さだめづらいと感かんじたりすることがある他ほか、坂道さかみちや階段かいだんを下くだる際さいに足あしを踏ふみ外はずす危険きけん性せいもある。

ただ、これらは物ものの大おおきさなどで距離きょり感かんを補おぎなうなどすることが可能かのうなため、実際じっさいは日常にちじょう生活せいかつにおいて不便ふべんや不都合ふつごうを感かんじることはほとんどない。

また、立体りったい映画えいがや3D画像がぞうなどの、左右さゆうの映像えいぞう差さを利用りようした「手前てまえに迫せまってくる」感覚かんかくは認識にんしきできない。ただし、これは必かならずしもそうではなく、斜視しゃしであるが3D映像えいぞうなどの飛とび出だす感覚かんかくを感かんじることができる人ひともいる。

一般いっぱん的てきに、片目かためは左右さゆうのズレを、片目かためは奥行おくゆきを、といった役割やくわり分担ぶんたんがなされるが、幼少ようしょう期きに斜視しゃしになり成人せいじんするとき目きめがそのどちらの役割やくわりもこなすようになるため、運転うんてんなどの比較的ひかくてき平面へいめん的てきな視野しや動作どうさであれば問題もんだい無なくこなすことができる。

幼少ようしょう期きの発症はっしょうによる影響えいきょう

先天せんてん性せいまたは幼少ようしょう期きに斜視しゃしとなった場合ばあいは、上述じょうじゅつの通とおりおおよそ生後せいご2ヶ月かげつから2歳さい頃ごろまでの立体りったい視し形成けいせい段階だんかいで恒常こうじょう性せい斜視しゃしが続つづくと、以降いこうは手術しゅじゅつをしても両りょう眼め視差しさによる立体りったい視し（遠近えんきん感かん）を獲得かくとくすることが難むずかしくなる。

ただし、大人おとなになってから立体りったい視しを獲得かくとくした例れいもある。

同おなじく上述じょうじゅつの通とおり、幼少ようしょう期きは「抑制よくせい」が大人おとなに比くらべて働はたらきやすい。「抑制よくせい」により使つかわれなくなった目めは視力しりょく低下ていか、などを併発へいはつする傾向けいこうがあり、これによりさらに斜視しゃしの症状しょうじょうが進すすむ可能かのう性せいがある。また、人間にんげんの視力しりょくが完成かんせいする8歳さい頃ごろまでの視力しりょく発達はったつ段階だんかいで「抑制よくせい」により使つかわれなくなった目めの視力しりょく低下ていかが続つづくと、弱視じゃくしとなる可能かのう性せいもある。

幼少ようしょう期きの発症はっしょうだと症状しょうじょうの無ない逆ぎゃくの目めがき目きめとなることが多おおく、き腕きうでとき目きめが違ちがうことにより字じがうまく書かけなかったり、まっすぐな線せんが引ひけないなどの症状しょうじょうが出でる場合ばあいがある。

先天せんてん性せいの場合ばあいはこれらの症状しょうじょうが起おこっていても「生うまれたときからの普通ふつうの感覚かんかく」と捉とらえてしまうため本人ほんにんの自覚じかくがない場合ばあいも多おおく、他人たにんが気きづくまで発見はっけんが遅おくれる場合ばあいもある。

分類ぶんるい

目めの位置いちによる分類ぶんるい

内うち斜視しゃし

斜視しゃしのある側がわの目めが内側うちがわを向むくもの

外そと斜視しゃし

斜視しゃしのある側がわの目めが外側そとがわを向むくもの

上下じょうげ斜視しゃし

斜視しゃしのある側がわの目めが上うわや下かを向むくもの

状態じょうたいによる分類ぶんるい

恒常こうじょう性せい斜視しゃし

常つねに斜視しゃしの状態じょうたいであるもの

間歇かんけつ（かんけつ）性せい斜視しゃし

普段ふだんは正常せいじょうだが時々ときどき斜視しゃしの状態じょうたいになるもの

斜視しゃし眼めでの分類ぶんるい

交代こうたい斜視しゃし

左右さゆうの目めが交代こうたいに斜視しゃしの状態じょうたいになるもの

片かた眼め斜視しゃし

斜視しゃしになる目めが、どちらか片方かたがたの目めに決きまっているもの

その他たの分類ぶんるい

廃はい用よう性せい外がい斜視しゃし

失明しつめいした眼めは外そと転てん筋すじの作用さようにより外そとを向むく傾向けいこうがあるため起おきるもの

固定こてい内ない斜視しゃし

調節ちょうせつ性せい内ない斜視しゃし

脳腫瘍のうしゅようによるもの

脳幹のうかん部ぶ（橋はし）部ぶに脳腫瘍のうしゅようが発生はっせいしたことによる内うち斜視しゃしと複ふく視しが認みとめられる。小児しょうに脳幹のうかん部ぶグリオーマ

治療ちりょう

斜視しゃしの原因げんいんにより、基本きほん的てきには異ことなる。眼科がんか専門医せんもんい、視み能のう訓練くんれん士しによる検査けんさにより明確めいかくにその原因げんいんについてはっきりさせ治療ちりょう計画けいかくをたてる。

調節ちょうせつ性せい内ない斜視しゃしに代表だいひょうされる斜視しゃしでは、眼鏡めがねやコンタクトレンズなどで屈折くっせつ矯正きょうせいを行おこなうことにより、斜視しゃしを治療ちりょうすることができるケースもある。また物ものを見みる力ちからをつけさせる（視み能のう訓練くんれん）ことにより斜視しゃしを治療ちりょうできる場合ばあいがある。プリズム眼鏡めがね等ひとしを用もちいる方法ほうほうもある。

また、手術しゅじゅつによる治療ちりょう法ほうもある。眼めを動うごかす外そと眼め筋すじの位置いちをずらし、斜視しゃしを治療ちりょうする方法ほうほうである。小児しょうににおいては全身ぜんしん麻酔ますい下したで行おこない、大人おとなは局所きょくしょ麻酔ますいで行おこなう場合ばあいが多おおい。

手術しゅじゅつの合併症がっぺいしょう・危険きけん性せい

手術しゅじゅつ中ちゅう

• 筋肉きんにくの処置しょちをする際さいに脈みゃくが落おちたり、止とまったりする人ひとが稀まれにいる。
• 筋すじの縫合ほうごうの際さいに眼球がんきゅうに穴あなが空すくことがある。

手術しゅじゅつ後ご

• 術じゅつ前まえの斜視しゃしが強つよい場合ばあいは、一回いっかいの手術しゅじゅつでは治なおらない場合ばあいがある。

外部がいぶリンク

• 日本にっぽん弱視じゃくし斜視しゃし学会がっかい
• NHS "Lazy Eye" Site - information about lazy eye（amblyopia） and strabismus（squint）
• Practical approach to diagnosis of strabismus
• Have fun with strabismus - information, demonstration graphics, strabismus surgery