未然みぜんがた

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未然みぜんがた(みぜんけい)とは、日本語にほんご用言ようげんにおける活用かつようかたちひとつ。日本語にほんご動詞どうし形容詞けいようしなどは語形ごけい変化へんかこすが、活用かつようがたとは学校がっこう文法ぶんぽうにおいて語形ごけい変化へんか語形ごけいを6つに分類ぶんるいしたもので、そのうちよんだん動詞どうし語末ごまつだん構成こうせいされているものを基準きじゅんつくられたのが未然みぜんがたである。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

未然みぜんとは「まだそうではない」という意味いみであり、否定ひていの「ず」や意志いし推量すいりょうあらわす「む」によってつくられる語形ごけい意識いしきした名称めいしょうである[1][2]江戸えど時代じだい国学こくがくでははたしかげんともいい、これは「そうしようとする」「そうなるだろう」の意味いみである。

「ず」や「む」をつけるとよんだん動詞どうし語末ごまつはアだんおん変化へんかする。たとえば、「く」は「しょか|ず」「しょか|む」となる。これにもとづき「ず」「む」がいたさいほか動詞どうし活用かつよう形容詞けいようし形容動詞けいようどうし助動詞じょどうし語形ごけい総称そうしょうしたものが未然みぜんがたである。未然みぜんがたさだまると、ぎゃく付属ふぞくほう分類ぶんるいにも使つかわれるようになり、未然みぜんがた接続せつぞくする助詞じょし助動詞じょどうしとして「る・らる」や「す・さす」「まし」…があるというように使つかわれるようになった。

なお現代げんだい口語こうご文法ぶんぽうもこれにもとづいてつくられているが、意志いし推量すいりょうの「む」が「う」になったことと、否定ひていの「ず」が「ない」になったこととで語形ごけいことなるものになっており、よんだん動詞どうしは「こう」のようにアだんおん+う→だん長音ちょうおん変化へんかしたので、だん動詞どうしとしてオだんおんふくむことになり、形容詞けいようし形容動詞けいようどうしでは「おいしかろう」「しずかだろう」のように「かろ」「だろ」となった。また形容詞けいようし形容動詞けいようどうしに「ない」がつくと「おいしくない」「しずかではない」のようになるのであるが、「ない」を補助ほじょ形容詞けいようしとして連用れんよう修飾しゅうしょくの「く」や「で」としたので、形容詞けいようし形容動詞けいようどうしにおいて否定ひていがた未然みぜんがたから除外じょがいされることになった。

文語ぶんご 口語こうご
品詞ひんし 活用かつよう種類しゅるい れい 語形ごけい 活用かつよう種類しゅるい れい 語形ごけい
動詞どうし よんだん活用かつよう かか -a だん活用かつよう かか
かこ
-a
-o
ぎょう変格活用へんかくかつよう あり あら -a
ぎょう変格活用へんかくかつよう しな -a
したいちだん活用かつよう -e したいちだん活用かつよう ける うけ -e
しただん活用かつよう 受く うけ -e
うえいちだん活用かつよう -i うえいちだん活用かつよう きる おき -i
うえだん活用かつよう おこり おき -i
ぎょう変格活用へんかくかつよう -o ぎょう変格活用へんかくかつよう -o
ぎょう変格活用へんかくかつよう -e ぎょう変格活用へんかくかつよう する

-i
-e
-a
形容詞けいようし 活用かつよう なし なから から   ない なかろ かろ
シク活用かつよう うつく うつくしから しから
形容動詞けいようどうし ナリ活用かつよう しずかなり しづかなら なら   しずかだ しずかだろ だろ
タリ活用かつよう 堂々どうどうたり だうだうたら たら

言語げんごがくから未然みぜんがた[編集へんしゅう]

形態けいたいろんからると、日本語にほんご動詞どうし子音しいん語幹ごかん動詞どうし母音ぼいん語幹ごかん動詞どうしけられる。よんだん動詞どうしマ字まじ分析ぶんせきすれば、kak|anai・kak|imasu・kak|u…のように変化へんかしていないのはkなどの子音しいん部分ぶぶんまでであることがかる。このかたり変化へんかしていない部分ぶぶん語幹ごかんばれ、附属ふぞくしているものは語尾ごびばれるが、よんだん動詞どうし語幹ごかん子音しいんわるので子音しいん語幹ごかん動詞どうしである。なおこの基準きじゅんからすれば、ぎょう変格活用へんかくかつようぎょう変格活用へんかくかつよう動詞どうし子音しいん語幹ごかん動詞どうしであり、特定とくてい語尾ごびがつくときに不規則ふきそく語形ごけいをもつのみである。一方いっぽう一段いちだん動詞どうしだん動詞どうし語幹ごかん母音ぼいんわる母音ぼいん語幹ごかん動詞どうしである。ただし、文語ぶんごにおいて語幹ごかん母音ぼいん母音ぼいん交替こうたいこして2とおりの語形ごけいをもっているが、現代げんだい口語こうごにおいては母音ぼいん交替こうたいきず語幹ごかん一定いっていである。たとえば「きる」はoki|nai、oki|masu、oki|ru、oki|reba…、「べる」はtabe|nai、tabe|masu、tabe|ru、tabe|rebaのようにeかiまでが語幹ごかんである。ちなみにぎょう変格活用へんかくかつようぎょう変格活用へんかくかつようとされる「す(する)」「く(くる)」はこういった規則きそくわない語形ごけい変化へんかをするので不規則ふきそく動詞どうし分類ぶんるいされる。

このようにると、いままで未然みぜんがたとしてまとめられていたものは以下いかの2とおりの方法ほうほうによって形成けいせいされていることがかる。ひとつには子音しいん語幹ごかん動詞どうし子音しいんからはじまる語尾ごびをつける場合ばあい子音しいん連続れんぞくけるために母音ぼいん挿入そうにゅうされるもので、「ない」や「ず」「む」といった語尾ごびくときには、つなぎに/a/が挿入そうにゅうされることによってアだんおんとなるのである。 もうひとつには母音ぼいん/a/からはじまる語尾ごびがつく場合ばあいであり、子音しいん語幹ごかん動詞どうしには直接ちょくせつつき、アだんおんとなる。一方いっぽう母音ぼいん語幹ごかん動詞どうし場合ばあいは、母音ぼいん連続れんぞくしてしまうので、これをけるために/r/や/s/が挿入そうにゅうされる。たとえばなどをあらわす-(r)are-(れる・られる)や使役しえきなどをあらわす-(s)ase-(せる・させる)がこれであり、「く」ではkak-are(かれる)のようになるが、「べる」ではtabe-rare(べられる)のようにrが挿入そうにゅうされる。

また形容詞けいようし形容動詞けいようどうし文語ぶんごにおいてカリ活用かつようやナリ活用かつようといって「~からず」「~ならず」のようになるのであるが、これは語幹ごかん否定ひてい語尾ごび「ず」とのあいだに-ar-(あり)がはいっているからである。「あり」は単体たんたいでは存在そんざいあらわかたりであるが、語尾ごびとして使つかわれると指定してい措定そてい文法ぶんぽう機能きのうたしている。このため、その活用かつよう子音しいん語幹ごかん動詞どうし「あり」に準拠じゅんきょして「から」になる。よって、この語形ごけい分析ぶんせきすれば、以下いかのような構造こうぞうをしている。

  • うつくしからず - ((utukusik〈語幹ごかん〉 + ar〈語尾ごび〉)〈派生はせい語幹ごかん〉 + (a)z〈語尾ごび〉)〈派生はせい語幹ごかん〉 + u(語尾ごび

ちなみに現代げんだい口語こうごでは「あらず」のわりに「ない」が使つかわれるようになり、「うつくしくない」のようになったのであるが、丁寧ていねいがたでは「ありません」というように「ある」が維持いじされており、形容詞けいようし形容動詞けいようどうし丁寧ていねいがたでも「おいしくありません」「しずかではありません」のように「ある」が使つかわれている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 芳賀はが矢一やいち中等ちゅうとう教科きょうか明治めいじ文典ぶんてん』 (1904) に「だいいち活用かつようがたの『な』は『なば』ともちいゐられて,いま成立なりたたぬことをかりにいふかたちなれば未然みぜんがたといふ」 (2・2) とあるように,「未然みぜん」の意味いみ元来がんらい「ば」という形式けいしきまえ未然みぜんがたについてみとめられた。「る~らる」「す~さす」のまえ未然みぜんがたや,「せざらまし」のなか未然みぜんがた「せ」に,「未然みぜん」の意味いみはない。
  2. ^ 遠藤えんどう 佳那子かなこ (Kanako ENDO) - 活用かつようがたのなまえ―未然みぜんがた― - MISC - researchmap”. researchmap.jp. 2023ねん10がつ31にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]