松尾まつお多た勢子せこ

松尾まつお多た勢子せこ

松尾まつお 多た勢子せこ（まつお たせこ、文化ぶんか8年ねん8月がつ5日にち（1811年ねん9月22日にち）- 明治めいじ27年ねん（1894年ねん）6月がつ10日とおか）は、幕末ばくまつ期きの尊皇そんのう派は女性じょせい志士しし。島崎しまざき藤村とうそんの「夜明よあけ前まえ」にも活写かっしゃされている。

生涯しょうがい

信濃しなの国こく伊那いな郡ぐん山本やまもと村むら（現在げんざいの長野ながの県けん飯田いいだ市し）の豪農ごうのう竹村たけむら常つね盈みつるの長女ちょうじょとして生うまれた。19歳さいで伴野ともの村むら（同どう県けん豊丘とよおか村むら）の松尾まつお佐たすく次じ右みぎ衛門えもん淳じゅん斎ときに嫁とついだ。夫婦ふうふ仲なかは良よく7人にんの子こを育そだてながら、家業かぎょうの傍かたわらともに和歌わかや平田ひらた派は国学こくがくなどを学まなんだりした。

文久ぶんきゅう2年ねん（1862年ねん）に夫おっとの許ゆるしを得えて51歳さいで上洛じょうらくし、尊皇そんのう攘夷じょうい運動うんどうに参加さんか、公家くげの白川しらかわ家か、大原おおはら家かに出入でいりするようになった。当時とうじ多勢たぜい子こは、信州しんしゅうから出でてきた歌うたを詠よむ珍めずらしい老女ろうじょとして人ひとが訪たずねて来くるほどの噂うわさの人物じんぶつになっていた。

翌年よくねん、足利あしかが三さん代だい木像もくぞう梟首きょうしゅ事件じけんに関与かんよしたとして長州ちょうしゅう藩はんの京屋きょうや敷じきに逃のがれるが、密ひそかに帰郷ききょうし、天誅てんちゅう組ぐみや水戸みと天狗てんぐ党とうの伊那いな地方ちほうにおける支援しえん者しゃとして活動かつどうした。その間あいだ、幕府ばくふから追おわれる身みであった角田つのだ忠行ただゆき、相楽さがら総三そうぞう、長谷川はせがわ鉄てつ之これ進しんらを匿かくまった。慶応けいおう4年ねん/明治めいじ元年がんねん（1868年ねん）には再度さいど上洛じょうらくして岩倉いわくら具視ともみに仕つかえ、子女しじょの教育きょういくを引ひき受うけ、家政かせいを取とり仕切しきり、岩倉いわくら家かの女おんな参事さんじと呼よばれた。

また新しん政府せいふ関係かんけい者しゃとの連絡れんらく調整ちょうせい役やくとして活躍かつやくするが、翌年よくねんに新しん政府せいふ樹立じゅりつを見届みとどけた後のちは帰郷ききょうし、地元じもとで農業のうぎょうや養蚕ようさんに勤いそしみながら晩年ばんねんを過すごした。また旧知きゅうちの品川しながわ弥二郎やじろうが明治天皇めいじてんのう巡行じゅんこうの供奉ぐぶ先発せんぱつとして飯田いいだに来きた際さいには、長年ながねん、村むらの悲願ひがんであった尹いん良りょう親王しんのうの墓所はかしょの治定じじょうを働はたらきかけて実現じつげんさせた。

没後ぼつごの1903年ねんに正せい五ご位いを遺贈いぞうされた。

伊那いな谷たにと国学こくがく

幕末ばくまつの信濃しなの南部なんぶ一帯いったいでは、文政ぶんせい年間ねんかんに本ほん居きょ宣長のりなが門下もんかの尾張おわり藩はん士しの植松うえまつ茂しげる岳だけらが『古今ここん集しゅう』や『新しん古今ここん集しゅう』を講義こうぎに訪おとずれ、国学こくがく系けいの和歌わかが敷衍ふえんし、飯田いいだに滞在たいざいした岩崎いわさき長世ながよの歌会うたかいなどで、平田ひらた篤胤あつたねの国学こくがくが広ひろく伝つたえられた。慶應けいおう3年ねんには山吹やまぶき村むらに国学こくがくの四よん大人おとなを祀まつる「本学ほんがく霊れい社しゃ」が建立こんりゅうされた。その中なかで多た勢子せこも和歌わかや国学こくがくに傾倒けいとうし、その名なが広ひろく知しられることとなった。歌道かどうは、桜井さくらい春樹はるき（香川かがわ景樹かげき弟子でし）、福住ふくずみ清風きよかぜ、石川いしかわ依よ平ひらた（栗田くりた土ど満みつる弟子でし）、小林こばやし歌うた城じょう（村田むらた春海しゅんかい弟子でし）を師しとした。

家族かぞく

• 父ちち・竹村たけむら常つね盈みつる - 飯田いいだ市し座光寺ざこうじの北原きたはら家か出身しゅっしん。同家どうけは代々だいだい学問がくもんに優すぐれた家いえで、多た勢子せこは少女しょうじょ期きに北原きたはら家かに預あづけられ、従兄じゅうけいの北きた原因げんいん信しんから読よみ書かきと和歌わかを学まなび、因いん信しんの妻つまから家事かじと礼儀れいぎ作法さほうを学まなんだ。因よし信しんの子こに北原きたはら稲いね雄ゆう、その子供こどもに北原きたはら信綱のぶつな、北原きたはら阿智あち之の助すけがいる。
• 夫おっと・松尾まつお佐たすく次じ右みぎ衛門えもん淳じゅん斎とき - 松尾まつお佐たすく次じ右みぎ衛門えもん家か11代だい当主とうしゅ。家業かぎょうは造つくり酒屋ざかや。10人にんの子こを儲もうけ、うち三さん男なん四よん女じょを育そだて上あげた。安政あんせい4年ねん（1857年ねん）山吹やまぶき村むらを中心ちゅうしんに平田ひらた学派がくはの国学こくがくが盛さかんとなり、多た勢子せことともにその門人もんじんとなる。
• 長男ちょうなん・松尾まつお誠まこと - 戊辰戦争ぼしんせんそうでは奥羽おうう鎮撫ちんぶ使し副ふく総督そうとく澤さわ為ため量りょうの近習きんじゅとして従軍じゅうぐんし、明治めいじ元年がんねん3月がつ、大坂おおさかから海路かいろ陸奥みちのく国こく松島まつしまに入はいり、奥羽おうう各地かくちを転戦てんせん、明治めいじ2年ねんに帰郷ききょうした。のち県議会けんぎかい議員ぎいんとなり、明治めいじ21年ねんに58歳さいで没ぼっした。
• 三男さんなん・松尾まつお為ため誠まこと - 戊辰戦争ぼしんせんそう時じには伊那いな谷たにを代表だいひょうする国学こくがく者しゃの北原きたはら稲いね雄ゆうと共ともに、中津川なかつがわから東山ひがしやま道みち先鋒せんぽう総督そうとく府ふに従軍じゅうぐんし、関東かんとう各地かくちを転戦てんせんして帰郷ききょうした。
• 孫まご・松尾まつお千振せんぶり - 県議会けんぎかい副ふく議長ぎちょうを務つとめたが、明治めいじ25年ねんに39歳さいで没ぼっした。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『長野ながの県けん史し 通史つうし編へん 第だい7巻かん 近代きんだい1』
• 市村いちむら咸人『松尾まつお多た勢子せこ』
• 『郷土きょうど歴史れきし人物じんぶつ事典じてん 長野ながの』第だい一いち法規ほうき 1978年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 本学ほんがく神社じんじゃ - 歌碑かひがある

外部がいぶリンク

• 幕末ばくまつ明治めいじの激動期げきどうきを生いき抜ぬいた女性じょせい松尾まつお多た勢子せこ吉見よしみ周子かねこ、東海大学とうかいだいがく『無限むげん』259号ごう、2010
• 松尾まつお多た勢子せこ没後ぼつご100周年しゅうねん記念きねん番組ばんぐみ（その①）（その②） - 長野ながの県けん豊丘とよおか村むらYoutube公式こうしきチャンネル