海岸かいがん侵食しんしょく

海岸かいがん侵食しんしょく（かいがんしんしょく、英語えいご：coastal erosion）とは、主おもに砂浜すなはま海岸かいがんにおいて、定着ていちゃく堆積たいせきする土砂どしゃ量りょうが、流出りゅうしゅつする土砂どしゃ量りょうを下回したまわり、結果けっか的てきに海岸かいがんから土砂どしゃが減少げんしょうし汀線ていせんが後退こうたいする現象げんしょうをいう。広義こうぎには、汀線ていせん後退こうたいのみならず海底かいてい勾配こうばいが急きゅう傾斜けいしゃ化かする現象げんしょうを含ふくむ。

概要がいよう[編集へんしゅう]

海岸かいがんは、侵食しんしょくと堆積たいせきの均衡きんこうによって維持いじ形成けいせいされる地形ちけいであることから、侵食しんしょくが堆積たいせきを超過ちょうかする状態じょうたいが継続けいぞくすることによって、総体そうたいとしての海岸かいがんの侵食しんしょくが生しょうずる。

海岸かいがん侵食しんしょくは、気象きしょうの変化へんかによる波なみ向むきや風向かざむきの変化へんか、温暖おんだん化かに伴ともなう海面かいめん上昇じょうしょう、コンクリートの材料ざいりょうとしての海浜かいひん及および河川かせんにおける砂利じゃり採取さいしゅなどが指摘してきされている。最もっとも大おおきな原因げんいんとしては、河川かせんにダム等ひとしの構造こうぞう物ぶつが多おおく建設けんせつされたことにより、河川かせんから海岸かいがんへ流ながれ込こむ土砂どしゃの絶対ぜったい量りょうの減少げんしょうが挙あげられる。

港みなとや突堤とっていの建設けんせつにより砂すなの移動いどうの連続れんぞく性せいが断たたれ、その上手じょうずでは砂すなが堰せき止とめられることで堆積たいせきし、下手へたでは砂すなの供給きょうきゅう不足ふそくにより侵食しんしょくすることもある。この侵食しんしょくはさらに下手へたへ伝播でんぱし広範囲こうはんいに影響えいきょうを及およぼすこともある。

影響えいきょう[編集へんしゅう]

遠浅とおあさの海岸かいがんでは、津波つなみや高波たかなみのパワーは重力じゅうりょくとの拮抗きっこうで陸ろくに到達とうたつするまでに弱よわくなるが、遠浅とおあさでない海岸かいがんでは、波浪はろうのパワーが海岸かいがんに直接ちょくせつあたるとして、遠浅とおあさに堆積たいせきする土砂どしゃによる津波つなみや高波たかなみの力ちからを低減ていげんする防災ぼうさい効果こうかを低減ていげんする防災ぼうさい上じょうの影響えいきょうが指摘してきされている。海岸かいがん侵食しんしょくによって日本にっぽんでは毎年まいとし160haもの国土こくどが失うしなわれている。

要因よういん[編集へんしゅう]

海岸かいがん侵食しんしょくは、ほぼ日本にっぽん全国ぜんこくで起おこっている現象げんしょうであるが、特とくに静岡しずおか県けん・富山とやま県けん等ひとしの中部ちゅうぶ山岳さんがく地帯ちたいを源みなもととする河川かせんの河口かこうを持もつ県けんで顕著けんちょである。中部ちゅうぶ山岳さんがく地帯ちたいにはフォッサマグナが走はしっており、地じすべり多発たはつ地帯ちたいであるがゆえ、河川かせんの土砂どしゃ運搬うんぱん量りょうは非常ひじょうに多おおい。それがダム等ひとしによって遮さえぎられることで、河口かこうでは流入りゅうにゅう土砂どしゃ量りょうが激減げきげんする。そのため、豊富ほうふな流出りゅうしゅつ土砂どしゃによって形成けいせいされていた砂浜すなはま海岸かいがんが、土砂どしゃ不足ふそくにより侵食しんしょくを受うけることになる（例れい：中田島なかたじま砂丘さきゅう（静岡しずおか県けん浜松はままつ市し）の項こう参照さんしょう）。

また、河川かせん以外いがいの土砂どしゃの供給きょうきゅう源げんである海食かいしょく崖がけ等ひとしの護岸ごがんによる供給きょうきゅう減げんによる汀線ていせんの後退こうたい（例れいとしては九十九里浜くじゅうくりはま）や、河川かせんの流りゅう路ろを人工じんこう的てきに変かえたために元々もともとの流りゅう路ろの河口かこうに土砂どしゃが到達とうたつしなくなったことによる侵食しんしょく（例れいとしては新潟にいがた海岸かいがん）なども指摘してきされている。

なお、多おおくの場合ばあいは土砂どしゃ収支しゅうしのみで考かんがえられがちであるが、長期ちょうき的てきな地殻ちかく変動へんどうなどの影響えいきょうも大変たいへん大おおきく、実際じっさいの状況じょうきょうを正ただしく理解りかいするには、地球ちきゅう科学かがく的てきな検証けんしょうが必要ひつようである。

沿岸えんがん漂砂による海岸かいがん侵食しんしょく[編集へんしゅう]

沿岸えんがん域いきには、沿岸えんがん流りゅうという汀線ていせんに平行へいこうな流ながれが生しょうじている。この沿岸えんがん流りゅうと汀線ていせんに斜ななめに入射にゅうしゃしてくる波なみによって沿岸えんがん漂砂（汀線ていせんに平行へいこうな向むきの砂すなの移動いどう。正確せいかくに述のべると、砂すなの移動いどうを表あらわすベクトルの汀線ていせんに平行へいこうな成分せいぶん）が発生はっせいする。なお、漂砂の移動いどうする沿岸えんがん域いきは、おおよそ水深すいしん約やく20mが限界げんかいであり、勾配こうばいを考かんがえるとせいぜい沖合おきあい1kmまでであると考かんがえられてきた。しかし、海底かいていで発生はっせいする重力じゅうりょく流りゅうなどの流ながれが発生はっせいすると、勾配こうばいが緩ゆるくても流ながれは急きゅうにとまることがなく、場合ばあいによっては深海しんかい底そこにまで到達とうたつしている。自然しぜん現象げんしょうの把握はあくを怠おこたった対策たいさくを行おこなうと、かえって侵食しんしょくを招まねく結果けっかとなる。多おおくの海岸かいがん対策たいさくは、実情じつじょうを把握はあくできていないシミュレーション等ひとしに頼たよった対策たいさくを講こうじているためであると考かんがえられる。

基準きじゅん点てんから汀線ていせんまでの距離きょりを $x_{s}$ 、x軸じくに直角ちょっかくにy軸じくをとると、汀線ていせんの変化へんかは

${\frac {\partial x_{s}}{\partial t}}=\varepsilon {\frac {\partial ^{2}x_{s}}{\partial y^{2}}}$

という拡散かくさん方程式ほうていしきで記述きじゅつされる。

砂礫されき供給きょうきゅうの減少げんしょう[編集へんしゅう]

河川かせんにおける砂利じゃり採取さいしゅによる砂礫されき供給きょうきゅう減少げんしょうや、土砂どしゃ災害さいがい対策たいさくとしての砂防さぼうダムによる河川かせんへの砂礫されき供給きょうきゅう減少げんしょうは、河川かせんから海岸かいがんへの砂礫されき供給きょうきゅう減少げんしょう要因よういんとなる。ダムと環境かんきょう#堆うずたか砂すなも参照さんしょう。

対策たいさく[編集へんしゅう]

海岸かいがん侵食しんしょくに対たいする対策たいさくは、突堤とっていやヘッドランドを建設けんせつし堆うずたか砂すなをうながす手法しゅほうと、ダムの放流ほうりゅう法ほうや工法こうほうの検討けんとうにより河川かせんからの土砂どしゃ供給きょうきゅう量りょうを増加ぞうかさせる手法しゅほうとに大別たいべつされる。

海岸かいがんにおける砂礫されき流出りゅうしゅつへの対策たいさく[編集へんしゅう]

沿岸えんがん漂砂の堆積たいせきを促うながす手法しゅほうとしては、堤防ていぼう、護岸ごがん、消しょう波なみ堤つつみ、突堤とってい群ぐん、離はなれ岸がん式しきヘッドランド工法こうほう、人工じんこうリーフ（潜せん堤つつみ）工法こうほう、突堤とってい式しきヘッドランド（人工じんこう岬みさき）工法こうほう、ワイングラス型がた防波堤ぼうはてい、人工じんこう海浜かいひん、サンドバイパス工法こうほう、養やしなえ浜はま工法こうほうおよび複数ふくすうの工法こうほうを組くみ合あわせた工法こうほうなどがある^[1]。

なお、天あまの橋立はしだてにおいても侵食しんしょくは問題もんだいとなっており、突堤とってい建設けんせつ・サンドリサイクルなどの対策たいさくが行おこなわれている。

砂礫されき供給きょうきゅう不足ふそくへの対策たいさく[編集へんしゅう]

砂防さぼうダムの工法こうほうを、土砂どしゃを全部ぜんぶ貯ためるのではなく、災害さいがいを起おこすような巨石きょせきや流木りゅうぼくを止とめ、粒つぶ径みちの小ちいさな砂利じゃりは下流かりゅうへ流ながすスリット型がたダムを採用さいようするなど、山やまから川かわ、海岸かいがんまでの自然しぜんの土砂どしゃの流ながれを極力きょくりょく妨さまたげない総合そうごう土砂どしゃ管理かんりという取組とりくみが着手ちゃくしゅされている。

課題かだい[編集へんしゅう]

海岸かいがん侵食しんしょく対策たいさくにおいて、侵食しんしょく対策たいさくによる侵食しんしょくや、侵食しんしょく対策たいさくによる漁業ぎょぎょうへの影響えいきょうと補償ほしょうなど、様々さまざまな課題かだいが生しょうじる。

侵食しんしょく対策たいさくによる侵食しんしょく[編集へんしゅう]

沿岸えんがん漂砂の上うえ流域りゅういきにおいて漂砂の堆積たいせきを促うながす工法こうほうを実施じっしすることは、その地点ちてんより下しも流域りゅういきにおいて漂砂供給きょうきゅうの減少げんしょう要因よういんとなることから、侵食しんしょく対策たいさくによる侵食しんしょくが発生はっせいすることから、侵食しんしょく対策たいさくの実施じっしは地域ちいき間あいだの調整ちょうせいに留意りゅういが必要ひつようとなる。

侵食しんしょく対策たいさくによる漁業ぎょぎょうへの影響えいきょうと補償ほしょう[編集へんしゅう]

海岸かいがん侵食しんしょく対策たいさくのための施策しさくは、海底かいてい地形ちけいなど海洋かいよう生物せいぶつの生態せいたい環境かんきょうへ多大ただいな影響えいきょうを及およぼし、漁場ぎょじょう分布ぶんぷに大おおきな影響えいきょうがあり、漁業ぎょぎょう権けんのある漁場ぎょじょうへの影響えいきょうとその補償ほしょうが課題かだいとなる。構造こうぞう物ぶつの建設けんせつ費用ひようのみならず補償ほしょう対策たいさく費ひが、行財政ぎょうざいせいへの大おおきな負荷ふかとなる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ 海岸かいがんの現状げんじょうと課題かだい国土こくど交通省こうつうしょう p21