理化学りかがく的てき年代ねんだい

理化学りかがく的てき年代ねんだい（りかがくてきねんだい）とは、考古こうこ資料しりょうが物質ぶっしつとしてもっている物理ぶつり的てき・化学かがく的てきな属性ぞくせいを分析ぶんせきすることで得えられる年代ねんだいのことである。

測定そくてい法ほう

放射ほうしゃ性せい炭素たんそ年代ねんだい測定そくてい法ほう（放射ほうしゃ性せい炭素たんそ法ほう）‐試料しりょう（木片もくへん、炭すみ、泥炭でいたん、骨ほね、貝殻かいがら）

大気たいき中ちゅうの炭素たんそに、一定いってい速度そくどで崩壊ほうかいする性格せいかくを持もつ放射ほうしゃ性せい同位どうい体たい（炭素たんそ14）が微量びりょうに含ふくまれることを利用りようした年代ねんだい測定そくていである。代謝たいしゃ等ひとしによる構成こうせい分子ぶんしの出入でいりがなくなった有機物ゆうきぶつ中ちゅうでは放射ほうしゃ性せい炭素たんそが減少げんしょうし続つづける（半減はんげん期き5,730年ねん）ため、その残存ざんそん量りょうから年代ねんだいを測定そくていできる。ただし、考古学こうこがく調査ちょうさにおける遺構いこう・遺物いぶつは概がいして土中どちゅうにあることなどから、この前提ぜんていがどれだけ成なり立たつか懐疑かいぎ的てきな専門せんもん家かも少すくなくない。

放射ほうしゃ性せい炭素たんその減少げんしょう速度そくどは地球ちきゅう磁場じばや太陽たいよう黒点こくてんの活動かつどうなどに影響えいきょうされ、時期じきによって変動へんどうしていたことが分わかっている。そのため、放射ほうしゃ性せい炭素たんそ年代ねんだいから正確せいかくな暦年れきねん代だいを求もとめるためには補正ほせいが必要ひつようとされる。近年きんねんでは、樹木じゅもくや木材もくざいの年輪ねんりんから過去かこの放射ほうしゃ性せい炭素たんそ濃度のうどの変動へんどうを調しらべ、暦年れきねん較正こうせいデータベースとして整備せいびする作業さぎょうが国際こくさい的てきに進すすんでいる。

加速器かそくき質量しつりょう分析ぶんせき法ほう（AMS法ほう）

加速器かそくきで炭素たんそ原子げんしをイオン化かして加速かそくし、同位どうい体たい原子げんし数すうを直接ちょくせつ数かぞえることによって濃度のうどを測定そくていする。放射ほうしゃ性せい炭素たんそ法ほうの1,000分ぶんの1の試料しりょうで分析ぶんせきでき、より高こう精度せいどな測定そくてい結果けっかが得えられるなどの利点りてんがあるとされる。

ウラン・トリウム法ほう

ウラン234など、適当てきとうな半減はんげん期きを持もつ放射ほうしゃ性せい同位どうい体たいの含有がんゆう量りょうを測定そくていするものである。有機物ゆうきぶつの含有がんゆう量りょうが少すくない鍾乳石しょうにゅうせきや貝殻かいがら、化石かせき骨こつの年代ねんだい測定そくていに用もちいられる。

熱ねつルミネサンス法ほう（TL法ほう）

鉱物こうぶつをある温度おんど以上いじょうに加熱かねつすると、それまでに受うけた放射線ほうしゃせん量りょうに比例ひれいして光ひかりを放はなつ「熱ねつルミネセンス現象げんしょう」を利用りようする方法ほうほうである。天然てんねんの放射線ほうしゃせん量りょうが年代ねんだいに寄よらず一定いっていならば、熱ねつルミネセンスの測定そくていによって最後さいごに加熱かねつされてからの経過けいか時間じかんが求もとめられる。そのため土器どき類るいの焼成しょうせいや焼しょう土どの形成けいせいが行おこなわれた時期じきを測定そくていすることができる。

フィッショントラック法ほう（FT法ほう）‐試料しりょう（鉱物こうぶつ、ガラス）

堆積たいせき物ぶつ中ちゅうのジルコンにふくまれるウラン238が自然しぜん核分裂かくぶんれつするときに出でる放射線ほうしゃせんの傷跡きずあと（フィッショントラック）で年代ねんだいを測定そくていする。火山灰かざんばいや黒曜石こくようせきなどの年代ねんだいを測はかるのに好適こうてきである。焼しょう土どや焼石やけいしの測定そくていにも応用おうよう可能かのうである。

電子でんしスピン共鳴きょうめい吸引きゅういん法ほう（ESR法ほう）‐試料しりょう（土器どき、化石かせき）

分光ぶんこう法ほうの一ひとつである電子でんしスピン共鳴きょうめいを利用りようした年代ねんだい測定そくてい。天然てんねんの放射線ほうしゃせんによってたくわえられたフリーラジカルの量りょうをはかるもので、貝殻かいがらなどの数すう十じゅう万まん年ねん前まえの年代ねんだい測定そくていができる。

古こ地磁気ちじき年代ねんだい測定そくてい法ほう‐試料しりょう（溶岩ようがん、湖みずうみ成層せいそう、海うみ成層せいそう）

地磁気ちじきが年代ねんだいにより変化へんかすることを利用りようし、鉱物こうぶつに残のこる磁気じき（古こ地磁気ちじき）の強つよさや方向ほうこうから年代ねんだいを特定とくていする。磁気じきを帯おびた現地げんちの焼しょう土どや地層ちそうの年代ねんだい測定そくていに用もちいられる。

黒曜石こくようせき水すい和わ層そう年代ねんだい測定そくてい法ほう‐試料しりょう（黒曜石こくようせき）

黒曜石こくようせき製せい遺物いぶつの年代ねんだい測定そくてい法ほうの一ひとつ。黒曜石こくようせきは表面ひょうめんから水みずを吸収きゅうしゅうし、時間じかんの経過けいかとともに光沢こうたくのない水みず和わ層そうを形成けいせいする。気候きこう・黒曜石こくようせきの組成そせい・埋没まいぼつ状態じょうたいが同どう一いち条件じょうけんの場合ばあい、水みず和わ層そうは一定いっていの速度そくどで増ます。この原理げんりから水みず和わ層そうの厚あつさを測定そくていして製作せいさく年代ねんだいを推定すいていする。

考古学こうこがくへの貢献こうけん

理化学りかがく的てきな年代ねんだい測定そくていによって、考古学こうこがく的てきな方法ほうほうによって考かんがえられてきた年代ねんだいが否定ひていされたケースは多おおい。古ふるい時代じだいは「暦こよみ」という物差ものさしがないので、年代ねんだいの決定けっていには理化学りかがく的てき年代ねんだい測定そくていを行おこなうほか手段しゅだんがない。

1950年ねんに神奈川かながわ県けんの夏島なつしま貝塚かいづかで採取さいしゅされた縄文じょうもん時代じだい早期そうきの貝かい（マガキ）を放射ほうしゃ性せい炭素たんそ法ほうで測定そくていしたところ、9,450±400年ねんB.P.（9,850～9,050年ねん前まえ）という年代ねんだいが得えられ、縄文じょうもん時代じだいの開始かいし年代ねんだいがそれまでの考かんがえより5,000年ねん近ちかく遡さかのぼるとされて大おおきな論争ろんそうになった。前ぜん5～4世紀せいきと考かんがえられていた弥生やよい時代じだいの開始かいし年代ねんだいについても、春はる成なり秀爾ひでじが AMS法ほうを根拠こんきょに北部ほくぶ九州きゅうしゅうの弥生やよい早期そうきが少すくなくとも前まえ9世紀せいき、弥生やよい前期ぜんきは前まえ8世紀せいきまで遡さかのぼる可能かのう性せいが強つよいと主張しゅちょうし話題わだいとなった。

問題もんだい点てん

理化学りかがく的てき年代ねんだいを利用りようする際さいには、考古学こうこがく的てきに実年じつねん代だいを探さぐる方法ほうほう（交差こうさ年代ねんだい決定けってい法ほう）とのかかわりが問題もんだいとなる。交差こうさ年代ねんだい法ほうはある型式けいしきの存続そんぞく期間きかんの中なかにおいてある一いち時点じてんを示しめすが、理化学りかがく的てきに導みちびかれた年代ねんだいは測定そくてい誤差ごさの範囲はんい内ないに考古学こうこがく的てきな事象じしょうが組くみ込こまれてしまう。異ことなる原理げんりや方法ほうほうで得えられた年代ねんだいはその意味いみもおのずと異ことなり、考古学こうこがく的てき方法ほうほうと理化学りかがく的てき方法ほうほうとは常つねに併用へいようされる場合ばあいがある。また、どのような測定そくてい法ほうも科学かがく技術ぎじゅつの水準すいじゅんによって精度せいどが制約せいやくされている。

関連かんれん項目こうもく

• 相対そうたい年代ねんだい
• 絶対ぜったい年代ねんだい
• 暦年れきねん代だい
• 放射ほうしゃ年代ねんだい測定そくてい
• 年輪ねんりん年代ねんだい測定そくてい
• 交差こうさ年代ねんだい決定けってい法ほう