絶対ぜったい年代ねんだい

絶対ぜったい年代ねんだい（ぜったいねんだい、absolute age）とは、主しゅとして考古学こうこがく分野ぶんやにおいて、「前まえ○○世紀せいき頃ごろ」とか「今いまからおよそ△△年とし前まえ」というふうに具体ぐたい的てきな数字すうじで出だされる年代ねんだいをさす。数値すうち年代ねんだい（numerical age）とも称しょうする。

さまざまな「年代ねんだい」

考古学こうこがくや地質ちしつ学がくで一般いっぱん的てきに利用りようされる年代ねんだいには以下いかのようなものがある。

相対そうたい年代ねんだい

相互そうごの新旧しんきゅう関係かんけい

絶対ぜったい年代ねんだい

数字すうじとして出だされる年代ねんだい

理化学りかがく的てき年代ねんだい

自然しぜん科学かがく的てき方法ほうほうによる年代ねんだい

暦年れきねん代だい

究極きゅうきょくに目指めざすべき年代ねんだい

なお、年代ねんだいを相対そうたい年代ねんだいと絶対ぜったい年代ねんだいに大別たいべつしたとき、暦年れきねん代だいは絶対ぜったい年代ねんだいにふくまれる。

絶対ぜったい年代ねんだいとは、それがまさに絶対ぜったい正ただしいという意味いみではなく、「他たとくらべられない」「他たとくらべる必要ひつようがない」という意味いみでの「絶対ぜったい」である。考古学こうこがくにおける「旧石器時代きゅうせっきじだい」、「弥生やよい時代じだい」など、地質ちしつ学がくにおける「白はく亜紀あき」「第だい四よん紀き」などのような時代じだい区分くぶんはもともと、標識ひょうしきとなる遺物いぶつ・遺物いぶつ群ぐんあるいは化石かせき・化石かせき群ぐんに由来ゆらいする相対そうたい的てきな年代ねんだい（相対そうたい年代ねんだい）であるが、絶対ぜったい年代ねんだいでは、このような標識ひょうしきを必要ひつようとせず、それだけで年代ねんだいをあらわすことができる。つまり、数字すうじで出だされる年代ねんだいである。

絶対ぜったい年代ねんだいを求もとめる方法ほうほう

絶対ぜったい年代ねんだいを求もとめる方法ほうほうにも、相対そうたい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうと絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうがある。

相対そうたい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほう

主おもな相対そうたい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうは以下いかの通とおりである。

測定そくてい法ほうの種類しゅるい		対象たいしょう資料しりょうの種類しゅるい	測定そくてい年代ねんだい範囲はんい（a.年とし）
古こ地磁気ちじき層そう序じょ		炉ろ・窯かま跡あと・土器どき・陶器とうき・堆積たいせき層そう
火山灰かざんばい層そう序じょ		火山灰かざんばい
微ほろ化石かせき生せい層そう序じょ		深海ふかうみ底そこコア
脊椎動物せきついどうぶつ生せい層そう序じょ		脊椎動物せきついどうぶつ化石かせき
花粉かふん分析ぶんせき		湖底こてい・海底かいてい堆積たいせき物ぶつ
型式けいしき学がく的てき研究けんきゅう法ほう		土器どき・石器せっき・金属きんぞく器き・木器こうずき・骨ほね角かく器きなど
年輪ねんりん年代ねんだい測定そくてい		木材もくざい	0–104
氷こおり縞しま粘土ねんど		氷こおり縞しま粘土ねんど	103–104
化学かがく分析ぶんせき		化石かせき・鉱物こうぶつ・ガラス

これらは、ある標識ひょうしき化かされた年代ねんだい資料しりょうとの対比たいひによって絶対ぜったい年代ねんだいを求もとめる方法ほうほうである。暦年れきねん代だいの明あきらかな資料しりょうとの交差こうさ年代ねんだい決定けってい法ほうによる年代ねんだい推定すいていや、樹木じゅもくの年輪ねんりんを利用りようした年輪ねんりん年代ねんだい測定そくていなどがあり、とくに年輪ねんりん年代ねんだい測定そくていは、1年ねん刻きざみで、しかも標準ひょうじゅん偏差へんさをともなわない点てんで最もっとも信頼しんらい度どの高たかい絶対ぜったい年代ねんだいを提示ていじすることができる方法ほうほうである。

なお、型式けいしき学がく的てき研究けんきゅう法ほうは一般いっぱん的てきには相対そうたい年代ねんだいを求もとめるための研究けんきゅう法ほうである。しかし、個々ここの型式けいしきに絶対ぜったい年代ねんだいをあたえることができれば、年代ねんだい測定そくてい用ようの基準きじゅんを充分じゅうぶんに果はたしうる。

絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほう

主おもな絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうは以下いかの通とおりである。

測定そくてい法ほうの種類しゅるい		対象たいしょう資料しりょうの種類しゅるい	測定そくてい年代ねんだい範囲はんい（a.年とし）
カリウム - アルゴン法ほう		溶岩ようがん・火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつ	104–5×109
フィッショントラック法ほう		凝灰岩ぎょうかいがん・溶岩ようがん・火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつ・ガラス	103–3×109
放射ほうしゃ性せい炭素たんそ年代ねんだい測定そくてい		生物せいぶつ遺体いたい	0–6×104
ウラン系列けいれつ法ほう		溶岩ようがん・火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつ・凝灰岩ぎょうかいがん・化石かせき骨ほね・サンゴ・石灰せっかい質しつ堆積たいせき物ぶつ・深海ふかうみ底そこ堆積たいせき物ぶつ	104–3×105
熱ねつルミネッセンス法ほう		凝灰岩ぎょうかいがん・貝かい化石かせき・土器どき	103–5×105
電子でんしスピン共鳴きょうめい法ほう		鍾乳石しょうにゅうせき・凝灰岩ぎょうかいがん・断層だんそう・氷河ひょうが	103–3×106
ラセミ化か法ほう		化石かせき骨こつ・微ほろ化石かせき・貝かい	103–5×106
黒曜石こくようせき水すい和わ層そう法ほう		黒曜石こくようせき	103–3×104

地球ちきゅう上じょうには、時間じかんの経過けいかとともに一定いっていの変化へんかをする物質ぶっしつがある。このような物質ぶっしつの特性とくせいを利用りようして、変化へんかの速度そくどの定数ていすうを用もちいて絶対ぜったい年代ねんだいを測定そくていするのが、絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうである。一般いっぱんに理化学りかがく的てき年代ねんだい測定そくていと称しょうされるものの多おおくは、この方法ほうほうに含ふくまれている。

相対そうたい年代ねんだいから絶対ぜったい年代ねんだいへ

考古学こうこがくにおいて、相対そうたい年代ねんだいは考古学こうこがく的てきな調査ちょうさや研究けんきゅうの基礎きそになるものではあるが、あくまでも相互そうごの新旧しんきゅう関係かんけいを決きめるだけにとどまるので、文字もじ資料しりょうのある時代じだい（歴史れきし時代じだい）においては、それを絶対ぜったい年代ねんだい、さらには暦年れきねん代だい（実年じつねん代だい）に近ちかづける努力どりょくが必要ひつようである。火山灰かざんばいのなかには、北日本きたにっぽん一帯いったいに降下こうかした十和田とわだa火山灰かざんばい（To-aテフラ）のように、『扶桑ふそう略記りゃっき』に「延喜えんぎ15年ねん」（915年ねん）の記事きじとして「出羽いずは国こく言上ごんじょう雨う灰はい降くだ高こう二に寸すん…」という記載きさいがあり、暦年れきねん代だいがはっきりわかっているものもある。このようなデータを集積しゅうせきし、それまで明あきらかになっていた相対そうたい年代ねんだいとも比較ひかく照合しょうごうすることによって、さらに詳細しょうさいな年代ねんだいの解明かいめいへとつなげることができる。

地質ちしつ学がくにおける相対そうたい年代ねんだいは、主おもに層そう序じょや化石かせきの変遷へんせんによって定さだめられるのに対たいし、数値すうち年代ねんだいは、原子核げんしかく崩壊ほうかいによる核種かくしゅ変化へんかや放射線ほうしゃせんによる損傷そんしょうを利用りようして、岩石がんせきや化石かせきの年代ねんだい（形成けいせい以降いこうの経過けいか年数ねんすう）を測定そくていする放射ほうしゃ年代ねんだい測定そくていによって求もとめられるが、測定そくていに用もちいた試料しりょうや測定そくてい方法ほうほうにより、得えた値ねの吟味ぎんみが必要ひつようである。そのため、現在げんざいでは「絶対ぜったい年代ねんだい」の用語ようごは用もちいられず、放射ほうしゃ年代ねんだいないし数値すうち年代ねんだいの語かたりが用もちいられる。

絶対ぜったい年代ねんだいの扱あつかい方かた

前掲ぜんけいした相対そうたい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうのうち年輪ねんりん年代ねんだい測定そくてい以外いがいの多おおくは、絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうの成果せいかに拠よっている。そのいっぽうで、絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうは、それぞれ測定そくてい可能かのうな年代ねんだい範囲はんいや材質ざいしつに大おおきな限定げんていが付帯ふたいし、その計算けいさん過程かていにはいくつかの前提ぜんていを必要ひつようとするものが少すくなくない。また、絶対ぜったい的てき年代ねんだい測定そくてい法ほうの主要しゅようをしめる理化学りかがく的てき年代ねんだい測定そくていには必かならず誤差ごさがつきまとう。したがって、たとえば法隆寺ほうりゅうじの再建さいけん・非ひ再建さいけん問題もんだい（法隆寺ほうりゅうじ再建さいけん非ひ再建さいけん論争ろんそう）のような比較的ひかくてき短みじかい年代ねんだい差さを問題もんだいにするような場合ばあいには適用てきようすることができない。測定そくていされた絶対ぜったい年代ねんだいを利用りようする際さいには、その方法ほうほうの測定そくてい可能かのう年代ねんだいの範囲はんいや計算けいさん上じょうの前提ぜんてい、精確せいかくさや限界げんかいなど、測定そくてい方法ほうほうそれ自体じたいに関かんする知識ちしきが必要ひつようであり、そのうえで、複数ふくすうの年代ねんだい測定そくてい法ほうを併用へいようして、相互そうご検証けんしょうするなどして信頼しんらい性せいを増ます工夫くふうも必要ひつようである。AMS法ほうは、放射ほうしゃ性せい炭素たんそ年代ねんだい測定そくていの誤差ごさを補正ほせいする方法ほうほうとして期待きたいされている。もとより、年代ねんだい測定そくていに用もちいられた資料しりょうが、それを包含ほうがんしていた地層ちそうや遺構いこう、あるいは出土しゅつど状じょう況きょう、さらに周辺しゅうへんの資料しりょうの様態ようたいなどとの関連かんれんが、それぞれどのようなものであったかを見みきわめることが、それらに先さきだって重要じゅうようなことである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 横山よこやま浩一こういち 著ちょ「考古学こうこがく」、平凡社へいぼんしゃ 編へん『世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん9 ケ-コウヒ』平凡社へいぼんしゃ、1988年ねん3月がつ。ISBN 4-582-02200-6。 
• 大塚おおつか, 初はつ重じゅう、戸沢とざわ, 充たかし則のり 編へん「絶対ぜったい年代ねんだい」『最新さいしん日本にっぽん考古学こうこがく用語ようご辞典じてん』柏書房かしわしょぼう、1996年ねん6月がつ。ISBN 4-7601-1302-9。 
• 安藤あんどう広道ひろみち 著ちょ「年代ねんだい論ろん的てき研究けんきゅうと理化学りかがく的てき年代ねんだい測定そくてい法ほう」、安やす蒜ひる政雄まさお 編へん『考古学こうこがくキーワード』有斐閣ゆうひかく〈有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1997年ねん11月。ISBN 4-641-05860-1。 

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