太陰暦たいいんれき

太陰暦たいいんれき（たいいんれき、英えい: lunar calendar、阿おもね: تقويم قمري‎）は、月つきの満みち欠かけの周期しゅうきを基もとにした暦こよみ（暦法れきほう）である。その周期しゅうきを朔さく望月もちづき（さくぼうげつ）といい、1朔ついたち望月もちづきを1月つきとする。なお、「太陰たいいん」は「月つき（天体てんたい）」の意味いみである。陰暦いんれき（いんれき）とも言いわれる。「太陽暦たいようれき」（陽暦ようれき）の対義語たいぎごである。

閏月じゅんげつ（うるうづき）などを入いれて季き節ぶしのずれを調整ちょうせいする太陰たいいん太陽暦たいようれきと、季き節ぶしのずれを調整ちょうせいしない純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきがある。単たんに「太陰暦たいいんれき」と言いった場合ばあい、日本にっぽんや中国ちゅうごくなどの東ひがしアジアでは通常つうじょうは太陰たいいん太陽暦たいようれきを指さし、イスラム圏けんなどでは純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきを指さす。

本稿ほんこうでは、特とくに断ことわらない限かぎり純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきについて述のべるが、純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきを採用さいようしている暦こよみはほぼヒジュラ暦れき（イスラム暦れきやヒジュラ太陰暦たいいんれきとも）に限定げんていされることに留意りゅういされたい。

太陰たいいん太陽暦たいようれきとの関係かんけい

月つきは地球ちきゅうに対たいして公転こうてんし、その周期しゅうきはほぼ一定いっていである。その周期しゅうき平均へいきんは平均へいきん朔ついたち望月もちづきといい、2015年ねん時点じてんでは、29.530589日にちである。太陰暦たいいんれきでは、1朔ついたち望月もちづきを1月（ひとつき）とし、さらに12月を1年ねん（1太陰たいいん年ねん）とする。1太陰たいいん年ねんは、29.530589日にち×12 = 354.36707日にちである。1月（ひとつき）が29日にちの月つき（小しょうの月つき）と、30日にちの月つき（大だいの月つき）をそれぞれ6回かいずつ設もうけ、1太陰たいいん年ねんを354日にちとすると、1年ねんにつき0.36707日にちの誤差ごさが出でるので、3年ねんに1回かい程度ていど、小しょうの月つきの日数にっすうを1日にち増ふやして1太陰たいいん年ねんを355日にちとする必要ひつようがある。太陰暦たいいんれきでは、この1太陰たいいん年ねんが355日にちとなる年としが閏年うるうどしであり、ヒジュラ暦れきでは30年間ねんかんに11回かい、閏年うるうどしを設もうけている（0.36707日にち×30=11.0121日にち）。

一方いっぽう、1太陰たいいん年ねんは1太陽年たいようねん(365.242189日にち)に比くらべて約やく11日にち短みじかく、季き節ぶしに対たいして3年ねんで1月がつ以上いじょうの誤差ごさが出でる。純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきでは、この誤差ごさに対たいする調整ちょうせいは行おこなわれず、同おなじ日付ひづけでも年としごとに季き節ぶしは次第しだいに変かわっていき、おおよそ33年ねんで元もとの季き節ぶしに戻もどることになる。後述こうじゅつするように太陰たいいん太陽暦たいようれきでは閏月じゅんげつを設もうけてこれを調整ちょうせいし、閏月じゅんげつを設もうけた年としが閏年うるうどしと呼よばれる。

歴史れきし的てきに使つかわれてきた純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきは、ほぼヒジュラ暦れきに限定げんていされる。そのヒジュラ暦れきもイスラム以前いぜんの太陰たいいん太陽暦たいようれきから派生はせいしたものであり、一部いちぶの月つき名めいが季き節ぶしに由来ゆらいしていること（ラビー・ウル・アッワル月つき＝第だい1の春はるの月つき、など）にその名残なごりを留とめている。

太陰暦たいいんれきと季き節ぶし

1太陰たいいん年ねん（太陰暦たいいんれきの1年ねん）は、354.36707日にちであり、これは、地球ちきゅうの公転こうてん周期しゅうき（回帰かいき年ねん）である365.24219日にちより約やく11日にち短みじかい。一方いっぽう、季き節ぶしの周期しゅうきは、地球ちきゅうの公転こうてん周期しゅうきと関連かんれんする。したがって、太陰暦たいいんれきでは、特定とくていの月日つきひの季き節ぶしは、年としにより変動へんどうし、約やく8年ねんで四季しき1つぶん（約やく88日にち）早はやくなり、約やく33年ねんで季き節ぶしを一周いっしゅうする。一いち例れいを挙あげれば、北半球きたはんきゅうを基準きじゅんとすると、ヒジュラ暦れき1428年ねんのラマダーン（9月がつ）は西暦せいれき2008年ねん9月がつごろで初秋しょしゅうだが、ヒジュラ暦れき1410年ねんのそれは西暦せいれき1990年ねん4月がつごろで中ちゅう春はるであった。

このように、十じゅう数すう年ねん以上いじょうの時間じかんスケールで見みた場合ばあい、月日つきひと季き節ぶしはまったく無関係むかんけいである。しかし短みじかい時間じかんスケールなら、たとえば去年きょねんと今年ことしのラマダーンの季き節ぶしはほぼ等ひとしい。これは、太陽暦たいようれきにおいて長ながい時間じかんスケールでは日ひと月つき相しょうは無関係むかんけいだが、先月せんげつと今月こんげつの同おなじ日びの月つき相しょうならほぼ等ひとしいことと対応たいおうしている。逆ぎゃくに、太陰暦たいいんれきでは同おなじ日びなら月つき相しょうはほぼ同おなじである。太陽暦たいようれきでは、同おなじ月日つきひなら季き節ぶしはほぼ同おなじである。

太陰暦たいいんれきの特定とくていの月日つきひの季き節ぶしが年としごとにずれる欠点けってんを補おぎなうため、閏月じゅんげつを設もうけ季き節ぶしのずれを調節ちょうせつしたものが、太陰たいいん太陽暦たいようれきである（一方いっぽう、閏月じゅんげつを設もうけない太陰暦たいいんれきのことを純じゅん太陰暦たいいんれき・純粋じゅんすい太陰暦たいいんれきとよぶ場合ばあいもある）。太陰たいいん太陽暦たいようれきは、月つき相しょうの一致いっちと季き節ぶしの一致いっちを両立りょうりつさせている（ただし季き節ぶしが一致いっちする精度せいどは高たかくない）。東ひがしアジアで単たんに太陰暦たいいんれき・陰暦いんれきといった場合ばあい、かつての太陰たいいん太陽暦たいようれきである中国ちゅうごく暦れきや和わ暦れきなどを意味いみすることが多おおい。これらが廃止はいしされた中国ちゅうごくや日本にっぽんでは、旧暦きゅうれきとほぼ同義どうぎである。

太陰暦たいいんれきは朔さく望月もちづきで1か月げつを定さだめているが、12か月げつで1年ねんとしているのは1回帰かいき年ねん（1太陽年たいようねん）も起源きげんに影響えいきょうしている。逆ぎゃくに、太陽暦たいようれきは太陽年たいようねんで1年ねんを定さだめているが、それを約やく30日にちずつの暦こよみ月がつで12か月げつに分わけているのは朔ついたち望月もちづきも起源きげんに影響えいきょうしている。

太陰暦たいいんれきに基もとづく暦法れきほう

• ヒジュラ暦れき（イスラム暦れき、ヒジュラ太陰暦たいいんれき） - イスラム世界せかいにおける暦こよみ。かつては公式こうしきの暦こよみとして用もちいられてきたが、現在げんざいは宗教しゅうきょう行事ぎょうじ以外いがいでは太陽暦たいようれきを使つかうことが多おおい。

太陰暦たいいんれきの利用りよう

• 沿岸えんがん漁業ぎょぎょうでは潮しおの満みち引びきにより作業さぎょう時間じかんが大おおきく左右さゆうされる。現在げんざいは潮汐ちょうせき表ひょうが書かき込こまれた太陽暦たいようれきのカレンダーも存在そんざいするが、太陰暦たいいんれきを使つかった干潮かんちょう・満潮まんちょう時刻じこくの算出さんしゅつや大潮おおしお（毎月まいつき1日にちと16日にちごろ）、小潮こしお（毎月まいつき8日にちごろと23日にちごろ）の判断はんだんは漁師りょうしとして基本きほん的てきな素養そようの1つである。

関連かんれん項目こうもく

• 太陰たいいん太陽暦たいようれき
• 太陽暦たいようれき

外部がいぶリンク

• When.exe Ruby版ばん - 古今ここん東西とうざいあらゆる文化ぶんかおよび言語げんごで用もちいられた暦日れきじつ・暦法れきほう・時じ法ほう・暦年れきねん代だい・暦こよみ注ちゅうなどにユニークな名前なまえ付づけを行おこない、統一とういつ的てきに扱あつかうことを目的もくてきとしたフレームワーク。
• 世界せかいの異ことなった場所ばしょのための太陰暦たいいんれき。 （英語えいご）
• 月つき相しょう
• 月齢げつれいカレンダー