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テフラ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
（広域こういき火山灰かざんばいから転送てんそう）
オレンジ色しょくの鬼おに界かいアカホヤ火山灰かざんばいを含ふくむ地層ちそう、鹿児島かごしま県けん霧島きりしま市しの上野原うえのはら遺跡いせき（鬼おに界かいカルデラから約やく120km）にて

テフラ（古代こだいギリシア語ご: τέφρα、英えい: tephra、ギリシャ語ごで「灰はい」の意い）とは、アイスランドの地質ちしつ学者がくしゃシグルズール・ソラリンソンによって定義ていぎされた語かたりで、火山灰かざんばい・軽石かるいし・スコリア・火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつ・火ひ砕サージ堆積たいせき物ぶつなどの総称そうしょう。火山灰かざんばいなどの火山かざん噴出ふんしゅつ物ぶつ中なかのケイ素けいそ酸化さんか物ぶつ SiO2の組成そせい[1][2]や含有がんゆうする微量びりょう元素げんそを分析ぶんせきすることで、起源きげんとなった火山かざんの特定とくていが行おこなわれる[1]。また、層そう厚あつと堆積たいせき面積めんせきによって噴火ふんか規模きぼを推定すいていする事ことが可能かのうになる[3]。

ソラリンソンはヘクラ山さんでの研究けんきゅうを通とおし、1944年ねんに火山灰かざんばいによる地層ちそうの対比たいひや編へん年ねんを行おこなう方法ほうほうを提唱ていしょうした[4]。短期たんきに広範囲こうはんいの地層ちそうに痕跡こんせきを残のこす性質せいしつを用もちい、年代ねんだい測定そくていで噴出ふんしゅつ時期じきを求もとめた各かくテフラを編へん年ねんの基準きじゅん（鍵かぎ層そう）とし、各地かくちの層そう序じょを共通きょうつうの広域こういきテフラによって結むすび付つけていく研究けんきゅうはテフロクロノロジーに発展はってんした。その成果せいかは、噴出ふんしゅつ元もとの火山かざんの噴火ふんか史しを紐解ひもとくだけでなく、考古学こうこがく・古こ生物せいぶつ学がく・地ち史学しがくといった地質ちしつ時代じだいの研究けんきゅうに利用りようされている[5]。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

火山かざん砕屑物ぶつとほぼ同義どうぎであるが、ある程度ていど広ひろく分布ぶんぷするものに用もちいられることが多おおい。狭義きょうぎには降下こうかしたものを指さす。しかし学者がくしゃにより厳密げんみつな定義ていぎに差違さいが生しょうじており[6]、

  1. テフラは降下こうか物ぶつに限かぎられる
  2. 火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつを含ふくむが溶結したものを除のぞく
  3. 溶結・非ひ溶結を問とわずすべてを含ふくむ

などとかなり曖昧あいまいである、とする指摘してきがある[6]。

テフラの成因せいいんと呼称こしょう[編集へんしゅう]

火山かざんが噴火ふんかして噴煙ふんえんが上あがった場合ばあい、その噴煙ふんえんの中なかにはいろいろな大おおきさの粒子りゅうしが含ふくまれている。通常つうじょう、噴煙ふんえんは噴出ふんしゅつの勢いきおいで広ひろがったり風ふうに流ながされたりするので、その中なかの粒子りゅうしは広ひろい範囲はんいに降下こうかするが、大おおきい（重おもい）粒子りゅうしは火口かこうの近ちかくに、小ちいさい（軽かるい）粒子りゅうしほど遠とおくに落おちることになる。日本にっぽん上空じょうくうでは偏西風へんせいふうが吹ふいているため、高たかさ12,000m以上いじょうまで噴出ふんしゅつした場合ばあいの広域こういきテフラは噴出ふんしゅつ源げんから東ひがしに分布ぶんぷする傾向けいこうがある[3]が、実際じっさいには5,000m以下いかの風向かざむきの影響えいきょうを強つよく受うける[3]。また、高たかさ30,000mを越こえる噴煙ふんえん柱ばしらでは、風上かざかみ側がわにも堆積たいせきする[3]。

粒子りゅうしの大おおきさと距離きょりの変化へんかは連続れんぞく的てきで、しかも同一どういつの噴火ふんかでできたものであるため、粒子りゅうしの大おおきさだけで分類ぶんるいすることには本質ほんしつ的てきな意味いみがない。また、噴煙ふんえん柱ばしらの一部いちぶが崩壊ほうかいして火砕流かさいりゅうを発生はっせいすることがあるが、その場合ばあいは同一どういつの噴煙ふんえんから火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつと降下こうか物ぶつの両方りょうほうができることになる（例れい：シラスと姶良あいらTn火山灰かざんばい）。このように同時どうじにできたいろいろな火山かざん砕屑物ぶつはひとまとめに扱あつかった方ほうが火山かざん噴火ふんか史しや周辺しゅうへんの地質ちしつ一般いっぱんを調しらべる上うえで合理ごうり的てきであるため、総称そうしょうしてテフラと呼よばれるようになった。

広域こういきテフラ[編集へんしゅう]

「破局はきょく噴火ふんか#第だい四よん紀きのVEI-7以上いじょうの噴火ふんか」も参照さんしょう
アメリカの4つの広域こういき火山灰かざんばいであるハックルベリー・リッジ・タフ（英語えいご版ばん）（2.1Ma）、メサ・フォールズ・タフ（英語えいご版ばん）（1.3Ma）、ビショップ・タフ（英語えいご版ばん）（767ka）、ラバ・クリーク・タフ（英語えいご版ばん）（631ka）。比較ひかくのためセント・ヘレンズ山さんの1980年ねん噴火ふんかの分布ぶんぷも示しめす。
9万まん-8万まん5千せん年ねん前まえの阿蘇あそ4テフラ（Aso-4）
2万まん9千せん-2万まん6千せん年ねん前まえの姶良あいらTnテフラ（AT）
7300年ねん前まえの幸屋こうや火砕流かさいりゅうと鬼おに界かいアカホヤテフラ（K-Ah）

特とくに大だい規模きぼな噴火ふんかが起おこった場合ばあい、日本にっぽん全国ぜんこくを覆おおうほどの規模きぼで火山灰かざんばい〜軽石かるいしが降下こうかし堆積たいせきする。このような降下こうかテフラを広域こういきテフラという。広域こういきテフラは1回かいの噴火ふんかで形成けいせいされるため、地質ちしつ年代ねんだいの基準きじゅんとして重要じゅうようである[7]。広域こういきの定義ていぎは研究けんきゅう者しゃによって異ことなる[7]。

広域こういきテフラを形成けいせいする噴火ふんか[編集へんしゅう]

広域こういきテフラを形成けいせいする噴火ふんかには大別たいべつして2種類しゅるいあると考かんがえられている。

  • 陥没かんぼつカルデラを形成けいせいする大だい噴火ふんか
    • カルデラ周辺しゅうへんに広ひろく火砕流かさいりゅう堆積たいせき物ぶつが形成けいせいされると同時どうじに、細ほそ粒つぶ物質ぶっしつが上空じょうくうに吹ふき上あげられ広ひろい範囲はんいに降ふり積つもる。
  • 大だい規模きぼなプリニー式しき噴火ふんか
    • カルデラを形成けいせいしない場合ばあいであっても、噴出ふんしゅつ物ぶつの量りょうが多おおく上空じょうくうまで吹ふき上あげられると、偏西風へんせいふうに運はこばれて広ひろい範囲はんいに降ふり積つもる。火砕流かさいりゅうを伴ともなわないこともある。

日本にっぽんの代表だいひょう的てきな広域こういきテフラ[編集へんしゅう]

「テフラ名めい（対応たいおうする火砕流かさいりゅう）：記号きごう：噴出ふんしゅつ源げん：年代ねんだい」の順じゅんに示しめす。

ギャラリー[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]
  1. ^ a b 古澤ふるさわ明あきら、「火山かざんガラスの屈折くっせつ率りつ測定そくていおよび形態けいたい分類ぶんるいとその統計とうけい的てきな解析かいせきに基もとづくテフラの識別しきべつ」『地質ちしつ学がく雑誌ざっし』 1995年ねん 101巻かん 2号ごう p.123 - 133、doi:10.5575/geosoc.101.123
  2. ^ 吉川よしかわ清志きよし、「ICP発光はっこう分析ぶんせきを用もちいたテフラの同どう定法じょうほうとその応用おうよう」『地学ちがく雑誌ざっし』 1990年ねん 99巻かん 7号ごう p.743 - 758、doi:10.5026/jgeography.99.7_743
  3. ^ a b c d 早川はやかわ由紀夫ゆきお、「テフラとレスからみた火山かざんの噴火ふんかと噴火ふんか史し」『第だい四よん紀き研究けんきゅう』 1991年ねん 30巻かん 5号ごう p.391 - 398、doi:10.4116/jaqua.30.391
  4. ^ 藤ふじ則雄のりお『日本にっぽん先史せんし文化ぶんか入門にゅうもん』雄山閣ゆうざんかく出版しゅっぱん、1979年ねん、71頁ぺーじ
  5. ^ 「テフロクロノロジー」、平凡社へいぼんしゃ『百科ひゃっか事典じてんマイペディア』『世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん 第だい2版はん』および小学しょうがく館かん『デジタル大辞泉だいじせん』（コトバンク収録しゅうろく）、2020年ねん11月30日にち閲覧えつらん。
  6. ^ a b 安井やすい真しん也、「浅間前せんげんまえ掛かけ火山かざん12世紀せいき以前いぜんの噴火ふんか履歴りれき復元ふくげんの手てがかり」『火山かざん』 62巻かん 3号ごう 2017年ねん p.117 - 134、日本にっぽん火山かざん学会がっかい、doi:10.18940/kazan.62.3_117。
  7. ^ a b 町田まちだ洋ひろし、新井あらい房夫ふさお、広域こういきテフラと考古学こうこがく 第だい四よん紀き研究けんきゅう 1983年ねん 22巻かん 3号ごう p.133-148、doi:10.4116/jaqua.22.133
  8. ^ 地質ちしつ標本ひょうほん館かん 特別とくべつ展てん「祝しゅくチバニアン誕生たんじょう!―国際こくさい境界きょうかい模も式しき層そうと地磁気ちじきの逆転ぎゃくてんとは?―」ブックレット、p.3、産業さんぎょう技術ぎじゅつ総合そうごう研究所けんきゅうじょ 地質ちしつ調査ちょうさ総合そうごうセンター、2020年ねん7月がつ17日にち改訂かいてい版ばん。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 町田まちだ洋ひろし、新井あらい房夫ふさお『新編しんぺん火山灰かざんばいアトラス - 日本にっぽん列島れっとうとその周辺しゅうへん』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい、2003年ねん9月がつ。ISBN 978-4-13-060745-2。 
  • 町田まちだ洋ひろし、「テフラと日本にっぽん考古学こうこがく-考古学こうこがく研究けんきゅうと関係かんけいするテフラのカタログ-」『古こ文化財ぶんかざいに関かんする保存ほぞん科学かがくと人文じんぶん 自然しぜん科学かがく』-総括そうかつ報告ほうこく書しょ-、865 - 928、1984、NAID 10004720284

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