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かん電流でんりゅう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
かん電流でんりゅうしきB0は、外部がいぶ磁場じばであり、あか矢印やじるし磁場じば方向ほうこうしめしている。オレンジ矢印やじるしかん電流でんりゅう方向ほうこう電子でんしうご方向ほうこうであり,実際じっさいの「電流でんりゅう」はオレンジ矢印やじるしとはぎゃく方向ほうこうである)をしめし、むらさき矢印やじるし誘導ゆうどう磁場じばしめしている。

かん電流でんりゅう(かんでんりゅう、えい: ring current)は、ベンゼンナフタレンといった芳香ほうこうぞく分子ぶんしにおいて観察かんさつされる効果こうかである。磁場じば芳香ほうこうぞくけい平面へいめんたいして垂直すいちょく位置いちしているとき芳香ほうこうたまき局在きょくざいπぱい電子でんしかん電流でんりゅうさそえおこされる[1]。これはアンペールの法則ほうそく直接ちょくせつ結果けっかである。ほとんどの芳香ほうこうぞく分子ぶんしちゅう電子でんし特定とくてい結合けつごう局在きょくざいするが、局在きょくざいπぱい電子でんし自由じゆう巡回じゅんかいするため、磁場じばたいしてよりつよ応答おうとうする。

芳香ほうこうぞくたまき電流でんりゅうNMR分光ぶんこうほう関連かんれんしている。かん電流でんりゅう有機ゆうきあるいは無機むき芳香ほうこうぞく分子ぶんしちゅう13Cおよび1Hかく化学かがくシフト劇的げきてき影響えいきょうする[2]。この効果こうかによって、これらの原子核げんしかくかれている状態じょうたい区別くべつすることができ、ゆえに分子ぶんし構造こうぞう決定けっていにおいて非常ひじょう有用ゆうようである。ベンゼンでは、芳香ほうこうたまきのプロトンの位置いちではかん電流でんりゅうによる誘導ゆうどう磁場じば外部がいぶ磁場じばおな方向ほうこうくためはん遮蔽しゃへいけ、化学かがくシフトは7.3 ppmをしめす(シクロヘキセンなかビニルプロトンの化学かがくシフトは5.6 ppmである)。一方いっぽう芳香ほうこうたまき内部ないぶ存在そんざいするプロトンは誘導ゆうどう磁場じば外部がいぶ磁場じばぎゃく方向ほうこうくため遮蔽しゃへいける。この効果こうかシクロオクタデカノナエン([18]アヌレン)で観測かんそくすることができ、内部ないぶ位置いちする6つのプロトンの化学かがくシフトは−3 ppmである。

はん芳香ほうこうぞくせい化合かごうぶつでは状況じょうきょう逆転ぎゃくてんする。[18]アヌレンのジアニオンでは、内部ないぶプロトンは強力きょうりょくはん遮蔽しゃへい効果こうか化学かがくシフトは20.8 ppmおよび29.5 ppmをしめ一方いっぽう外部がいぶプロトンは(相対そうたいてきに)顕著けんちょ遮蔽しゃへいされ、化学かがくシフトは−1.1 ppmをしめす。このように、はん磁性じせいたまき電流でんりゅうあるいはジアトロピック (diatropic) たまき電流でんりゅう芳香ほうこうぞくせい関連かんれんしており、パラトロピック (paratropic) たまき電流でんりゅうはん芳香ほうこうぞくせいしめす。

同様どうよう効果こうかさん次元じげんフラーレンでも観測かんそくされる。この場合ばあいたま電流でんりゅう(sphere current)とばれる[3]

量子力学りょうしりきがくてき手法しゅほうもちいて明示めいじてき計算けいさんした、ベンゼン (C6H6) における磁気じきてき誘導ゆうどうされた確率かくりつりゅう密度みつどベクトル。外部がいぶ磁場じばB0分子ぶんし平面へいめんたいして垂直すいちょく配置はいちされている。ひだりでは分子ぶんし平面へいめんにおけるベクトルのみがしめされており、みぎでは分子ぶんし平面へいめんから1 a.u. (~52 pm) 上部じょうぶのベクトルのみがしめされている。絶対ぜったいが0.01と0.1 nA/Tのあいだのベクトルのみが表示ひょうじされている。古典こてん電気でんき力学りきがく法則ほうそくのようにジアトロピック寄与きよのみをあたえる概略がいりゃく対比たいひすると、完全かんぜん量子力学りょうしりきがくによってられたでは(概略がいりゃくちゅうの)はん時計とけいまわりのうずとしてパラトロピック寄与きよられる。これらはベンゼンのC6たまき内部ないぶ分子ぶんし平面へいめんおも位置いちしている。

相対そうたいてき芳香ほうこうぞくせい

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Selected NICS values[4] / ppm
ピロール −15.1
チオフェン −13.6
フラン −12.3
ナフタレン −9.9
ベンゼン −9.7
トロピリウム −7.6
シクロペンタジエン −3.2
シクロヘキサン −2.2
ペンタレン 18.1
ヘプタレン 22.7
シクロブタジエン 27.6

観測かんそくされるかん電流でんりゅうめんから芳香ほうこうぞくせい定量ていりょうすることがこれまで数多かずおおこころみられてきた[5]DSE (diamagnetic susceptibility exaltation) とばれる方法ほうほうでは、化合かごうぶつ観測かんそく磁化じかりつ置換ちかんもと加算かさんせいもとづいた計算けいさんとのΛらむだ定義ていぎしている。ベンゼンはあきらかに芳香ほうこうぞくせいであり (Λらむだ = −13.4)、ボラジン (Λらむだ = −1.7) およびシクロヘキサン (Λらむだ = 1.1) は芳香ほうこうぞく、シクロブタジエン (Λらむだ = +18) ははん芳香ほうこうぞくである。

もうひとつの測定そくてい可能かのうは、リチウム芳香ほうこうぞく分子ぶんし錯体さくたいちゅうのリチウムイオンの化学かがくシフトである。リチウムは芳香ほうこうたまきめんたいしてはいする傾向けいこうにある。ゆえに、シクロペンタジエニルリチウム (CpLi) の化学かがくシフトは−8.6 ppm(芳香ほうこうぞくせい)でありCp2Li-錯体さくたいでは化学かがくシフトは−13.1 ppmである。

どちらの手法しゅほうも、たまきおおきさに依存いぞんしたであるため不利益ふりえきこうむる。NICS (nucleus-independent chemical shift) は、たまき内部ないぶ直接ちょくせつ配置はいちした仮想かそうリチウムイオンの化学かがくシフトを算出さんしゅつする計算けいさん手法しゅほうである[4]。この方法ほうほうでは、まけのNICS芳香ほうこうぞくしめし、せいはん芳香ほうこうぞくせいしめす。

HOMA[6] (harmonic oscillator model of aromaticity) とばれるもうひとつの手法しゅほうは、完全かんぜん芳香ほうこうぞくであると推定すいていされる最適さいてきからの結合けつごうちょう偏差へんさ平方へいほう英語えいごばん規格きかく定義ていぎされる。芳香ほうこうぞくのHOMAは1であり、芳香ほうこうぞくではは0となる。すべての炭素たんそけいにおいて、HOMA以下いかしき利用りようしてることができ、

 

正規せいきは257.7、nはCC結合けつごうかずdopt最適さいてきされた結合けつごうちょう (1.388 Å)、di結合けつごうちょう実験じっけんあるいは計算けいさんである。

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ Merino, G.; Heine, T.; Seifert, G. (2004), “The induced magnetic field in cyclic molecules”, Chem. Eur. J. 10: 4367-4371, doi:10.1002/chem.200400457 
  2. ^ Gomes J. A. N. F.; Mallion, R. B. (2001), “Aromaticity and Ring Currents”, Chem. Rev. 101 (5): 1349-1384, doi:10.1021/cr990323h, PMID 11710225 
  3. ^ Mikael P. Johansson, Jonas Jusélius, and Dage Sundholm (2005), “Sphere Currents of Buckminsterfullerene”, Angew. Chem. Int. Ed. 44 (12): 1843-1846, doi:10.1002/anie.200462348, PMID 15706578 
  4. ^ a b Paul von Ragué Schleyer, Christoph Maerker, Alk Dransfeld, Haijun Jiao, and Nicolaas J. R. van Eikema Hommes (1996), “Nucleus-Independent Chemical Shifts: A Simple and Efficient Aromaticity Probe”, J. Am. Chem. Soc. 118 (26): 6317-6318, doi:10.1021/ja960582d 
  5. ^ “What is aromaticity?”, Pure & Appl. Chem. 68 (2): 209-218, (1996), http://www.iupac.org/publications/pac/1996/pdf/6802x0209.pdf 
  6. ^ J. Kruszewski and T. M. Krygowski (1972), “Definition of aromaticity basing on the harmonic oscillator model”, Tetrahedron Lett. 13 (36): 3839-3842, doi:10.1016/S0040-4039(01)94175-9