社稷しゃしょく

社稷しゃしょく（しゃしょく）は、社しゃ（土地とち神しんを祭まつる祭壇さいだん）と稷きび（穀物こくもつの神かみを祭まつる祭壇さいだん）の総称そうしょう。

もとは周しゅう代だい諸侯しょこうの祭祀さいしであったが、秦はた漢かん帝国ていこく以降いこう、天壇てんだん・地ち壇だんや宗廟そうびょうなどとともに、中国ちゅうごくの国家こっか祭祀さいしの中枢ちゅうすうを担にない、転てんじて、国家こっか・国体こくたいを意味いみするようになった。

古代こだいの春分しゅんぶん・秋分しゅうぶん祭祀さいしと関係かんけいし、その祭日さいじつである社日しゃにちは、春秋しゅんじゅうの彼岸ひがんと重かさなることも多おおい。台湾たいわんやベトナム（越こし南みなみ）では「社しゃ」は土地とち神しんの意いから転てんじて行政ぎょうせい区くを指さすようになった。日本にっぽんの「神社じんじゃ」も、その命名めいめいの時点じてんでは、土地とち神しんを祭まつる祠堂しどうを指さしたと考かんがえられる。社しゃから結社けっしゃ（社中しゃちゅう、氏子うじこ集団しゅうだん）の意いが生しょうじ、これが日本にっぽんにおける「会社かいしゃ」などの造語ぞうごにつながった。

歴史れきし

古代こだい中国ちゅうごく、周しゅう代だいの封建ほうけん社会しゃかいにおいては、土地とちとそこから収穫しゅうかくされる作物さくもつが封建ほうけん諸侯しょこう国こくの基礎きそであると考かんがえられており、村むらごとに社しゃと稷きび（土地とち神しんと穀物こくもつ神かみ）を祀まつっていた。周しゅうが滅ほろんで秦はた漢かん帝国ていこくが発生はっせいすると、天子てんし（皇帝こうてい）が国家こっか行事ぎょうじとして社稷しゃしょく祭祀さいしを行おこなうようになり、やがて社稷しゃしょくは国家こっか・国体こくたいそのものを意味いみするようになった。

新あたらしい国くにが興おこると、社稷しゃしょくの祭壇さいだんと宗廟そうびょうが設置せっちされた。皇帝こうていの都とは、左ひだりに太ふとし祖そと呼よばれる先祖せんぞ（宗廟そうびょう）を、右みぎに土地とち神しんを（社稷しゃしょく）祀まつることとされており、中国ちゅうごく・ベトナム（越こし南みなみ）・韓国かんこくなどに現在げんざい残のこる社稷しゃしょくの多おおくがこの形式けいしきにしたがっている。この形式けいしきは周しゅう代だいより存在そんざいしたとされる。

儒教じゅきょうにおいて、現げん王朝おうちょうの宗廟そうびょうのみならず、過去かこの王朝おうちょうの宗廟そうびょうを保護ほごすることも義務付ぎむづけられていた。これらは現げん王朝おうちょうが前ぜん王朝おうちょうに並ならぶ徳とくを持もち、かつ徳とくの衰おとろえた前ぜん王朝おうちょうに代かわった正当せいとう性せい(易姓革命えきせいかくめい)を証明しょうめいするためである。

過去かこの王朝おうちょうの宗廟そうびょうと陵墓りょうぼが荒あらされることはすなわち現げん政権せいけん(あるいはその王朝おうちょうの徳とく)が不安定ふあんていな状態じょうたいであることの表あらわれとして認識にんしきされていた。そのため律令りつりょうにおいてどの王朝おうちょうであるかに関かかわらず過去かこの帝王ていおうの宗廟そうびょうと陵墓りょうぼを荒あらすことは謀反むほんに次つぐ謀はかりごと大逆だいぎゃくとして厳きびしく罰ばっされていたことが一般いっぱん的てきであった。

社稷しゃしょく壇だん

近世きんせいの明あきら帝国ていこく、清きよし帝国ていこく、大南おおみなみ帝国ていこく、大韓たいかん帝国ていこくにおいては、社稷しゃしょく壇だんは社しゃ壇だん（社しゃ＝土地とち神しんを祭まつる）と稷きび壇だん（稷きび＝穀物こくもつ神しんを祭まつる）のふたつから構成こうせいされた。社稷しゃしょく壇だんの上うえには、五色ごしき土どと呼よばれる以下いかに示しめす方角ほうがくの辺境へんきょうから献上けんじょうされた五色ごしきの土どが敷しかれている（中央ちゅうおうは黄色おうしょく、東ひがしは青色あおいろ、南みなみは赤色あかいろ、西にしは白色はくしょく、北きたは黒色こくしょく）。これは、陰陽いんよう五ご行ぎょうの思想しそうによって五ご色しょくは万物ばんぶつ、すなわち天下てんかすべての土地とちを指さし、｢普天ふてん之の下した、莫非王土おうど｣（世界せかいに天子てんし・皇帝こうていの領有りょうゆうしない土地とちはない＝世界せかいの全すべてが皇帝こうていの領土りょうどである）という意味いみである（中華ちゅうか思想しそう）。

日本にっぽんでは、大正たいしょう期きの渋沢しぶさわ栄一えいいち『武士ぶしと算盤そろばん』（1916）が「徳川とくがわ三さん百ひゃく年ねんの社稷しゃしょく」のように表現ひょうげんし、また権藤ごんどう成しげる卿きょうが社稷しゃしょく型かた封建ほうけん制せいを理想りそうとして共済きょうさい共存きょうぞんの共同きょうどう体たいとしての「社稷しゃしょく国家こっか」を唱となえたように、古代こだい～近代きんだいにいたるまで、社稷しゃしょくは周しゅう代だいの封建ほうけん諸侯しょこう国こくの国体こくたいを指さす語かたりとして受うけ入いれられていた。日本にっぽんにおいて国くにの社稷しゃしょく壇だんを建立こんりゅうし、天皇てんのうが国家こっか行事ぎょうじとして社稷しゃしょく祭祀さいしを行おこなった例れいはなく（九条くじょう兼けん実みのように社稷しゃしょくを国家こっか・国体こくたいの意味いみで使用しようした例れいはある）、徳川とくがわ氏しの私的してきな祠堂しどうとして、湯島ゆしま聖堂せいどう内うちに神かみ農みのり廟びょうが設もうけられたのみである。なお、中国ちゅうごく暦れきにおける社しゃを祭まつる日ひ＝「社日しゃにち」（しゃにち）または「戌いぬの日ひ」（いぬのひ、春分しゅんぶん3/20ごろ及および秋分しゅうぶん9/23ごろの直前ちょくぜんまたは直後ちょくごの戌いぬの日ひ、春はる社しゃ・秋あき社しゃともいう）の概念がいねんは、春はる・秋あきの彼岸ひがんと重かさなる形かたちで日本にっぽんでも取とり入いれられた。春分しゅんぶん・秋分しゅうぶんは太陽暦たいようれきに基もとづく祝日しゅくじつであるため、春はる社しゃ・秋あき社しゃもまた、中国ちゅうごく由来ゆらいの旧暦きゅうれき（太陰たいいん太陽暦たいようれき）では移動いどう祝日しゅくじつとなる。令れい和わ３年ねん（2021）の春はる社しゃは旧きゅう2/03（3/15月がつ）、秋あき社しゃは旧きゅう8/17（9/23木き、秋分しゅうぶん当日とうじつ）であった。

中国ちゅうごくの社稷しゃしょく

明あきら清きよし帝国ていこくの北京ぺきん社稷しゃしょく壇だんは、現在げんざいの北京ぺきん市し内うち、紫むらさき禁城きんじょうの南みなみ、天安門てんあんもんの西側にしがわにある、中山なかやま公園こうえんに存在そんざいする。唐とう代だいから存在そんざいした寺てらを利用りようして、明あかりの太ふとし祖そである朱しゅ元もと璋あきらが1420年ねんに建立こんりゅうしたとされる。中山なかやま公園こうえんという名称めいしょうは、中国ちゅうごく革命かくめいの父ちちと呼よばれる孫まご文ぶん（号ごう：中山なかやま、1925年ねん没ぼつ）の柩ひつぎが園内えんないの中山なかやま堂どうに安置あんちされていることに由来ゆらいする。中山なかやま堂どう自体じたいは元々もともとは拝殿はいでんであり、明代あきよに建設けんせつされたとされ、明代あきよ、清しん代だいの皇帝こうていが風雨ふううを避さけ神しんを祀まつる行事ぎょうじを行おこなう場所ばしょであったが、孫まご文ぶんの棺かんが安置あんちされた後のち、1928年ねんに中山なかやま堂どうと称しょうされ、社稷しゃしょく壇だんぜんたいも中山なかやま公園こうえんと改称かいしょうされた。中国ちゅうごくの統治とうち者しゃはここで天命てんめいを受うけるものとされてきた。中山なかやま公園こうえんには、今いまもなお、天地てんちを繋つなぐとされる、樹齢じゅれい千せん年ねんに達たっするとも言いわれる柏かしわの大木たいぼくが多数たすう存在そんざいし、奇観きかんを呈ていしている。中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくの現げん首脳しゅのうである習近平ひらた氏し（中国共産党ちゅうごくきょうさんとう総そう書記しょき、国家こっか主席しゅせき）もまた、中国ちゅうごくの統治とうち者しゃとして中山なかやま公園こうえん（北京ぺきん社稷しゃしょく壇だん）に注意ちゅういを払はらっていることを示しめすものと受うけ止とめられている。

韓国かんこく・北朝鮮きたちょうせんの社稷しゃしょく

景けい福ぶく宮みやの東側ひがしがわに宗廟そうびょう、西側にしがわに社稷しゃしょく壇だんが現存げんそんし、韓国かんこくの重要じゅうよう文化財ぶんかざいに指定していされ、ソウル特別とくべつ市しの社稷しゃしょく洞ほら（サジクドン）や社稷しゃしょく路ろ（サジクノ）などの地名ちめいになっている。毎年まいとしソウル特別とくべつ市しによりソウル社稷しゃしょく大祭たいさい（秋あき社しゃ）が実施じっしされている。

中国ちゅうごく文献ぶんけんに、北朝鮮きたちょうせんの国家こっか・労働党ろうどうとう政府せいふの四よん大だい機関きかんを「朝鮮ちょうせん社稷しゃしょく機構きこうの四よん架か馬車ばしゃ」と呼よぶものがある。この四よん架か（四よん頭とう）とは、具体ぐたい的てきには、最高さいこう人民じんみん会議かいぎ、最高さいこう人民じんみん会議かいぎ常任じょうにん委員いいん会かい、国務こくむ委員いいん会かい（旧きゅう国防こくぼう委員いいん会かい）、内閣ないかくを指さすとされる。

越えつ南みなみの社稷しゃしょく

呉ご士し連れん（ゴーシーリエン）『大越おおこし史記しき全書ぜんしょ』は、中国ちゅうごくの宋そう太ふとし祖そ開ひらき宝たから元年がんねん（968）に丁ちょう氏し大だい瞿越国こくの先皇せんのうである丁ひのと部ぶ領りょう（ディンボリン）が華はな閭社稷しゃしょく壇だん（ホアルー社稷しゃしょく壇だん）を建立こんりゅうしたのがベトナム（越こし南みなみ）の社稷しゃしょく祭祀さいしの始はじまりという。丁ひのと朝あさいらい、ベトナムの社稷しゃしょく祭祀さいしは国家こっか大祭たいさいであるが、阮朝時代じだいには社稷しゃしょく壇だんそのものは孔子こうし廟びょう（文ぶん廟びょう、文ぶん聖廟せいびょうまたは聖堂せいどうとも呼よばれた）と共ともに地方ちほう各省かくしょうにも置おかれ、現在げんざいも中越なかごえ国境こっきょうの「クアンニン省しょうモンカイ市し（広こう寧やすし省しょう芒すすき街がい城じょう舗）の社稷しゃしょく祭祀さいし」（ベトナム政府せいふ宗教しゅうきょう班はん主ぬし頁ぺーじ）などのように、地方ちほう祭祀さいしが継続けいぞくされている。国くにの社稷しゃしょく壇だんについて、黎はじむ貴き惇あつし（レークイドン）『見聞けんぶん小しょう録ろく』は、黎はじむ氏し大越おおごえ国こくの洪ひろし徳とく年間ねんかんに黎はじむ聖ひじり宗はじめ（レータイントン）により建立こんりゅうされたと伝つたえられる昇龍しょうりゅう社稷しゃしょく壇だん（ハノイ社稷しゃしょく壇だん）の規模きぼや構成こうせいを記述きじゅつする。黎はじむ聖せい宗むねの死後しご、黎はじむ氏し大越おおごえ国こくは皇族こうぞく間あいだの争あらそいや外戚がいせきによる簒奪さんだつ、皇族こうぞくと外戚がいせきの内戦ないせん、外戚がいせき同士どうしの内戦ないせんが相次あいついだ（黎はじむ朝あさ→莫朝→黎はじむ莫内戦せん→鄭てい阮内戦せん→鄭てい西山にしやま内戦ないせん→西山にしやま朝ちょう→阮西山内さんない戦せん→阮朝）。ハノイ社稷しゃしょく壇だん（社しゃ壇だん/サアダン、稷きび壇だん/タクダン）は黎はじむ貴き惇あつしによる記録きろく後ごまもなく（黎はじむ愍帝の退位たいい＝1788年ねん以降いこうに）完全かんぜんに破壊はかいされて、その位置いちもわからなくなっていたが、2006年ねん11月、ハノイ市内しないの新設しんせつ道路どうろ工事こうじ中ちゅうにサアダン（社しゃ壇だん）の遺構いこうが発見はっけんされ、ハノイ市し（河内かわち城じょう舗）のフオン・サアダン（社しゃ壇だん坊ぼう Phường Xã Đàn）やドゥオン・サアダン（社しゃ壇だん路ろ Đường Xã Đàn）などの地名ちめいになっている。また、『大南おおみなみ寔まこと録ろく正編せいへん 』（第だい一紀かずのり）は、富とみ春はる社稷しゃしょく壇だん（フエ社稷しゃしょく壇だん）は阮氏越えつ南国なんごく（大南おおみなみ帝国ていこく）の阮世祖そ/グエンテートー（阮福映うつ/グエンフオクアイン、嘉隆よしたか帝みかど/ザロン帝みかど）が嘉隆よしたか四よん年ねん（1805-1806）に建立こんりゅうしたと記しるす。フランス統治とうち下かにおいても破壊はかいされず、一部いちぶがトゥアティエンフエ省しょうフエ市し（承うけたまわ天てん化か省しょう化か城じょう舗）のフオン・トゥアンホア（順化じゅんか坊ぼう Phường Thuận Hóa）に現存げんそんし、2008年ねん以降いこう、トゥアティエンフエ省しょうによりフエ社稷しゃしょく祭祀さいし（秋あき社しゃ）が実施じっしされている。トゥアティエンフエ省しょうの社稷しゃしょく祭祀さいしもクアンニン省しょうと同様どうように現在げんざいでは地方ちほう祭祀さいしとして国家こっか・共産党きょうさんとう（政府せいふ宗教しゅうきょう班はん）の公認こうにんを受うけて存続そんぞくしていると考かんがえられる。

ベトナム星座せいざでは、天球てんきゅうの黄道こうどう十二宮じゅうにきゅうの天てん蝎宮（さそり座ざ）に属ぞくする房ぼう宿やど（さそり座ざπぱい星ほしなどからなる）を冠かんむりに見立みたてて、心こころ宿やど（アンタレスなどからなる）を丸まるい背中せなかに見立みたてて、この二に宿しゅくをあわせて神かみ農みのり（Thần Nông）と呼よび、社稷しゃしょく神しん（穀物こくもつ神しん）として尊崇そんすうした。このベトナム星座せいざは中国ちゅうごく星座せいざの青あお龍りゅうに相当そうとうする。『大越おおごえ史記しき全書ぜんしょ』に記載きさいされたベトナム神話しんわによれば、鴻おおとり厖氏文郎ふみお国こくの最初さいしょの王おうである雄ゆう王おう/フンヴオン（雄ゆう王おう一世かずよ＝涇陽王おう/キンズオンヴオン）は、炎ほのお帝みかど神かみ農みのり氏し初代しょだいである帝みかど石せき年ねんの四よん世せい孫まご（三さん世せい孫まごである帝みかど明あかりの子こ）であり、龍りゅう身みであった。

ベトナム革命かくめいの指導しどう者しゃ、ホーチミン（胡志明ほうちみん）は、広州こうしゅう滞在たいざい時じに晩年ばんねんの孫まご文ぶんと交流こうりゅうがあり（1924-1925）、孫まご文ぶんを大だい革命かくめい家かと呼よんで尊敬そんけいしていたが、恐おそらくは孫まご文ぶんを祭まつる「中山なかやま堂どう」が中国ちゅうごくの社稷しゃしょくである北京ぺきん社稷しゃしょく壇だんの中なかに置おかれてしまったために、ベトナム人じんとしての立場たちばから「中山ちゅうざん」の名なを避さけて、孫まご文ぶんのことは必かならず「孫まご文ぶん先生せんせい」または「孫まご逸いっ仙せん先生せんせい」と呼よんだ。

学校がっこう

• 社稷しゃしょく中学校ちゅうがっこう
• 社稷しゃしょく小学校しょうがっこう

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