精神せいしん物理ぶつり学がく

精神せいしん物理ぶつり学がく（せいしんぶつりがく、ドイツ語ご：psychophysik、英語えいご：psychophysics）は外的がいてきな刺激しげきと内的ないてきな感覚かんかくの対応たいおう関係かんけいを測定そくていし、また定量ていりょう的てきな計測けいそくをしようとする学問がくもんである。認知にんち科学かがくや工学こうがくの分野ぶんやでは心理しんり物理ぶつり学がくと呼よばれることが多おおい。グスタフ・フェヒナーがその創始そうし者しゃであり、心理しんり学がく（実験じっけん心理しんり学がく）の成立せいりつに大おおきな影響えいきょうを与あたえた。 外的がいてきな刺激しげきは物理ぶつり量りょうとして客観きゃっかん的てきに測定そくていできる。そこで外的がいてきな刺激しげきと内的ないてきな感覚かんかくとの対応たいおう関係かんけいが分わかれば、内的ないてきな感覚かんかく（クオリア）も客観きゃっかん的てきに測定そくていできることになる。

概要がいよう

主おもな感覚かんかくはいわば五感ごかんを中心ちゅうしんとした知覚ちかく(視覚しかく、聴覚ちょうかく、嗅覚きゅうかく、味覚みかく、平衡へいこう感覚かんかく、皮膚ひふ感覚かんかく、深部しんぶ感覚かんかく、内臓ないぞう感覚かんかくなど)に代表だいひょうされる。これらの知覚ちかくは視覚しかくであれば目め、味覚みかくであれば舌した、平衡へいこう感覚かんかくは内耳ないじなど、いくつかの受容じゅよう器きによって引ひき起おこされることは古代こだいよりわかっていた。またこれらを解剖かいぼうしその機構きこうは科学かがくの発展はってんによりかなりの部分ぶぶんが解明かいめいされるようになっていた。 たとえば人間にんげんの視覚しかく器官きかんである眼めと比較ひかくすると、カメラは非常ひじょうによく似にた機構きこうをもっている。 水晶すいしょう体たいはレンズに、網膜もうまくはフィルムに該当がいとうするといった具合ぐあいである。 ここで、私わたしたちは網膜もうまくに映うつった映像えいぞうを認識にんしきしているわけであるが、その映像えいぞうは外部がいぶから入はいってきた光ひかりによるものである。 この光こうは物理ぶつり的てきなものであるので、測定そくていが可能かのうである。こういった質的しつてきな出来事できごとと感覚かんかくとの対応たいおう関係かんけいを物理ぶつり的てきな、いわば人間にんげんの知覚ちかくをブラックボックスと見みていくのが精神せいしん物理ぶつり学がくである。

心身しんしんと外的がいてき刺激しげきの関係かんけい性せいを明あきらかにする過程かていにおいて、精神せいしん物理ぶつり学がく関数かんすうというものが考案こうあんされた。 これは、各種かくしゅ刺激しげきと感覚かんかくとの関係かんけいを物理ぶつり学がく的てきな（あるいは数学すうがく的てきな）方法ほうほうで表記ひょうきするものである。

フェヒナーの法則ほうそく

もっとも基本きほん的てきな刺激しげきと感覚かんかくの関係かんけいは、心理しんり的てきな感覚かんかく量りょう（心理しんり量りょう：R）は、物理ぶつり的てきな刺激しげきの量りょう（物理ぶつり量りょう：S）の対数たいすうに比例ひれいするというものである。これは「ヴェーバー‐フェヒナーの法則ほうそく」（あるいは単たんに「フェヒナーの法則ほうそく」）として知しられる。

$R=k\log _{10}S$ （k は感覚かんかく定数ていすう）

フェヒナーは、物理ぶつり量りょうが極小きょくしょうなある点てんで心理しんり量りょうは0になるし、物理ぶつり量りょうが一定いっていより超こえても心理しんり量りょうはほとんど増大ぞうだいしないとした。

刺激しげきの種類しゅるい	感覚かんかく係数けいすう （大おおきいほど 強つよい刺激しげき）
音おとの大おおきさ	0.7
コーヒーの香かおり	0.6
サッカリンの甘あまさ	0.8
暖あたたかさ	1.5
電気でんきショック	3.7

20世紀せいき中葉ちゅうように精神せいしん物理ぶつり学がくの見直みなおしを行おこなったS・S・スティーヴンス（Stanley Smith Stevens）は、マグニチュード推定すいてい法ほうによって得えられたデータに基もとづいて

$R=KS^{n}$

の式しきで表現ひょうげんされる「スティーヴンスのべき法則ほうそく」を導みちびいた。痛いたみなど危機きき的てきな刺激しげきはn>1であり、逆ぎゃくにその他たの感覚かんかく等とうはn<1をとるとした。 nは右みぎ表ひょうのような値ねを取とるとされた。

これらの関数かんすうはある面めんでは有効ゆうこうであるが、人間にんげんの感覚かんかくを普遍ふへん的てきな関数かんすうに基もとづいて分析ぶんせきすることの難むずかしさから現在げんざい直接的ちょくせつてきに研究けんきゅうしている学者がくしゃは少すくない。 ただし、心理しんり音響おんきょう学がくや認知にんち心理しんり学がく、人間にんげん工学こうがくなど、またヒューマニックデザインなどと呼よばれる分野ぶんやで間接かんせつ的てきまたは直接的ちょくせつてきにこれらの関数かんすうや、それを作成さくせいするための手法しゅほうなどを利用りようしている。

人間にんげんの多種たしゅ多様たようなあらゆる刺激しげきを定量ていりょう的てきに測定そくていすることの困難こんなんや、実験じっけん者しゃの質問しつもん内容ないようによる影響えいきょう、刺激しげきへの反応はんのう傾向けいこうが心理しんり的てき・意識いしき的てきな問題もんだいや過去かこの経験けいけん・知識ちしき情報じょうほうによる影響えいきょうにより個々人ここじんで異ことなることが問題もんだいとなるが、それらの差異さいを取とり除のぞくためのいくつかの実験じっけん手法しゅほうが考案こうあんされている。