藤原ふじわら成しげる通どおり

凡例はんれい 藤原ふじわら成しげる通どおり
時代じだい	平安へいあん時代じだい後期こうき
生誕せいたん	承うけたまわ徳とく元年がんねん（1097年ねん）
死没しぼつ	応おう保ほ2年ねん（1162年ねん）
改名かいめい	宗房むねふさ（初はつ名な）→成なり通どおり→栖蓮（法名ほうみょう）
別名べつめい	蹴け聖きよし
官位かんい	正せい二に位い、大納言だいなごん
主君しゅくん	白河しらかわ法皇ほうおう→鳥羽天皇とばてんのう→崇徳天皇すとくてんのう→近衛天皇このえてんのう→後白河天皇ごしらかわてんのう→二条天皇にじょうてんのう
氏族しぞく	藤原ふじわら北きた家か中御門なかみかど流りゅう
父母ちちはは	父ちち：藤原ふじわら宗はじめ通どおり、母はは：藤原顕季ふじわらのあきすえの娘むすめ
兄弟きょうだい	宗子むねこ、信通のぶみち、伊い通どおり、季き通どおり、成なり通どおり、重通しげみち、定じょう通どおり、良延よしのぶ、宗そう海うみ、伊い覚さとし
妻つま	藤原ふじわら敦あつし兼けんの娘むすめ、藤原ふじわら基はじめ隆たかしの娘むすめ
子こ	養子ようし：有ゆう通どおり 猶子ゆうし：泰たい通どおり

藤原ふじわら 成しげる通どおり（ふじわら の なりみち）は、平安へいあん時代じだい後期こうきの公卿くぎょう・歌人かじん。藤原ふじわら北きた家か中御門なかみかど流りゅう、権けん大納言だいなごん・藤原ふじわら宗はじめ通どおりの四よん男なん。官位かんいは正せい二に位い・大納言だいなごん。蹴鞠けまり・今様いまよう・笛ふえ・乗馬じょうば・早業はやわざ・和歌わかの達人たつじんとして知しられ、特とくに蹴鞠けまりにおいては後世こうせいまで「蹴け聖きよし」と呼よばれて、長ながく蹴鞠けまりの手本てほんとされた。人柄ひとがらも優美ゆうびで明朗めいろう、誰だれからも好すかれ、白河しらかわ上皇じょうこうの取とり巻まきの中なかでもずば抜ぬけた人物じんぶつだったと言いわれる。

経歴けいれき

成なり通どおりの家系かけいは、曽そ祖父そふ・頼よりゆき宗むね、祖父そふ・俊しゅん家かいずれも右大臣うだいじんにまで昇進しょうしんしたが、父ちちが白河しらかわ法皇ほうおうの側近そっきんでありながら大臣だいじんに至いたることなく50歳さいで没ぼっしたために、摂関せっかん家かや村上むらかみ源はじめ氏しに押おされる形かたちで衰退すいたいの一途いっとを辿たどっていた。

8歳さいで叙爵じょしゃくして10歳さいの時ときに鳥羽天皇とばてんのう即位そくいに併あわせて侍従じじゅうに任にんじられる。白河しらかわ法皇ほうおうの寵臣ちょうしんであり、弁べんが立たち、諸道しょどうにも優すぐれていたが、失言しつげんも多おおかったらしく（『古事ふるごと談だん』）、大治おおはる4年ねん（1129年ねん）に白河しらかわ法皇ほうおうが成なり通どおりを公卿くぎょうに推挙すいきょした際さいも鳥羽とば上皇じょうこうの反対はんたいで実現じつげんしなかった。また、当時とうじの参議さんぎ要件ようけんの一ひとつとされていた蔵人くろうど頭あたまに就任しゅうにんできなかった事ことも出世しゅっせを遅おくらせる原因げんいんとなった。天てん承うけたまわ3年ねん（1131年ねん）に参議さんぎとなり、康治こうじ2年ねん（1143年ねん）に正せい二に位い、保ほ元もと元年がんねん（1156年ねん）には大納言だいなごんに昇のぼったものの、出世しゅっせの望のぞみは薄うすいとして平治へいじ元年がんねん（1159年ねん）に出家しゅっけしてしまう。だが、皮肉ひにくにも直後ちょくごから同族どうぞくの昇進しょうしんが相次あいつぎ、大臣だいじん任命にんめいが相次あいつぐ事ことになった。『月詣つきもうで和歌集わかしゅう』によれば西にし住じゅうに憧あこがれての出家しゅっけだったとされる。

笛ふえ・和歌わか・漢詩かんし・今様いまよう・馬うま等とう諸道しょどうに精通せいつうしたが、特とくに彼かれの名なを後世こうせいに知しらしめているのは蹴鞠けまりであり、「蹴け聖きよし」と賞賛しょうさんされた。「台たい盤ばんに乗のって鞠きくを蹴けったが音おと一ひとつしなかった」「侍さむらいの肩かたの上うえに乗のって鞠きくを蹴けったが当とうの侍さむらいはそれに気付きづかなかった」「成なり通どおりが蹴ける鞠きくは雲くもに届とどいた」「清水しみずの舞台ぶたいの欄干らんかんを蹴鞠けまりをしながら一いち往復おうふくした」など様々さまざまな伝説でんせつが伝つたえられている。彼かれの日記にっき『成なり通どおり卿きょう口伝くでん日記にっき』には、彼かれが蹴鞠けまりの上達じょうたつのためにいかに努力どりょくしてきたかが綴つづられている。また、今様いまようでは、後白河天皇ごしらかわてんのうと並ならぶ達人たつじんとしても知しられており、『十じゅう訓くん抄しょう』には薬師やくし如来にょらいに今様いまようを奉納ほうのうして他人たにんの病やまいを治なおしたという説話せつわが伝つたえられている。また、寂さび超ちょうや西行さいぎょうが在俗ざいぞく時代じだいに上司じょうしとして仕つかえており、特とくに西行さいぎょうとはその縁えんから生涯しょうがいにわたって親交しんこうが篤あつく共ともに和歌わかに親したしんだ事ことでも知しられている。和歌わかは『金きむ葉よう和歌集わかしゅう』・『千載せんざい和歌集わかしゅう』等とうの勅撰ちょくせん和歌集わかしゅうに23首しゅ採録さいろくされており、歌集かしゅうに『成なり通どおり集しゅう』がある。

寂さび超ちょう作さくと推定すいていされている『今こん鏡かがみ』では人間味にんげんみ溢あふれる教養きょうよう人じんとして好意こうい的てきに描えがかれており、身みの軽かるさから「追おっ手ての男おとこたちを尻目しりめに軽々かるがると築地つきじを飛とび越こえ女おんなの元もとへ通かよう」話はなしなども記しるされ、大臣だいじんになれずに出家しゅっけしてしまった事ことを非常ひじょうに惜おしまれている。

成なり通どおりと鞠きくの精せい

『成なり通どおり卿きょう口伝くでん日記にっき』によると、成なり通どおりは蹴鞠けまり庭にわに立たつこと7000日にち、うち2000日にちは連日れんじつ蹴けり続つづけた。1000日にち休やすまず蹴鞠けまりをする千せん日にち行ぎょうを達成たっせいした日ひ、蹴鞠けまり仲間なかまを集あつめて祭式さいしきを行おこなった。庭にわに二ふたつの棚たなを用意よういし、ひとつには毬かさを300個こあまり、もうひとつの棚たなには御幣ごへいなどの飾かざりを置おいた。毬かさを蹴けり、地面じめんに落おちることのない技わざを見みせたのち、御幣ごへいを取とって毬かさに捧ささげて礼拝れいはいし、その後ご祝宴しゅくえんを開ひらいた。

その夜よる、成なり通どおりが日記にっきを書かこうと墨すみをすっていると、棚たなから毬かさが転ころがり落おちて成なり通どおりの前まえで止とまった。よく見みると顔かおは人間にんげん、手足てあし体たいは猿さるの童子どうじ3人にんが毬かさを抱かかえて立たっていた。驚おどろいた成なり通どおりが問といただすと、自分じぶんたちは毬かさの精せいであり、千日せんにち行ゆきのおいと祭式さいしきの供そなえ物もののお礼れいに現あらわれたと言いい、それぞれに前髪まえがみをかき上あげ、額がくに金色きんいろの文字もじで書かかれた各かく名な「春はる楊花（しゅんようか）」「夏なつ安やすし林りん（げあんりん）」「秋あき園えん（しゅうえん）」を見みせた。

その毬かさの精せいたちによると、人ひとが蹴鞠けまりをしているときは毬かさに憑き、しなくなると柳やなぎの林はやしに戻もどると言いい、「人々ひとびとが蹴鞠けまりを愛好あいこうする時代じだいは国くにも栄さかえ、よい人ひとが政治せいじをし、福ぶくがもたらされ、寿命じゅみょうも長ながく、病気びょうきもない。また、人ひとの心しんはたえず思おもい乱みだれるものだが、蹴鞠けまりの愛好あいこう者しゃは庭にわに立たてば毬かさのことだけ考かんがえるので心しんが軽かるくなり、輪廻りんね転生てんせいにもよい影響えいきょうを及およぼす縁えんが生うまれ、功徳くどくも進すすむ」と説といた。さらに、蹴鞠けまりのとき名前なまえを呼よべばいつでも参上さんじょうして奉仕ほうしするが、木きを伝つたって参まいるので木きのない庭にわ毬かさは好このまないこと、こういう者ものがいることを心こころがけてくれれば守護しゅごすることを告つげ、再ふたたび消きえてしまった。

系譜けいふ

• 父ちち：藤原ふじわら宗はじめ通どおり
• 母はは：藤原顕季ふじわらのあきすえの娘むすめ
• 妻つま：藤原ふじわら敦あつし兼けんの娘むすめ（1108 - 1120）
• 妻つま：藤原ふじわら基はじめ隆たかしの娘むすめ
• 養子ようし・猶子ゆうし
  • 猶子ゆうし：藤原ふじわら泰やすし通どおり - 実じつは藤原ふじわら為ため通どおりの子こ
  • 養子ようし：藤原ふじわら有ゆう通どおり - 実じつは源みなもと行こう宗むねの子こ

関連かんれん作品さくひん

• 澁澤しぶさわ龍彦たつひこ「空そら飛とぶ大納言だいなごん」『唐草からくさ物語ものがたり』所収しょしゅう
• 成なり通どおり卿きょう口伝くでん日記にっき

外部がいぶリンク

• 塙はなわ保己一ほきいち 編へん, 「成なり通どおり卿きょう口伝くでん日記にっき」『群ぐん書しょ類従るいじゅう. 第だい拾ひろえ貳に輯』 (経済けいざい雑誌ざっし社しゃ, 1893)
• 橘たちばな成しげる季き, 「侍従じじゅう大納言だいなごん成なり通どおり卿きょうの毬かさは凡夫ぼんぷのしわざにはあらざりけり」『古今ここん著聞ちょぶん集しゅう』第だい11巻かん 第だい17蹴鞠けまり(有朋ありとも堂どう書店しょてん, 1926)
• 井上いのうえ宗雄むねお, 「藤原ふじわら成しげる通どおりとその家集かしゅう」『中古ちゅうこ文学ぶんがく』 19巻かん 1977年ねん p.11-20, 中ちゅう古文こぶん学会がっかい, doi:10.32152/chukobungaku.19.0_11
• 下原しもばる美保みほ, 「住吉すみよし廣ひろ定じょう筆ひつ「鞠きく精せい三さん神かみ並なみ成なり通どおり像ぞう」についての考察こうさつ」『鹿児島大学かごしまだいがく教育きょういく学部がくぶ研究けんきゅう紀要きよう. 人文じんぶん・社会しゃかい科学かがく編へん』 57巻かん p.17-29, 2005年ねん, 鹿児島大学かごしまだいがく, ISSN 03896684