サイイド・アジャッル

サイイド・アジャッル・シャムスッディーン（ペルシア語ご: سید اجل شمس‌الدین‎、Sayyid Ajall Shams al-Din, 1211年ねん - 1279年ねん8月がつ21日にち）は、モンゴル帝国ていこく（元もと）に仕つかえて中国ちゅうごくの行政ぎょうせい官かんを務つとめたムスリム（イスラム教徒きょうと）の官僚かんりょう。漢字かんじ表記ひょうきは賽さい典てん赤あか。ラカブ（尊称そんしょう）はシャムスッディーン（赤あか贍思丁ひのと）、イスム（名な）はウマル（ペルシア語ご: عمر‎、Umar、烏がらす馬ば児じ）。ペルシア語ご資料しりょうでは、サイイド・アジャッル・ブハーリー سيد اجلّ بخارى Sayyid Ajall Bukhārī の名なで表あらわれる。

人物じんぶつ・経歴けいれき

預言よげん者しゃムハンマドの後裔こうえいを称しょうするサイイドの名家めいかの出身しゅっしんで、中央ちゅうおうアジアの中心ちゅうしん都市としのひとつブハラ（現げんウズベキスタン）に生うまれ育そだった。チンギス・ハーンの中央ちゅうおうアジア遠征えんせいのとき投降とうこうしてハーンの側近そっきんに仕つかえ、本名ほんみょうのかわりに「高貴こうきなサイイド（聖せい裔）」を意味いみするサイイド・アジャッルの通称つうしょうで呼よばれて尊敬そんけいを受うけた。チンギスの死後しご、オゴデイの代だいに北きた中国ちゅうごくの山西さんせい地方ちほうのダルガチ（行政ぎょうせい官かん）を歴任れきにんし、次ついで燕つばめ京きょうのジャルグチ（断だん事ごと官かん）を務つとめた。第だい4代だいモンケの代だいにはマフムード・ヤラワチを長官ちょうかんとして北きた中国ちゅうごく全土ぜんどを管轄かんかつするいわゆる燕つばめ京きょう等とう処しょ行ぎょう尚書しょうしょ省しょうが設置せっちされると、彼かれは燕つばめ京きょう周辺しゅうへんの行政ぎょうせいの最高さいこう責任せきにん者しゃである燕つばめ京きょう路ろ総そう管かんに充あてられ、モンケの南みなみ宋そう遠征えんせいにおいて兵站へいたんを担当たんとうした。

モンケの死後しご、弟おとうとのクビライが中国ちゅうごくと内うちモンゴルを制せいして大だいハーンを称しょうすると、中国ちゅうごくにいたサイイド・アジャッルもクビライの幕下まくしたに入はいり、燕つばめ京きょう宣撫せんぶ使しに抜擢ばってきされた。中なか統みつる2年ねん（1261年ねん）、宰相さいしょう格かくの中書ちゅうしょ平たいら章あきら政事せいじの肩書かたがきを授さづけられ、中ちゅう統すべ5年ねん（1264年ねん）に南みなみ宋そうとの最前線さいぜんせんである陝西せんせい・四川しせん方面ほうめんを管轄かんかつする行くだり中書ちゅうしょ省しょうが新設しんせつされたのにあわせてその平たいら章あきら政事せいじに転出てんしゅつ、中国ちゅうごく西部せいぶの行政ぎょうせいの最高さいこう責任せきにん者しゃとなり、長江ながえの上流じょうりゅうを抑おさえてクビライによる南みなみ宋そうの併合へいごうを後方こうほうから支援しえんした。

即位そくい以前いぜんのクビライが大だい理り国こくを征服せいふく（雲南うんなん・大だい理り遠征えんせい）して以来いらい、雲南うんなん地方ちほうの統治とうちの整備せいびと安定あんてい化かが遅おくれていたが、至いたり元もと11年ねん（1274年ねん）には手腕しゅわんを買かわれてその統治とうちを委ゆだねられて雲南うんなん行ゆき省しょうの平たいら章あきら政事せいじを拝命はいめいした。サイイド・アジャッルは雲南うんなんに駐留ちゅうりゅうしていたモンゴル軍ぐんの協力きょうりょくを取とり付つけて雲南うんなんの開発かいはつに力ちからを尽つくし、雲南うんなんから領りょう外がいのインドシナ半島いんどしなはんとうにかけて居住きょじゅうする様々さまざまな民族みんぞくには恩恵おんけいを施ほどこしてよく従したがわせたので、至いたり元もと16年ねん（1279年ねん）に死去しきょしたときは大おおいに惜おしまれたという。死後しご、守まもり仁じん佐さ運うん安やす遠どお済すみ美び功臣こうしん・太たい師し・開府かいふ儀ぎ同どう三さん司し・上うえ柱ばしら国こく・咸陽王おうの称号しょうごうを追贈ついぞうされ、忠ただし恵めぐみと諡おくりなされた。

サイイド・アジャッルがクビライのもとで中国ちゅうごく西部せいぶの行政ぎょうせいを担当たんとうした15年ねんの間あいだ、彼かれの子息しそくや一族いちぞくたちも各地かくちの行政ぎょうせい長官ちょうかんを務つとめ、徴税ちょうぜいと開発かいはつに力ちからを尽つくした。彼かれらの動向どうこうは同おなじ時期じきに首都しゅとの大だい都と・上うえ都とから江南こうなんにかけての中国ちゅうごく中央ちゅうおう部ぶの財務ざいむ長官ちょうかんであったアフマドの一族いちぞくのそれと対応たいおうしており、財務ざいむに優すぐれた色目いろめ人じんの官僚かんりょうを積極せっきょく的てきに起用きようしたクビライの経済けいざい・行政ぎょうせい政策せいさくの特性とくせいのあらわれと言いえる。

しかし、サイイド・アジャッルは行政ぎょうせい官かんとして清廉せいれんに振ふる舞まい、地方ちほうの開発かいはつに尽つくしたことから上下じょうげを問とわず非常ひじょうに敬愛けいあいされたのは、民衆みんしゅうや同僚どうりょうから非常ひじょうな恨うらみを買かったアフマドとまったく対照たいしょう的てきである。アフマドが至いたり元もと19年ねん（1282年ねん）に暗殺あんさつされた後のち、その一族いちぞくは不正ふせいを弾劾だんがいされて失脚しっきゃくしたが、サイイド・アジャッルの子孫しそんはその後ごも元もと代だいを通つうじて中国ちゅうごく西部せいぶの地方ちほう行政ぎょうせいに大おおきな足跡あしあとを残のこした。アフマドは後世こうせいに姦臣かんしんとして名なを残のこしたが、サイイド・アジャッルは対照たいしょう的てきに現在げんざいに至いたるまで非常ひじょうに評価ひょうかが高たかく、とくに雲南うんなん省しょうの人々ひとびとは雲南うんなんの開発かいはつ者しゃとして非常ひじょうに敬愛けいあいしている。雲南うんなん省しょうには言語げんご的てき・形質けいしつ的てきに漢かん民族みんぞくと同化どうかしたムスリム（回かい族ぞく）が現在げんざいも数多かずおおく住すんでいるが、彼かれらの多おおくはサイイド・アジャッルの後裔こうえいを称しょうし、明あきら代だいの大だい航海こうかい者しゃ鄭てい和かずもその一族いちぞくである。

関連かんれん項目こうもく

• モンケ
• クビライ
• ヤラワチ
• サイイド
• 雲南うんなん
• 鄭てい和かず
• 回かい族ぞく