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過失かしつ

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過失かしつ(かしつ)とは、注意ちゅうい義務ぎむ違反いはんする状態じょうたい不注意ふちゅういをいい、とく民事みんじ責任せきにんあるいは刑事けいじ責任せきにん成立せいりつ要件ようけんとしては、ある結果けっか認識にんしき予見よけんすることができたにもかかわらず、注意ちゅういおこたって認識にんしき予見よけんしなかった心理しんり状態じょうたい、あるいは結果けっか回避かいひ可能かのうだったにもかかわらず、回避かいひするための行為こういおこたったことをいう。

民事みんじ責任せきにんにおける過失かしつ

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概説がいせつ

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取引とりひきほうじょうは、善意ぜんい取引とりひきおこなったもの保護ほごするための要件ようけんとして、過失かしつ要求ようきゅうされている場合ばあいがある(日本にっぽんほうでは民法みんぽう93じょう民法みんぽう192じょう民法みんぽう478じょうなど)。これらの規定きていにおける過失かしつとは、真実しんじつ権利けんり関係かんけいとうについて調査ちょうさ確認かくにんおこなうべき義務ぎむがあったのに、これをおこたったことをいうことがおおい。また、故意こい過失かしつ債務さいむ不履行ふりこう責任せきにん不法ふほう行為こうい責任せきにん判断はんだん要素ようそとなっている。なお、損害そんがい賠償ばいしょうがく認定にんていするにさいして債権さいけんしゃ被害ひがいしゃがわの「過失かしつ」が一定いってい割合わりあいにおいてみとめられるときに、そのむね考慮こうりょして損害そんがい賠償ばいしょうがく減額げんがくするローマほう由来ゆらいする制度せいど過失かしつ相殺そうさいという。ただ、債務さいむ不履行ふりこうたいする損害そんがい賠償ばいしょうでの過失かしつ相殺そうさいのように、過失かしつ相殺そうさいでいう「過失かしつ」については債権さいけんしゃ自己じこたいして損害そんがいあたえないようにする法的ほうてき義務ぎむ存在そんざいしないため法律ほうりつじょう義務ぎむ違反いはんとはいえないとしていちしゅ特別とくべつ過失かしつであるとするせつ信義しんぎそくじょう義務ぎむ違反いはんであり通常つうじょう過失かしつ同様どうようであるとするせつがある[1]過失かしつ相殺そうさい詳細しょうさいについては損害そんがい賠償ばいしょう参照さんしょう

債務さいむ不履行ふりこう責任せきにんにおける過失かしつ

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ドイツ民法みんぽうでは債務さいむ不履行ふりこうによる損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん根拠こんきょとして過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ債務さいむしゃめにすべき事由じゆう)がとられ、日本にっぽんきゅう民法みんぽう415じょう(2017ねん民法みんぽう改正かいせいまえ)も「債務さいむしゃめにすべき事由じゆう」という文言もんごん債務さいむ不履行ふりこうによる損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう主観しゅかんてき要件ようけんとされていた(過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ[2]

2001ねんのドイツの債務さいむほう改正かいせいほうである現代げんだいほうでは債務さいむ不履行ふりこう損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん根拠こんきょとして過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ維持いじされた[2]一方いっぽう、フランスでは契約けいやく責任せきにんかえりせめ根拠こんきょ契約けいやく拘束こうそくりょくとされている[2]過失かしつ責任せきにん主義しゅぎでは債務さいむしゃ履行りこう過程かていにおける違法いほうゆうせめ行為こういたいする制裁せいさいとして債務さいむしゃ賠償ばいしょう責任せきにんされるとかんがえるが、契約けいやく拘束こうそくりょく根拠こんきょとするかんがかたによれば債務さいむ不履行ふりこうもとづく損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん債務さいむしゃ約束やくそくしたのにそれを遵守じゅんしゅしなかったてんにあるとかんがえる[2]

日本にっぽんの2017ねん民法みんぽう改正かいせいでは、きゅう民法みんぽう415じょうで「債務さいむしゃめにすべき事由じゆう」という文言もんごん主観しゅかんてき要件ようけんとされていたてん過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ)について、改正かいせい民法みんぽう415じょう1こうは「債務さいむしゃめにすることができない事由じゆう」と否定ひていがたにして債務さいむしゃ免責めんせき事由じゆうさだめた[2]。そして「その債務さいむ不履行ふりこう契約けいやくその債務さいむ発生はっせい原因げんいんおよ取引とりひきじょう社会しゃかい通念つうねんらして」という修飾しゅうしょく挿入そうにゅうして債務さいむしゃ故意こい過失かしつ意味いみしていないことをあきらかにし、債務さいむ不履行ふりこう責任せきにんについての過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ決別けつべつした[2]。2017ねん民法みんぽう改正かいせい統一とういつてき債務さいむ不履行ふりこう概念がいねん導入どうにゅうはかられ、損害そんがい賠償ばいしょう要件ようけんとしては包括ほうかつてき不履行ふりこう概念がいねんふくめられる事例じれいであれば、債務さいむしゃ免責めんせき成立せいりつしないかぎり、損害そんがい賠償ばいしょう債権さいけんしゃあたえられることとなったと説明せつめいされている[2]

不法ふほう行為こうい責任せきにんにおける過失かしつ

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過失かしつ責任せきにん主義しゅぎ

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近代きんだいほう基本きほん原則げんそく過失かしつ責任せきにん主義しゅぎをとっている[3]不法ふほう行為こうい責任せきにん成立せいりつするためには故意こいまたは過失かしつ要件ようけんとなる。損失そんしつ負担ふたん予測よそく可能かのう範囲はんい限定げんていすることで事業じぎょう活動かつどう自由じゆう保障ほしょうしようとする趣旨しゅしである[3]

日本にっぽん民法みんぽうでも「故意こいまた過失かしつによって他人たにん権利けんりまた法律ほうりつじょう保護ほごされる利益りえき侵害しんがいしたものは、これによってしょうじた損害そんがい賠償ばいしょうする責任せきにんう。」(民法みんぽう709じょう)と規定きていされており、原則げんそくとして過失かしつ責任せきにん主義しゅぎがとられている。

しかし科学かがく技術ぎじゅつ発展はってん企業きぎょう活動かつどう拡大かくだいとともに、社会しゃかい生活せいかつなか危険きけんせいともな活動かつどうもの増大ぞうだいすることとなった結果けっか故意こい過失かしつ立証りっしょう被害ひがいしゃにとっては困難こんなん場合ばあいおおくなり、報償ほうしょう責任せきにん危険きけん責任せきにん理論りろん考慮こうりょれて不法ふほう行為こういにおける当事とうじしゃあいだ公平こうへいはかることが必要ひつようかんがえられるようになった[3]。そこで立法りっぽうでは立証りっしょう責任せきにん転換てんかんする場合ばあい不法ふほう行為こうい成立せいりつ要件ようけんから故意こい過失かしつ除外じょがいする場合ばあい無過失責任むかしつせきにん)などがしょうじている[3]

過失かしつ意義いぎ

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不法ふほう行為こうい責任せきにんにおける過失かしつとは、違法いほう結果けっか発生はっせいすることを予見よけん認識にんしきすべきであるにもかかわらず、不注意ふちゅういのためそれを予見よけんせずにある行為こういおこな心理しんり状態じょうたいをいう[4]。ただし、学説がくせつでは過失かしつ有無うむについて行為こういしゃ能力のうりょくそくした具体ぐたいてき判断はんだんおこなうのではなく、行為こういしゃ職業しょくぎょう地位ちいしたがって客観きゃっかんてき判断はんだんすることが承認しょうにんされてきた[4]。そのため過失かしつ心理しんり状態じょうたいとする理解りかいとは理論りろんじょう距離きょりしょうじているとされている[4]

過失かしつ態様たいよう

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過失かしつには認識にんしきなき過失かしつ認識にんしきある過失かしつがある。違法いほう結果けっか発生はっせい予見よけんできない場合ばあい認識にんしきなき過失かしつである。違法いほう結果けっか発生はっせい予見よけんしながら相当そうとう防止ぼうし措置そちこうじなかった場合ばあいには認識にんしきある過失かしつである[5]

また、過失かしつには重過失じゅうかしつけい過失かしつがある。重過失じゅうかしつとは通常つうじょうじん要求ようきゅうされる程度ていど相当そうとう注意ちゅういをしなかったとしても、わずかな注意ちゅういさえあればたやすく違法いほう有害ゆうがい結果けっか予見よけんできるのに漫然まんぜんとこれを見過みすごす場合ばあいである[5]重過失じゅうかしつ故意こいちかいちじるしく注意ちゅうい欠如けつじょした状態じょうたいをいう[5]重過失じゅうかしつにあたらない通常つうじょう過失かしつけい過失かしつである。

刑事けいじ責任せきにんにおける過失かしつ

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過失かしつ意義いぎ

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犯罪はんざいろんにおける過失かしつとは、注意ちゅうい義務ぎむ違反いはんする不注意ふちゅうい消極しょうきょくてきはん規範きはんてき人格じんかく態度たいどするのが通説つうせつであるが、過失かしつはん構造こうぞうについては議論ぎろんがある。

犯罪はんざいについてどのような理論りろん体系たいけい犯罪はんざいろん)を想定そうていするのが適当てきとうかは、法令ほうれいとうによって一義的いちぎてき規定きていされているわけではなく、解釈かいしゃくないし法律ほうりつてき議論ぎろんによってけっすべき問題もんだいであり、過失かしつはん理論りろん体系たいけいについても同様どうようである。過失かしつはん構造こうぞうについて、以前いぜんは、結果けっか予見よけん可能かのうせい重視じゅうしするきゅう過失かしつろん支配しはいてきであったが、現在げんざいでは客観きゃっかんてき結果けっか回避かいひ義務ぎむ違反いはん重視じゅうしするしん過失かしつろん通説つうせつとなっている。

日本にっぽん刑法けいほうでは「つみおか意思いしがない行為こういは、ばっしない。ただし、法律ほうりつ特別とくべつ規定きていがある場合ばあいは、このかぎりでない。」(38じょう1こう)として、過失かしつはん過失かしつ成立せいりつ要件ようけんとする犯罪はんざい)の処罰しょばつ法律ほうりつ規定きていがあるときにのみ例外れいがいてきおこなうとされている。

過失かしつ態様たいよう

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認識にんしきなき過失かしつ認識にんしきある過失かしつ

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認識にんしきなき過失かしつ認識にんしきのない過失かしつ無意識むいしき過失かしつ)とは犯罪はんざい事実じじつ表象ひょうしょうすらいている過失かしつをいう[6]

認識にんしきある過失かしつ認識にんしきのある過失かしつ意識いしきてき過失かしつ)とは客観きゃっかんてき不注意ふちゅうい存在そんざいすることを行為こういしゃ認識にんしきしている過失かしつをいう[6]違法いほう有害ゆうがい結果けっか発生はっせい可能かのうせい予測よそくしているが、その結果けっか発生はっせいしないであろうと軽信けいしんすることをいう。たとえば、自動車じどうしゃ運転うんてんちゅう道路どうろわき走行そうこうちゅう自転車じてんしゃ接触せっしょくするかもしれないとおもいつつも、「充分じゅうぶん道路どうろはばがあるので接触せっしょくすることはない」とかんがえるような場合ばあいである。

認識にんしきある過失かしつなるものとして「未必みひつ故意こい」がある。刑法けいほうがくじょう通説つうせつでは、故意こいとは行為こういしゃ犯罪はんざい実現じつげんについて認容にんようしている場合ばあいをいう[7]違法いほう有害ゆうがい結果けっか発生はっせい可能かのうせい予測よそくしつつ、その結果けっか発生はっせい容認ようにんしてしまうことを未必みひつ故意こいという。たとえば、自動車じどうしゃ運転うんてんちゅう道路どうろわき走行そうこうちゅう自転車じてんしゃ接触せっしょくするかもしれないとおもいつつ、「接触せっしょくしても仕方しかたがない」とかんがえるような場合ばあいである。

重過失じゅうかしつ

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刑法けいほうじょう重大じゅうだい過失かしつ重過失じゅうかしつ)が構成こうせい要件ようけんとされているれいがある。重過失じゅうかしつとは、結果けっか予見よけんきわめて容易ようい場合ばあいいちじるしい注意ちゅうい義務ぎむ違反いはんのための結果けっか予見よけん回避かいひしなかった・過失かしつ過程かていいちじるしい悪意あくい故意こい)があった場合ばあいをいう。欧米おうべいではgross negligenceという。willful misconduct or gross negligenceで「故意こいまた重過失じゅうかしつ」にあたる。企業きぎょう同士どうし損害そんがい賠償ばいしょう関係かんけいする係争けいそう場合ばあい故意こい重過失じゅうかしつ客観きゃっかんてきみとめられる場合ばあいは、賠償ばいしょう義務ぎむかんする免責めんせき規定きてい上限じょうげんがくなどの条件じょうけん)は無効むこうになることがおおい。

重過失じゅうかしつたんなる過失かしつけい過失かしつ)のべつ一概いちがいさだめることはできず、具体ぐたいてき事例じれいたとえば、責任せきにん主体しゅたい職業しょくぎょう地位ちい事故じこ発生はっせいじょうきょうとうらして判断はんだんする必要ひつようがある。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 篠塚しのづか昭次しょうじ & 前田まえだいたるあかり 1992, p. 245.
  2. ^ a b c d e f g 福田ふくだ清明きよあき民法みんぽう債権さいけんほう改正かいせいあんにおける債務さいむ不履行ふりこう損害そんがい賠償ばいしょう要件ようけん構成こうせい」『明治学院大学めいじがくいんだいがく法科ほうか大学院だいがくいんローレビュー』だい25かん明治学院大学めいじがくいんだいがく大学院だいがくいん法務ほうむしょく研究けんきゅう、2017ねん1がつ、95-111ぺーじCRID 1050001339222470912hdl:10723/3097ISSN 1349-43762023ねん12月29にち閲覧えつらん 
  3. ^ a b c d 篠塚しのづか昭次しょうじ & 前田まえだいたるあかり 1993, p. 1.
  4. ^ a b c 篠塚しのづか昭次しょうじ & 前田まえだいたるあかり 1993, p. 11.
  5. ^ a b c 篠塚しのづか昭次しょうじ & 前田まえだいたるあかり 1993, p. 12.
  6. ^ a b 大塚おおつかひとし 2008, p. 203.
  7. ^ 大塚おおつかひとし 2008, p. 183.

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 大塚おおつかひとし刑法けいほう概説がいせつ 総論そうろん だい4はん有斐閣ゆうひかく、2008ねん 
  • 篠塚しのづか昭次しょうじ前田まえだいたるあきらしん判例はんれいコンメンタール 5 債権さいけん総則そうそく1』三省堂さんせいどう、1992ねん 
  • 篠塚しのづか昭次しょうじ前田まえだいたるあきらしん判例はんれいコンメンタール 9 不法ふほう行為こうい三省堂さんせいどう、1993ねん 

関連かんれん項目こうもく

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