遺伝子いでんしプール

遺伝子いでんしプール（いでんしプール、英語えいご: gene pool）とは、互たがいに繁殖はんしょく可能かのうな個体こたいからなる集団しゅうだん（個体こたい群ぐんまたはメンデル集団しゅうだん）が持もつ遺伝子いでんしの総体そうたいのこと。集団しゅうだん遺伝いでん学がく・生態せいたい学がく用語ようご。

個体こたい群ぐんの選えらび方かたによって、様々さまざまな階層かいそうの遺伝子いでんしプールを考かんがえることができる。例たとえば、ヒトの場合ばあい、ヒト全体ぜんたい・日本人にっぽんじん・特定とくていの都道府県とどうふけんの人ひとなどの遺伝子いでんしプールであり、野生やせい生物せいぶつであれば、種たね全体ぜんたい・亜種あしゅ・特定とくていの生態せいたい型がたなどの遺伝子いでんしプールを考かんがえることができる。

遺伝子いでんし頻度ひんどと遺伝子いでんし型がた頻度ひんど

対象たいしょうとする遺伝子いでんしプールにおいて、ある対立たいりつ遺伝子いでんしが含ふくまれる割合わりあいを遺伝子いでんし頻度ひんど（いでんしひんど）という。二に倍ばい体たい生物せいぶつにおいては1個いっこ体からだに含ふくまれる対立たいりつ遺伝子いでんしは最大さいだい2種類しゅるい（ヘテロ接合せつごう型がた）であるが、個体こたい群ぐんとしては複ふく対立たいりつ遺伝子いでんしとして3種類しゅるい以上いじょうの対立たいりつ遺伝子いでんしを持もつ場合ばあいもある。遺伝子いでんし頻度ひんどは、個体こたいの遺伝子いでんし型がたの違ちがいに関かかわり無なく、それぞれの対立たいりつ遺伝子いでんしについて求もとめる。一方いっぽう、個体こたいの遺伝子いでんし型がたに注目ちゅうもくして、その頻度ひんどを求もとめた場合ばあい、遺伝子いでんし型がた頻度ひんどと呼よぶ。

有性ゆうせい生殖せいしょくにおける遺伝子いでんしプールの意味いみ

有性ゆうせい生殖せいしょくを行おこなう生物せいぶつにおいては、減数げんすう分裂ぶんれつは遺伝子いでんし座ざ上うえにある対立たいりつ遺伝子いでんしをランダムに配偶はいぐう子こに伝つたえて、遺伝子いでんしプールに提供ていきょうする可能かのう性せいを作つくることになる。その配偶はいぐう子こが受精じゅせいすることは、両親りょうしんからの遺伝子いでんしが組くみ合あわさって個体こたいをつくりあげ、配偶はいぐう子この遺伝子いでんしを遺伝子いでんしプールに戻もどすことになる。

ハーディー・ワインベルクの法則ほうそくとの関連かんれん

ハーディー・ワインベルクの法則ほうそくの説明せつめいにおいて、遺伝子いでんしプール・遺伝子いでんし頻度ひんどは重要じゅうような概念がいねんである。この法則ほうそくでは、個々ここの個体こたいの遺伝子いでんしについて記述きじゅつするのではなく、遺伝子いでんしプールと遺伝子いでんし頻度ひんどの概念がいねんを用もちいて、次世代じせだいの遺伝子いでんし型がた頻度ひんどを解説かいせつするものである。

遺伝子いでんしプールに含ふくまれる遺伝いでん的てき多様たよう性せい

遺伝子いでんしプールに含ふくまれる遺伝子いでんしを無作為むさくいに取とり出だし、組くみ合あわせることによって多様たような遺伝子いでんし型がたを持もった個体こたいが誕生たんじょうすることになる。

例たとえば、ヒト (2n=46) の常つね染色せんしょく体たいと同おなじ数すうの常つね染色せんしょく体たい22組くみ44本ほんの各かく染色せんしょく体たいに1遺伝子いでんし座ざのみを持もつ生物せいぶつ（合計ごうけい22遺伝子いでんし座ざ）を仮定かていする。この生物せいぶつでは各かく染色せんしょく体たいそれぞれは独立どくりつに次世代じせだいに遺伝いでんすることから、その染色せんしょく体たい上じょうの遺伝子いでんし座ざも独立どくりつに遺伝いでんする。ここでさらに、各かく遺伝子いでんし座ざが3種類しゅるいの対立たいりつ遺伝子いでんしを持もつと仮定かていする。その場合ばあい、各かく遺伝子いでんし座ざについて3種類しゅるいの対立たいりつ遺伝子いでんしから作つくられる遺伝子いでんし型がたは、AA,AB,AC,BB,BC,CCのように6種類しゅるいとなる。これが各かく遺伝子いでんし座ざ（染色せんしょく体たい）で独立どくりつに遺伝いでんすることから、仮定かていした遺伝子いでんし座ざ総体そうたいの遺伝いでん型がたの総数そうすうは、$6^{22}=131,621,703,842,267,136>1.3\times 10^{17}$となる。

このような22遺伝子いでんし座ざのみ生物せいぶつのモデルにおいても莫大ばくだいな数値すうちを示しめすが、ヒトの遺伝子いでんし座ざ数すうは 2万まん以上いじょうと言いわれており、遺伝子いでんしプールに含ふくまれる遺伝子いでんし型がたの多様たよう性せいは天文学てんもんがく的てき数値すうちになる。実際じっさいの人口じんこうは約やく65億おく人にん$=6.5\times 10^{9}$（2006年ねん）であり、完全かんぜんに同おなじ遺伝子いでんし構成こうせいを持もった個人こじんは世界せかいのどこにも存在そんざいしないし、過去かこにも存在そんざいしなかった確かく率りつが極きわめて高たかい（ただし一いち卵たまご性せいの双生児そうせいじは例外れいがいであり、同一どういつの遺伝子いでんし構成こうせいをもつ）。

進化しんかとの関連かんれん

進化しんかの総合そうごう学説がくせつにおいては、遺伝子いでんしプール内ないの各かく遺伝子いでんしの比率ひりつの変化へんかが進化しんかという現象げんしょうであるとみなす。例たとえば、まだ首くびの短みじかかったキリンの個体こたい群ぐんにおいて、突然変異とつぜんへんいで少すこし首くびを長ながくする遺伝子いでんしを持もつキリンが現あらわれたとき、首くびの短みじかいままの遺伝子いでんししかなかった遺伝子いでんしプールに首くびを長ながくする遺伝子いでんしが追加ついかされた。するとその遺伝子いでんしプールに基もとづいて、ある割合わりあいで首くびの長ながいキリンが生うまれるようになった。このとき、首くびが長ながいことが生存せいぞんに有利ゆうりな条件じょうけんとなると、首くびの長ながいキリンがより多おおく生いき残のこって子孫しそんを残のこし、遺伝子いでんしプールの中なかで首くびを長ながくする遺伝子いでんしの割合わりあいが、少すこしずつ増加ぞうかしていった。最終さいしゅう的てきには遺伝子いでんしプールは首くびを長ながくする遺伝子いでんしばかりになった。こうして少すこし首くびの長ながいキリンへと進化しんかしたと考かんがえるのである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『生物せいぶつ進化しんかを考かんがえる』木村きむら資し生せい　ISBN 4-00-430019-3
• 予防よぼう衛生えいせい協会きょうかい、集団しゅうだん遺伝いでん学がく講座こうざ、第だい3回かい 遺伝子いでんしプール,第だい5回かい 遺伝子いでんし頻度ひんど

関連かんれん項目こうもく

• 集団しゅうだん遺伝いでん学がく
• メンデル集団しゅうだん
• ハーディー・ワインベルクの法則ほうそく
• 遺伝いでん的てき多様たよう性せい
• 遺伝いでん資源しげん