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鎖くさり付づけ図書としょ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
チェルシー古こ教会きょうかいにある鎖くさり付づけ図書としょ(本ほんが縦たてに積つまれているのは本ほんの装飾そうしょくによって別べつの本ほんの表紙ひょうしを傷きずつけることを防ふせぐため)。ロンドンの教会きょうかいに唯一ゆいいつある中世ちゅうせいの図書としょである1717年ねんの酢すの聖書せいしょ(vinegar bible)。サー・ハンス・スローンの寄贈きぞう。
ヘレフォード大だい聖堂せいどうの鎖くさり付づけ図書としょ

鎖くさり付づけ図書としょ[1]（くさりつきとしょ、英語えいご: chained library）とは本ほんが本棚ほんだなと鎖くさりで繋つながれている図書館としょかんのことで、本ほんを図書館としょかん外がいへ持もち出だせないようになっているが本棚ほんだなから取とり出だして読書どくしょできるのに十分じゅうぶんな鎖くさりの長ながさはとっている。これにより所蔵しょぞう本ほんの盗難とうなんを防ふせいでいた[2]。このようなやり方かたは中世ちゅうせいから18世紀せいき頃ごろまでの参考さんこう図書館としょかん（図書館としょかんの大だい部分ぶぶん）の多おおくで採用さいようされていた[3]。コレクションにおける参照さんしょう書籍しょせきや大判おおばんの書籍しょせきといった唯一ゆいいつ無比むひの価値かちを持もつ本ほんが鎖くさりで繋つながれていた[3]。

概要がいよう[編集へんしゅう]

「本棚ほんだな#歴史れきし」も参照さんしょう

鎖くさり付づけ図書としょはそれほど古ふるくからあるものではなく、中世ちゅうせいの終おわり15世紀せいきごろからあらわれ始はじめ、16、17世紀せいきに鎖くさり付づけ図書館としょかんは多おおく作つくられている[4]。中世ちゅうせいには蔵書ぞうしょそのものが多おおくなく、本ほんの保管ほかんにはアルマリウムと呼よばれる戸棚とだなや、チェストと呼よばれた保管ほかん箱ばこが用もちいられていた[4][5]。ヘレフォード大だい聖堂せいどうに現存げんそんするチェストは、木製もくせいで長ながさが約やく2メートル、幅はば、高たかさが約やく50センチメートルという大おおきさである。周囲しゅういには彫刻ちょうこくが施ほどこしてあり、錠前じょうまえが3つ取とり付つけられており、四隅よすみに脚あしがついている[6]。本ほんの紛失ふんしつ・盗難とうなんを防ふせぐため、チェストを開あけたままにすることは許ゆるされず、また本ほんを読よむときもチェストに背せを向むけてはいけなかった[7]。本ほんの盗難とうなんに対たいする呪のろい（ブックカース）が存在そんざいするほど、中世ちゅうせいには本ほんは貴重きちょうであった[8]。蔵書ぞうしょが増ふえるにつれチェストも増ふえていくこととなったが、鍵かぎの管理かんりや利便りべん性せいなどに大おおきな支障ししょうをきたすことになり、保管ほかんには専用せんようの図書としょ室しつないしは図書館としょかんが作つくられることになった[9]。図書としょ室しつには書見しょけん台だいが配置はいちされ本ほんは鎖くさりで書見しょけん台だいとつながれていた[10]。

標準ひょうじゅん的てきな鎖くさり付づけ図書としょは本ほんのカバーや隅すみに鎖くさりが付つけられていたが、これはもし鎖くさりを本ほんの背せに付つけてしまうと棚たなから出だし入いれする時ときの負担ふたんで大おおきく摩耗まもうしてしまうためである。また、本ほんに小ちいさい輪わを通とおしてチェーンを付つける場所ばしょ故ゆえに、本ほんはページの前ぜん小口こぐちだけが見みえるように背せを奥おくにして収納しゅうのうされているが（これは現代げんだい的てきな図書館としょかんにとってはあべこべな収納しゅうのう方法ほうほうである）、これによりひっくり返かえすことなく本ほんを取とり出だして読よむことができる上じょう、鎖くさりが絡からむことも避さけられる。当時とうじの本ほんには背せ表紙ひょうしに著者ちょしゃや書名しょめいが記載きさいされていなかったのも、このような収納しゅうのう方法ほうほうの一因いちいんである[10]。利用りよう者しゃが本ほんを捜さがし出だすときは、書見しょけん台だいや本箱ほんばこの端はしに書かかれている書名しょめいのリストを参照さんしょうしていた。また、前ぜん小口こぐちや本ほんを閉とじるリボン・留とめ金がねに書名しょめいなどの本ほんを識別しきべつするための情報じょうほうが記載きさいされ、一部いちぶでは鎖くさりに識別しきべつ用ようの札さつがつけられていた[11][4]。この背せを奥おくにしてしまう収納しゅうのう法ほうは一般いっぱんにも広ひろがり、鎖くさりがついていない個人こじんの書斎しょさいでも利用りようされていた[12]。鎖くさりは主おもに鉄てつで出来できていた棒ぼうにつながれており、司書ししょが鎖くさりを外はずす時ときは鍵かぎを用もちいていた[13]。鎖くさり付づけ図書としょは図書館としょかんの設計せっけいにも大おおきく影響えいきょうを与あたえた。鎖くさりでつながれている本ほんは読書どくしょできる範囲はんいが限かぎられているため、採光さいこうの都合つごうから建物たてものには多おおくの窓まどを並ならべ、書棚しょだなは壁かべに対たいし直角ちょっかくに並ならんでいる[14][4]。

学校がっこうや大学だいがくといった教育きょういく機関きかんの外部がいぶでの利用りようが多おおかったイングランドの図書館としょかんにおける最古さいこの例れいはリンカーンシャーのグランサムにある1598年ねんに創設そうせつされたフランシス・トリギー鎖くさり付づけ図書館としょかん（英語えいご版ばん）である。この図書館としょかんは現存げんそんしていて、後ごの公共こうきょう図書館としょかんシステムの先駆さきがけと言いわれている[15]。ダブリンにある1701年ねん建設けんせつのマーシュ図書館としょかん（英語えいご版ばん）も非ひ教育きょういく機関きかん図書館としょかんで建設けんせつ当初とうしょの建物たてものに現在げんざいも入はいり続つづけていて、本ほんが鎖くさりにつながっているわけではないが、その代かわり貴重きちょうな書物しょもつの紛失ふんしつを防ふせぐために檻おりの中なかでのみ本ほんを読よむことができた。その他たギルドフォード王立おうりつグラマースクール（英語えいご版ばん）やヘレフォード大だい聖堂せいどう（英語えいご版ばん）にも鎖くさり付づけ図書としょが設置せっちされている。鎖くさり付づけ図書としょはヨーロッパ全土ぜんどに広ひろまっていったが、全すべての図書館としょかんで採用さいようされたわけではなかった。ヨハネス･グーテンベルクによる印刷いんさつ技術ぎじゅつの発明はつめいにより書籍しょせきが増加ぞうかし、価格かかくが下さがると共ともに鎖くさり付づけ図書としょの採用さいようも減へっていった[13][16]。それでも鎖くさり付づけ図書としょがすぐに消きえたわけではなく、18世紀せいき末まつごろまで本ほんは鎖くさりでつながれていた。オックスフォおっくすふぉード大学どだいがくのモードリン・カレッジで鎖くさりが外はずされたのは1799年ねんである[10]。

鎖くさり付づけ図書としょの保存ほぞんや保全ほぜんに対たいする近年きんねんの関心かんしん[編集へんしゅう]

近年きんねん、鎖くさり付づけ図書としょを再現さいげんしようとする動うごきが高たかまっている。本棚ほんだななどの家具かぐ、鎖くさり、書籍しょせきが当時とうじのままに残のこっている鎖くさり付づけ図書としょは世界中せかいじゅうで5箇所かしょのみで[2]、そのうちの一いち箇所かしょがオランダの小ちいさな町まちであるズトフェンにある聖せいヴァルブルガ教会きょうかい内ないの図書館としょかんで[2]1564年ねんに建設けんせつされていて[2]、現在げんざい博物館はくぶつかんの一部いちぶとして観光かんこう客きゃく向むけに当時とうじのままの書籍しょせき、家具かぐ、鎖くさりを公開こうかいしている[2]。

これらの大だい規模きぼな図書館としょかんを修復しゅうふくし保全ほぜんするには数すう多おおくの作業さぎょうを伴ともなう[13]。例れいとして、イングランドのヘレフォードにあるマッパ・ムンディと鎖くさり付づけ図書としょ博物館はくぶつかんの復元ふくげんには数すう多おおくの作業さぎょう員いんと10年ねん以上いじょうの期間きかん、多額たがくの寄付きふが必要ひつようだった[13]。900年ねん以上いじょう前まえに建設けんせつされたこの図書館としょかんは荒廃こうはいが進すすみ、倒壊とうかいの危機ききに直面ちょくめんしていた[13]。また、発見はっけんされた最古さいこの鎖くさり付づけ図書としょはヘレフォード・ゴスペルで[17]、8世紀せいきに書かかれたこの書籍しょせきはこの大だい規模きぼな図書館としょかんに置おかれていた229冊さつの鎖くさり付づけ図書としょの1冊さつだった[17]。ヘレフォード図書館としょかんは現存げんそんする鎖くさり付づけ図書館としょかんの中なかで最大さいだい規模きぼで鎖くさりや書籍しょせきもそのまま残のこっていて[17]、観光かんこう地ちや博物館はくぶつかんとして現在げんざい一般いっぱん公開こうかいされている[13]。

ウィンボーン・ミンスター（英語えいご版ばん）内うちの鎖くさり付づけ図書館としょかんはイギリスにおいて2番ばんめに規模きぼの大おおきい鎖くさり付づけ図書館としょかんである。最初さいしょの寄贈きぞうはウィリアム・ストーン牧師ぼくしによる神学しんがくを扱あつかった図書としょで主おもに聖職せいしょく者しゃが読よんでおり鎖くさりは付つけられていなかった。別べつの地元じもと寄贈きぞう者しゃであるロジャー・ジリンガムは1695年ねんに90冊さつを寄贈きぞうした時ときに、図書館としょかんは「店主てんしゅやより身分みぶんの高たかい」地元じもと町民ちょうみんのために無料むりょうで利用りようできるようにしなければならないと考かんがえ、書籍しょせきに鎖くさりをつけることを求もとめた[18]。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 百科ひゃっか事典じてんマイペディア『鎖くさり付づけ図書としょ』 - コトバンク。2015年ねん4月がつ17日にち閲覧えつらん。
  2. ^ a b c d e Weston, J. (2013, May 10). "The Last of the Great Chained Libraries". Retrieved from http://medievalfragments.wordpress.com/2013/05/10/the-last-of-the-great-chained-libraries/
  3. ^ a b Byrne, D. “Chained libraries.” History Today, 1987, p. 375-6.
  4. ^ a b c d 高宮たかみや・原田はらだ 1997, pp. 311-312.
  5. ^ ペトロスキー 2004, pp. 33–34.
  6. ^ ペトロスキー 2004, pp. 46–47.
  7. ^ ペトロスキー 2004, p. 50.
  8. ^ マレー 2011, pp. 54-57.
  9. ^ ペトロスキー 2004, pp. 62–64.
  10. ^ a b c ペトロスキー 2004, p. 68.
  11. ^ ペトロスキー 2004, pp. 107–109.
  12. ^ ペトロスキー 2004, p. 89.
  13. ^ a b c d e f Lopez, B. “New Chained Library of Hereford Cathedral Takes Royal Prize”. American Libraries, 1997, p. 22.
  14. ^ ペトロスキー 2004, pp. 75–78.
  15. ^ マレー 2011, p. 148.
  16. ^ ペトロスキー 2004, p. 97.
  17. ^ a b c Hereford Cathedral. “The Chained Library”. 2009. Received from http://www.herefordcathedral.org/visit-us/mappa-mundi-1/the-chained-library
  18. ^ Wimborne Minster. "Chained library". 2014. Received from http://www.wimborneminster.org.uk/110/chained-library.html

関連かんれん書籍しょせき[編集へんしゅう]

  • Streeter, B. H. The Chained Library: a survey of four centuries in the evolution of the English library. London: Macmillan, 1931.
  • 高宮たかみや利行としゆき; 原田はらだ範行のりゆき (1997). 図説ずせつ 本ほんと人ひとの歴史れきし事典じてん. 柏書房かしわしょぼう. pp. 397. ISBN 4-760-11416-5 
  • ペトロスキー, ヘンリー 池田いけだ栄一えいいち訳やく (2004). 本棚ほんだなの歴史れきし. 白水しろみず社しゃ. pp. 287. ISBN 4-560-02849-4 
  • マレー, スチュアート・A・P; 日暮ひぐらし雅通まさみち監訳かんやく (2011). 図説ずせつ 図書館としょかんの歴史れきし. 原はら書房しょぼう. pp. 396. ISBN 978-4-562-04744-4 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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