長崎ながさき養生ようじょう所しょ

長崎ながさき養生ようじょう所しょ（ながさきようじょうしょ）は、1861年ねん（文久ぶんきゅう元年がんねん）9月がつに長崎ながさきで開院かいいんした江戸えど幕府ばくふ（長崎ながさき奉行ぶぎょう管轄かんかつ）の病院びょういん・医療いりょう施設しせつである。正式せいしき名称めいしょうは「養生ようじょう所しょ」。この記事きじでは前身ぜんしんである「医学いがく伝習でんしゅう所しょ」（いがくでんしゅうじょ）、後身こうしん機関きかんである「精せい得とく館かん」（せいとくかん）についても扱あつかう。

養生ようじょう所しょは日本にっぽん最初さいしょの西洋せいよう式しき近代きんだい病院びょういんとして知しられる。幕府ばくふに招聘しょうへいされ医学いがく教育きょういくを行おこなったオランダ人じん医師いしポンペの進言しんげんにより設置せっちされ、所内しょないには医学いがく生せいの教育きょういくを行おこなう「医学いがく所しょ」が併設へいせつされた。のち両者りょうしゃは「精せい得とく館かん」として統合とうごうされた。

明治めいじ期きになって長崎ながさき府ふ医い学校がっこう病院びょういんと改称かいしょうされ、長崎ながさき医科いか大学だいがく（現げん長崎大学ながさきだいがく医学部いがくぶ、および長崎大学ながさきだいがく病院びょういん）の源流げんりゅうとなった。精せい得とく館かんの理化学りかがく部門ぶもんは、大阪おおさか舎しゃ密みつ局きょくとなった後のち、理り学校がっこうとなり第だい三さん高等こうとう学校がっこう（京都大学きょうとだいがくの前身ぜんしん校こう）の源流げんりゅうとなった^[1]^[2]。

沿革えんかく

以下いか、年月日ねんがっぴはすべて太陽暦たいようれき。

1857年ねん（安政あんせい4年ねん）、幕府ばくふから医学いがく教授きょうじゅを依頼いらいされた長崎ながさき海軍かいぐん伝習でんしゅう所しょ教官きょうかんのオランダ軍医ぐんいポンペは、同年どうねん11月がつ、長崎ながさき奉行ぶぎょう所しょ西にし役所やくしょ内ないに医学いがく伝習でんしゅう所しょ（日本にっぽんにおける最初さいしょの西洋せいよう医い学校がっこう）を設立せつりつ、幕府ばくふ医い官かんの松本まつもと良りょう順じゅんら11名めいに医学いがく講義こうぎを行おこなった（長崎大学ながさきだいがく医学部いがくぶはこの日付ひづけ／11月12日にちを「開ひらき学がく記念きねん日び」とし、ポンペを「開ひらき学がくの祖そ」としている）^[3]。ついで1858年ねんに、28万まん人にんの死者ししゃを出だした日本にっぽんにおける第だい二に次じのコレラ流行りゅうこうが起おこり（米べい艦かんミシシッピー号ごうが清国きよくにから長崎ながさきに入港にゅうこうした際さいに同どう号ごうのコレラ患者かんじゃから広ひろがったとされる）、ポンぺは長崎ながさき奉行ぶぎょう所しょに衛生えいせい行政ぎょうせいの重要じゅうよう性せいを訴うったえ^[4]、病院びょういん設立せつりつの必要ひつようを説といたので幕府ばくふはこれに応おうえ1860年ねん（万延まんえん元年がんねん）に養生ようじょう所しょの建設けんせつを決定けってい、1861年ねん（文久ぶんきゅう元年がんねん）9月がつ、養生ようじょう所しょ（小島こじま養生ようじょう所しょ）が小島こじま村むらの高台たかだい（現在げんざいの長崎ながさき市立しりつ仁田にった佐古さこ小学校しょうがっこうの敷地しきち／長崎ながさき市し西小島にしおじま1丁目ちょうめ）に開院かいいんし、翌年よくねん大村おおむら町まち（現在げんざいの長崎ながさき市し万才まんざい町まち）の医学いがく伝習でんしゅう所しょもここに移転いてんし^[5]、医学いがく所しょとして併設へいせつされ松本まつもと良りょう順じゅんが初代しょだい頭取とうどりとなった^[3]。養生ようじょう所しょが郷さと民みんの救恤きゅうじゅつ診療しんりょうを行おこなったのに対たいし、医学いがく所しょでは学生がくせいの教育きょういくが行おこなわれ、薬局やっきょく・図書館としょかん・人体じんたい解剖かいぼう室しつが設置せっちされ臨床りんしょう医学いがくの講義こうぎが行おこなわれた。1862年ねん（文久ぶんきゅう2年ねん）、ポンペが帰国きこくすると彼かれに代かわって同おなじくオランダ軍医ぐんいのボードウィンが教頭きょうとうに就任しゅうにんした。

1865年ねん（慶応けいおう元年がんねん）4月がつには養生ようじょう所しょ・医学いがく所しょは統合とうごうされて精せい得とく館かんと改称かいしょう、これとともに館内かんないに化学かがく教室きょうしつ「分析ぶんせき窮理きゅうり所しょ」を新設しんせつし、オランダ人じん理化学りかがく者しゃクーンラート・ハラタマ（Koenraad Wolter Gratama）を招聘しょうへいした（この分析ぶんせき窮理きゅうり所しょはその後ご、組織そしき改革かいかくのため江戸えどの開成かいせい所しょ、維新いしん後ごには大阪おおさか舎しゃ密みつ局きょくに移転いてんした）。維新いしん後ご、精せい得とく館かんは新しん政府せいふに接収せっしゅうされることとなり、ここを視察しさつした長崎ながさき府ふ（長崎ながさき県けんの前身ぜんしん）判事はんじ・井上いのうえ聞多の献策けんさくに基もとづき、1868年ねん11月（明治めいじ元年がんねん10月がつ）長崎ながさき府ふ医い学校がっこう・病院びょういんへと改編かいへんされた（これ以降いこうの沿革えんかくについては長崎ながさき医い学校がっこうへ）。

長崎ながさきでポンペ・ボードウィンに学まなんだ松本まつもと良りょう順じゅん・相良さがら知とも安やす・佐藤さとう尚中しょうちゅうらは、明治めいじ新しん政府せいふが（イギリス医学いがくでなく）当時とうじのヨーロッパ医学いがくの主流しゅりゅうであったドイツ医学いがくを医学いがく教育きょういくに採用さいようすることに貢献こうけんした（東京とうきょう医い学校がっこう参照さんしょう）。

年表ねんぴょう

1857年ねん（安政あんせい4年ねん）11月12日にち：長崎ながさき奉行ぶぎょう所しょ西にし役所やくしょ内ないに医学いがく伝習でんしゅう所しょを設立せつりつ。
1861年ねん（文久ぶんきゅう元年がんねん）9月がつ20日はつか：養生ようじょう所しょ（小島こじま養生ようじょう所しょ）開院かいいん。翌年よくねん、医学いがく伝習でんしゅう所しょを移転いてんし医学いがく所しょ併設へいせつ。
1865年ねん（慶応けいおう元年がんねん）4月がつ：養生ようじょう所しょ・医学いがく所しょを統合とうごうし精せい得とく館かんと改称かいしょう。
1868年ねん 11月30日にち（明治めいじ元年がんねん10月がつ17日にち）：長崎ながさき府ふ医い学校がっこう・病院びょういんと改称かいしょう。

所在地しょざいち

1857年ねん11月、ポンペによる開講かいこうの時点じてんで医学いがく伝習でんしゅう所しょは市内しない外浦そとうら町まちの長崎ながさき奉行ぶぎょう所しょ西にし役所やくしょ内ないに所在しょざいしていたが、生徒せいとが急増きゅうぞうし手狭てぜまになったため年内ねんないに大村おおむら町まち（現在げんざいの長崎ながさき市し万才まんざい町まち）の高島たかしま秋帆しゅうはん邸やしき内ないに移転いてんした。医学いがく伝習でんしゅう所しょの後身こうしんたる養生ようじょう所しょ・医学いがく所しょは小島こじま郷さと字じ稲荷いなり岳だけに開設かいせつされ、「小島こじま養生ようじょう所しょ」と称しょうされた。この小島こじま校こう地ちはその後ごの精せい得とく館かん・長崎ながさき医い学校がっこうへと継承けいしょうされ、第だい五ご高等こうとう中学校ちゅうがっこう医学部いがくぶ時代じだいまで存続そんぞくした。