阪堺はんかい電車でんしゃ177号ごうの追憶ついおく

阪堺はんかい電車でんしゃ177号ごうの追憶ついおく
著者ちょしゃ	山本やまもと巧たくみ次じ
イラスト	佐久間さくま真人まさと
発行はっこう日び	2017年ねん9月25日にち
発行はっこう元もと	早川書房はやかわしょぼう
ジャンル	ミステリ
国くに	日本にっぽん
言語げんご	日本語にほんご
形態けいたい	文庫本ぶんこぼん
コード	ISBN 978-4150312961
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『阪堺はんかい電車でんしゃ177号ごうの追憶ついおく』（はんかいでんしゃ177ごうのついおく）は、山本やまもと巧たくみ次じによる日本にっぽんの連作れんさく短編たんぺん小説しょうせつ集しゅう。早川書房はやかわしょぼうより2017年ねんに書かき下おろしで文庫本ぶんこぼんが刊行かんこうされている。

2020年ねんにラジオドラマ化かされた。

概要がいよう

阪堺はんかい電気でんき軌道きどう モ161形かたち（162号ごう）。神ノ木かみのき駅えきにて撮影さつえい（2008年ねん）。

本ほん作さくは、大阪おおさか市し南部なんぶと堺さかい市しを結むすぶ路面ろめん電車でんしゃ・阪堺はんかい電気でんき軌道きどう、通称つうしょう「阪堺はんかい電車でんしゃ」のなかでも現役げんえき最古さいこの「モ161形かたち177号ごう」をモチーフとして、その初はつ運行うんこうの年としである1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）から廃車はいしゃされる2017年ねん（平成へいせい29年ねん）までの85年間ねんかんの出来事できごとを、戦前せんぜん、戦中せんちゅう、戦後せんご、高度こうど経済けいざい成長せいちょう期き、バブル崩壊ほうかい前後ぜんご、現代げんだいの、阪堺はんかい電車でんしゃに関かかわる各かく時代じだいの登場とうじょう人物じんぶつの視点してんによって描えがかれる連作れんさく短編たんぺん集しゅうである。各かく話はなしの冒頭ぼうとうには「177号ごう」を1人称にんしょうとした各かく時代じだいの追想ついそうが綴つづられている。

本ほん作さくは、2018年ねん第だい6回かい大阪おおさかほんま本ほん大賞たいしょうを受賞じゅしょう、ならびに2019年ねん第だい15回かい酒飲さけのみ書店しょてん員いん大賞たいしょうを受賞じゅしょうしている。

各かく話はなしあらすじ

プロローグ - 平成へいせい二に十じゅう九きゅう年ねん三さん月がつ -

2017年ねん（平成へいせい29年ねん）3月がつ、既すでに定期ていき運用うんようから外はずされて1か月げつも我孫子あびこ道みち停留ていりゅう場じょうの車庫しゃこから出でていないモ161形かたち177号ごうの傍はたで阪堺はんかい電気でんき軌道きどうの社長しゃちょうと2人ふたりの常務じょうむの会話かいわから、177号ごうは近々ちかぢか廃車はいしゃされるのを悟さとる。85年ねんの長ちょうきに渡わたり現役げんえきで過すごした電車でんしゃはモ161形がたの他ほかになく、それを誇ほこらしく思おもいこそすれ、残念ざんねんな気持きもちはない。そして177号ごうは、これまで走はしって来きた各かく時代じだいを振ふり返かえる。

第だい一いち章しょう 二に階かいの手拭てぬぐい - 昭和しょうわ八はち年ねん四よん月がつ -

1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）4月がつのある日ひ、阪堺はんかい電車でんしゃの車掌しゃしょうである辻つじ原はら和郎かずおは、最新さいしん車輛しゃりょうの177号ごう勤務きんむで上機嫌じょうきげんだった。試運転しうんてんと最初さいしょの営業えいぎょう運転うんてんでもハンドルを持もったベテラン運転うんてん士しの井ノ口いのぐちも177号ごうは体からだにしっくり馴染なじむいい車しゃで、さらにその初はつ運転うんてんのときに初はじめて電車でんしゃに乗のる生うまれたての赤あかん坊ぼうを乗のせた縁起えんぎのいい車しゃだと言いう。そして乗車じょうしゃした辻原つじはるは、塚づか西にしを発車はっしゃしてすぐ、ふと左側ひだりがわの家並いえなみに目めをやると、老舗しにせの質しつ家かの二に階かいの欄干らんかんに白しろい手拭てぬぐいを干ほしてあるのに気きが付つく。そしてそれから毎日まいにち、質屋しちやの二に階かいに白しろ手拭てぬぐいが干ほされていたが、7日にちめに白しろ手拭てぬぐいが掛かかっていたのがいつの間まにか青あおい筋すじの入はいった手拭てぬぐいに変かわっていた。欄干らんかん越ごしに質屋しちやの奥おくさんらしき30歳さい過すぎの色気いろけのある婦人ふじんの顔かおが見みえ、裏口うらぐちからは今いましがた電車でんしゃを降おりた25歳さいぐらいの二枚目にまいめの男おとこが入はいっていった。辻原つじはるはそれを見みて、手拭てぬぐいは密会みっかいの合図あいずに違ちがいないと思おもった。

それからも質屋しちやの二に階かいには白しろ手拭てぬぐいが干ほされ続つづき、2度どばかり青あおい柄物がらものの手拭てぬぐいに変かわっているのを見みた辻原つじはるは、浮気うわきの合図あいずかと思おもってにやりとしたりした。ところが、半月はんつきほど経たったある日ひ、二に階かいに掛かかっていたのは真まっ赤かな手拭てぬぐいだった。

第だい二に章しょう 防空壕ぼうくうごうに入はいらない女おんな - 昭和しょうわ二に十じゅう年ねん六ろく月がつ -

1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）6月がつのある日ひ、学徒がくと動員どういんで阪堺はんかい電車でんしゃの運転うんてん士しとなった女学生じょがくせいの井ノ口いのぐち雛ひな子こは、177号ごうを運転うんてんしている最中さいちゅうに北畠きたばたけで空襲くうしゅう警報けいほうのサイレンが聞きこえたため、緊急きんきゅう停止ていしして乗客じょうきゃくを防空壕ぼうくうごうへ誘導ゆうどうした。ところが一人ひとりの女性じょせいが防空壕ぼうくうごうに入はいるのを拒否きょひして駆かけ出だして行いってしまったため、雛ひな子こは女性じょせいの後のちを追おい、寺てらの裏手うらてにある墓地ぼちの奥おくの土塀どべいまで連つれて行いった。女性じょせいは北田きただ信子のぶこと名乗なのり、子供こどものときに幸男ゆきおという近所きんじょの男おとこの子こと横穴よこあなで遊あそんでいて土砂崩どしゃくずれに遭あい、幸男ゆきおを置おき去ざりにして逃にげたことが原因げんいんで、それ以来いらい穴あなに入はいることができなくなり、百貨店ひゃっかてんの地下ちかへ下おりるのも勇気ゆうきがいるのだと言いう。そして幸男ゆきおがどうなったのかは知しらないと言いう。

数日すうじつ後ご、幸男ゆきおがどうなったのか気きになって、信子のぶこが子供こどもの頃ころ住すんでいた町まちを訪おとずれた雛ひな子こは、信子のぶこのことを知しっている中年ちゅうねん女性じょせいに話はなしを聞きくと、幸男ゆきおは自力じりきで横穴よこあなから脱出だっしゅつして無事ぶじだったと言いう。そして幸男ゆきおは翌日よくじつ、親戚しんせきの家いえに養子ようしに出でて行いったが、信子のぶこは見送みおくりに出でてこなかったと言いう。それを聞きいた雛ひな子こは、土砂崩どしゃくずれの恐怖きょうふと、幸男ゆきおを置おき去ざりにした罪悪ざいあく感かんと、それに幸男ゆきおとの別わかれの寂さびしさから、いつしか幸男ゆきおに対たいする信子のぶこの記憶きおくを封印ふういんしてしまったのだろうと解釈かいしゃくし、次つぎに会あう機会きかいがあれば、信子のぶこに幸男ゆきおは無事ぶじだったと伝つたえたいと思おもった。しかし、信子のぶこに会あうこともないまま終戦しゅうせんを迎むかえ、雛ひな子こは動員どういん解除かいじょされて学校がっこうに戻もどった。

翌年よくねんの年明としあけ、雛ひな子こは天王寺てんのうじ駅えき前まえの地下鉄ちかてつ出入でいり口ぐちから若わかい男性だんせいと仲良なかよさそうに連つれ立だって出でてきた信子のぶこを見みかけた。しかし、百貨店ひゃっかてんの地下ちかに下おりるのも怖こわくて勇気ゆうきがいると言いっていたはずなのに、地下鉄ちかてつ出入でいり口ぐちから出でてきたのに恐おそれる様子ようすが微塵みじんも感かんじられない信子のぶこに違和感いわかんを抱いだく。

第だい三さん章しょう 財布さいふとコロッケ - 昭和しょうわ三さん十じゅう四よん年ねん九きゅう月がつ -

1959年ねん（昭和しょうわ34年ねん）9月がつのある日ひ、アベノ食堂しょくどうの調理ちょうり師しの榎本えのもと章一しょういちは、阪堺はんかい電車でんしゃの中なかで20歳さい前後ぜんこうの目鼻立めはなだちのはっきりした美人びじんが姫松ひめまつで降おりる際さい、彼女かのじょのバッグから財布さいふがこぼれ落おちるのを見みて、お近ちかづきになるチャンスと財布さいふを拾ひろおうとしたが、それより先さきに小学生しょうがくせいにその財布さいふを拾ひろわれてしまった。しかし、その小学生しょうがくせいは財布さいふをポケットにしまい、電車でんしゃが北畠きたばたけに到着とうちゃくするとそのまま降おりてしまった。慌あわてて後ごを追おおうとして降おりた章一しょういちは、今いま降おりた電車でんしゃの番号ばんごうが「177」だと目めにしつつその小学生しょうがくせいを探さがしたが、何人なんにんもの小中学生しょうちゅうがくせいが歩あるいている中なか、どの子こなのか分わからなくなっていた。

その夜よる、章一しょういちは阪堺はんかい電車でんしゃの車掌しゃしょうで中学ちゅうがく時代じだいの同級生どうきゅうせいから、通学つうがく定期ていきで住吉公園すみよしこうえんから北畠きたばたけまで電車でんしゃ通学つうがくしている小学生しょうがくせいのことをき込きこむ。そして翌朝よくあさ、住吉公園すみよしこうえん駅えきのホームからその小学生しょうがくせいと一緒いっしょに電車でんしゃに乗のり、北畠きたばたけで降おりたところを呼よび止とめて、名札なふだで5年ねん2組くみの池山いけやま典郎のりおだということは分わかったものの、逃にげられてしまう。その夜よる、財布さいふを落おとした女性じょせいと偶然ぐうぜん一緒いっしょの電車でんしゃに乗のり合あわせた章一しょういちは、住吉すみよしで降おりた彼女かのじょに声こえをかけて、池山いけやま典郎のりおという小学生しょうがくせいが財布さいふを拾ひろってそのまま持もち逃にげしてしまったことを説明せつめいし、取とり返かえしに行いこうと誘さそう。

2人ふたりとも休やすみの水曜すいように、彼女かのじょ・寺内てらうち奈津子なつこと待まち合あわせて住吉公園すみよしこうえん駅えきで待まち合あわせて典郎のりおを捕つかまえたが、財布さいふを返かえさなかった理由りゆうは、1年生ねんせいのときに出でて行いった母親ははおやが持もっていた財布さいふと同おなじものだったからだと言いう。章一しょういちは、正直しょうじきに財布さいふを返かえした褒美ほうびにコロッケをご馳走ちそうしてやると、典郎のりおを自分じぶんの店みせに誘さそう。しかし、章一しょういちには別べつの思惑おもわくがあった。

第だい四よん章しょう 二に十じゅう五ご年ねん目めの再会さいかい - 昭和しょうわ四よん十じゅう五ご年ねん五ご月がつ -

1970年ねん（昭和しょうわ45年ねん）5月がつのある日ひ、中崎なかざき信子のぶこは天王寺駅前てんのうじえきまえで横断おうだん歩道ほどうの向むこうから、自分じぶんより少すこしだけ若わかい中年ちゅうねんの女おんなに見みられている、と思おもった。そして、すれ違ちがいざまにその女おんなは「もしかして北田きただ信子のぶこさんやありませんか」と声こえをかける。女おんなは上西かみにし、いえ井ノ口いのぐち雛ひな子こですと名乗なのる。戸惑とまどう信子のぶこに、もう25年ねんも前まえの終戦しゅうせん前まえに自分じぶんが運転うんてんしていた電車でんしゃに乗のっていて空襲くうしゅう警報けいほうが鳴なったために一緒いっしょに逃にげたのだと説明せつめいされて、信子のぶこはあのときの運転うんてん士しかと、驚おどろきとともにようやく思おもい出だした。雛ひな子こは続つづけてあのときのことでずっと気きになっていることがあって、何なん度ども信子のぶこの顔かおを思おもい出だしていたのだと言いい、話はなしがしたいからと喫茶店きっさてんに誘さそう。

雛ひな子こは、信子のぶこが住すんでいた町まちで幸男ゆきおが無事ぶじだったことを聞きいたことや、終戦しゅうせんの翌年よくねんに信子のぶこを見みかけたこと、地下鉄ちかてつの出入でいり口ぐちから出でてきたことに違和感いわかんを持もったことなどを話はなし、実じつは信子のぶこは防空壕ぼうくうごうが怖こわくて入いれなかったのではなく、防空壕ぼうくうごうの中なかに顔かおを合あわせたくない人ひとがいたのではないかと尋たずねる。それで信子のぶこは本当ほんとうのことを話はなし始はじめる。

第だい五ご章しょう 宴えんの終おわりは幽霊ゆうれい電車でんしゃ - 平成へいせい三さん年ねん五ご月がつ -

1991年ねん（平成へいせい3年ねん）5月がつのある日ひ、キャバクラ嬢じょうのアユミは客きゃくの顔かおを見みてギクリとする。50歳さい前後ぜんこうの中背ちゅうぜい小太こぶとりのその男おとこは、父親ちちおやが経営けいえいしていたクリーニング店てんと自宅じたくを手放てばなしたうえ体たいを壊こわして入院にゅういん中ちゅうで、家族かぞくがバラバラになった原因げんいんを作つくった不動産ふどうさん屋やの相澤あいざわだった。同僚どうりょうのマキとナツキから、相澤あいざわが地上じあげで儲もうけている土地とち成金なりきんで、今いまは帝塚山てづかやまで大おおきな仕事しごとにとりかかっていること、現在げんざいの標的ひょうてきが帝塚山てづかやま四よん丁目ちょうめ近ちかくのたこ焼やき屋やだと聞きくと、マキが近所きんじょで美味おいしいと評判ひょうばんで馴染なじみの店みせだと言いい、みんなで行いくことにする。

そして、3人にんで訪おとずれたたこ焼やき屋やに、いかにもヤクザ風ふうの強面こわおもて2人にん連づれがやってきてたこ焼やきを注文ちゅうもんして代金だいきんとして1万まん円えん札さつを出だすのを見みたアユミは、定番ていばんの嫌いやがらせだと顔かおをしかめる。店主てんしゅいわく、2人ふたり連づれは不動産ふどうさん屋やの手先てさきで、地上じあげで近所きんじょの一角いっかくを買かいに来きていて、残のこっているのはこの店みせだけで、2人ふたり連づれが来くるようになってから、怖こわがって客きゃくが来こなくなったと言いう。アユミは、今いまでも自分じぶんたちにしたことと同おなじようなことをしている相澤あいざわに憤慨ふんがいし、何なにとかして相澤あいさわに仕返しかえししてやりたいと、マキとナツキに話はなす。マキも自分じぶんはああいう連中れんちゅうは好すかないとアユミに味方みかたし、知しり合あいの不動産ふどうさんコンサルタントに相談そうだんしてもらえないかとナツキに頼たのむ。ナツキは店みせに迷惑めいわくがかかるのを恐おそれて尻込しりごみしていたが、マキに頼たのまれてようやく、事情じじょうは異ことなるが家族かぞくがバラバラに壊こわれてしまったことからアユミのことも他人事たにんごとではないと応援おうえんすることにする。

こうして、3人にんにたこ焼やき屋やの店主てんしゅ、そして不動産ふどうさんコンサルタントを交まじえた5人組にんぐみによる悪徳あくとく不動産ふどうさん屋や撃退げきたい作戦さくせんが展開てんかいされることになる。

第だい六ろく章しょう 鉄てつチャンとパパラッチのポルカ - 平成へいせい二に十じゅう四よん年ねん七なな月がつ -

2012年ねん（平成へいせい24年ねん）7月がつのある日ひ、住吉鳥居前すみよしとりいまえのマンション前まえで、東京とうきょうの大学生だいがくせいで鉄てつチャンの永野ながの幸平こうへいは、貴重きちょうなモ161形かたちの写真しゃしんを撮とろうと待まち構かまえていたが、住吉すみよし大社たいしゃの南側みなみがわに路上ろじょう駐車ちゅうしゃしているSUVが気きに掛かかっていた。一方いっぽう、SUVの運転うんてん席せきで特とくダネ写真しゃしんを狙ねらっているパパラッチの勝間田かつまた康昭やすあきも、幸平こうびらが商売敵しょうばいがたきではないかと気きにしていた。勝間田かつまたのターゲットは、豊中とよなか市しのマンションに一人ひとり住すまいの人気にんきアナウンサーの山田やまだ彩華あやかで、彼女かのじょが縁えんのないはずの住吉すみよしのマンションの301号ごう室しつに昨夜さくや入はいり込こみ、301号ごう室しつが「長谷川はせがわ真砂まさご夫おっと」という男おとこ名前なまえであることから、男おとことの密会みっかい写真しゃしんを狙ねらっていた。

ところが、その301号ごう室しつのある3階かいの端はしからカメラを身構みがまえて写真しゃしん撮影さつえいしようとしている男おとこを見みつけた2人ふたりは、それぞれの思惑おもわくからその男おとこが気きになる。幸平こうへいは、高たかい位置いちから電車でんしゃを俯瞰ふかん撮影さつえいしようとしているのか、しかし不法ふほう侵入しんにゅうではないか、こういうことをする輩やからがいるから真まっ当とうな鉄てつチャンまで白しろい目めで見みられるのだと憤慨ふんがいする。一方いっぽう、勝間田かつまたはこの第だい三さんの男おとここそ商売敵しょうばいがたきではないかと警戒けいかいし、さらに幸平こうへいがマンションに向むかったことから、勝間田かつまたは後先あとさき考かんがえず自分じぶんもマンションに突入とつにゅうしてしまう。

ところが、そこへ幸平こうびらの通報つうほうにより現あらわれた警察官けいさつかんにより、勝間田かつまたは尋問じんもんを受うける羽目はめになる。そしてもう一人ひとりの男おとこ、谷山たにやま義郎よしおも尋問じんもんを受うけ、撮影さつえいした写真しゃしんを開示かいじさせられる。その写真しゃしんを見みた幸平こうへいは、谷山たにやまの真しんの狙ねらいを看破かんぱする。

エピローグ - 平成へいせい二に十じゅう九きゅう年ねん八はち月がつ -

2017年ねん（平成へいせい29年ねん）8月がつ、車体しゃたいがクレーンで持もち上あげられて台車だいしゃから分離ぶんりされてトレーラーの荷台にだいに降おろされた177号ごうは、（これで、ええんや）とこの旅立たびだちに満足まんぞくする。その脳裏のうりに85年間ねんかんの出来事できごとが順じゅんに去来きょらいし、目めを閉とじる。しかし、周囲しゅういの賑にぎやかさに再ふたたび目めを開あけた177号ごうは、目めの前まえがどう見みても街まち中ちゅうのレストランで、一番いちばん近ちかいテーブルでビールのグラスを掲かかげて乾杯かんぱいの仕草しぐさをしている老人ろうじんを見みて、（ありゃ？ この爺じいさん、よう知しっとるで…）と思おもった。老人ろうじんは、かつてのアベノ食堂しょくどうの調理ちょうり師しの榎本えのもと章一しょういちで、その傍はたには奈津子なつこと典郎のりおもいた。

主おもな登場とうじょう人物じんぶつ

辻つじ原はら和郎かずお（つじはら かずお）

第だい一いち章しょう（1933年ねん）に登場とうじょうする阪堺はんかい電車でんしゃの車掌しゃしょう。

井ノ口いのぐち（いのぐち）

第だい一いち章しょう（1933年ねん）に登場とうじょうする阪堺はんかい電車でんしゃのベテラン運転うんてん士し。

井ノ口いのぐち雛ひな子こ（いのぐち ひなこ）

第だい二に章しょう（1945年ねん）に登場とうじょうする阪堺はんかい電車でんしゃの運転うんてん士し。第だい一いち章しょう（1933年ねん）に登場とうじょうする井ノ口いのぐちの娘むすめ。

第だい四よん章しょう（1970年ねん）では結婚けっこんして名字みょうじが「上西かみにし（うえにし）」に変かわっている。また、第だい六ろく章しょう（2012年ねん）では永野ながの幸平こうへいの祖母そぼとして登場とうじょうする。

エピローグ（2017年ねん）で、2年ねん前まえに死去しきょしたことが語かたられている。

北田きただ信子のぶこ（きただ のぶこ）

第だい二に章しょう（1945年ねん）に登場とうじょうする防空壕ぼうくうごうに入はいらない女おんな。

第だい四よん章しょう（1970年ねん）では結婚けっこんして名字みょうじが「中崎なかざき（なかざき）」に変かわっている。

榎本えのもと章一しょういち（えのもと しょういち）

第だい三さん章しょう（1959年ねん）に登場とうじょうする、天王寺てんのうじ駅えき前ぜんビル内ないの洋食ようしょくレストラン「アベノ食堂しょくどう」の調理ちょうり師し。生うまれたての赤あかん坊ぼうのときに、第だい一いち章しょう（1933年ねん）に登場とうじょうする井ノ口いのぐちが初はつ運転うんてんした177号ごうに乗のり合あわせた。

独立どくりつして姫松ひめまつ前まえに榎えのき亭てい（えのきてい）を構かまえ、エピローグ（2017年ねん）で50周年しゅうねん記念きねん会かいを催もよおしている。

寺内てらうち奈津子なつこ（てらうち なつこ）

第だい三さん章しょう（1959年ねん）に登場とうじょうする財布さいふを落おとした女性じょせい。住吉すみよしの近ちかくに住すんでいて、姫松ひめまつ近ちかくの洋菓子ようがし店てんに勤つとめている。

エピローグ（2017年ねん）では、榎本えのもと章一しょういちの妻つまとして登場とうじょうする。

池山いけやま典郎のりお（いけやま のりお）

第だい三さん章しょう（1959年ねん）に登場とうじょうする、奈津子なつこの財布さいふを拾ひろった小学しょうがく5年生ねんせい。住吉公園すみよしこうえん近ちかくの自宅じたくから北畠きたばたけまで電車でんしゃ通学つうがくしている。1年生ねんせいのときに母親ははおやが出でて行いって以来いらい、父親ちちおやと二に人にん暮くらし。

第だい四よん章しょう（1970年ねん）では阪堺はんかい電車でんしゃの車掌しゃしょう、第だい五ご章しょう（1991年ねん）では助役じょやくとして登場とうじょうする。

エピローグ（2017年ねん）では10年ねん前まえに助役じょやくで退職たいしょくして、榎えのき亭ていの常連じょうれん客きゃくとして登場とうじょうする。

アユミ

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうする23歳さいぐらいのキャバクラ嬢じょう。文ふみの里さとのアパートに住すんでいる。不動産ふどうさん屋やの相澤あいざわを恨うらんでいる。

マキ

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうするキャバクラ嬢じょう。アユミよりも7歳さいぐらい年上としうえで、離婚りこん歴れきがあり、子供こどもは元もと夫おっとの元もとにいる。第だい四よん章しょう（1970年ねん）に登場とうじょうする中崎なかざき信子のぶこ（北田きただ信子のぶこ）の姪めい。

第だい六ろく章しょう（2012年ねん）では、上西かみにし雛ひな子こ（井ノ口いのぐち雛ひな子こ）が住すむ住吉鳥居前すみよしとりいまえのマンションの住人じゅうにん（長谷川はせがわ真砂まさご未ひつじ）として登場とうじょうする。

ナツキ

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうするキャバクラ嬢じょう。父親ちちおやが愛人あいじんを作つくって出でて行いったため、家族かぞくがバラバラになった。

井部いべ（いべ）

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうする、帝塚山てづかやま四よん丁目ちょうめ近ちかくのたこ焼やき屋やの店主てんしゅ。相澤あいざわの差さし金がねで地上じあげ屋やに嫌いやがらせされている。

相澤あいざわ惣そう太ふとし（あいざわ そうた）

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうする京きょう亜あ不動産ふどうさんの社長しゃちょう。「土地とち転ころがし」で大おおきな利益りえきを得えている。

畑中はたなか仁志ひとし（はたなか ひとし）

第だい五ご章しょう（1991年ねん）に登場とうじょうする、ナツキが以前いぜん勤つとめていた店みせで馴染なじみの不動産ふどうさんコンサルタント。

永野ながの幸平こうへい（ながの こうへい）

第だい六ろく章しょう（2012年ねん）に登場とうじょうする鉄てつチャン。東京とうきょうの大学だいがくに通かよっている。上西かみにし雛ひな子こ（井ノ口いのぐち雛ひな子こ）の孫まご。

勝間田かつまた康昭やすあき（かつまだ やすあき）

第だい六ろく章しょう（2012年ねん）に登場とうじょうするパパラッチ。

山田やまだ彩華あやか（やまだ あやか）

第だい六ろく章しょう（2012年ねん）に登場とうじょうする大阪おおさか旭あさひテレビの人気にんきアナウンサー。

谷山たにやま義郎よしお（たにやま よしろう）

第だい六ろく章しょう（2012年ねん）に登場とうじょうする第だい三さんの謎なぞの男おとこ。

ラジオドラマ

NHK-FM「青春せいしゅんアドベンチャー」にて、2020年ねん4月がつ6日にちから4月がつ10日とおかまでと4月がつ13日にちから4月がつ17日にちまでに、全ぜん10回かいが放送ほうそうされた。

• 出演しゅつえん：徳井とくい優ゆう、谷村たにむら美月みづき、久保くぼ史ふみ緒いとぐち里さと、マキタスポーツ、永沼ながぬま伊い久也ひさや、柊ひいらぎ子こ、中山なかやま義よし紘ひろし、宮田みやた圭子けいこ、田中たなか孝史たかし、野田のだ晋すすむ市し、杉森すぎもり大だい祐ゆう、木内きうち義一ぎいち、竹下たけした眞しん、榎田えのきだ貴たか斗と、松岡まつおか亜美あみ、小松こまつ健悦けんえつ、中村なかむら英哉ひでや、白井しらい哲也てつや、奥井おくい隆一りゅういち、小塚こづか舞子まいこ、池田いけだ琴こと弥わたる、飯干いいぼし梗凪、吉田よしだ類るい、二宮にのみや輝あきら生せい、中村なかむら凜太郎ろう、酒井さかい高だか陽ひ、松原まつばら由希子ゆきこ、近田ちかだ球たま丸まる、麻生あそうえりか
• 原作げんさく：山本やまもと巧たくみ次じ
• 脚色きゃくしょく：山本やまもと雄つよし史し
• 音楽おんがく：小林こばやし洋平ようへい

外部がいぶリンク

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