雅楽ががく寮りょう

雅楽ががく寮りょう（うたりょう、ががくりょう、うたまいのつかさ）は、律令制りつりょうせいにおいて治部じぶ省しょうに属ぞくする機関きかんである。『和名わみょう抄しょう』ではうたまいのつかさとされている。唐名とうみょうは大だい楽らく又または大だい楽らく署しょ。

職掌しょくしょう

『日本書紀にほんしょき』の允恭天皇いんぎょうてんのう崩御ほうぎょの記事きじの際さいに新しん羅らが崩御ほうぎょを悼いたんで派遣はけんした使者ししゃには楽人がくじんが含ふくまれていた話はなしなど、朝鮮半島ちょうせんはんとう三さん国こく（新しん羅ら・百済くだら・高句麗こうくり）からの音楽おんがくが早はやい時期じきから伝つたわっていたと推定すいていされている。また、持もち統すべ天皇てんのう元年がんねん（687年ねん）正月しょうがつ丙へい寅とら条じょうには「楽らく官かん」と呼よばれる官かん司しが登場とうじょうし、雅楽ががく寮りょうの前身ぜんしんであったとみられている。

701年ねんに大宝たいほう律令りつりょうが制定せいていされ、雅楽ががく寮りょうは朝廷ちょうていの音楽おんがくを司つかさどり、日本にっぽん固有こゆうの歌舞かぶと大陸たいりくの国々くにぐにから伝来でんらいした外来がいらい歌舞かぶの演奏えんそうを担当たんとうする役所やくしょとして作つくられた。様々さまざまな公的こうてき行事ぎょうじで雅楽ががくを演奏えんそうすること、また演奏えんそう者しゃを養成ようせいすることが職務しょくむである。演奏えんそう者しゃとして歌うた師し・舞まい師し・笛ふえ師し・楽師がくしが設置せっちされた。このうち前まえ三さん者しゃは倭やまと楽らく（在来ざいらい音楽おんがく）を、後者こうしゃは雅楽ががく（海外かいがい音楽おんがく）を担当たんとうし、後者こうしゃは主おもに渡来とらい人じん系けいの人ひとが任にんじられた。楽師がくしは令れい制せいでは唐とう・新しん羅ら・高麗こうらい（高句麗こうくり）・百済くだら及および呉ご楽らくである伎楽ぎがく・腰こし鼓こに分わかれてそれぞれの音楽おんがくを担当たんとうした。また笛ふえ師しの下したには笛ふえ職人しょくにんである笛ふえ工こうが付属ふぞくした。

平安へいあん時代じだい以降いこうは楽らく所しょや大だい歌うた所しょ・歌うた儛所・内うち教きょう坊ぼうなどの令れい外そと官かんや奏楽そうがくの職掌しょくしょうも負おうことになった近衛府このえふに押おされて衰退すいたいしたとされる。だが、実際じっさいには大同だいどう・弘ひろし仁ひとし年間ねんかんに海外かいがい音楽おんがくの部門ぶもんの充実じゅうじつが図はかられ、その後ごも重要じゅうような公的こうてき儀式ぎしきでは令れい外そと官かんの演奏えんそうは許ゆるされず、律令りつりょう官かん司しである雅楽ががく寮りょうのみが演奏えんそうを担当たんとうすることができたことから、『延喜えんぎ式しき』や『西宮にしのみや記き』でも雅楽ががく寮りょうに関かんする記述きじゅつが多おおくみられ、少すくなくても11世紀せいき初頭しょとうまでは度々たびたび立たて直なおしが図はかられてきた。

明治維新めいじいしん後ご、雅楽ががく寮りょうは三方みかた楽らく所しょと統合とうごうされるなどの紆余曲折うよきょくせつを経へて宮みや内省ないせい式部しきぶ職しょく楽らく部ぶ（がくぶ）に改組かいそされ（1908年ねん（明治めいじ41年ねん））、現在げんざいの宮内庁くないちょうにそのまま引ひき継つがれる。今日きょうの「君きみが代よ」の作曲さっきょく者しゃ・林はやし廣こう守もりや雅楽ががく演奏えんそう家かの東儀とうき秀樹ひできはここの出身しゅっしんである。

職員しょくいん

• 頭あたま（従したがえ五ご位い下か相当そうとう 唐名とうみょう:大だい楽らく令れい、協きょう律郎りつろう）1名めい
• 助すけ（従したがえ六ろく位い上じょう相当そうとう 唐名とうみょう:大だい楽らく郎ろう、大だい楽らく令れい史し）1名めい
• 允まこと（正せい七なな位い下か相当そうとう 唐名とうみょう:大だい楽らく丞すすむ、協きょう律りつ士し）1名めい
• 属ぞく（大だい属ぞく:従したがえ八はち位い下か相当そうとう　少しょう属ぞく:大だい初はつ位い上じょう相当そうとう 唐名とうみょう:大だい楽らく府ふ、大だい楽らく主ぬし簿ぼ、大だい楽らく署しょ府ふ）各かく1名めい

• 歌うた師し（うたのし）
  • 歌人かじん
  • 歌うた女おんな
• 舞まい師し（まいのし・従したがえ八はち位い上じょう・田た舞まい、五節ごせち舞まいなど4つの分課ぶんかがある）
  • 舞生まう
• 笛ふえ師し（ふえのし・従したがえ八はち位い上じょう
  • 笛ふえ生せい
  • 笛ふえ工こう
• 唐楽とうがく師し（とうがくのし・従したがえ八はち位い上じょう・横笛よこぶえ、尺八しゃくはちなど12の分課ぶんかがある）
  • 唐楽とうがく生せい
• 高麗こうらい楽師がくし（こまがくのし・従したがえ八はち位い上じょう・横笛よこぶえ、鼓こなど6つの分課ぶんかがある）
  • 高麗こうらい楽らく生せい
• 新しん羅ら楽師がくし（しらぎがくのし・従したがえ八はち位い上じょう・琴きん、舞まいの2つの分課ぶんかがある）
  • 新しん羅ら楽らく生せい
• 百済くだら楽師がくし（くだらがくのし・従したがえ八はち位い上じょう・歌うた、舞まいなど6つの分課ぶんかがある）
  • 百済くだら楽らく生せい
• 伎楽ぎがく師し（ぎのがくし・従したがえ八はち位い上じょう
  • 伎楽ぎがく生せい
• 腰こし鼓こ師し（くれつづみのし・従したがえ八はち位い上じょう・廃止はいし）
  • 腰こし鼓こ生せい
• 度ど羅ら楽師がくし（とらのがくし・従したがえ八はち位い上じょう・新設しんせつ）
• 林はやし邑楽おうら師し（りんゆうのがくし・従したがえ八はち位い上じょう・新設しんせつ）

• 楽らく戸ど　楽らく生せいの予備よびとされた品しな部ぶ、伎楽ぎがく・腰こし鼓こ生せいは楽らく戸どから採とられた

• 史生ふみお　新設しんせつ
• 使つかい部ぶ
• 直ちょく丁ひのと

参考さんこう文献ぶんけん

• 志村しむら佳名子かなこ『日本にっぽん古代こだいの王宮おうきゅう構造こうぞうと政務せいむ・儀礼ぎれい』塙はなわ書房しょぼう、2015年ねん ISBN 978-4-8273-1274-4
  • 「宮廷きゅうてい儀礼ぎれいにおける奏楽そうがくの意義いぎと雅楽ががく寮りょうの機能きのう」
  • 「〈御ご遊ゆう〉の成立せいりつと殿上人てんじょうびと-宮廷きゅうてい儀式ぎしきの再編さいへんと奏楽そうがく-」

関連かんれん項目こうもく

• 官かん人じん
• 内うち教きょう坊ぼう
• 大だい歌うた所しょ
• 楽らく所しょ