武家ぶけ屋敷やしき（読よみ）ブケヤシキ

近世きんせいの城下町じょうかまちなどで，武士ぶしの住すまう住宅じゅうたくと家いえ囲がこいに与あたえられた呼称こしょうだが，この言葉ことば自体じたいは近世きんせいの身分みぶん制度せいど廃止はいし後ごに使つかわれるようになった。江戸えど時代じだいの城下町じょうかまちには，武家ぶけ屋敷やしきと町屋敷まちやしきがあり，武家ぶけ屋敷やしきは，幕府ばくふや藩はんから身分みぶんや石高こくだかによって給きゅう地ちされるものであった。江戸えどでは大名だいみょうと旗本はたもと，御家人ごけにんに給きゅう地ちされ，陪臣ばいしんには与あたえられなかった。また用途ようとによって拝領はいりょう居屋敷いやしき，中屋敷なかやしき，下屋敷しもやしき，抱だき屋敷やしきといった類別るいべつもされた。拝領はいりょう居屋敷いやしきは幕府ばくふから公おおやけ給きゅうされる屋敷やしきで，上屋敷かみやしきともよばれる。中屋敷なかやしき，下屋敷しもやしきは願ねがい出でて入手にゅうしゅする屋敷やしきで，抱だき屋敷やしきは陪臣ばいしんや奉公人ほうこうにんを住すまわすための屋敷やしきである。そのほか，幕まく閣かくの役向やくむきによって使用しようできる役やく屋敷やしきがあった。各かく藩はんの城下じょうかでも江戸えどと似通にかよった構成こうせいを取とっていたものと考かんがえられる。大だい坂さかには特殊とくしゅな屋敷やしきとして，蔵屋敷くらやしきが置おかれていた。

　武家ぶけ屋敷やしきは住宅じゅうたくと家いえ囲がこいで構成こうせいされ，大名だいみょうの上屋敷かみやしき（江戸えど屋敷やしき）の場合ばあいは藩主はんしゅの公式こうしきの住宅じゅうたくであるから，国許くにもと（くにもと）の御殿ごてん同様どうように表おもて御殿ごてん，中奥なかおく，奥おく御殿ごてんを備そなえている。表おもて御殿ごてんには謁見えっけんのための大書たいしょ院いん（江戸えど時代じだい初期しょきまでは大広間おおひろま）や玄関げんかん，式台しきだい，あるいは家臣かしんの詰つめる部屋へやなどがある。中奥なかおくは藩主はんしゅの居間いまと執務しつむの場ば，奥おく御殿ごてんは藩主はんしゅの妻子さいしなどの生活せいかつの場ばである。国許くにもとの御殿ごてんと違ちがうのは家いえ囲がこいで，敷地しきちの外周がいしゅうに長屋ながやを建たて，国許くにもとから詰つめてくる家臣かしんや奉公人ほうこうにんの住宅じゅうたくに当あてた。江戸えど初期しょきまでは表門おもてもんに櫓門やぐらもんを構かまえ，派手はでな彫物ほりものを飾かざるなど，華美かびを競きそったが，幕府ばくふの倹約けんやく方針ほうしんに従したがって江戸えど中期ちゅうき以後いごは，3間あいだまたは5間あいだの平たいら棟とう門もんを構かまえるようになる。中屋敷なかやしきや下屋敷しもやしきは上屋敷かみやしきの堅苦かたくるしさを避さけるため設もうけられたもので，家族かぞくはだんだんこちらに住すむようになる。侍さむらい衆しゅの屋敷やしきになると，住込すみこみの家臣かしんや奉公人ほうこうにんが少すくないところから，長屋ながやのかわりに塀へいを設もうけるなど家いえ囲がこいも簡略かんりゃくなものになり，住宅じゅうたくも，書院しょいんを中心ちゅうしんにした表構おもてがまえと家族かぞくの生活せいかつのための奥おく構がまえといった，小こぢんまりとした規模きぼになり，門もんも1間あいだの棟むね門もんになる。

　地方ちほうの城下町じょうかまちになると，武士ぶしはみな居屋敷いやしきを拝領はいりょうしているので屋敷やしき内ないにたくさんの長屋ながやを建たてる必要ひつようはなく，家いえ囲がこいも土塀どべいや板いた塀へいあるいは生垣いけがきなどを用もちい，門もんも長屋門ながやもんや薬くすり医い門もんあるいは貫ぬき門もんなどを使つかうことが多おおい。敷地しきちの広ひろさに比くらべて住宅じゅうたくの規模きぼはあまり大おおきくなく，上層じょうそう農民のうみんの住宅じゅうたく程度ていどである。農家のうかとの違ちがいは，門もんから入はいった正面しょうめんに式台しきだいつきの玄関げんかんを構かまえていることと，土間どまが農家のうかほど広ひろくないことである。武士ぶしの中なかでも徒士かち（かち），足軽あしがるなどの下級かきゅう者しゃは個人こじん的てきな屋敷やしきはもらえず，徒士かち屋敷やしき，足軽あしがる屋敷やしきなどと呼よばれる長屋ながやなどにまとまって住すみ，住宅じゅうたくも狭せまい土間どまに二に間あいだ（ふたま）程度ていどの部屋へやがつき，床ゆかの間あいだもないのが普通ふつうであった。

　武家ぶけ屋敷やしきは明治維新めいじいしんの後のち急激きゅうげきに消滅しょうめつし，多おおくの城下町じょうかまちが第だい2次じ世界せかい大戦たいせんの戦災せんさいを受うけたこともあって，建築けんちく遺構いこうが残のこっているものは，岩国いわくに・萩はぎ（山口やまぐち県けん），佐倉さくら（千葉ちば県けん），角館かくのだて（秋田あきた県けん）など地方ちほうの小しょう都市としにしか例れいがなく，民家みんか遺構いこうに比くらべてもきわめて少すくない数かずになっている。
→住居じゅうきょ　→大名だいみょう屋敷やしき　→拝領はいりょう町屋敷まちやしき　→屋敷やしき
執筆しっぴつ者しゃ：鈴木すずき 充たかし