鎮西ちんぜい探題たんだい（読よみ）チンゼイタンダイ

九州きゅうしゅうの御家人ごけにんを異国いこく警固けいご番ばん役やくに専念せんねんさせるため，御家人ごけにんの関東かんとうへの参まいり訴を禁止きんしして，現地げんちにおいて訴訟そしょうを裁決さいけつした鎌倉かまくら幕府ばくふの九州きゅうしゅう統治とうち機関きかん，またその機関きかんの長ちょう。博多はかたの櫛田くした神社じんじゃ近辺きんぺんに設置せっちされたといわれる。成立せいりつ時期じきについては，九州きゅうしゅうにおける聴訴権けんをもつ北条ほうじょう兼けん時じ，同時どうじ家かが九州きゅうしゅうに下向げこうした1293年ねん（永えい仁ひとし1）説せつと，訴訟そしょうの裁断さいだん権けんをもつ北条ほうじょう（金沢かなざわ（かねさわ））実じつ政せいが初はじめて裁許さいきょ状じょうを発給はっきゅうした97年ねん説せつがある。実じつ政せいの後のちも北条ほうじょう（金沢かなざわ）政顕まさあき（まさあき），北条ほうじょう（阿おもね曾）随時ずいじ（ゆきとき），北条ほうじょう（赤橋あかばし）英時ひでとき（ひでとき）と北条ほうじょう氏し一族いちぞくが任命にんめいされた（政顕まさあきと随時ずいじの間あいだに政顕まさあきの子種こだね時じを入いれるかどうかで意見いけんが分わかれている）。探題たんだいの下したには，裁判さいばん裁決さいけつの迅速じんそく・公正こうせいをはかるために裁判さいばん事務じむを行おこなう評定ひょうじょう衆しゅ，引付ひきつけ（ひきつけ）衆しゅう，引付ひきつけ奉行ぶぎょう人じんなどの職員しょくいんが置おかれ，その機構きこうは1300年ねん（正安まさやす2）7月がつごろ急速きゅうそくに整備せいびされた。評定ひょうじょう衆しゅは北条ほうじょう氏し一族いちぞく，武藤むとう氏し，大友おおとも氏し，島津しまつ氏しのような守護しゅご級きゅうの御家人ごけにん（ごけにん），渋谷しぶや氏し，戸次とつぎ（べつき）氏し，安芸あき氏しなどそれに準じゅんずる有力ゆうりょく御家人ごけにん，関東かんとう系けいの法律ほうりつ専門せんもん家かによって構成こうせいされ，その大だい部分ぶぶんが引付ひきつけ衆しゅを兼任けんにんした。引付ひきつけ衆しゅ，引付ひきつけ奉行ぶぎょう人じんは三さん番ばんに分わかれ，おのおの10人にん前後ぜんこうの職員しょくいんがいた。一番いちばん引付ひきつけの頭あたま人じん（とうにん）は北条ほうじょう氏し一族いちぞくが任命にんめいされ，二に番ばん引付ひきつけの頭あたま人じんは武藤むとう氏し，三さん番ばん引付ひきつけの頭あたま人じんは大友おおとも氏しがそれぞれ世襲せしゅうした。引付ひきつけ職員しょくいんには，探題たんだい被官ひかん，中央ちゅうおう幕政ばくせい機関きかんに出自しゅつじをもつもの，武藤むとう・大友おおとも両氏りょうしの一族いちぞく・被官ひかん，守護しゅご級きゅうの有力ゆうりょく御家人ごけにんや在地ざいち御家人ごけにんがいた。

　探題たんだいの職務しょくむ内容ないようは鎮西ちんぜい談議だんぎ所しょと同様どうよう，所ところ務つとむ沙汰さた（しよむざた）を中心ちゅうしんとした。雑務ざつむ（ざつむ）・検けん断だん（けんだん）両りょう沙汰さたは各国かっこく守護しゅごの管轄かんかつであったが，肥前ひぜん国こく守護しゅごは探題たんだいが兼任けんにんしたので，その雑務ざつむ・検けん断だん両りょう沙汰さたは探題たんだいが行おこなっている。探題たんだいは裁判さいばんの判決はんけつを行おこなうと単独たんどく署しょ判ばんの下知げじ状じょう（げちじよう）を発給はっきゅうした。これを鎮西ちんぜい裁許さいきょ状じょうといい，現在げんざい200通つう以上いじょうが残のこっている。探題たんだいが未み補任ほにんの間あいだや探題たんだい退座たいざのときには，北条ほうじょう氏し一門いちもん，武藤むとう・大友おおとも両氏りょうしがその職務しょくむを代行だいこうしている。鎮西ちんぜい探題たんだいは究極きゅうきょく的てきには鎌倉かまくら幕府ばくふに帰属きぞくし，北条ほうじょう氏しの族ぞく的てき全国ぜんこく支配しはいの一環いっかんとして機能きのうした。そのため，武藤むとう，大友おおとも，島津しまつといった九州きゅうしゅうに大おおきな地位ちいと権限けんげんを占しめる有力ゆうりょく守護しゅご層そうは，守護しゅご職しょく（しき）の減少げんしょうに端はし的てきにみられるようにしだいにその権限けんげんを奪うばわれ，探題たんだいに対たいする不満ふまんをつのらせた。鎮西ちんぜい探題たんだい討滅の際さいに主導しゅどう的てき役割やくわりを果はたしたのは彼かれらであった。また探題たんだいの訴訟そしょう裁許さいきょは在地ざいちの事実じじつ関係かんけいを無視むしする傾向けいこうが強つよく，御家人ごけにん層そうの不満ふまんをつのらせた。正中せいちゅうの変へん（1324）では探題たんだい英時ひでときの召に応おうじて肥前ひぜん，豊後ぶんご，薩摩さつまなどの御家人ごけにんが博多はかたに参集さんしゅうし，元弘もとひろの乱らん（1331）では豊前ぶぜん，肥前ひぜん，薩摩さつま，大隅おおすみなどの御家人ごけにんが博多はかたに参集さんしゅうした。1333年ねん（元弘もとひろ3）3月がつには菊池きくち武たけし時じが博多はかたに探題たんだい討滅の兵へいを挙あげたが，武藤むとう・大友おおとも両氏りょうしの向背こうはいにあって敗はい死しした。その後ご，武藤むとう貞さだ経けい，大友おおとも貞宗さだむね，島津しまつ貞久さだひさらが兵へいをあわせて探題たんだい北条ほうじょう英時ひでときを攻せめ，鎌倉かまくら陥落かんらく直後ちょくごの同年どうねん5月がつ25日にち，英時ひでときは自殺じさつして鎮西ちんぜい探題たんだいは滅亡めつぼうした。このとき御家人ごけにん・非ひ御家人ごけにんを問とわず，広範こうはんな九州きゅうしゅうの武士ぶし層そうが探題たんだい討滅に参加さんかしている。
→九州きゅうしゅう探題たんだい
執筆しっぴつ者しゃ：佐伯さえき 弘次ひろじ