「もっと足あしを動うごかしてあげれば」　母ははが災害さいがい関連かんれん死し、地震じしんから6日にち後ごに

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　「残念ざんねんですが、もう助たすかりません」――。石川いしかわ県けんで大雪おおゆきが降ふった1月がつ7日にち午後ごご2時じごろ。能登半島のとはんとう地震じしんで右みぎ膝ひざを骨折こっせつした山下やました悦子えつこさん（71）が搬送はんそうされた同どう県けん珠洲すず（すず）市しの病院びょういんから、金沢かなざわ市しにいた長男ちょうなんの直人なおとさん（44）に連絡れんらくが入はいった。医師いしから「肺はいに血栓けっせんができて容体ようだいが急変きゅうへんした」と知しらされた。「もっと（母ははの）足あしを動うごかしてあげればよかった。（血行けっこう不良ふりょうで血栓けっせんができる）エコノミークラス症候群しょうこうぐんにならないか心配しんぱいしていたのに…」

　直人なおとさんはすぐにでも病院びょういんへ駆かけつけたかったが、亀裂きれつや段差だんさのひどい道路どうろには雪ゆきが降ふり積つもり、車くるまで珠洲すずへ向むかうのは危険きけんだった。結局けっきょく、悦子えつこさんと対面たいめんできたのは、8日にち夜よるになってからだった。

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　悦子えつこさんは珠洲すず市し仁江にえ地区ちくで一人暮ひとりぐらし。元日がんじつ、大阪おおさか府ふから帰省きせいしていた直人なおとさん家族かぞくと自宅じたくにいたところ揺ゆれが襲おそった。直人なおとさんと長女ちょうじょは買かい物もので市し中心ちゅうしん部ぶへ外出がいしゅつして不在ふざい。大だい津波つなみ警報けいほうが発令はつれいされる中なか、悦子えつこさんは避難ひなんする際さいに台所だいどころで転倒てんとうして右みぎ膝ひざを強打きょうだした。キャスターの付ついた椅子いすに寄よりかかりながら家いえを出でて、何なにとか近ちかくの集会しゅうかい所しょへ避難ひなんした。地区ちくへつながる道路どうろは寸断すんだんされ、直人なおとさんらが山道さんどうを約やく6時じ間あいだ歩あるいて地区ちくにたどり着ついたのは2日にちの午後ごごだった。

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　集会しゅうかい所しょでは廊下ろうかの椅子いすに座すわって過すごしていた悦子えつこさん。ケガをした右みぎ膝ひざのせいでうまく歩あるけず、床ゆかにはいつくばりながらトイレに行いった。足あしは痛いたいはずだが気丈きじょうに振ふる舞まい、普段ふだんとあまり変かわらない様子ようすだったという。家族かぞくらはエコノミークラス症候群しょうこうぐんを心配しんぱいし、代かわる代かわる悦子えつこさんの足あしの指ゆびなどをマッサージした。

　6日にちに自衛隊じえいたいや救急きゅうきゅう隊たいが来きて、悦子えつこさんはようやく市し中心ちゅうしん部ぶの総合そうごう病院びょういんへ行いくことができた。そこで初はじめて膝ひざを骨折こっせつしていたことも判明はんめいし、設備せつびの整ととのった県けん外がいの病院びょういんへ搬送はんそうされることも決きまった。「これで安心あんしんして大阪おおさかに帰かえれる」。ようやくほっとできた矢先やさきの突然とつぜんの別わかれだった。

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　親戚しんせきから関連かんれん死し制度せいどのことを聞きき、葬儀そうぎ後ごに申請しんせいし認定にんていされた。弔慰ちょうい金きんは、自宅じたくの土地とちの固定こてい資産しさん税ぜいなどに充あてるつもりだ。

　悦子えつこさんは生前せいぜん、自宅じたく近ちかくの道みちの駅えき「すず塩田しおだ村むら」で働はたらいていた。十じゅう数すう年ねん前まえに夫おっとを亡なくしたが、友人ゆうじんや近所きんじょの人ひとたちに囲かこまれ、楽たのしそうに暮くらしていた。

　「子供こどもの頃ころ、父親ちちおやに怒おこられるとかばってくれる優やさしい母親ははおやだった」と直人なおとさん。韓国かんこくドラマが好すきで、今年ことしか来年らいねんには一緒いっしょに韓国かんこくへ旅行りょこうに行いく約束やくそくもしていたという。「これからやりたいこともたくさんあったはずだし、一緒いっしょに旅行りょこうも行いきたかった。親孝行おやこうこう半なかばで亡なくなってしまった」と唇くちびるをかんだ。【阿部あべ弘賢ひろかた】