東日本大震災で被災した宮城県本吉郡南三陸町の南三陸町防災対策庁舎。

時代じだいうつすプロテストソングの変遷へんせん だい3かい [バックナンバー]

アメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんから東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい、そしてこれから

ポップシンガーの葛藤かっとうとラッパーたちが表現ひょうげんするいか

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「プロテストソング」とえば、あなたはどんなきょくおもかべるだろうか。反戦はんせん政治せいじ批判ひはん差別さべつ問題もんだいはん原発げんぱつ、いじめ、貧困ひんこん……あらゆる政治せいじてき抗議こうぎのメッセージをふくうたがプロテストソングとばれるものだ。

新型しんがたコロナウイルスのパンデミックにより世界中せかいじゅう外出がいしゅつ自粛じしゅく余儀よぎなくされる状況じょうきょうなかあんずによる加川かがわりょうの「教訓きょうくんI」のがたりカバーが話題わだいあつめたり、安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょう星野ほしのはじめ発表はっぴょうした「うちでおどろう」ととも優雅ゆうが自宅じたくごす姿すがた公開こうかいしたことで「音楽おんがく政治せいじ利用りようである」という批判ひはんおおせられたりと、あらためて“音楽おんがく政治せいじ”が注目ちゅうもくされるいま時代じだいともうたわれるメッセージも音楽おんがくせいことなるプロテストソングは、日本にっぽんにおいてどんなきっかけまれ、ひろがってきたのか。小野島おのじままさるによるこの連載れんさいでは、フォークソング、ポップス、ロック、ヒップホップなどさまざまなジャンルにおけるプロテストソングの歴史れきしを、時事じじ問題もんだいまじえながらけい3かいにわたって紹介しょうかいしている。最終さいしゅうかいとなるだい3かいでは2000年代ねんだいから現在げんざいにかけてのプロテストソングをフィーチャーする。

なお記事きじ最後さいごには、小野島おのじままさる制作せいさくしたSpotifyプレイリスト「プロテストソングの歴史れきし」も公開こうかいする。

ぶん / 小野島おのじままさる

9.11以降いこう曽我部そがべ恵一けいいちうた桑田くわた佳祐けいすけがソロで表現ひょうげんした風刺ふうし

2000年代ねんだいはいると、ニューヨークでアメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんこり、アメリカぐんによるアフガニスタン侵攻しんこうやイラク戦争せんそう勃発ぼっぱつ時代じだいのモードが一気いっきわる。これにおおきな衝撃しょうげきけたアーティストは数多かずおおいが、曽我部そがべ恵一けいいちもその1人ひとりだ。2001ねんれにリリースされた「ギター」は、サニーデイ・サービス解散かいさんはつのシングルだが、このなかの「テレビではニュースがながれている 戦争せんそうにはちょっと反対はんたいさ ギターをいている」という一節いっせつ反響はんきょうこした。なぜ「絶対ぜったい反対はんたい」ではなく「ちょっと反対はんたい」なのか。9.11同時どうじ多発たはつテロ、そしてアメリカぐんのアフガニスタン侵攻しんこうというニュースが世界せかい震撼しんかんさせるなかつくられたこのきょくは、それまで政治せいじてきなタームを回避かいひしながら繊細せんさいうつくしい青春せいしゅん情景じょうけいえがいていた曽我部そがべというすぐれたシンガーソングライターの内面ないめんに、その生活せいかつはじっこに、戦争せんそうという巨大きょだい暴力ぼうりょく否応いやおうなくしのってきたことを生々なまなましくえがいている。それに戸惑とまどいながらも、曽我部そがべ徐々じょじょわっていこうとする。このあと、下北沢しもきたざわさい開発かいはつ反対はんたい運動うんどう触発しょくはつされるかたちつくられた「sketch of shimokitazawa」(2005ねん発表はっぴょう)をて、曽我部そがべうた社会しゃかいせいび、「まちふゆ」「兵士へいしうた」(ともに2012ねん発表はっぴょう)といったシリアスかつ感動かんどうてき社会しゃかい楽曲がっきょく結実けつじつしていくことになる。

アメリカ同時多発テロ事件でテロ攻撃に遭うワールドトレードセンター。(写真提供:Getty Images)

アメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんでテロ攻撃こうげきうワールドトレードセンター。(写真しゃしん提供ていきょう:Getty Images)



2002ねんにはサザンオールスターズ桑田くわた佳祐けいすけが「ROCK AND ROLL HERO」という社会しゃかいせいつよいソロアルバムを発表はっぴょう。これも9.11に触発しょくはつされた作品さくひんだろう。「ROCK AND ROLL HERO」とは桑田くわたにとってアメリカのことを意味いみしているという。タイトルきょく「ROCK AND ROLL HERO」はアメリカに追従ついしょうするばかりの日本国にっぽんこく政府せいふを、アメリカ文化ぶんかあこがれてきた自分じぶん皮肉ひにく自虐じぎゃくじりに風刺ふうしする。「援助えんじょきんしてもくちせぬ 弱気よわき態度たいど世界せかいNo.1」という、いかにもこのひとらしいパンチラインがいている。「どんぞこのブルース」はもうすこしシリアスに、国家こっかゆがみや社会しゃかい矛盾むじゅんいていく。どちらも時事じじせいつよ内容ないようだが、いまとなっては、当時とうじなにあらわしていたのかピンとこないかもしれない言葉ことばも、ときながれとともちが意味いみったりする。そこが桑田そうでん非凡ひぼんさだろう。



だが、その、サザンオールスターズがリリースした「ピースとハイライト」(2013ねん発表はっぴょう)や、どうきょくのNHK「紅白こうはく歌合戦うたがっせん」でのパフォーマンスをめぐさわぎには、マスなセールスをもとめられる国民こくみんてきビッグアーティストが、政治せいじてきあるいは社会しゃかいてき視座しざったうたうたうことのむずかしさをあらためておもらされた。このきょくおさめたアルバム「葡萄ぶどう」のボックスセットのライナーやインタビューで桑田くわたは、かく楽曲がっきょく歌詞かし意図いと背景はいけいやテーマについてかえかたっている。曲解きょっかい誤解ごかいふくめた自由じゆう解釈かいしゃく許容きょようするのがポップミュージックなのに、定型ていけい拒否きょひする自由じゆう表現ひょうげん身上しんじょうとするのが桑田そうでんなのに、つまらない抗議こうぎデモやいやがらせのようなバッシングをけ、音楽おんがく自由じゆうなイマジネーションをそこなうことを承知しょうちうえ絶対ぜったい誤解ごかいされないよう、歌詞かし意図いと事細ことこまかに説明せつめいしなければならなかったのではないか。日本一にっぽんいちビッグなロックアーティストがそこまでまれてしまったことは、すくなくないかずのメジャーアーティストたちを萎縮いしゅくさせる結果けっかになったのではないかとわたしおもっている。


ポップシーンのプロテストソングとえば、Coccoの「ジュゴンのえるおか」(2007ねん発表はっぴょう)もわすれがたい。べいぐん普天間ふてんま飛行場ひこうじょう辺野古へのこへの移設いせつめぐって、ジュゴンが生息せいそくする沖縄おきなわうみうつくしい自然しぜん破壊はかいされていくことへのおそれとかなしみ、いたみ、いかり、いのりがうたわれている。ここでも日米にちべいいがんだ関係かんけいせいがクローズアップされる。辺野古へのこ問題もんだいは2020ねんいまもまったく解決かいけつされておらず、リリースから13ねんってもこのきょく依然いぜんもっともアクチュアルで先鋭せんえいてきなプロテストソングでありつづけている。

9.11がヒップホップシーンにおよぼした影響えいきょう

9.11の影響えいきょうはヒップホップシーンにもおよぶ。それまで数少かずすくない例外れいがいのぞけば政治せいじせいとは距離きょりいていたアーティストたちが、コンシャスな、あるいはポリティカルな内容ないよう作品さくひん発表はっぴょうはじめたのである。その代表だいひょうかくえるのがスチャダラパーだろう。それまで徹底てっていしてノンポリな姿勢しせいつらぬき、コンシャスなラップとは一線いっせんかくしていたかれらは2004ねんリリースのアルバム「The 9th Sense」に、政治せいじてき社会しゃかいてき内容ないよう楽曲がっきょく「Shadows of the Empire」を収録しゅうろくまえのユーモアはおさえめに、アメリカ帝国ていこく主義しゅぎ / 高度こうど資本しほん主義しゅぎ批判ひはんしている。アルバムには格差かくさ社会しゃかい批判ひはんするきょくもある。そのもスチャダラパーはりにれて社会しゃかいてき楽曲がっきょく発表はっぴょうし、はん原発げんぱつデモや安保あんぽ法制ほうせい反対はんたいする渋谷しぶや街宣がいせんなどにもカジュアルに参加さんかするなど、リベラルなラッパーとしての地位ちいたしかなものにしている。こうした変化へんか前述ぜんじゅつした曽我部そがべ恵一けいいちにもつうじるものがある。

2011年に公開されたスチャダラパーのアーティスト写真。

2011ねん公開こうかいされたスチャダラパーのアーティスト写真しゃしん



そしてDJ OASISの「キ・キ・チ・ガ・イ feat. 宇多うたまるKダブシャイン」(2001ねん発表はっぴょう)は、日本にっぽんのポリティカルラップの金字塔きんじとうともうべき傑作けっさくだ。天皇てんのう戦争せんそう責任せきにん従軍じゅうぐん慰安いあん問題もんだい警察けいさつ権力けんりょく横暴おうぼう政治せいじ批判ひはん戦後せんご民主みんしゅ主義しゅぎ社会しゃかい批判ひはん、テロリズム、アナーキズム、メディア批判ひはん……「みぎひだりあぶなっかしいぞ」と警告けいこくする。あまりに過激かげきなリリックゆえ、発売はつばい中止ちゅうしとなった。このシリーズは「社会しゃかいまど(キ・キ・チ・ガ・イPartII) feat. 宇多うたまる」(2001ねん発表はっぴょう)、「世界一せかいいちおとなしい納税のうぜいしゃ(カモ) feat. 宇多うたまる」(2004ねん発表はっぴょう)へとつづいていく。



ほかに、反戦はんせんはんレイシズム、ひろしアジア主義しゅぎうったえた般若はんにゃの「極東きょくとうエリア」(2000ねん発表はっぴょう)、おに自伝じでんてき作品さくひん小名浜おなはま」(2008ねん発表はっぴょう)やポリティカルラップの傑作けっさく「スタア募集ぼしゅう feat. D-EARTH」(2008ねん発表はっぴょう)、内面ないめんされた政治せいじうたTHA BLUE HERB文学ぶんがくラップ「未来みらいおれとうなか」(2003ねん発表はっぴょう)、はん環境かんきょう破壊はかい反戦はんせん反核はんかくはん人身じんしん売買ばいばいはんレイシズムなどをあつかったOZROSAURUSの「RULE feat. F.U.T.O, JANBO-MAN from 風林火山ふうりんかざん」(2001ねん発表はっぴょう)、SEEDA徹底てっていした政治せいじ批判ひはんめられた「Dear Japan」(2009ねん発表はっぴょう)、RUMI秀逸しゅういつはんレイシズムソング「銃口じゅうこうこう」(2009ねん発表はっぴょう)など、この時期じきヒップホップの世界せかいでもすぐれたプロテストソングが数多かずおおまれた。

議論ぎろんこした「ずっとウソだった」

そして2011ねん3がつ11にち未曾有みぞうだい災害さいがいとなった東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい、そして東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしまだいいち原子力げんしりょく発電はつでんしょのメルトダウンという緊迫きんぱくした事態じたい最中さいちゅうの4がつ7にち未明みめい突然とつぜんYouTubeじょう斉藤さいとう和義かずよしのヒットきょく「ずっときだった」の作者さくしゃ自身じしんによるうた「ずっとウソだった」がアップされた。中身なかみ原発げんぱついつわりの安全あんぜん神話しんわりまいてきた政府せいふ東京電力とうきょうでんりょくなど電力でんりょく各社かくしゃと、それに協力きょうりょくしてきたマスメディアへのいかりにちたプロテストであり、なんのもない固定こていカメラ映像えいぞうで、なまギター1ほんをかきらしながらぶっきらぼうにうたわれる。この時期じきさまざまなミュージシャンが震災しんさいをきっかけにつくったきょくは、人々ひとびといやしたり希望きぼうあたえるようなうたおおかっただけに、このインパクトは強烈きょうれつだった。当初とうしょうたっているのが斉藤さいとう本人ほんにんとは明示めいじされなかったためにさまざまな憶測おくそくんだ。しかも動画どうががアップ直後ちょくご何者なにものかによって削除さくじょされ、ほかのだれかによってさいアップされ……といういたちごっこをかえし、余計よけいさわぎがおおきくなって楽曲がっきょく存在そんざいられるという、いわゆるストライサンド効果こうかもあって巨大きょだいなバイラルヒットになったのである。



しかもそれまでけっしてストレートに社会しゃかいてきうたうたっていたわけではない(ただし、「ずっとウソだった」以前いぜんの2000ねん斉藤さいとう発表はっぴょうした「あおひかり」は、はん原発げんぱつのメッセージを暗示あんじしている、とされる)斉藤さいとうのようなメジャーレーベル所属しょぞくのアーティストが、こういうはっきりとしたプロテストソングをうたったことでさまざまな軋轢あつれきがあったことは想像そうぞうかたくない。おなねんの9がつ筆者ひっしゃはくるり主催しゅさい音楽おんがくフェス「京都きょうとおとひろし」で斉藤さいとうのライブをた。「ずっときだった」と「ずっとウソだった」をメドレーでうたい、喝采かっさいびていたが、わたしとなりていた原発げんぱつ賛成さんせいらしいおとこがイヤミなヤジをばし「音楽おんがくはいいんだけどなあ」とだれかせるでもなくしゃべっていたのをよくおぼえている。そのおとこ本当ほんとう斉藤さいとう音楽おんがくきだとはおもえなかったけれども、そうして波風なみかぜて、議論ぎろんこし、人々ひとびと問題もんだいかんがえさせるのが斉藤さいとうねらいだったのだろう。その斉藤さいとうはさまざまなライブで「ずっときだった」と「ずっとウソだった」をメドレーでうたい、また中村なかむら達也たつやとのユニットであるMANNISH BOYSでもはん原発げんぱつのメッセージソングをうたっている。このきょくをきっかけに斉藤さいとう自身じしんのアーティストとしての方向ほうこうせい運命うんめいわったのである。「ずっとウソだった」は各地かくちはん原発げんぱつデモでもうたがれている。

はん原発げんぱつとなえる坂本さかもと龍一りゅういち反戦はんせんうたもとちとせとなな旅人たびびと

しかし、斉藤さいとうのプロテストにつづいたのはおもにインディペンデントなアーティストたちで、メジャーアーティストはほとんどいなかった、という事実じじつ否定ひていできない。数少かずすくない例外れいがいが「NO NUKES」コンサートでも主宰しゅさいつと社会しゃかいてき発言はつげんいとわない坂本さかもと龍一りゅういちや、「NO NUKES」になん出演しゅつえんしているASIAN KUNG-FU GENERATIONthe HIATUSBRAHMANといったひとたちである。またもとTHE MAD CAPSULE MARKETSの上田うえだ剛士たけしのソロプジェジェクト、AA=当初とうしょから反戦はんせんなどポリティカルなメッセージをふく楽曲がっきょくをいくつかリリースしているが、この時期じき東電とうでん政府せいふへの批判ひはんめた「sTEP COde」(2011ねん発表はっぴょう)をリリース。サポートメンバーでもある金子かねこノブアキ主演しゅえんしたショートムービーは必見ひっけんだ。



3.11以降いこうはん原発げんぱつはん政府せいふデモはサウンドデモというかたち活性かっせいしていった(サウンドデモそのものは、反戦はんせんデモというかたちで2003ねんぐらいからおこなわれている)。音楽おんがくとレイヴ、パーティと政治せいじてきプロテストがストリートで自然しぜん融合ゆうごうしたかたちである。そこでは新旧しんきゅうさまざまなプロテストソングがうたわれた。前出ぜんしゅつのRUMIは2008ねんリリースの「邪悪じゃあく太陽たいよう」を「邪悪じゃあくなXXX」(“XXX”は「放射能ほうしゃのう」をす)とタイトルと歌詞かしえリメイク、さまざまなデモでうたっている。

太平洋戦争たいへいようせんそう敗戦はいせん70ねん節目ふしめの2015ねんにはもとちとせが「いまこそもう一度いちど平和へいわ真剣しんけんかんがえるとしになってほしい」というおもいをめてカバーアルバム「平和へいわ元年がんねん」をリリースした。前述ぜんじゅつ中川なかがわ五郎ごろうこしまでどろまみれ」のほか「ユエのながれ」「戦争せんそうらない」「んだおとこのこしたものは」といった、日本にっぽん平和へいわ運動うんどうなかうたわれがれていた反戦はんせん数々かずかずあらたなアレンジでうたわれている。かつてのフォークシンガーはみずからのオリジナルにこだわることなく、うずもれた名曲めいきょくがあれば発掘はっくつし、洋楽ようがくなら日本語にほんごけて、自分じぶんうたとしてうたっていた。そういう意味いみでももとは60年代ねんだいのプロテストフォークのうたたちの衣鉢いはつ存在そんざいなのかもしれない。


そして2016ねんには七尾ななお旅人たびびと異色いしょくのビデオアルバム「兵士へいしA」を発表はっぴょうする。「ちか将来しょうらいすうじゅうねんぶりに日本にっぽん戦死せんししゃとなる兵士へいしA」を主人公しゅじんこうとした3あいだにおよぶ物語ものがたりだい世界せかい大戦たいせんはじまり100ねんきん未来みらいまでをえが壮大そうだいなスケールの作品さくひんである。七尾ななおは2007ねんに9.11同時どうじ多発たはつテロをテーマにしたアルバム「911FANTASIA」を発表はっぴょうしているが、「兵士へいしA」はそれをおおきく拡張かくちょう日本にっぽん現代げんだい移植いしょくしたものとえる。60年代ねんだいフォーク以来いらい日本にっぽんのプロテストソングの集大成しゅうたいせいというかんもある力作りきさくだ。

差別さべつ偏見へんけん政治せいじ社会しゃかい矛盾むじゅんさけぶラッパーたち

ラップの世界せかいでも3.11のおよぼした波紋はもんおおきかった。なかでも最大さいだい収穫しゅうかくは、我流がりゅうの「Straight Outta 138 feat. ECD」(2012ねん発表はっぴょう)だろう。ECDが参加さんかした、いかりにちたはん原発げんぱつソングのだい傑作けっさくである。「138」とは我流がりゅう出身しゅっしんである山梨やまなしけん笛吹ふえふき一宮いちのみやまちのこと。映画えいが仁義じんぎなきたたかい」シリーズの松方まつかた弘樹ひろき千葉ちば真一しんいちのセリフをサンプリング、定番ていばんブレイクのIncredible Bongo Band「Apache」をネタに、我流がりゅうとECDということなる世代せだい2人ふたりはげしいいかりをたたける。「うことかせるばんおれたちが」とキラーフレーズをみ、「67ねんまえのボロけで わったはずのあの戦争せんそうつづけたかったやつらのゆめ それが原発げんぱつ間違まちがいねえ」というECDのラップは強烈きょうれつのひとことだ。



Kダブシャインと宇多うたまるによる「物騒ぶっそう発想はっそう(まだる!!)feat. DELI」(2014ねん発表はっぴょう)は、だい安倍あべ政権せいけんはじまり右傾うけい顕著けんちょになった日本にっぽんうれい、いきどおった2人ふたりころもせぬリリックが痛快つうかいだ。「なにきずなだっての むしろあふれかえるヘイター 明日あしたなのに他人たにんいたみには冷淡れいたん たとえばアホなレイシストが愛国あいこくしゃ自称じしょう ガキみてえな主張しゅちょう 味噌みそもクソもおなじっしょ 世界中せかいじゅう失笑しっしょう てめえの民度みんど実証じっしょう」「ネトネト粘着ねんちゃく ウヨウヨく」と、レイシズム、ネット右翼うよくくさった政治せいじなどへのいかりがちあふれている。ポリティカルラップのお手本てほんのような完成かんせいたか作品さくひんだ。



そして2017ねん共謀きょうぼうざい強行きょうこう採決さいけつけ、すうおおくのミュージシャンやアーティスト、作家さっか映画えいが監督かんとくが、表現ひょうげん言論げんろん自由じゆう毀損きそんすると懸念けねんしめしたが、楽曲がっきょくというかたちさき発表はっぴょうしたのはSKY-HIだった。強行きょうこう採決さいけつのわずか5にちに「キョウボウザイ」を無料むりょう配信はいしん。メジャーのポップなフィールドのアーティストという印象いんしょうつよかっただけに、その勇気ゆうきある行動こうどうおおきな反響はんきょうこした。そのなかでもSKY-HIの楽曲がっきょく「Name Tag」にフィーチャーされていたのが、韓国かんこくソウルから来日らいにちし、大阪おおさか拠点きょてん音楽おんがく活動かつどうつづけるMoment Joonである。

動画どうが現在げんざい非公開ひこうかいです。




今年ことしリリースされた1stアルバム「Passport & Garcon」では、“移民いみんしゃ”としてのアイデンティティ、日本にっぽんかんじるさまざまな差別さべつ偏見へんけん政治せいじ社会しゃかい矛盾むじゅん韓国かんこくとの社会しゃかいてき政治せいじてき文化ぶんかてき摩擦まさつ軋轢あつれき徴兵ちょうへい経験けいけんなどが率直そっちょくかつ辛辣しんらつかたられる。日本にっぽん社会しゃかい主流しゅりゅうからこぼれ迫害はくがい搾取さくしゅをされてきたマイノリティのおもいをんだリリックは生々なまなましい。日本にっぽん入国にゅうこく管理かんりきょくとのやりとりにはじまり、かれ日常にちじょうけている差別さべつと、彼女かのじょごす時間じかんのかけがえのなさをかたる「KIX / Limo」(2020ねん発表はっぴょう)の、「きてるのは仮面かめん おれつね本当ほんとう自分じぶんたいだけ」という言葉ことばさる。なによりも「Home / CHON」のラストは衝撃しょうげきてきだ。2020ねん最新さいしんのプロテストソングとえるだろう。

星野ほしのはじめ「うちでおどろう」のうごきにみる希望きぼう

海外かいがいでは一部いちぶくに終息しゅうそく気配けはいがあるものの、日本にっぽんでは一向いっこうにピークアウトのきざしもえないコロナ危機きき日々ひび増加ぞうかしていく感染かんせんしゃすう外出がいしゅつ自粛じしゅく閑散かんさんとした繁華はんかがい休業きゅうぎょうつづ危機ききかんつのらせるさまざまな事業じぎょうしゃたち、仕事しごと途絶とだ生活せいかつ不安ふあんにさいなまれる人々ひとびと。エンタテインメント業界ぎょうかい例外れいがいではなく、ライブ興行こうぎょう中心ちゅうしんまわっている現在げんざい音楽おんがく産業さんぎょう構造こうぞう今後こんごおおきくわらざるをえないだろう。アーティストの活動かつどうは、必然ひつぜんてき音源おんげん制作せいさく中心ちゅうしんにならざるをえない。その音源おんげんですら、この時期じき発売はつばい予定よていだった新譜しんぷ次々つぎつぎ発売はつばい延期えんきになり、先行さきゆきの見通みとおしもたない状況じょうきょうだ。

そんな状況じょうきょう、アーティストはどうやってび、音楽おんがくとどけてくれるのか。星野ほしのはじめの「うちでおどろう」のようなケースは音楽おんがくちから可能かのうせい示唆しさしたという意味いみ今後こんご希望きぼうかんじさせた。政治せいじ混乱こんらん人々ひとびと不満ふまん不安ふあんすばかりだが、前述ぜんじゅつしたように、そうした危機ききてき状況じょうきょうだからこそ創作そうさくへのモチベーションがてられる場合ばあいもあるだろう。それがプロテストであれ、べつかたちであれ、マイナスのカードをプラスにてんじるようなすぐれた作品さくひん登場とうじょう期待きたいしたい。



<おわり>

記事きじ初出しょしゅつ本文ほんぶん誤字ごじがありました。おびして訂正ていせいします。

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小野島おのじままさる

音楽おんがく評論ひょうろん。9年間ねんかんのサラリーマン生活せいかつ音楽おんがくミニコミ編集へんしゅうてフリーに。「MUSIC MAGAZINE」「ROCKIN'ON」「週刊しゅうかんSPA」などのほか、新聞しんぶんやWebなどさまざまな媒体ばいたい執筆しっぴつ活動かつどうおこなっている。著作ちょさく多数たすう

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