この選曲せんきょくは100点てん満点まんてんなのでは……！映画えいが前半ぜんはんはまるで宮内くない國こく郎ろうベスト盤ばん

文ぶん / タカハシヒョウリ（オワリカラ、科か楽らく特とく奏そう隊たい）

はじめに

どうも、ミュージシャン・作家さっか、オワリカラでボーカル＆ギターを担当たんとうしているタカハシヒョウリです。

「シン・ウルトラマン」公開こうかいから3週間しゅうかんほどが経過けいか、興行こうぎょう収入しゅうにゅう20億おく円えん超こえの大だいヒットを記録きろくしており、すでに鑑賞かんしょう済ずみという方ほうも多おおいのではないでしょうか。かく言いう自分じぶんも、1回かい目めより2回かい目め、2回かい目めより3回かい目めが楽たのしい……という不思議ふしぎな現象げんしょうに遭遇そうぐうしまして、気付きづけば「シン・ウルトラマン」を4回かいリピートしています。

今回こんかいは、「耳みみで楽たのしむ『シン・ウルトラマン』」ということで、劇げき伴とも音楽おんがくや、効果こうか音おんなど、「『シン・ウルトラマン』の音おとにまつわる注目ちゅうもくポイント」を紹介しょうかいしていきたいと思おもいます。

一度いちど劇場げきじょうで楽たのしんだ方ほうも、これを読よんでから、「音おと」に集中しゅうちゅうして鑑賞かんしょうすると、また違ちがった楽たのしみ方かたができるガイドのようなものを目指めざしますので、よろしくお願ねがいします。

※こちらのコラムは、作品さくひんのネタバレを多分たぶんに含ふくみます。「シン・ウルトラマン」未み視聴しちょうの方ほうはご注意ちゅういください。
※曲きょくタイトルの表記ひょうきは、基本きほん的てきにパンフレット収録しゅうろくの曲目きょくもくリストに準拠じゅんきょしています。

　

前半ぜんはんは、まるで宮内くない國こく郎ろうによる「ウルトラマン」音楽おんがくのベスト盤ばん！

まずは、映画えいがを盛もり上あげる「シン・ウルトラマン」の劇げき伴とも音楽おんがくについて。

「シン・ウルトラマン」の劇げき伴ともは、前ぜん後半こうはんでメインの作曲さっきょく家かが変かわるという極端きょくたんな構成こうせいとなっていて、前半ぜんはんでは初代しょだい「ウルトラマン」などで使用しようされた宮内くない國こく郎ろう氏しによる楽曲がっきょく群ぐんを中心ちゅうしんとした選曲せんきょく、物語ものがたり上じょうの転機てんきとなるメフィラスの登場とうじょうを境目さかいめに、後半こうはんでは庵あん野の作品さくひんに欠かかせない鷺巣さぎす詩し郎ろう氏しによる新規しんき楽曲がっきょく群ぐんオンリーの選曲せんきょくとなる。これは、前半ぜんはんが原典げんてんである「ウルトラマン」の展開てんかいに比較的ひかくてき忠実ちゅうじつであるのに対たいし、後半こうはんではオリジナルの展開てんかいになだれ込こんでいくという作さく劇げき構造こうぞうと呼応こおうするようになっているのだろう。

さらに、この「ウルトラマン」からの流用りゅうよう楽曲がっきょくも2つに大別たいべつすることができる。今回こんかいの「シン・ウルトラマン」のために再さい録音ろくおんされた「新しん録音ろくおん源げん」と、55年ねん前まえの「ウルトラマン」や「ウルトラQ」で使用しようされた音源おんげんをリマスタリングした「流用りゅうよう音源おんげん」の2種類しゅるいだ。新しん録ろくはロンドンオーケストラ、リマスタリングは鷺巣さぎす氏しが“ハリウッドの女王じょおう”と呼よぶエンジニア、パトリシア・サリヴァンさんが担当たんとうしている。

「シン・ウルトラマン」の劇げき中ちゅうで使用しようされる新しん録ろくの「ウルトラマン」楽曲がっきょくは4曲きょくあり、各かく戦闘せんとうのメインテーマとも呼よべるものがそれにあたる。やはり映画えいがの華はなであるアクションシーンを盛もり上あげる重要じゅうような楽曲がっきょくなので、迫力はくりょくある音質おんしつと、映像えいぞうとのシンクロ度どの高たかさを求もとめての新しん録ろくという意図いとだと受うけ取とった（例外れいがい的てきに「怪獣かいじゅう無法むほう地帯ちたい レッドキングの襲撃しゅうげき（B1）」のみ、「ウルトラマン」で使用しようされたオリジナルのモノラル音源おんげんに、ステレオで新しん録ろくの管楽器かんがっきを追加ついかした「新しん録ろく管楽器かんがっきによるステレオ配置はいち」という音源おんげんが使つかわれている。ちなみに、この楽曲がっきょくは完全かんぜんな新しん録ろくも行おこなわれたようだが、そちらのバージョンは映画えいが中ちゅうでは使用しようされていない。6月22日にち発売はつばいのサントラに収録しゅうろく）。

今回こんかいは、そんな劇げき伴とも音楽おんがくの中なかから、個人こじん的てきな盛もり上あがりポイントをピックアップして紹介しょうかいしていこうと思おもうのだが、その前まえに少すこし「ウルトラマン」の音楽おんがくについて解説かいせつしておこう。

　

1966年ねんに放送ほうそう開始かいしした特撮とくさつテレビ番組ばんぐみ「ウルトラマン」の音楽おんがくは、前ぜん番組ばんぐみの「ウルトラQ」から引ひき続つづき宮内くない國こく郎ろう氏しが担当たんとうした。ジャズ畑はたけ出身しゅっしん、元もとトランペッターであった宮内みやうち氏しの音楽おんがくは、地面じめんから沸わき立たつようなビートと、軽快けいかいなブラスで、シンフォニックな“面めん”ではなく、リズミカルな“点てん”で鳴ならすようなサウンドが特徴とくちょうだ。

（「シン・ウルトラマン」で使つかわれるかがファンにとっては1つの注目ちゅうもくポイントであった）主題歌しゅだいか「ウルトラマンの歌うた」も、同どう時代じだいの子供こども向むけ番組ばんぐみの主題歌しゅだいかと比較ひかくすると、明あかるさの中なかにしっかりとエッジが立たっていて、実じつはかなり洒落しゃれた楽曲がっきょくだ。当時とうじ、テレビの前まえにいた子供こどもたちは、この曲きょくのビート、ブラス、そしてセブンスコードのスタイリッシュさに、それまで体験たいけんしたことのない未来みらいの響ひびきを感かんじたはずだ。まさに「ウルトラマン」の空想くうそうと浪漫ろうまんの世界せかいを、サウンドの面めんからも確立かくりつしたのが宮内くない國こく郎ろう氏しの音楽おんがくだったのだ。

　

では、「シン・ウルトラマン」に話はなしを戻もどそう。

「シン・ウルトラマン」はオープニングから、宮内みやうち音楽おんがくのオンパレード！ 「シン・ゴジラ」の際さいに原典げんてんから引用いんようされた伊福部いふくべ昭あきら氏しの音楽おんがくは、ここぞ！という場面ばめんで伝家でんかの宝刀ほうとうのように抜ぬかれたが、今回こんかいは「ああ！ もうそんくらいの感かんじでバンバン行いくのね！」と圧倒あっとうされるほど多用たようされる。

「シン・ゴジラ」のロゴを突つき破やぶって現あらわれる「シン・ウルトラマン」のタイトルクレジットとともに流ながれる「メインタイトル ウルトラマンOP（Q・M1T2＋タイトルt5）」「メインタイトル タイトルB」から、“禍わざわい威い獣じゅう”の脅威きょういと“禍わざわい特とく対たい”の結成けっせいを描えがくダイジェストの「ウルトラQ テーマIII（M-2 T2）」へとなだれ込こんでいき、怪獣かいじゅう出現しゅつげんを盛もり上あげる音楽おんがくも、そのどれもが「ウルトラQ」「ウルトラマン」からの宮内くない楽曲がっきょく。

ここまで宮内くない音楽おんがく100％、まるで宮内くない音楽おんがくのベスト盤ばんフィルムコンサート！

ウルトラマンが登場とうじょうし、初陣ういじんとなる透明とうめい怪獣かいじゅう・ネロンガとの戦闘せんとうでは、「科か特とく隊たい出撃しゅつげきせよ 電光石火でんこうせっかの一撃いちげき（A1）」が新しん録ろくバージョンで流ながれる。この戦闘せんとうは、胸むねで電撃でんげきを受うけ止とめるなど「ウルトラマン」でのネロンガ戦せんをなぞっており、選曲せんきょくも原典げんてんの再現さいげんとなっている。

楽曲がっきょくがストップし、無音むおんになってからスペシウム光線こうせんを発射はっしゃする流ながれも同おなじだが、ループの末すえにフェードアウトで終おわるオリジナルに対たいし、「シン・ウルトラマン」版ばんは楽曲がっきょくの最高潮さいこうちょうでの“キメ”で終おわるのが、新しん録ろくならではの盛もり上あがりポイントとなっている。

無む劇げき伴ともの中なかで炸裂さくれつするスペシウム光線こうせんのあと、光波こうは熱線ねっせんの異常いじょうな威力いりょくに震撼しんかんする禍わざわい特とく対たいメンバーのコメントとともに流ながれるのは「無限むげんへのパスポート ブルトンの最期さいご（M2）」。不穏ふおんな楽曲がっきょくが、突如とつじょ出現しゅつげんした未知みちの巨きょ人じんへの恐怖きょうふを煽あおる素晴すばらしい選曲せんきょくで、オリジナルのネロンガ戦せんではウルトラマンが飛とび立たったのち、主題歌しゅだいかの変奏曲へんそうきょく「科か特とく隊たい出撃しゅつげきせよ 大団円だいだんえん（A5）」で文字通もじどおり大団円だいだんえん的てきに明あかるく終おわるのと好こう対照たいしょうとなっている。

ちなみに、この「無限むげんへのパスポート ブルトンの最期さいご（M2）」も新しん録ろくが行おこなわれたようだが、劇げき中ちゅうでは使用しようされず、サントラのみの収録しゅうろくとなっている。公式こうしき書籍しょせき「シン・ウルトラマン デザインワークス」に収録しゅうろくの庵あん野の氏しの手記しゅきによると、編集へんしゅう時じにオリジナル音源おんげんに戻もどした楽曲がっきょくが2曲きょくほどあるとのことだが、おそらくそのうちの1曲きょくがこれだと思おもわれる（もう1曲きょくが、後述こうじゅつの「ミイラの叫さけび 出撃しゅつげき（M4T2）」か）。

ここで「新しん録ろくのほうが音質おんしつがいいなら、新しん録ろくを使つかったらいいんじゃないの？」と考かんがえる読者どくしゃもいるかもしれないが、当時とうじの録音ろくおん技術ぎじゅつで限かぎられた時間じかんの中なかで録音ろくおんされた演奏えんそうには、微妙びみょうなズレや音おとの歪ゆがみがあり、その部分ぶぶんが再現さいげんできない独特どくとくの魅力みりょくともなっている。そのため、必かならずしも再さい録音ろくおんして音質おんしつが向上こうじょうしたから、単純たんじゅんによりよくなるというものでもないのだ。それは、音質おんしつがいい“別物べつもの”だったりするのである。

「新しん録ろく」と「流用りゅうよう」のどちらを採用さいようするかというジャッジは、「選曲せんきょく」としてクレジットされている庵あん野の氏しなりの判断はんだん基準きじゅんで為なされたのだろう（このあたりの経緯けいい等とうは、おそらくサントラのブックレットに掲載けいさいされると思おもうので、楽たのしみに待まちましょう）。